第134話 お食事会での会話にて
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外観観察もそこそこに、入口から伸びるレンガ敷の通り道を抜け俺達は入口に辿り着いた。玄関扉の脇にはメニュー表が設置してあり、本日のおすすめランチコースと日替わりメニューの内容が示されている。
「へぇー。ランチはAコースからEコース……5つもあるんだ」
「パンフレットに載っていた、クーポンが使えるのはAとBコースだな」
「AコースとBコースの違いは、メインに肉や魚料理が付くかどうかね」
「でも、ダンジョン食材を使ったコースはDとEコースだね」
俺達3人がメニューを見ながらどれが良いか話し合っていると、美佳と沙織ちゃんが遠慮気味に声をかけてくる。
一体どうしたんだ、そんな引きつった様な表情を浮かべて……?
「ねっ、ねぇ、お兄ちゃん。本当にこのお店で、お昼を奢って貰って良いの?」
「そ、そうです。ほっ、本当に良いんですか?」
「ああ。二人共、遠慮しないで好きなコースを選んでよ」
美佳と沙織ちゃんがチラチラとメニュー表に目をやりながら心配げな眼差しを向けてくるので、俺は財布の入ったズボンのポケットを軽く叩きながら任せろとアピールする。
「で、でもこのお店……一番安いランチコースでも5000円もするよ?」
「そっ、そうですよ……」
どうやら二人共、メニュー表に記載された価格にビビったらしい。
まぁ普通、高校生が飯を奢ると言って、5000円もするランチに誘ってきたら戸惑うよな……。
「大丈夫、これでもそこそこ稼いでるからね。二人に奢るくらいどうって事ないよ。さっ、二人も見てみなよ」
俺はそう言いながら一歩引いた位置にいた二人の背中を軽く押し、メニュー表の前に移動させる。
本当なら、手頃な定食屋などで昼食をとっても良いのだが、定食屋などの家庭的な日常を感じさせる様な食事処よりも、こう言う高級店の方が日常を感じずに食事も喉を通るだろう。あまり家庭的な日常を感じさせる様なお店だと、ダンジョン内での事を思い出し食事が喉を通らなくなる可能性があるからな。緊張で程よく其処ら辺の事を忘れるには、このくらい高級店の方が良いんじゃないかな?
「うっ、うん……」
「はっ、はい……」
俺に背中を押し出された二人は漸く腹が決まったのか、先程の俺と同じ様にメニュー表を吟味し始める。
そして数分後、メニューを決めた俺達は玄関扉を開け店内へと足を踏み入れた。
「へぇー、結構落ち着いた内装だな」
店内に入った俺達の目にまず飛び込んできたのは、明かりを灯すランプやアンティークな小物が並ぶクラシックな雰囲気を漂わせるエントランスホールだった。
そして、木製の受付カウンターにはスーツを着た若い男性店員の姿が見える。
「……いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
俺達に声をかけた男性店員は一瞬、俺達の外見を見て怪訝そうな表情を浮かべたが、俺達が背負う収納袋を目にし表情を改めた。
どうやら俺達が唯の高校生ではなく、探索者だと言う事に気がついたらしい。
「5人です」
「5名様ですね? では、お席にご案内いたします。どうぞこちらに……」
そう言って、男性店員は俺達を先導するように歩き出す。
男性店員について行くと、俺達が案内された席は木製の衝立で区切られた半個室といった席だった。
「お手荷物は、あちらのロッカーと棚をご自由に御利用ください。それではメニューをお持ちしますので少々お待ち下さい、失礼します」
そう言って、男性店員は去っていった。
そして、俺達は席に着く前に収納バッグを木製ロッカーに収納して行く。
「こう言う部屋や設備があると言う事は、俺達みたいにパンフレットを見た探索者が結構来るんだな……」
「そうだな。じゃなければ、こう言う物は設置しないだろうからな」
俺と裕二は収納バッグをロッカーにしまいながら、店側の細やかな対応に感心していた。収納バッグをしまうロッカーは割と大型で、複数人の武器を収納する事が出来る。
しかも、鍵付きだ。お陰で、安心して食事に集中できそうだ。
「じゃぁ、席は適当に……」
荷物の収納を終えた俺達は、6人がけの席に3人と2人……男女別に別れて座る。因みに、席順は個室の入口側から裕二、俺。柊さん、美佳、沙織ちゃんの順だ。
