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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
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第133話 発展する城下町?

お気に入り12330超、PV 8970000超、ジャンル別日刊16位、応援ありがとうございます。


 

 




 買取りカウンターがある建物を出ると美佳と沙織ちゃんは立ち止まり、互いに硬貨を握り締めていた拳を開き、数秒硬貨を凝視した後に溜息を吐いた。 


「「はぁ……」」


 俺達の立ち位置からは表情は見えないが、2人ともどんよりとした重い雰囲気を身に纏っていた。

 

「あれだけの目にあって、500円か……」

「美佳ちゃんはまだ良いよ、私なんて100円だよ……」

「「はぁ……」」


 うーん。こうも重い雰囲気が漂っていると、声をかけるのに躊躇するな。

 まぁ、取り敢えず……。

 

「あー、その何だ? 2人とも元気だせよ。今時の新人探索者の初稼ぎなんて、大体そんな物さ。2人の稼ぎが、特別悪いって言う訳じゃないからな?」

「そうだぞ。まぁ、昔に比べて大分買取価格も安くなってるけど……」

「そうね。でも、私の初稼ぎの額は今の美佳ちゃん達とたいして変わりなかったわよ?」


 俺達は口々に慰めの声をかける。

 確かに、裕二と柊さんの初稼ぎは今の美佳達と大して変わりなかったからな。まぁ、俺は反則技を使って稼いだけどさ。


「でも雪乃さん、これじゃぁ交通費にさえならないんですよ?」

「私は……ジュースも買えませんね」

「えっと、まぁ……そうね。確かに金銭的な面で言えば、今回のダンジョン探索は赤字ね。でも、今回の初探索での最大の成果は、2人がモンスターと戦った上で怪我無くダンジョンから帰って来れたと言う事よ。無傷で初ダンジョン探索を乗り越えられる新人探索者って、まず居ないわよ?」


 確かに柊さんの言う様に、新人探索者がモンスターと戦った上で無傷で帰って来れたという事こそが最大の成果だろう。大抵の新人探索者は、自身の限界を見誤ってダンジョン深くに踏み込んで返り討ちにあい重傷を負ったり、モンスターにトドメを刺す事を躊躇し反撃を食らったりする。

 今回は偶々、行きも帰りも怪我を負った探索者とすれ違う事はなかったが、怪我を負った探索者達とすれ違っていれば美佳達の考えも変わっていたかもしれないな……初ダンジョン探索において、報酬の大小は大して重要な事ではないと言う事に。


「「……」」


 美佳と沙織ちゃんは柊さんの話を聞いた後、自分の掌の上の硬貨に視線を落とし考え込む。

 そして数秒後、二人は硬貨をのせていた手を握り締め顔を上げる。


「そう、ですね。確かに雪乃さんの言う通り、無事に戻ってこれた事が一番の成果ですよね……」

「うん。すみません、皆さん。皆さんが引率してくれたお陰で怪我もなく帰って来れたのに、お礼も言わないまま身勝手な不満ばかりを漏らしてしまって……」


 美佳と沙織ちゃんは、頭を下げながら自分達がとった行動について謝罪した。どうやら2人とも、自分を客観視する事が出来て頭が冷えた様だ。 

 俺は裕二と柊さんに視線を送った後、美佳と沙織ちゃんに話しかける。  


「別に謝って貰う様な事じゃないから、気にしないで良いよ。2人の抱いた不満は、当然の物だと思うからね。確かに命懸けで戦った成果が、それポッチだと思ったら怒りたくなるのも当然だよ」


 傍から結果を見ていれば、危なげ無くモンスターを倒してドロップアイテムを手に入れた……となるのだろうが、当事者からすれば緊張と恐怖に耐えながら必死に戦った末に手に入れたドロップアイテムなのだ。そのドロップアイテムを安価で買い叩かれたら、怒りや不満を抱くのも当然だろう。 


「でも……」

「まぁ完全に気にするなとは言わないけど、成果を求めて無茶な探索をする様にはなるなよ。成果……金に目がくらんで、引き際を誤った探索者の末路は悲惨だからな?」


 そう言う探索者は、大抵は死ぬか再起不能の重症を負うからな。美佳達には、そんな事になって欲しくない。 

 だからこそ、今の内に釘を刺しておく。


「……うん、分かった。気を付ける」

「私も気をつけます。確かに少し、成果を上げる事に気を取られすぎていましたね……」


 どうやら美佳と沙織ちゃんは、俺の言葉を適当に流さず真剣に受け取ってくれたようだ。

 でもまぁ、2人は借金持ちだから仕方ないかな。稼げる時には稼ぎたいって気持ちがあったとしても、不思議じゃないからな。

  

