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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第138話 重蔵さん主催の反省会

お気に入り12490超、PV 9360000超、ジャンル別日刊18位、応援ありがとうございます。




 


 橋本先生との打ち合わせを済ませた俺達3人は、美佳達が待つ裕二の家へと向かっていた。気掛かりだった創部関連の手続きが終わったと言う事もあり、俺達の足取りは軽い。

 

「これでやっと正式に、学校公認組織としての活動が出来る」

「そうだな。月末にある体育祭でのアピール次第では、夏休み前までに決着を着けられるかもしれない」

「そうね。それが出来るのなら、それが1番よ。夏休みを挟んだら、相手の勢力も増強されて面倒な事になるわ」

「勢力増加か……」


 柊さんの言葉を聞き、俺の頭には夏休み中ダンジョンに潜り続け、資金と戦力を増強させた留年生達が新学期開始と共に1年生達の間で、一気に勢力を拡大させていく光景が浮かんだ。

 嫌だなそれは。やっぱり夏休み前の決着を目指すのが、面倒事が一番少なそうだな。


「まぁ、今の俺達では何も出来ないんだけどな」

「今の私達は何も示せてないものね。ある程度の実力を示さないと、対抗勢力としては認めて貰えないわよ」

「確かに。対抗組織だと表明しても、後ろ盾がしっかりしていないと加入しようとはしないからね……」


 俺達の実戦力は兎も角、他所から見た俺達の立場は飽く迄も何の実績もない新興組織だからな。4月から活動を始め、1年生の中でそれなりの勢力に成長している留年生達の集団とは、規模や影響力が違う。

 人間。実際の実力より、噂や数が多い方に流されて靡くものだからな。


「となると、やっぱり体育祭でのアピールしだいって事だな」

「そうね。少なくとも私達が、留年生達の主要メンバーより実力が上だと証明しないといけないわね」 

 

 俺達は揃って溜息を吐く。留年生達より確実に上の実力を持っていると証明すると言う事は、学校で1番の実力を持っていると公言するのと同義だ。


「野口達が絡んで来そうだな……」

「そうだな。今のウチの学校でトップの探索者は、野口達のグループだからな……」

「野口君か……。彼も余り、良い噂は聞かないのよね……」


 俺達は去年同じクラスだった、野口の事を思い出す。

 野口を中心としたグループは今、学校で1番の実力を持つ探索者グループとして認識されている。彼らのグループは最近、学校から一番近いダンジョンの20階層を超えたらしい。俺達からすれば高々20階層なのだが、普通の学生兼業探索者としては破格の潜行階層数であるらしく、カリスマ的存在として扱われていた。 

「学校一の探索者か……」

「その言葉、野口にはさぞかし甘美な響きに聞こえているんだろうな」

「そうね……確かに、酔いしれるには十分過ぎる響きでしょうね」


 俺はそこまで考え、頭痛がしてきた頭を左右に振るう。


「だからこそ。その響きを奪おうとする俺達は野口の奴らにとって、さぞかし邪魔だと思う存在だろうな」

「そうだな。今まで競争相手としてみていた相手に抜かれるのならまだしも、今までノーマークだったポッと出の俺達に抜かれたら野口のやつ、さぞかし憤激するだろうな……」


 今、ウチの学校でトップ争いをしている探索者グループは、野口のグループを始め、3年と2年に1グループずつ計3つある。彼らは互いを牽制しつつ、潜行階層数を競っていた。

 野口達がトップに立ったのはここ最近で、ゴールデンウィーク期間を丸々ダンジョン探索に当てた成果だ。 


「その上私達は去年、野口君の誘いを断っているわ。それも、探索者に興味がないと言って……」

「嘘をつかれた上、上から目線で見下されていた……そう野口が考えても不思議じゃないな」

「そうなれば俺達、野口の奴に目の敵にされるだろうな……」


 俺は野口が勧誘してきた時、去り際に漏らした舌打ちの事を思い出した。表面上は爽やかそうだけど、絶対根に持つタイプだよな……アイツ。

 直接的な行動は取らなくても、裏で小さな嫌がらせとかしてきそうだな。 


「まぁ、何だ? 野口の件はまた今度考えるとして、今は体育祭関連のことを考えた方が良いんじゃないか?」 


 俺と柊さんは裕二の提案……面倒事の先送りに同意した。野口が敵対するかハッキリしていない以上、優先順位は留年生対策の方が現状では上だからな……面倒事になる可能性は高いけど。 

 俺達は暫く無言のまま、裕二の家目指して歩き続けた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道場の前に到着したのだが、中から物音がしない。この時間帯ならまだ、美佳と沙織ちゃんが重蔵さんの稽古を受けている筈なんだけど……?


