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第9話 特殊地下構造体武装探索許可書交付試験 その3

お気に入り4000超、PV273000超、ジャンル別日刊3位、総合日刊21位、応援有難うございます。

 

 

 

 神谷講師の脅しが効いたのか、ダラけ気味だった受講生達の雰囲気が変わり、真剣な表情を浮かべながら実技講習に取り組んでいた。全球回避した者こそ数少ないが、大半の受講生達は10球中6・7球は避けるか打ち落とす。

 そんな受講生達の姿を神谷講師は、どこかつまらなさそうに眺めていた。ドSか、あの講師。


「もうすぐ俺達の番だな」

「そうだな。課題自体は難しいって言う訳じゃないけど、神谷講師の言った事を前提にすると1球でも回避し損なうのはマズイな」

「そうね。この程度の物に余裕を持って対処出来ない様だと、命の危機を感じる重圧下で実物のモンスターに対処する事は厳しいでしょうね。ましてや、さっきからスクリーンに映っているモンスター達は、ダンジョンの表層階に出現するってテキストにも記載されていたモンスターばかりよ?あのピッチングマシーンが打ち出すゴムボール速度が、スクリーンに出現するモンスター毎の速さに対応した物だとすると……」


 裕二と柊さんの危惧はもっともだ。

 おそらくこの実習の意味は、ダンジョンに入った時に、最初の一体目のモンスターを倒す事が出来るかどうかの見極めだろう。ダンジョン内でモンスターを1体でも討伐すれば、討伐者にはレベルの概念が付与されIPSを身に纏う事になる。IPSを手に入れれば、防御力向上等の様々な恩恵を手に入れられるからな。詳細は把握していなくとも、経験則と比較検証によって認知しているのだろう。

 最初の1体に勝てさえすれば、よほど馬鹿な真似をしなければ堅実なレベルアップは可能だからな。


「まぁ、今はこの課題をクリアする事に集中しよう。考え過ぎて仕損じるのもアレだしさ」

「そうだな」

「そうね」


 3人で駄弁りながら待っていると、順番が回ってきた。

 まず最初は裕二だ。裕二はキャッチャーマスクを被り、サークル内で足を肩幅に広げた自然体で正面のスクリーンを睨む。用意が出来たのを係員が確認し、スクリーンの映像が動き出す。最初のモンスターが現れゴムボールが発射、裕二は胸目掛けて放たれたゴムボールを軽々と掌で弾く。それを皮切りに、裕二は次々と放たれるゴムボールを的確に打ち落とし、最後の時間差で連続発射された9球目と10球目を両手で弾き切り終了した。


「お疲れ」

「お疲れ様」

「ああ。意外と簡単だったぞ、落ち着いて対処すれば大丈夫だ」


 裕二は嬉しそうに返事を返し、この後受ける俺達にアドバイスをくれる。キャッチャーマスクを用意してあった備品のウェットティッシュで拭いた裕二は、柊さんにキャッチャーマスクを手渡し課題終了者が集まる位置まで離れていった。


「落ち着いて、ね。じゃぁ、行ってくるわ」

「柊さん、気をつけて」

「ええ。広瀬くんと同じ様に、パーフェクトクリアしてくるわ」 

  

 柊さんは俺に自信満々の様子で返事を返し、淀みない足取りでサークルに立った。

 スクリーンが起動すると同時にモンスターが出現し、柊さんの胸目掛けてゴムボールが打ち出される。不意打ち気味に発射されたゴムボールを、柊さんは動揺する事無く最小限の身のこなしで回避した。その後、執拗に連続発射されるゴムボールを柊さんは、体幹を振らす事無く最小限の身のこなしで次々と回避していく。柊さんて、武道経験者だったっけ?

 そして柊さんは開始前の宣言通り、1球たりともゴムボールを避け損ねる事なくパーフェクトクリアした。


「お疲れ様」

「どう?言った通り、パーフェクトクリアだったでしょ?」

「驚いたよ。柊さんも、裕二みたいな何かの武道経験者だったの?」

「いいえ、武道系の習い事をしたことはないわよ?」


 となると、あの身のこなしは自然に出来たって事なのか?にしては……。


「でも、小さい頃はお母さんの勧めで日本舞踊を習っていたわ」

「……なる程」

「昔取った何とやらね。こんな事に役立つとは思わなかったわ」 


 と言う事は、あの身のこなしの安定した重心移動は日舞の物なんだ。重心が安定して体幹が崩れなかったから、あの連続ボールも余裕を持って躱しきれたのか。

 もっとも、動体視力と反射神経は柊さんの素養だろうけど。


「じゃ、先に広瀬くんの所に行っているわ。九重君も、パーフェクトクリア目指して頑張ってね」

「うん。期待に応えられるように頑張るよ」

「期待してるわ」


 柊さんが使っていたキャッチャーマスクを受け取り、自分の順番が回ってきたのでサークルへ向かう。今の俺にとって、この手の物は特に苦になる様な物ではないので足取りは軽い。 

