第135話 帰宅する
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駅のロッカーに預けた荷物を回収した俺達は、1時間半ほど電車に揺られた後、地元の駅まで無事に帰ってきた。改札を抜け駅を出ると、見慣れた光景に美佳が歓喜の声を上げる。
「うーん、やっと帰ってこれた! 朝出発してからあんまり時間は経ってない筈なのに、久しぶりって感じがするな……」
「私も、美佳ちゃんと同じ気持ちかな? 見慣れた景色をみてると、何だかホッとするよ……」
「沙織ちゃんも?」
「うん!」
俺達3人は少し離れた場所から、美佳と沙織ちゃんの話に耳を傾け2人が見慣れた町並みを見て安心するのも無理は無いと思う。今はまだダンジョン探索帰りと言う事で、精神が高ぶっているから自分では自分の状態に気づいていないようだが、俺達の目には二人の顔には疲労の色が色濃く出ているのが容易に見て取れた。
この分だと、2人とも自宅に到着したら精神的疲労でダウンするかもな。
「美佳ちゃん、沙織ちゃん。そろそろ戻ってらっしゃい。帰るよ」
「「はーい」」
地元に帰ってきたと言う安堵感でテンションが上がったらしい2人を、大声で騒ぎ出す前に柊さんが呼び寄せる。すると、2人は元気よく返事をした後、小走りで駆け寄ってきた。
これは、早めに帰宅して一度休ませた方が良いかな……。
「じゃあ皆、帰ろうか?」
「ああ」
「ええ」
「うん!」
「はい!」
騒いだ事で少し周りの注目を集めていた様なので、俺達は足早に駅を後にした。
駅から暫く歩いた交差点で、柊さんが足を止め別れの挨拶をする。
「じゃあ私、一度お店の方に顔を出してから帰る事にするわ」
「そうなんだ、分かった。柊さん……、今日は美佳達に付き合ってくれてありがとう」
「別に良いわよ、このくらい。手助けが必要なら、気軽に声をかけてちょうだい」
「うん。ありがとう、柊さん」
俺は軽く頭を下げながら、柊さんに今日のダンジョン探索同行の件についてお礼を言う。今日は本当に、美佳達の探索に同行して貰っただけの形になったからな。
本来、俺達が普通に探索すれば1回の探索で数十万は稼げる。なのに、今回は後進指導と言う面が強く、美佳達が1回づつ戦闘しただけで帰還したので、俺達にダンジョンドロップ収入は無い。俺は当初補填の意味も込め、指導報酬と言う形で2人に今回の探索への同行代を支払うと提案したのだがやんわりと断られていた。
「雪乃さん。今日は一緒にダンジョンへ潜って貰って、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
美佳と沙織ちゃんは柊さんに向かって、深々と頭を下げながら元気にお礼を言った。
「ふふっ、そんなに大げさなお礼なんかしなくてもいいのよ? 私が好きで、美佳ちゃん達に同行しただけなんだから」
美佳と沙織ちゃんの大げさなお礼に、柊さんは苦笑を漏らした。
「じゃあ私、もう行くわ。また明日、学校で会いましょう」
「うん。また明日、学校で」
柊さんは手を振りながら、交差点を曲がってお店の方に去って行った。
そして暫く柊さんの後ろ姿を見送った後、俺達は再び家路にへと歩き出す。
「お店に寄るって言っていたけど、今日お昼を食べたお店の事を教える為かな?」
「そうじゃないか? 系統は違えど、ダンジョン食材を使った料理だったからな。何かしらの、参考になるんじゃないか?」
「イタリア料理の技法をラーメンにか……どう言う風に参考にするんだろうな?」
オリーブオイルとトマトを使ったラーメンとかか?どんな味になるのか、想像出来ないな……。
「さぁ、な。まぁ何かしらの成果が出れば、また試食をお願いされるんじゃないか?」
「……そうだな」
