第141話 部員募集ポスター完成
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夜なべして仕上げたポスターの試作品を通学カバンに入れ、俺はアクビをしながら美佳と一緒に通学路を歩いて学校に登校していた。ポスターに使用する写真の選考に思ったより時間が掛かってしまい、夜更かししてしまったので眠い。
まぁその分、試作品は良い感じの出来に仕上がっていると思う。
「眠そうだね、お兄ちゃん」
「ん? まぁな、写真を選ぶのに時間がかかったんだよ」
「ふーん。それで、どんなポスターが出来たの? 私、まだ見せて貰ってないんだけど……」
美佳は俺の通学カバンをチラ見し、見せてと催促してくる。
まぁ、別にここで見せても良いのだが……。
「放課後、皆で集まった時に見せるから、今はお預けって事にしないか?」
「えぇ……!? 見せてくれても良いじゃない! お兄ちゃんの、ケチ!」
ケチとか言われると、流石に微妙に傷つくぞ……。
「ケチって……俺は折角なら、皆に一斉に見せて驚かせたいと思っただけなんだけど……」
「むぅっ!」
「いや、そんな顔されても……」
俺が見せるのを渋ると、美佳は頬を膨らませ拗ねた様な声を上げる。
そんな、見せる見せないと行ったやり取りをしながら通学路を歩いていると、誰かが俺達に声を掛けてきた。
「おはよう」
その声に反応して振り返ってみると、そこには柊さんが立っていた。
「2人とも朝から賑やかだけど、何をそんなに言い合っているの? ほら皆気になって、貴方達2人に注目しているわよ?」
柊さんの忠告を聞き慌てて周りを見渡してみると、確かに周りを歩いている生徒達の注目を集めていた。
「「……」」
「ね? 本当でしょ?」
俺と美佳は思わず恥ずかしさから顔を俯かせ、柊さんはそんな俺達の態度に苦笑を浮かべる。
「ねぇ? 提案なんだけど、少し速歩きで移動してここを離れない? こんなに注目を浴びていると、2人も居づらいでしょ?」
「「……」」
俺と美佳は柊さんの提案に飛びつき、無言で首を縦に振って同意する。
そして、俺達は歩く速度を上げその場を離れ野次馬の視線を撒いた後、俺と美佳は安堵の息を吐いた。
「ごめん、柊さん。朝から変な事に巻き込んじゃって……」
「気にしないで。で、一体何を朝っぱらから言い合っていたの?」
「あぁ、うん。実は……」
俺は先程まで美佳と言い合っていた話の内容を、柊さんに説明していく。
「なる程。確かに美佳ちゃんからしたら、一緒の家にいるんだから直ぐにでも見たいわよね……」
「でしょ? 雪乃さんからも、お兄ちゃんにポスターを見せる様に言って下さいよ」
「そうね……。でも、九重君の皆が驚く様子を見たいっていう気持ちも、分からなくはないわよ? だって、苦労して作った物だもの。皆に見せた時の、驚いた反応を見てみたいと思うのは当然よ。美佳ちゃんもほんの数時間の事なんだから、放課後まで待ってあげたら?」
「むぅ……」
柊さんはどうやら俺の味方をしてくれるらしく、美佳の説得をしてくれた。美佳も柊さんに説得され、少し不満気な表情を浮かべているが、どうやら放課後まで待ってくれる事にしたらしい。
俺は美佳の背中越しに、柊さんに向かって軽く頭を下げお礼を伝えた。
学校に到着すると俺と柊さんは昇降口で美佳と別れ、教室に向かった。教室には既に半分ほどの生徒が登校していたが、裕二の姿は見えない。どうやら、まだ登校していない様だ。
俺は柊さんと別れ自分の席に座り、通学カバンから教科書を取り出し授業の準備をする。
すると、既に登校して来ていたらしい重盛が話しかけてきた。
「よう、九重! 聞いたぞ、部活を作ったんだってな!」
「ん? ああ重盛か、おはよう」
「おはよう。でっ? 何でまたこんな時期に、部活なんか作ったんだ?」
重盛は俺の前の空いている席の椅子に座り、創部理由を聞いてくる。
なので、俺は教材を机に仕舞いながら、重盛の質問に答えていく。
「何でって……必要に迫られたから、かな?」
「はぁ? 必要に迫られた? 部活を作る事が?」
「ああ」
既に創部理由を隠すような段階でもないので、俺は重盛に創部に至る経緯を簡単に説明していく。
留年生が起こした問題。1年生が置かれている現状。その対策に妹とその友達が行動を起こした事。俺達3人が後ろ盾になろうとしている事。学校側の後押しを受けて創部している事。
「はぁ。下の学年は、今そんな事になっているんだ……」
「何だ重盛、知らなかったのか?」
「……ああ。俺一人っ子だし、帰宅部だからさ。別の学年のそう言った話って、あんまり耳に入ってこないんだよ」