「もしかして、美佳達は先に帰っちゃったのか?」

「さぁ? でも、何も物音がしないって言うのも変だな……」

「入って見ればわかるわよ」


 扉の前で首を傾げる俺と裕二を横に、柊さんは扉を開け道場の中に入って行く。俺達も柊さんの行動に釣られ、慌てて後を追う。

 そして道場の中に入ると、ジャージに着替えた美佳と沙織ちゃんが重蔵さんの前に座っていた。


「……戻ったか」

「ただいま……って、何をしてるんだ爺さん?」


 俺達の入室に気が付いた重蔵さんが、美佳達から顔を逸らし俺達を見る。

 何だろ?重蔵さんが俺達に向ける視線に、少し呆れたような色が乗っている気が……。


「何、嬢ちゃん達の相談に乗っておったんじゃよ」

「相談……ね」 

「ほれ。お主らもそんな所に立っておらんで、こっちに来て座らんか」

「あっ、ああ」


 裕二の帰宅の挨拶もそこそこで打ち切り、重蔵さんは俺達にも着座する様にと勧めてくる。俺達は少し困惑しつつ、道場の隅に置かれた座布団を手に持ち美佳達の横に移動した。

 

「さて……メンツも揃った事じゃし、昨日の嬢ちゃん達の初探索の反省会をするとしようかの」

「あ、ああ。分かった」


 重蔵さんの仕切りで、俺達は昨日の探索についての反省会を始めた。

 まず俺達の視点から、昨日の探索の様子について説明して行く。少々時間は掛かったが昨日、慎太郎さん達に1度説明したので手際良く状況を重蔵さんにも説明出来た。


「なる程。では次に、九重の嬢ちゃん達から話を聴こうかの?」

「は、はい! えっと、その……」


 話を振られた美佳と沙織ちゃんは、辿々しく自分達視点からのダンジョン探索の話をしていく。

 そして、俺達の説明の倍程時間をかけ美佳達の説明は終了した。

 俺達双方の話を聞き、重蔵さんは暫く考え込んだ後、口を開く。


「先ずは全員怪我も無く、無事にダンジョンを出れた事を褒めておくかの」


 その言葉を聞き、俺達は小さく安堵の息を漏らす。 

 無言で考え込む重蔵さんの姿は、中々威圧感が凄かったからな。


「じゃが、双方の話を聞いておると細かいミスが方々に見られるの……」

「ああ、うん。まぁ、それについては俺達もある程度は把握しているつもりだよ」

「どのような事を把握している、と言っておるのじゃ?」

「えっ? えっと……事前情報共有の不備(ICカードの残高確認)携行物資の確認不足(伸縮棒付き鏡)だけど……」

「……それだけか? お主ら二人も、裕二と同じ意見かの?」


 重蔵さんの問い掛けに、俺と柊さんは裕二の発言に同意すると言う意味を込め、顔を縦に振った。

 すると、重蔵さんは溜息を吐いた。


「はぁ……お主らな、少々認識がズレて来ておるぞ? 気を付けんといかんぞ?」

「はっ、はぁ……?」


 俺達3人は重蔵さんの指摘する意味が分からず、首を傾げた。

 そんな俺達3人の様子を見て、重蔵さんは指摘箇所の説明を始める。

 

「良いか、お主ら? 確かに裕二が指摘した物も、早急に改善すべきミスじゃ。じゃが、ワシが思う一番の問題はお主らの認識じゃよ」

「……俺達の認識?」

「そうじゃ。お主ら、九重の嬢ちゃん達の戦いをどう見た?」

「どうって……」


 重蔵さんに聞かれ、俺達は美佳と沙織ちゃんの対モンスター戦闘シーンを思い出す。

 二人共、ホーンラビットの最初の突撃を綺麗に交わし、俺が動きを停めた所をちゃんと止めを刺した。美佳が一撃で仕留められなかった事以外に、何か問題ってあるのか?


「……その顔じゃ、どこが問題か気付いておらんようじゃな」

「……美佳ちゃんが止めを刺し損ねた事……じゃないよな?」

「無論じゃ。モンスターとは言え、初めて生き物を殺すのに動揺しない者等まずおらん。九重の嬢ちゃんが躊躇し、急所を刺せずに胴体を突いた事自体に問題は無い。無論、岸田の嬢ちゃんの行動も問題ないからの」