裕二とよもやま話で花を咲かせながら歩いていると、美佳が話しかけてくる。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん、何だ?」
「沙織ちゃんと話したんだけどさ。この後、家に帰る前に沙織ちゃんの家に寄っても良いかな?」
「ん? ああ、別に良いぞ」
「本当?」
「ああ」
俺が良いぞと首を縦に振ると、美佳は表情を嬉しそうに綻ばせる。
「俺も帰る前に、沙織ちゃんのご両親には話しておかないといけないなと思っていた事もあるしな。丁度いい」
「話しておかないといけないと思った事?」
「ああ。一応今回の探索では、俺が引率責任者だったからな。沙織ちゃんのご両親には、ある程度は経緯を報告しておこうと思ってな」
何の報告も無しに、家に送るだけってのもアレだしな。それに恐らく、家に帰れば安堵感でモンスターを手にかけた精神的ショックを思い出す可能性が高い。
念の為、ご両親に沙織ちゃんのアフターフォローを頼んでおかないと……。
「ふーん」
「と言う訳なんだけど……沙織ちゃん」
「はい?」
「今日って、ご両親は家にいるかな?」
「あっ、はい。確か今日は2人とも家に居ると言ってましたので、多分居ると思います」
どうやら、ご在宅の様だ。
これで不在だと言われていたら、どうしたものかと悩まなければならなかったので良かった。
「そう。それは良かった。じゃあ、俺も少し立ち寄らせて貰うけど良いかな?」
「はい。勿論」
「ありがとう、沙織ちゃん」
俺は沙織ちゃんに、無事訪問の承諾を貰いホッとする。
そして俺達の話が纏まった所を見計らい、裕二が話しかけてきた。
「なぁ大樹、説明は一人で大丈夫か?」
「ああ、多分大丈夫だと思う。今回の探索の経緯を話すだけだしな」
「そうか。じゃあ、説明頼むな?」
「任せてくれ」
俺は裕二の気遣いに感謝しつつ、一人で大丈夫だと請け負う。
そして暫く歩いていくと、丁字路に突き当たり……。
「じゃあ、俺もそろそろお暇させて貰うな」
裕二とはここで帰り道が分かれる。
「ああ。今日は手伝ってくれてありがとうな」
「なに、気にするな。柊さんも言っていたけどこの位、どうって事ないさ」
「それでも、ありがとうな」
俺と裕二は軽く拳をぶつけ合い、別れの挨拶を済ませる。
「裕二さん、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました。裕二さん達のお陰で、怪我一つ無く帰ってくる事が出来ました」
「どういたしまして」
美佳と沙織ちゃんは先程柊さんにしたものと同じく、深々と頭を下げお礼の言葉を述べていた。
「じゃあ、そろそろ帰るな。また明日学校でな」
「ああ。また明日な」
裕二は手を軽く振った後、俺達とは反対方向に丁字路を曲がって去っていった。
「さっ、俺達も行こうか?」
「うん」
「はい」
裕二を見送った後、俺達は沙織ちゃんの家を目指して歩き始めた。
沙織ちゃんの家に到着した俺達は、二手に分かれた。
美佳と沙織ちゃんは沙織ちゃんの部屋に、俺はリビングでお茶を飲みながら茜さんと沙織ちゃんのお父さん、慎太郎さんと今日の2人のダンジョン探索状況について説明をしていた。
中々緊張するな、この状況……。
「……と言う感じなので、今回は特に大きな問題は起きませんでした」
「……そうか。ありがとう大樹君。君が娘を引率してくれたお陰で、大きな怪我を負う事なく帰って来れたようだね」
「ありがとうね、大樹君」
ダンジョン探索の経緯を一通り説明すると、慎太郎さんと茜さんは軽く頭を下げながら俺に感謝の言葉を述べてくる。
「いえ、お気に為さらないで下さい。今回は美佳……妹も同行していましたので、1人も2人も大して変わりありませんよ」