「なる程。確かに、伝手がないとこういった類の話は聞こえてこないもんな」
俺は重盛の答えを聞き、溜息を吐く。
一般の生徒からしたら他の学年で起きている騒動など所詮他人事の上、学校と言う特殊な閉鎖的状況も相まって積極的に情報収集をしなければ耳にも入ってこないよな……。
俺は改めて、留年生グループの巧妙な立ち回りに感心する。
「1年に親しい後輩や弟妹がいなければ、まず他の学年の事なんて調べようとはしないよな……」
恐らく留年生グループも今の段階では、上の学年に兄姉が居る生徒は勧誘対象から外しているのだろう。
だからこそ、弟妹が居る2・3年生も今まで積極的には動いていなかったんだろうな。
もし、その生徒等に下手に手を出せば、俺達が創部と言う行動を起こす前に眉を顰めながらも静観していた2・3年生が動いていただろう。
「しっかし、お前等。良くそんな面倒そうな事に手を出そうとしたな?」
「美佳……妹が覚悟を決めて頑張ろうとしてるんだ。兄としては、出来るだけ応援してやりたいと思ってな」
「そっか……。じゃぁ広瀬は何で、コイツに協力する気になったんだ?」
「そうだな。借りがある事も理由の一つだが、知っておいて何もしないって言うのが何だか嫌だったからかな?」
重盛は俺の背後に視線を送りながら問い掛けを口にすると、何時の間にか登校して来ていた裕二が質問に答える。重盛の話に集中していたとは言え、幻夜さんの訓練を受けてた俺の警戒範囲に容易く入ってくるなんて……裕二のやつ随分気配を絶つのが上手くなったな。
俺は後ろを振り返り、悪戯が成功した様な表情を浮かべる裕二にぶっきら棒な口調で朝の挨拶をする。
「おはよう、裕二」
「ああ、おはよう。それにしても2人とも、朝から随分興味深い話をしているな?」
「俺からすると、興味深いと言うより寝耳に水って感じの話なんだけどな……」
重盛は肩を竦めながら、裕二に答えた。裕二はそんな重盛の反応に苦笑しながら、通学カバンを自分の机に置き俺の机に寄ってくる。
「まぁ、1年生に知り合いがいないのなら、仕方がないんじゃないか? どうやら留年生グループの連中は、上級生に話が伝わらない様に小細工しているみたいだしな」
「小細工……ね」
「まぁそれも、俺達が創部したせいで御破算になる可能性が高いけどな」
「そうだよな。俺達が動く事が切っ掛けになって、今まで静観していた上級生連中が連動して動く可能性も出てくるからな」
「留年生グループは確かに大きな組織かもしれないけど、所詮探索者経験が浅くレベルも低い1年生達を掻き集めた組織だからな。探索者として格上の上級生に睨まれたら活動は下火になるか、解散する事になるだろうさ」
つまり俺達の部活が募集する、入部希望者の本当のターゲット層は上級生に兄姉がいる1年生だ。彼らを囲い込めば、もれなくオマケの協力が得られるかもしれないからな。対抗組織の戦力と言う意味では俺達3人が居れば十分だが、威圧する戦力と言う意味では上級生が多数所属してくれた方が効果的だろう。
俺は裕二の言葉に頷きながら、重盛に向け結論を口にする。
「そうなると楽なんだけどな。組織同士が正面から衝突するような事態に発展したら間違い無く学校側が介入して来るだろうし、双方馬鹿にならない怪我人や処分者が出るだろうしさ。争う事なく、事が収まるのが一番だよな」
「そうだな……穏便に事が収まってくれるのが一番だけどな」
俺と裕二は思わず、天井を仰ぎ見る。
グループに所属しているだけの者は兎も角、留年生本人は美佳達の話を聞いている限り無駄にプライドが高い性格の様だ。牽制と言う威圧を受け、留年生本人が大人しくなるかどうかは……正直分からない。
そんな途方にくれた様な俺達の様子を半目で眺めていた重盛は、控えめな口調で語りかけてくる。
「その、まぁ……何だ? 俺に出来る様な事があるのなら手を貸すからさ、まぁ頑張れよ」
「「ああ、そうだな」」
俺と裕二は重盛の励ましの声を聞き、天井に向けていた顔を正面に戻す。
すると、丁度のタイミングで平坂先生が教室に入って来た。どうやら俺達は雑談に集中し過ぎて、何時の間にかHRの時間が来ていた様だ。
「じゃぁ、俺自分の席に戻るわ」
「ああ、俺も」
そう言って、裕二と重盛は自分の席に戻っていった。
何だか今日は、朝からすっごく疲れたな……。
1日の授業が全て終わり、橋本先生を除き俺達は全員部室に集合していた。
「さぁ、お兄ちゃん! 約束通り放課後まで待ったんだから、出すものを出してよ!」
そう美佳は宣言し、右手を俺に差し出してくる。