 重蔵さんが、初めてのモンスター討伐で、迷い無く急所は突けないと言った時、沙織ちゃんが肩を一瞬震えさせ、体を膠着させたが、重蔵さんの次の言葉で、体から力が抜けた。

 確かにあの時の沙織ちゃんは、一撃で急所を貫いていたからな……。


「じゃぁ……何が問題なんだ?」

「分からんか……嬢ちゃん達。お主らが、対モンスター戦闘で一番気になった所はどこじゃ?」

「「……」」

「何、遠慮する必要は無い。お主らの忌憚の無い感想が、今のコヤツらには必要なんじゃよ」


 重蔵さんにそう言われ、美佳と沙織ちゃんは顔を見合せた後、躊躇しつつ口を開く。


「あ、あのね? 私達がモンスターとの戦闘で一番気がかりになったのは、全く動かないモンスターに槍を突き立てるって言う事なの……」

「動けなくした敵に止めを刺すのが、一番安全な方法だと言う事は頭では分かっているんですけど……」

「「「あっ!」」」


 俺達は美佳と沙織ちゃんの口にした感想を聞き、自分達との認識のズレに気が付く。

 そう。初心者に動きを完全に止めたモンスターに、トドメを刺させた事こそがミスだった。


「……気が付いたか?」

「ああ。確かに全くの初心者には、酷な方法だったかもしれない」

「確かにお主等がとった方法は、嬢ちゃん達の安全の面を考えれば間違いはないじゃろう。じゃが、初めて生き物を殺そうとする者に、完全に動きを止めたモンスターを差し出すのはやり過ぎじゃ。初めての者にそれを行わせるのは、精神的ハードルが高すぎる。戦闘中に敵の完全無効化に成功すれば、余程の戦闘経験を持つ手練でもなければ一瞬気が抜けるからの。そんな気が抜けたタイミングで、初心者が無防備の敵に止めを刺すのは至難じゃろうて。お主らの様なサポート……咄嗟の時に対処出来る戦力がいるのならば、最初から最後まで手を出さず嬢ちゃん達に討たせるべきじゃったな」


 重蔵さんに指摘され、俺達は思わず項垂れた。


「お主らの、嬢ちゃん達に怪我をさせたく無いと言う気持ちは分かるが、ちと過保護じゃったの?」


 俺達は過保護に成りすぎる余り、初めての戦闘ではしない方が良い行動を取っていたらしい。

 改めて指摘されれば確かに、重蔵さんの言う通り過保護すぎたかもしれない。俺達……俺がとった行動(ホットソース攻撃)は、2度目からの探索で行う事が最適だった筈だ。

 2度目からの探索……モンスターを殺す事に慣れる事を目的とした探索から。


「幻夜の所でした修行に、少々思考が引っ張られたかの?」

「……かもしれないな」


 重蔵さんの指摘に、俺達は確かにそうかもしれないと思った。

 俺達が幻夜さんから受けた修行は一言で言うと、“護衛対象に傷を負わせず危機を離脱する”為の方法を学ぶと言う事だ。護衛対象に傷を負わせずに……。

 俺達はそこまで考え、3人揃って美佳と沙織ちゃんに頭を下げた。


「ごめん。美佳、沙織ちゃん。俺達の考えが浅かったせいで、無駄に辛い思いをさせちゃったね」

「すまない。俺達の対応が間違っていたようだ」

「ごめんなさい。少し昔の自分で感じた事を、思い出せば分かった事なのにね」


 俺達の謝罪を受け、美佳と沙織ちゃんは慌てた。

 焦った様子で、俺達に頭を上げる様にと言ってくる。


「お、お兄ちゃん!? ちょ、ちょっと止めてよ!?」

「裕二さんも雪乃さんも、頭を上げて下さい!?」


 俺達は暫く頭を下げ続けた後、美佳と沙織ちゃんの願いを聞き入れ頭を上げる。


「確かに初めはショックだったけど、私達、もうそこまで気にはしてないよ?」

「はい。私もです。お兄さん達が居てくれたお陰で私達、怪我をする事も無くダンジョン探索が出来たんですよ? 感謝すれど、お兄さん達を責めたり非難する様な事は何一つありません。ですから、頭を下げて謝る様な事は何もありません」

「そっか……ありがとう」

 

 美佳と沙織ちゃんの言葉に、俺達は安堵しつつ感謝する。

 下手をすれば、2人に重大なトラウマを植え付けていたかもしれない事だ。幸い今の所、その様な兆候は見えない。これからはもっと考えてから行動しないといけないな……。


 

 

 

 

  

 

 

 重蔵さん主催の反省会を終え、俺達は美佳と沙織ちゃんに生徒会から貰った創部許可書を見せた。2人は証書を見て喜びの声を上げると同時に、その顔には面倒事(留年生問題)と向き合う覚悟の色を浮かべていた。

 さて、明後日から対留年生問題解決に向けて、本格始動開始だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

重蔵さんによる、ダンジョン探索の評価です。

若者の失敗を指摘し、改める様に促すのは大人の役目ですよね。

指導者的立場だと特に。

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― 新着の感想 ―
主人公たちが禁じ手(ホットソースビーム)使ってたから違和感なかったわ…… たしかに、最初の何もかも不明な時期とは違うもんな
[良い点] そうは言っても、こいつらの初探索の時もホットソース使ってたから、同じようにしても仕方ないですよね? 同じ苦しみを味わせたかったんですよね?
[一言] 一番面倒なのは敵の敵は味方って流れで 野口くんの下に1年留年組が入る事かな? ギルド的なものを作られると言うか、下部組織として取り込まれるというか
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