「そっか。じゃぁ、この話はここら辺でお仕舞いにしような?」

「うん」

「はい」


 美佳と沙織ちゃんは俺に返事をした後、ポケットから財布を取り出し手の中の硬貨を自分の財布へとしまった。財布にしまったと言う事は、不満はあれど納得したと言う事だろうな。  


「よし。じゃぁ、昼飯を食べに行くか? 二人の分は、俺が奢ってやるから遠慮せず食べろよ!」

「うん!」

「はい!」


 奢りと言う言葉を聞き、美佳と沙織ちゃんは先程まで纏っていた重い雰囲気を消し飛ばし、歓喜の声を上げた。  

 さっきまであんなに落ち込んでいたのに、全く現金だな……。


「裕二、柊さん。ここに残って、何かやる事ってあるかな? 無いのなら、下の街に昼飯を食べに行こうと思うんだけど……」

「俺は特に用事はないぞ」

「私も、忘れ物とか無いと思うわ」

「じゃぁ、行こうか」

「ああ」

「ええ」


 全員の了承が得られたので、俺達はバスターミナルへ歩みを進めた。

 ふう……。これで漸く、本当に美佳と沙織ちゃんの初ダンジョン探索は終わったよ。1時間も潜ってないのに、新人引率って精神的に疲れるよな。 


 

 

 

 

 

 

 ダンジョン発、最寄駅行きのバスを降りた俺達は、駅のロータリーに設置してある街地図を眺めていた。ダンジョンで地元飲食店のパンフは貰ったが、基本的に駅しか利用した事が無い街だ。全く土地勘が無く、最初の一歩さえ左右のどちらに行けばいいのか覚束無い。

 俺達は地図看板とパンフの地図を照らし合わせながら、店までの行き道を検討していた。


「あっちにこの病院と銀行があるから、多分右に行けば良いんじゃないか?」

「そうだな。柊さん、店はネット検索出来た?」

「ええ、出来たわよ。九重君が言っている道で、正解の様よ」

「そう。じゃぁ行こうか」


 俺達は防具や備品が入った荷物を駅の貸しロッカーに収納し、自分の得物が入った収納袋だけを持って飲食店を目指し歩き出した。本当は得物も貸ロッカーに預けたかったのだが、駅員さんに銃砲刀剣類は預ける事が出来ないと注意され、渋々携帯する事になったのだ。

 まぁ、防具類を持って歩かなくなっただけ、身軽で良いんだけどな。


「それにしても、この辺りも随分開発されたな……」

「そうだな。ダンジョンが公開されて……9ヶ月か? 1年も経たずに、良くコレだけ建物が増えたよな」

 

 沿線沿いに歩きながら俺と裕二は、初めて見た頃とかなり様変わりした街並みを眺めながら感心していた。沿線沿いにはウィークリーマンションやワンルームマンションが多数建ち並び、住民をターゲットにしたのであろう有名飲食チェーン店等も多数建ち並んでいる。皆、商魂逞しいな。 

 そんな風に俺と裕二が街並みを評価しながら歩いていると、美佳が不思議そうな顔で尋ねて来た。


「ねぇ、お兄ちゃん。そんなに、この辺りって街並みが変わったの?」

「ああ。街並みって言うか、この辺りって元は単なる田園地帯だったんだよ。俺達が初めてここのダンジョンに来た時は辺り一面田んぼばかりで、道沿いの田んぼが幾つか埋め立てられて基礎工事をされている、って段階だったんだ。なっ?裕二」

「ああ、そうだったな。駅近くのコンビニは俺達が来た時にはもうあったけど、あの辺のファミレスなんかは建設途中だったな」

「へぇー、そうなんだ」

  

 地元からしたら、ダンジョンの経済波及効果様々と言った所だろうな。

 出現した当初は、街の近くに特級の危険物が出現したと住民の流出等で大騒ぎになったのだろうが、事態がある程度収束すれば、これ程初期投資がかからず恒常的に集客率が良い施設もないだろう。その上、ダンジョンでそれなりに稼げる探索者は、現状でも多数居る。経済力がある人口が増え、それをターゲットに進出する企業も増えるのだ。ダンジョンを有する地元都市への経済波及効果は、莫大な物なんだろうな。