俺はにこやかな笑みを浮かべながら、慎太郎さんと茜さんにそう返した。本当は、護衛対象が1人と2人では手間が大違いなのだが、ここでそれを言っても2人を萎縮させるだけなので口にはしないけどな。
でも一応、過大評価されない様に釘は刺しておこう。
「ただ、1人も2人も変わらないとは言いましたけど、それは飽く迄も十分な訓練を積んでいると言う前提があった場合ですね。全くの素人が1人から2人に増えたら、とてもではないですけど手が回りませんよ」
「なるほど、そういう物なのか……」
「ええ、まぁ……」
俺がそう答えると、慎太郎さんは感心した様な表情と不思議そうな表情が混ざった、悩ましげな表情を浮かべている。
すると茜さんが横で、手を打ち合わせ何かを思い出した様だった。
「そう言えば沙織ちゃんも、ここ最近はダンジョンに行く為の稽古をして来たって言って帰りが遅かったわね」
「それは恐らく、俺達の師匠との稽古のせいですね」
「大樹君のお師匠さん?」
「はい。俺の友人の祖父で、今は後進に後を任せ一線を退いた凄腕の武道家です。美佳と沙織ちゃんも、俺達と一緒に事前に稽古を受けていたんですよ」
「そうだったのね。沙織ちゃんたら稽古を受けてきたとしか言わないから、私詳しい事は知らなかったのよ」
沙織ちゃん、もう少し詳しく報告しておこうね?下手したら、重蔵さんの所にクレームが飛んでいく事態になるからさ。
少しフォローを入れておくか。
「はぁ、そうなんですか……。でもまぁ、安心して下さい。師匠は基礎から丁寧に2人を指導しているので、今の2人はそこそこのモノになっていますよ。今回のダンジョン探索で2人が傷を負わなかったのも、師匠の稽古を受けていたって事が大きな要因の一つですね」
重蔵さんの基礎練を乗り越えられたのなら、対処法さえ間違えなければ1・2・3階層に出てくる様な単体モンスターに後れを取る事はまずないからな。
「そんな凄い方が、沙織ちゃんに教えてくれているの?」
「ええ。まぁ、本人は隠居生活中の道楽だと言っていますけどね。元々門下生に対して指導していたので、指導力は抜群ですよ」
「そうなの……じゃぁ近い内に、ご挨拶に行った方が良いわね」
「そうですね……」
茜さんは何時、重蔵さんへ挨拶をしに行こうかと、カレンダーを見ながら悩み始めた。
なので俺は、そんな茜さんの姿を見ながら軽く拍子を打って俺に意識を戻させ本題を話す。
「あっ、そうそう。大事な事を言ってませんでした。先程も説明しましたが、今回美佳も沙織ちゃんもダンジョン内でモンスターを倒しました。その事が原因で情緒不安定になったり、食欲不振になったりするかもしれません。数日は気にかけて上げて下さい」
「ん? それはどういう事だね?」
「モンスターを倒す……つまり沙織ちゃんはモンスターを殺したんです。如何にモンスターといえど、外見は普通の生物に酷似していますので、平静に見えてもそれ相応の精神的ショックを受けている筈です。ですので、暫くは気に掛けてフォローして上げてください」
「……なるほど、そう言う事か。分かった、沙織の様子には気をつけておこう」
「ええ。私も気にかけておくわ」
「よろしくお願いします」
俺がこの後起きるかも知れない懸念を伝えると、慎太郎さんと茜さんは神妙な表情を浮かべ頷いた。まぁ、これはあくまでも懸念なので実際に起きるとは限らないんだけどな。
その後、俺が慎太郎さんや茜さんと軽い世間話をしていると、美佳と沙織ちゃんがリビングに姿を見せた。
「お待たせ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの方の話は終わった?」
「ああ、終わってるよ。美佳こそもう良いのか?」
「うん」
「そうか。じゃあ時間も時間だし、そろそろお暇させてもらおう」
