第143話 協力体制を組む
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俺達の表向きの探索者としての実力を知り生徒会メンバーは唖然としたが、暫くすると落ち着きを取り戻し話を再開した。
「取り敢えず、貴方達の実力がどれほどの物かはある程度分かったわ。でも、だからと言って彼等が大人しくなるとは限らないわよ?」
「まぁ、そうですよね」
確かに、どんなに力が掛け離れていたとしても、感情に任せて噛み付いてくる人間は居るからな。それに力が掛け離れているからと言っても、どんな場合でもその力を無制限に行使出来るかと言えばそうではない。
最低限、正当防衛が成立する状況でなければ、俺達の方が傷害罪などで犯罪者扱いになるからな。
「ですので、釘刺しを兼ねて今度の体育祭で頑張るつもりです」
「体育祭……ああ、もしかして部活対抗リレーの事?」
「ええ。全校生徒が参加し、注目を集めるイベントと言ったら体育祭ぐらいですからね。そこである程度力を示しておけば、牽制にはなると思います」
「そうね……目に見える形で力を示しておけば、安易に手を出そうとは思わなくなるかもしれませんね」
久松先輩を始め、生徒会メンバーは思案顔ではあるが一定の理解を示してくれた。
なので、俺はある提案を進言してみる。
「そこで一つ、お願いしたい事があるんですけど……良いですか?」
「えっと……九重君だったわね? お願いしたい事って何かしら?」
裕二に向いていた生徒会メンバーの視線が、俺に集まる。
「部活対抗リレーを始める前に、整列してから各部活を紹介する時間がありますよね?」
「ええ、あるわね」
各部が提出したアピール文を、放送でナレーションしてくれる30秒にも満たない時間の事だ。各部とも部活動中の衣装を身に纏い個性的なアピール文を用意するが、次々と流れ作業で読み上げられていくのであまり印象には残らない。
「そこで少し、パフォーマンス行動をする時間を貰えませんか?」
「……パフォーマンス行動?」
「はい。リレーを只走って1位を取るより、紹介の時に模範演舞などを入れた方が示威になると思うんです」
恐らくリレーを普通に走っても、足が速いな……等の評価に落ち着き釘刺し行為としての効果は薄いはずだ。それでは、折角のアピールをする機会なのに勿体無さ過ぎる。
「演舞?」
「模擬戦闘……殺陣の事です。俺達の打ち合う姿を実際に見せて、牽制しておきたいんです。それに入部を希望する生徒も、俺達の実力を目に見える形で知っておけば安心すると思うんです」
俺の提案を聞き、久松先輩は頬を手で撫でながら思案する。
「……確かにポスターの意味を理解出来たとしても、実際に貴方達の力を目にしないと安心して入部しようとは思わないかもしれないわね」
「ええ。今の1年生の多くは、留年生達の力に怯えて抗議の声を上げられていませんからね。1度は庇護者としての力を示しておかないと、留年生達の行動への不満から入部しようとしても、踏ん切りがつかないと思うんです」
「イザと言う時、助けてくれる力がある。確かに、それを示す必要はあるわね……」
「ですので、それをアピールする時間が欲しいんですよ」
久松先輩は再び思案顔を浮かべ、他の生徒会メンバーも同じ様に考え込む。
「ねぇ城島君、九重君の言う様なパフォーマンス行動をする時間は追加出来るかしら?」
「そうだな……彼等だけを特別扱いする訳にはいかないからな。参加する部には平等にパフォーマンス時間を与えるとするとリレーの参加部活数から考えて、個別にパフォーマンス時間を取る事は難しいかな? 仮に、1部活に1分のパフォーマンス時間を取ったとしたら、全体で30分近く時間が必要になるからね」
「30分か……流石にそれは時間的に厳しいわね。後半のプログラム進行や、後片付けの時間を考えると……」
久松先輩と城島先輩がパフォーマンス時間が捻出出来ないかと頭を悩ませていると、生徒会メンバーの男子生徒が小さく手を挙げながら声を上げる。
「あの……久松先輩。ちょっと良いですか?」
「何、丸山君?」
「個別にするとパフォーマンス時間が捻出出来ないのなら、全体で数分間のパフォーマンス時間を取ると言うのはどうですか?」
「「あっ!」」