そして俺達が席に着くのを見計らっていたのか、俺達が席に着くのとほぼ同時に男性店員がメニュー表と水を持って姿を見せる。
「お待たせしました。こちらが、当店のメニューになります。どうぞ」
男性店員は俺達にメニュー表と水を配って回った後、日替わりメニューについて説明を始めた。
「本日のAコースBコースに付く日替わりパスタは、5種類のキノコを使ったパスタになります。尚、+500円でピザに変更も可能です。」
「ピザは何ピザになるんですか?」
「本日のピザは、半熟卵が乗ったビスマルクになります」
「そうですか……」
男性店員に軽く質問をしながら、俺は皆に目配せをする。一応、店に入る前に注文するメニューは決めていたが、変更や追加は無いか確認するためだ。
そして結果は、変更も追加も無しだった。
「じゃぁ、すみません。このDコースランチを、人数分お願いします」
「えっ? Dコースランチ、ですか?」
「はい」
俺の注文に男性店員は一瞬、驚いた表情を浮かべ問い返して来た。まぁ、無理も無い、5000円のAコースランチに比べ、Dコースランチは1万円もするのだから。
そして、自分の失態に気が付いた男性店員は咳払いをした後、動揺収まらないまま何とか平静を装い注文の確認を取る。
「すみません。では、ご注文を確認させて頂きます。Dコースランチを5人分……お間違えはありませんでしょうか?」
「はい」
「では、お飲み物はどうなさりますか?」
「じゃぁ、烏龍茶を人数分」
「かしこまりました。では、ごゆっくりお寛ぎ下さい」
男性店員はメニュー表を回収し、一礼し去っていった。
注文も終わり、料理が出てくるまでの間、男性店員が居なくなったので俺は学校での話を美佳と沙織ちゃんに振る事にした。
「そう言えば美佳、沙織ちゃん。先週生徒会に提出した、創部届けの事についてなんだけどさ……」
「? もしかして、創部の承認が降りたの?」
「ああ、内々にだけどな。昨日生徒会の人が教室に来て、正式承認は来週の月曜……つまり明日出るって教えてくれたのさ」
昨日、別のクラスに所属する2年生の生徒会役員……書記の女の子が休み時間に教えに来てくれたのだ。元々職員会議でも承認されていた事なので、ほぼ決定事項の形だったからな。
特に波乱もなく、無事承認される事となった。
「本当!?」
「本当ですか!?」
俺が生徒会に創部が承認されたと伝えると、美佳と沙織ちゃんは目を輝かせ歓喜の声を上げる。
「しっ。声が大きいよ、2人とも。半個室とは言っても、他のお客さんもいるんだから静かにしようね?」
「「ご、ごめんなさい」」
大きな声を上げた2人を俺が軽く嗜めると、美佳と沙織ちゃんはバツの悪そうな表情を浮かべ周りに目配せをした。特に店員さんに注意の声もかけられなかったので、セーフだろう。
でもまぁ、2人が声を上げたくなるのも分かるんだけどな。
「一応、明日の放課後に生徒会室に顔を出して正式承認の書類を貰う事になっているから、部活として活動を始めるのは明後日からになるかな?」
「まぁ、そうだな。明日何かするとしても、部室の確認と橋本先生と活動内容について軽く打合せをして終わりって所か?」
「そうね。まだどんな道具を用意するかも決めてない状況だもの、明日はそれで良いと思うわ」
出された水に口をつけながら、俺達3人は明日の予定について話し合う。
一応、軽く活動内容については橋本先生とも事前に話し合っているとは言え、正式に諸道具を揃えようと思えば打ち合わせは必要だからな。
「取り敢えず、『個人事業の開業・廃業等届出書類』と『所得税の青色申告承認申請書』は用意しておくかな?」
「ああその2つならわざわざ取りに行かなくても、ホームページからでもダウンロード可能だぞ」
「あと、青色申告をするのなら複式帳簿も必要じゃないか?」
「そうだね、それと領収書を保管するバインダーもいるね」
俺達は打ち合わせの内容についての話を進めて行くが、美佳と沙織ちゃんが話に付いてこれず、目を白黒させ不安な表情をしていた。
「ごめんごめん。二人には、説明不足だったね。詳しい説明は、明日の放課後にでもしような」
「……うん。でも、横で聞いているだけだと何を言っているのかサッパリだったよ。ねっ?沙織ちゃん」