「はーい」
こんなやり取りの後、俺と美佳は沙織ちゃんの家をお暇する。
そしてお暇する俺達を、沙織ちゃんは玄関先まで出て来てお見送りしてくれた。
「美佳ちゃん、お兄さん。今日はありがとうございました。また明日学校で会いましょう」
「うん。じゃあ、また明日ね!」
「今日はゆっくり休んで、疲れを取るんだよ? じゃあ、また明日学校で会おう」
「はい」
本当、明日元気な姿で登校して来てくれると良いんだけどな……。
こうして、俺と美佳は沙織ちゃんの家を後にし自宅への帰路についた。
空が夕焼けに変わる前に帰宅した俺と美佳は、荷物を片付ける為に母さんに軽く帰宅の挨拶をしたあと自分の部屋にそれぞれ戻った。
「うーん。何とか無事に終わったな……」
幻夜さんの稽古のお陰で、護衛する事にもある程度は慣れていると思っていたが、本番はやっぱり神経をかなり張る。稽古で使っていなかったスキルも併用し万全を期したが、余裕があまり持てなかった。
「でもまぁこれで、美佳達も正式に探索者生活スタートだな」
俺はダンジョンを出た後、美佳と沙織ちゃんを鑑定解析した結果を思い出す。
名前:九重美佳
年齢:16歳
性別:女
職業:学生
レベル:1
HP:15/15
EP:10/10
名前:岸田沙織
年齢:16歳
性別:女
職業:学生
レベル:1
HP:15/15
EP:10/10
完全に初心者のステータスでスキルは無いが、二人共ちゃんとレベルとステータスが表示される。伸び代に関しては、2人のこれからの努力次第だな。
因みに美佳達のついでに鑑定した、俺達3人の最新のステータスはこうなっていた。
名前:九重大樹
年齢:16歳
性別:男
職業:学生
称号:スライム族の天敵
レベル:98〈34〉
スキル:鑑定解析3〔A〕7/10・念動力3〔A〕1/10・空間収納3〔P〕8/10・EP回復力上昇Ⅱ〔P〕5/10・身体能力強化Ⅱ〔P〕7/10・ステータス偽装Ⅱ〔P〕4/10・洗浄Ⅱ〔A〕1/10・光源魔法Ⅱ〔A〕1/10・威圧〔A〕6/10
HP:985/985〈355/355〉
EP: 200/495〈180/180〉
※〈〉内の数字は偽装スキルによる見せかけの数字
名前:広瀬裕二
年齢:16歳
性別:男
職業:学生
レベル:75〈32〉
スキル:身体能力強化Ⅱ〔P〕6/10・知覚鋭敏化Ⅱ〔P〕3/10・高速思考Ⅱ〔P〕3/10・斥力鎧Ⅱ〔A〕2/10・ステータス偽装Ⅱ〔P〕1/10・洗浄Ⅱ〔A〕1/10・光源魔法Ⅱ〔A〕1/10・威圧〔A〕8/10
HP:765/765〈335/335〉
EP:235/385〈170/170〉
※〈〉内の数字は偽装スキルによる見せかけの数字
名前:柊雪乃
年齢:16歳
性別:女
職業:学生
レベル:74〈34〉
スキル:身体能力強化Ⅱ〔P〕6/10・気配感知Ⅱ〔A〕1/10・気配隠蔽Ⅱ〔A〕3/10・風魔法Ⅱ〔A〕3/10・ステータス偽装Ⅱ〔P〕3/10・洗浄Ⅱ〔A〕9/10・光源魔法Ⅱ〔A〕3/10・威圧〔A〕5/10
HP:755/755〈355/355〉
EP:260/385〈185/185〉
※〈〉内の数字は偽装スキルによる見せかけの数字
暫くの間、肉と骨目当てでオークを狩り尽くす勢いで狩っていた結果、中々のステータスに成長していた。懐かしいな、あの頃はかなり大量にオークを狩ったな……。
荷物を片付けながら鑑定解析したステータスを思い出していると、下の方から母さんが呼ぶ声が聞こえてきた。
「大樹、美佳……ご飯よ!」
「はぁーい!」
「了解ー!」
キリが良い所で片付けを止め、俺は夕飯を食べにリビングへと降りていった。
親御さんに探索過程を説明し、ケアを頼んでおきました。
それと、久しぶりにステータスを更新しました。