丸山と呼ばれた男子生徒の提案に、久松先輩と城島先輩は声を上げ手を叩く。
「そうね。態々個別にしなくても、全体でパフォーマンスをする時間を取れば良いんだわ」
「確かに。それならどの部活にも、平等にアピール時間を与える事が出来るな」
「ええ。全体で数分間なら後のプログラムにも大した影響は出ないし、彼等だけを特別扱いしたと言う批判も出ないわね」
どうやら、上手く話が纏まりそうだ。
久松先輩は直ぐに生徒会メンバーと顔を突き合わせ、パフォーマンス時間について話を詰める。 って、俺達はこのまま待機?久松先輩と生徒会メンバーは俺達の居る事も忘れ、活発に議論を交わしていく。
そしてある程度話が纏まった所で俺達の方を振り返った久松先輩は、手持ち無沙汰で立ち尽くす俺達を見て慌てた。
ふぅ、やっと気が付いてくれたか……。
「あっ、ごめんなさい。話し込んじゃって」
「いえ、気にしないで下さい。俺達から言い出した事を検討して貰っているんですから、待つぐらいどうって言う事ありませんよ」
「そう……ありがとう」
「いえ」
バツの悪そうな表情の久松先輩に謝罪を受けるが、俺は気にしないで欲しいと伝える。折角協力して貰おうとしているのに、態々不満をぶつけて雰囲気を悪くはしたくないからな。
そして久松先輩は、生徒会メンバーと話し会った結論を口にする。
「話し合った結果、リレー開始前に5分間。参加する部活全体でパフォーマンスをする時間が取れる様に、学校側と掛け合ってみる事にしたわ」
「ありがとうございます!」
どうやら、上手く行きそうだ。
しかし、結論を聞き俺達が安堵の息を吐いていると、久松先輩は少し眉を顰めながら一言付け加えてくる。
「でも、これはあくまでも生徒会としての結論よ。学校側と掛け合った結果、この提案が通らないかもしれない事は覚えておいて」
「はい。提案して貰えるだけでも、助かります」
「幸い、部活対抗リレーは午後の1発目だから調整は可能だと思うわ」
確かに、進行プログラムの真中だったりすると調整も難しいだろうな。そう考えると、午後の1発目と言うのは悪くない条件だろう。
ポスターの真意を問う質問から始まり色々話し合ったが、時計を見ると何時の間にか結構いい時間になっていた。
そろそろ昼休みが終わりそうなので、俺達は生徒会室からお暇しようとお伺いをたてる。これ以上話し合っていると、午後の授業に遅刻するからな。
「久松先輩。そろそろ昼休みも終わりそうなので、俺達教室に帰ろうと思うんですけど……良いですか?」
「えっ? ああ、もうこんな時間ね。勿論良いわよ、授業に遅刻したらいけないものね」
「ありがとうございます」
俺達は軽く頭を下げ、お礼を言う。
そして俺達が生徒会室の扉に手を掛け退出しようとする直前、久松先輩が俺達を呼び止める。
「最後に一つ、貴方達に聞いておきたいのだけど良いかしら?」
「何ですか?」
「留年生達の問題が解決した後、貴方達は予定している通りに大きくなった部活をどうするつもりなの?」
久松先輩は鋭い視線を俺達に注ぎながら、硬い声で問い質してくる。生徒会室の中の雰囲気は重くなり、偽りは許さないといった感じだ。
しかし、久松先輩のその問い質す姿勢も無理はないと思う。何せ予定通りに事が運べば、留年生問題解決後は俺達が学内最大勢力になっている可能性が高い。生徒会としては、俺達が留年生達の後継団体……第2の問題児集団にならないかと心配なのだろう。
俺達は顔を見合わせた後、裕二が代表して質問に答える。
「特に、どうにかするつもりはありません。出来る事なら留年生問題が解決した後は、今の団体規模にまで縮小してくれれば良いと思っています」
「……校内最大勢力と言う地位を手に入れたのに、手放すと言うの?」
「ええ。そんな称号、欲しくはありませんからね。今回それを手に入れようとしているのは、留年生問題の解決に必要だと思ったからですよ。用が済めば、そんな面倒なものは要りません」
集団の構成人員が増えれば、それに相応しいだけ問題が出てくるからな。留年生問題が解決し、集団としての統一目標が無くなれば集団の統制不能になる可能性が出てくる。それなら、その前に自分達が集団を統制出来ている内に、制御出来る最小規模まで縮小したほうが良い。