 その証拠に、道路やガードレール等が新しくなっている。街の税収自体が上がって、インフラ整備の改修予算が潤沢に組まれたと言う証拠だろう。


「まぁダンジョンが今の状況で推移する限り、これからこの街は発展するだろうな」

「ああ、そうだろうな」 

「そうね。今のまま推移すれば、ね」


 俺と裕二、そして柊さんは言葉を濁しながら、これからも街は発展するだろうと言った。

 何故言葉を濁したかと言うと、ダンジョンが何故出現したのか分からないので、何時ダンジョンが無くなるかも分からないと言う事だからだ。何事でもそうだが、未来視でも出来なければ先は分からない。

 現状、この街の発展はダンジョンの存在があってこそだ。そんな状況でダンジョンが無くなれば、人口増や企業の進出もなくなるだろう。

 その上、人口増や企業進出を見込んで都市開発や予算編成を進めていれば、需要に対して諸施設の供給が過多になったり予算不足と言う事で、利用者減で赤字施設の出現や予算不足で都市インフラ等が改修が出来ないと言う事態になる可能性がある。そして人間、一度生活水準を上げてしまえば中々生活水準を落とす事は出来ない。衰退する街の状況を見れば探索者は勿論の事、地元住民さえ大都市などの街外へ移住するかもしれない。特に田畑を潰して都市化を進めている以上、農業などの土地に根ざし生活していた層も、ダンジョン出現前に比べかなり減っているはずだ。

 そうなれば街の衰退どころか、街の限界集落化や消滅と言う事態にもなりかねない。 

 

「ふーん、そうなんだ」


 俺達が言外に込めた意図を理解しているのか理解していないのか分からないが、美佳は微妙に興味なさげな返事を返してくる。まぁ、別に良いんだけどな。

 そして美佳との話が終わるタイミングを見計らい、今度は沙織ちゃんが問いかけてきた。 


「あの、お兄さん。ここら辺に建っている新しいアパートやマンションって、全部探索者向けなんですか?」

「ん? まぁ、そうじゃないかな。一部はダンジョン関連の仕事でこの街に来た、普通の入居者用の物もあるんだろうけど、大半は探索者向けの施設だろうね。……ほら沙織ちゃん、この間取りが書かれた案内看板を見てみてよ」


 俺は近くのワンルームマンションの前に建てられた、賃貸情報が乗った案内看板を指差す。


「うわっ。この部屋、1ルームなのに家賃が8万円もするんだ……」


 看板に書かれた家賃の額を見た美佳が、表情を曇らせながら嫌そうな声を上げる。その隣で、沙織ちゃんも美佳と同じ様な表情を浮かべていた。


「まぁ、時価だな時価。需要があれば、多少高い値段設定でも借りる奴はいるからな。でも、こんな山奥の街の1ルームが8万円か……」

 

 需要があるからの価格設定なのだろうとは言え、正直ボッタくりじゃないか?と思ってしまう。

 しかし、今回の話では家賃は関係ない。


「それよりほら、間取り図のここ。一般的な家具や家電が備え付け済みって書かれている他に、鍵付きメタルロッカーが常設って書かれているだろ? 普通の賃貸物件に、鍵付きメタルロッカーなんて付いてないよ」

「……本当ですね。しかもこのロッカー、クローゼットの半分を占めてますよ」


 本当、随分大容量のメタルロッカーである。一体何を収納させる気で、こんな大型ロッカーを取り付けたのやら……。 

 俺達はその後、沿線沿いの探索者向け住宅街を眺めながら暫く歩き飲食店街へと移動した。  

 

 

 

 

 

 

 お昼時のピークは過ぎているが、飲食店街はそこそこの人が歩いており活気があった。俺達はパンフレットの地図とスマホの地図を頼りに、目的のお店を探す。

 そして最初にお店を見つけたのは、スマホの地図を見ていた柊さんだった。


「ねぇ、あそこじゃないかしら?」

「えっ、どこ柊さん?」

「ほら、あそこ。路地裏に進む様に矢印がついた、お店の看板が出ているわ」

「えっと……あっ、本当だ」


 柊さんが指さした先を目で追うと、目的の店の看板を見つけた。

 そして、俺達が看板の矢印に従って少し路地裏に入って歩くと……。


「あった。このお店だ」


 俺達の眼前に、古民家を改装したと思わしきレストランが姿を現した。お店の周りは季節の花々で綺麗にガーデニングされており、明るい第一印象を与えてくれる。

 そして店の入口ではためく、緑、白、赤、3色の国旗。つまり、この店は……。


「今日の昼は、イタリア料理か……」


 俺は店の外まで漂ってくるピザが焼ける香ばしい香りを嗅ぎながら、小さく期待の篭った声を漏らした。

 うん。今日は大して動いてないけど、腹が減ったな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン特需で、地元が潤っています。

便乗商売って、どんな物やイベントでも出てきますからね。

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