事情を知る柊さんは苦笑を浮かべ、事情を知らない裕二と沙織ちゃんは美佳の行動を驚きの目で凝視していた。
「はいはい。今から出すから、少し待ってくれよ」
俺は通学カバンから、プリントアウトしたポスターの試作品が入ったクリアフィルを取り出し、机の上に一枚一枚広げて置いていく。ポスターの試作品は6つ、それぞれ同じ様な構図のポスターではあるが使用されている写真が違っていた。
「じゃぁ、それぞれのポスターについて軽く説明していくよ。一つ目は、裕二と美佳の写真を使った物。2つ目は俺と沙織ちゃん、3つ目は裕二と柊さん、4つ目は俺と美佳、5つ目は美佳と沙織ちゃん。そして6つ目の写真は柊さんと美佳と沙織ちゃんの3人を使った物だ。取り敢えず、自分が好きだと思うのを1つ選んでよ。試作品への改善意見出しは、その後に聞くからさ」
俺の説明を聞き、4人は前のめりの姿勢になりながら、真剣な表情で机の上に並んだポスターの試作品に目を通していく。まぁ今後の部の先行きを決める、重要な広告ポスターだからな。否が応にも、真剣にもなると言うものだ。
そうして皆がポスターの選考をしている間、俺は備品のノートPCを立ち上げ持参したポスターの試作品データが入ったUSBメモリーを読み込ませていた。実際に貼り出すポスターの図案が決まればここでデータの簡単な手直しをし、職員室の業務用プリンターを借りて大判印刷をするつもりだったからだ。
「おーい皆、どのポスター案を使いたいか決まったか?」
俺は皆が前のめり姿勢を辞めたのを見計らい、どの図案を使うと決めたか答えを聞こうと声をかける。
「ああ、一応決めたぞ」
「私も決めたわ」
「私も!」
「私も決めました」
「じゃぁ、使いたいと思うのを指差してみてよ。せぇ、の」
俺の掛け声に合わせ、一斉に自分が選んだ好みのポスターを指さす。すると、皆の指が1つ目の図案に集中した。
裕二と美佳の姿が写った、1番の図案のポスターだ。
「全員一致でこれか……」
「まぁパッと見、コレが1番迫力が有って印象に残ったからな」
「そうね。広瀬君がビッグべアーと正面から対峙している写真は迫力があるし、美佳ちゃんがPCを使って事務作業している姿の写真との対比が良い感じよ」
「自分の写真が学校中に貼り出されるのかと思うと少し恥ずかしいけど、私もこのポスターが一番皆の目を引くと思うよ」
「私も、この図案が試作品の中で一番印象に残りました。先ずは入部希望者に立ち止まってポスターの内容を見て貰わなければならないと思うので、これくらいインパクトがあるこの図案がいいと思います」
全員の意見が一致し、うちの部の宣伝ポスターは1つ目の図案で作る事が決まった。橋本先生はまだ部室に来ていないので意見は聞けていないが、先生以外の部員全員の意見が一致しているのでこのまま決定案として制作作業を進めさせてもらう。皆で細々とした修正意見を聞きながら、俺はPCで図案の編集を行いポスターを仕上げていく、
そして編集作業を始め15分ほどすると、ついに俺達の部の部員募集ポスターが完成した。
「よし、これで完成だ!」
「お疲れ大樹。悪かったな、横から口を出すだけで編集作業をまかせっきりにしてさ」
「ごめんなさいね、九重君。でもお陰で、ポスターが早く仕上がったわ」
「お疲れ様、お兄ちゃん。中々良いポスターに仕上がったね!」
「お疲れ様です。編集作業を全部お兄さんにお任せする形になっちゃって、すみませんでした」
俺が両手を挙げ完成した事を喜ぶと、皆口々に完成を祝うと同時に申し訳なさそうな表情を浮かべ軽く頭を下げながら謝罪してくる。
「別に良いよ皆、大した事じゃないんだから気にしないで」
「……そっか、悪いな。じゃぁポスターも完成した事だし、早速印刷して貼り出すか?」
「ああ、それが良いだろうな。とは言え、ポスターを作る為には職員室のコピー機を借りないといけないから、橋本先生が部室に顔出しに来てからだな」
既に放課後になって30分ほど経過しているので、そろそろ顔出しに来ても良い頃だと思うんだけど……と俺が考えていると部室の扉が開いた。
「ごめんなさい、少し遅れたわ……って、あら? どうしたの皆? そんなポカンとした顔をして?」
開いた扉の先には、分厚い書類ファイルとPCを抱えた橋本先生が立っていた。
随分、大荷物を持ってきたな……。
ポスター完成、美佳と祐二がモデルになりました。
見る者が見れば、祐二と対峙しているモンスターが合成ではない事に気がついて、戦慄するでしょうね。
いよいよ7月、朝ダンの書籍判が今月発売予定です。皆さん、よろしくお願いします!