 因みに、現在の俺のステータスは今朝出発前に確認した段階でこれだ。

 

 

 名前:九重大樹

 年齢:16歳

 性別:男

 職業:学生

 称号:スライム族の天敵

 レベル:59〈1〉 

 スキル:鑑定解析Ⅱ〔A〕9/10・念動力Ⅱ〔A〕6/10・空間収納Ⅱ〔P〕2/10・EP回復力上昇〔P〕9/10・身体能力強化〔P〕8/10・ステータス偽装〔P〕9/10

 HP:595/595〈15/15〉

 EP: 90/300〈10/10〉

 ※〈〉内の数字は偽装スキルによる見せかけの数字

 

 

 日課のスライム潰しの御陰で、レベルはかなり向上している。それと、スライムの討伐数が1万匹を超えた辺りで、俺のステータスに称号が付いた。まぁ、あれだけ毎日スライム潰しをやっていれば、この称号を得たのにも納得だ。

 スライム族の天敵……膨大な数のスライムを討伐した者に送られる称号で、効果はスライム族に対しての攻撃に100%クリティカルダメージが発生する。

 この称号の御陰で日課のスライム潰しがすこぶる順調になり、レベルアップ作業に大いに貢献してくれている素晴らしい称号だ。

 ただ、パッシブスキルを幾つか追加で習得したり空間収納がⅡにランクアップしたので、レベルアップに伴い増加したEPも常時210消費し、アクティブスキルに回せるEP使用量には特に変化は無いんだけどな。


「宜しくお願いします」


 俺がサークルに入り一声係員に掛けると、スクリーンが起動しダンジョンの通路が映し出された。通路を進み角を曲がった所で、モンスターが大映しになりゴムボールが打ち出される。物陰からの奇襲と言った所だろう。俺は打ち出されたゴムボールを目で追いながら、右手をゴムボールの飛んでくる軌道上に置き余裕を持ってキャッチした。避けるか弾く事を想定していた為か少し目を開き驚いている係員に、スクリーンから目を逸らさずに受け止めたゴムボールを転がし渡す。スクリーンに狼型のモンスターが出現し、右斜め上方から左下に向かって腕を振り下ろす映像が流れ、ゴムボールが発射される。発射されたゴムボールを観察すると、ある違和感に気がつく。ゴムボールに斜め回転が掛かっていたのだ。先程のゴムボールには綺麗なバックスピンが掛かって直進してきた事から察するに、この回転がかかるゴムボールは……。


「今まで変化球なんて、誰にも投げてなかっただろうが!」


 斜めに大きく変化するシュートボールを受け止めながら、俺は思わず愚痴を小声で漏らす。どうやら、先程のボールを受け止めた事が気に入らなかったらしい。係員の隣に何時の間にか、神谷講師が陣取りコントローラーを操作している。どこか別の受講生の所に行けよ、ドS講師が。

 しかし、どうやら俺の願いは叶わないようだ。コントローラを握った神谷講師は次の操作を入力し終わっていた。スクリーンにはモンスターが連続で出現し始め、多角的な攻撃を仕掛けてくる。カーブにスライダー、フォークにシュート。様々な方向に曲がるゴムボールがランダムに連続発射される。俺は両手を使ってゴムボールをキャッチし、何とかサークルから出る事無く神谷講師の猛攻を凌ぎ規定の10球をノーミスで終えた。

  

「お疲れ様。次の人と交代してね」

「……はい」

 

 少し悔しそうながら、それを上回る歓喜の表情を浮かべるドS講師。あの顔は、新しい玩具を見つけた子供が浮かべる類の笑顔だ。しまった、厄介なのに目を付けられた。柊さんとの約束だったけど、何球かミスっておけば良かったな。

 自分のミスを些か悔やみつつ、次の人に清掃済みのキャッチャーマスクを渡して、裕二達が待つ場所へ移動する。


「お疲れ、凄かったぞ大樹」

「ええ。良くあんな変化球混じりの球を、全部受け止められたわね。九重君って、野球でもしてたの?」

「してなかったよ、野球は学校の授業でやる程度かな?」

  

 俺の成果に驚く2人に迎えられた後、座っている2人にならいグラウンドに腰を下ろす。人工芝のグラウンドは、適度な反発で中々座り心地が良い。うちの学校のグラウンドもいい加減土から、人工芝に変わらないかな?