元々、大規模組織の長期維持なんて俺達には無理だろうし、やる気もない。人間、個人なら善良でも過剰に人数が集まったら、途端に頭が悪い行動を取るからな。何事も程々、適量が良いと言うものだ。
「……今は、その言葉を信じさせて貰うわ」
「出来れば事が終わった後、組織解体に生徒会が手を貸して貰えると助かります」
口約束だけでは信じられないと思うので、生徒会側の介入を認めると裕二は答えた。
この回答は予想外だったのか、久松先輩は問いただす姿勢を崩し口を開け呆気にとられている。
「……良いの?」
「ええ。俺達としても外部勢力……生徒会ですけど。生徒会側が事後干渉してくれた方が、組織解体が進むと思っていますから」
目的を達成している以上、生徒会に睨まれると思えば離れていく者は多いだろうからな。
俺達としても、人数が集まり過ぎ生徒会に目を付けられているから……と言う名目でメンバーに退部を勧められると言うのはありがたい。
……まぁ、俺達が事前に解体の手順まで生徒会と相談している以上、マッチポンプも良い所だけどな。
「分かったわ。その時は、私達も協力させて貰うわ」
「ありがとうございます、お手数をおかけします」
「良いのよ、気にしないで。私達としても、必要とは言え何時までも肥大化した組織をそのままの形で残すのはしたくなかったから、ちょうど良いわ。問題解決後放っておいて、第2の組織化されたら堪ったものではないからね。集団の中核メンバーが組織の解体に協力してくれる、願ってもないわ」
どうやら俺達と生徒会は、この点でも協力出来そうだ。
俺達も生徒会メンバーも先程までの重苦しい雰囲気は崩れ、和やかな雰囲気が流れる中で互いに笑顔を向け合う。
「ははっ、じゃあ頑張って問題解決に尽力させて貰いますよ」
「私達に協力出来そうな事があれば、何時でも相談に来て。出来る限り力になるわ」
「ありがとうございます。その時は遠慮なく頼らせて貰う事にします」
「お手柔らかに頼むわね」
「ええ」
生徒会メンバーが互いに笑顔で頷き合った後、俺達は扉を開け生徒会室を出て敷居越しに別れの挨拶をする。
「お昼休みに、急に呼び出して悪かったわね」
「いえ、気にしないで下さい。では、失礼します」
「ええ」
挨拶を済ませ、裕二は生徒会室の扉を閉めた。
ふぅ、一時はどうなる事かと思ったけど何とか乗り切ったな。
生徒会室を後にし自分達の教室に戻るまでの間、俺達は先程まで生徒会室で話し合った成果についてを互いに評価する。
真っ先に評価の対象に上がったのは、俺が提案したパフォーマンス時間の事だ。
「それにしても、生徒会サイドだけとは言え大樹の提案が通って良かったな」
「そうね。確かにリレーだけだとアピール不足の感があると思っていたから、パフォーマンスの時間が得られるかも知れないのは幸運だったわ。何事も、言ってみるものね」
「そうだね。真逆、ああまでスムーズに提案が通るとは思ってもみなかったよ」
俺は褒め言葉を口にする2人に、頬を指で掻きながら自分でも予想外だったと告げる。
「多分、ポスターの衝撃が思ったより強かったんじゃないか? 呆気に取られて、思考が鈍っていたとか……」
「ああ、それもあるかも知れないな。久松先輩や他の生徒会メンバーも結構動揺していたみたいだし、何か心の隙を突くようにして事を進めた感じがして悪い気がするな……」
俺はポスターに写っているモンスターがビッグベアーと知った時の、生徒会メンバーの動揺具合を思い出し納得する。
確かにあの動揺具合なら、思考が鈍って俺達の提案を簡単に認めるかもしれないな。
「でもお陰で今後、生徒会と協力して留年生問題に対応出来る関係が結べた事は大きいわ」
「確かに。これで学校側と生徒会が、俺達の方についてくれるんだ。随分遣りやすくなるって物だな」
「だね」
取り敢えず、学校内での後ろ盾と言う意味ではこれ以上ない体制が整った。後は、俺達が上手く事を進められるかだな……頑張らないといけないと。
「っと、到着」
話し合っていると何時の間にか、俺達は教室の前に到着していた。
さて、午後の授業も頑張らないといけないな。
無事、生徒会と話がつきました。体育祭でアピールタイムを提案、リレーで活躍するだけより効果的な宣伝が出来そうです。