「うん。役所に色々な届出をしないといけないって事は分かりましたけど、どんな書類を作って出せばいいのかは……」
美佳と沙織ちゃんは、自信なさげな表情を浮かべた。
「大丈夫だよ、2人とも。その分からない事を分からない人に、分かる様に教えるのが俺達が今から作ろうとしている部活の活動だからね」
「そうだな。それが俺達の活動目的だな……表向きの」
「だから先ずは、美佳ちゃんと沙織ちゃんに分かる様に教えるのが最初の活動ね。そしてそれは、部活としての成果にもなるわ」
「創部して直ぐに2人起業させたとなれば、当面の成果としては十分だからね。後はそれを体育祭の時に実績としてアピールすれば、入部希望者も増えるんじゃないかな?」
体育祭までは、残り1ヶ月を切っている。残りの休日日数から考えれば、今から美佳達の能力を劇的に伸ばすのは難しい。勿論、俺の部屋のスライムダンジョンを使えば短期間での能力向上は可能だが……促成栽培教育は俺達の例を考えると考えものだからな。
逆に、個人事業主として起業させる事自体は割と簡単だ。書類を提出すればいいだけだからな。但し、適切に探索事業者としてやっていこうと思えば、覚えなければいけない事が多くある。
まぁ今から詰め込めば、体育祭までにそれなりの物にはなるだろうし、少々質問されても乗り切れるくらいにはなっているだろう。
「体育祭後に入部希望者……いや。シンパが増えれば、留年生達の活動に対して抑えが効くようになるだろうから、美佳も沙織ちゃんも頑張って覚えてくれよ」
「そうだな。創部1ヶ月もしないで、2人が入部希望者の質疑応答にちゃんと受け答え出来れば、十分なアピールになるだろうな」
「そうね。2人が頼りになるって思って貰えれば、留年生達に反感を持つ層のシンパが増える筈だわ」
創部の裏の目的は、1年生でハバを利かせる留年生達への牽制、あるいは集団の解体だからな。上手く行って貰わなければ困る。その為にも、二人には体育祭までに各種手続きの方法を覚えて貰わないと……。
そうして暫く皆で話しているとワゴンを押す男性店員が姿を見せ、前菜料理を運んで来た。
「お待たせしました。前菜の、地物野菜のガスパチョと旬魚のマリネになります」
俺達の前に白い皿に乗せられ前菜が並べられて行く、皆こう言う席は慣れていないので緊張で体が強ばっている……と思っていたのだが違った。裕二が1人慣れた様子で、店員さんに旬魚は何だと料理の質問をしていた。
おいおい、随分手馴れてるな……。
「では、ごゆっくりお楽しみ下さい」
料理を出し終えた男性店員が一礼し、ワゴンを押して去っていった。
「さっ、話はここらへんで一旦やめて、食事にしようか」
「ああ、そうだな。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
俺達はフォークとナイフを手に持ち、食事に取り掛かった。
食事を終えた俺達は、会計を済ませ店を出る。
1人、税込1万円なので計5万円と言う、中々剛毅な昼食だった。
「ごちそうさま、お兄ちゃん。奢ってくれてありがとう!」
「ごちそうさまでした、お兄さん。奢って頂き、ありがとうございました」
「どういたしまして」
店を出ると、美佳と沙織ちゃんが頭を下げお礼を言ってきた。俺はそんな二人に笑顔を浮かべながら、気にするなと伝える。
「料理はどうだった? お腹いっぱいになった?」
「うん。色んな料理がいっぱい出てきたから、お腹いっぱいになったよ」
「はい。とても美味しい料理でしたので、思わず全部残さず食べてしまいました」
「そう。それは良かった」
ダンジョン食材を使った料理は、中々の味だった。
そして、どうやら思惑通り高級店と言う雰囲気に飲まれた二人は、食欲減退とはならなかったようだ。これなら帰宅して夕食時に食べられなかったとしても、取り敢えず明日の朝までは大丈夫だろう。
「よし。じゃぁ、駅で荷物を取り出してから帰るか?」
「うん!」
「はい!」
俺達は店を後にし、元来た道を辿って駅へと向かって歩きだした。
高級なお店での、お食事会です。
慣れていないと、高級店てだけで緊張して色々飛びますからね。
高級料理という衝撃力で、ダンジョン内での出来事を一時的に上書きして、満腹になるまで食べさせます。