「でも、あのドS講師にはまいったよ」 

「ああ、あの神谷って言う講師」

「そう言えばあの人が九重君の所に移動してから、変化球が打ち出され始めたわね。あの人が操作してたの?」

「うん。10球避け終わった後に目があったんだけど、ムカつく程に愉悦に満ちた眼差しが輝いていたよ」


 ほんと、あの目には参ったよ。思わず、手に持っていたゴムボールを顔面目掛けて投げ付ける所だった。

 そして、課題を終えた俺達は無駄話をしながら、未だ課題に取り組んでいる他の受講生達が終るのを待つ。それほど人数も残っていないので、然程時間は掛からないだろう。

 30分後、B班の受講生全員が課題を終えた。


「B班の皆さん、お疲れ様でした。この後、A班と課題を変えてトラップ対処実習を行ってもらいます。坂牧講師の下へ移動してもらいます。そして最後に私から一言、ボールを全球ノーミスで対処出来なかった人達は、今のままダンジョンに潜るのなら死傷する可能性を覚悟しておいて下さい。嫌ならば、ダンジョンに潜るまで体を鍛えておく事をお勧めします。では、移動を開始して下さい」


 神谷講師の最後の一刺しを聞いた受講生達は、一部を除き表情を強ばらせ体を硬直させる。神谷講師の忠告を戯言と鼻で笑う事が出来る受講生はB班には居らず、神妙な表情を浮かべ考え込む者も出る始末だ。だが、神谷講師に促され重い足取りでB班の受講生達は坂牧講師の下へ移動し始める。その集団の先頭を歩くのは数少ない一部の例外である俺達であり、神谷講師が送ってくる気色の悪い眼差しが原因だった。

 

「早く行こう」

「ああ」

「九重君、手でも振ってあげれば? 熱烈な見送りの眼差しを送って来てくれているわよ?」

「嫌だ!さっさと行くよ!」

 

 神谷講師の纏わり付く様な視線から逃れる為、裕二と柊さんを引きずるかの様に伴い、坂牧講師の元へ足早に移動する。 

 

 

 

 

 A班とグラウンドの中ごろですれ違いながら、B班の中で俺達は一番早く坂牧講師の下へたどり着いた。


「お前達が1番か、若いのに気合入ってるな!」

「いや、その、神谷講師の眼差しが気持ち悪くて……」

 

 神谷講師への陰口になるが、あんな気色悪い眼差しを向けてきた神谷講師が悪い。爽やか青年風の癖して、性根が歪んでいるんではないだろうか?

 

「何? 何か目に付くような事でもしたのか?」

「いいえ。ピッチングマシーンが打ち出すゴムボールを、全部受け止めただけですよ」

「? 全部受け止めたのか?」

「はい」


 坂牧講師は俺の話を聞き、少し考えた後に大きく頷いた。 


「多分、それが原因だろ。全球避ける事や弾く事が出来る奴はそこそこ居るが、受け止める奴は数少ないからな。将来の有望株と気に入られたんだろ」


 ……はい?


「まぁ、何だ。頑張れよ。根は悪い奴じゃない。まぁ、ちょっと趣向が特殊というか、変というか、な?」


 坂牧講師は憐れみの眼差しを、俺に向けてくる。いや、神谷講師を止めてくれよ。

 笑って誤魔化そうとしている微妙に頼り無さ気な坂牧講師を、俺達3人は半眼で見つめ続けた。

 大丈夫か、この人?

 

 

 

 

 

取り合えず、最初の一撃をかわせれば死傷率は下げられますよね?

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― 新着の感想 ―
偽装で隠したのがレベルだけとはびっくりです。協会はアイテムを鑑定できるんですよ。大樹と同じスキル持ちがいても全然おかしくない。スラダンまでバレちゃいますよ。
そもそもダンジョン入ってない人は偽装があってもレベルの概念が無いはずなんだよなぁ。 そこ見られてたらアウトでしたねぇ。
[気になる点] サブタイトルの許可書が許書可になってます [一言] 楽しく読ませて頂いています
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