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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第8章 ダンジョンデビューと体育祭に向けて
141/618

第126話 準備完了

お気に入り11930超、PV8320000 超、ジャンル別日刊7位、応援ありがとうございます。


総合評価が、30000ptを越えました!

応援ありがとうございます!


 

 


 裕二が扉の入口にある読み取り機に、受付で貰ったプレートをかざしロックを外し扉を開けた。消灯されている部屋の中は薄暗く、広い空間と言う程度にしか判断出来ない。

 

「電灯のスイッチはっと……あったあった」


 裕二は部屋の中に入り、扉脇を手探りで調べ見付けた電灯のスイッチを入れる。天井の電灯に明かりが灯り、部屋の全貌が見えてきた。

 床はフローリングの板張りで、教室程の広さの何も無い空間だ。


「へぇー、こんな内装なんだ」

「何も無いですね……」

「まぁ、準備運動や自主練をする場所だからね。余計な物があると、邪魔になるだけだよ。さっ、準備運動を始めようか?」

「うん」

「はい」


 俺達は部屋の隅に武器やバックパックを置き、部屋の中央で円型に並んで準備運動を始める。

 MPプレイヤーから音楽を流し、俺達は先ずラジオ体操から始めた。因みに、全員プロテクターは着けたままだ。


「1,2,3,4……2,2,3,4。どうだ、調子は? プロテクターを着けていると、思ったより動かしにくいだろ?」

「う、うん。何か動かしていると、時々筋肉が締め付けられる様な感じがするね」

「プロテクターを固定するのに、マジックテープで所々締め付けられているからな。慣れない内は、違和感もあるんだろさ。……他には何か無いか?」


 プロテクター付き体操の感想を聞きながら、俺は正面でラジオ体操をする美佳と沙織ちゃんに他に感想は無いかと問いかける。


「そうですね……意外にプロテクター同士の干渉はありませんね」

「沙織ちゃん達が着けているプロテクターは、軽量薄型の密着型だからね。元々プロテクター同士が干渉しにくい様に、予め設計されているって聞いたよ」

「そうなんですか?」

「ああ。今回は新古品を格安で手に入れられたけど、正規の値段で買おうと思ったら6桁円はする代物だよ。運が良かったね」


 本当、運が良かったとしか言えない。俺達の他に入札者はおらず、ほぼ新品の品を1万円程で落札出来たのだから。

 因みに俺達が身に着けている防具は安物の為、美佳達の着けている物より大分重くて分厚い。関節部分の干渉もそこそこあり、満足行く可動範囲を確保する為に自分達でプロテクターを削って加工した程だ。


「6桁……10万円以上するんですか?」


 沙織ちゃんは自分が着けているプロテクターの元値を知り、目を見開き驚いていた。まぁそれは、美佳も同様で、沙織ちゃんの横で同じ様に目を開いて驚いている。

 そう言えば美佳も定価は知らず、オークションの落札価格しか知らなかったっけ……。 


「裕二……これの定価は幾らだったっけ?」

「そうだな……正確な値段は覚えてないけど、俺達が前に公式ショップを物色した時に見た値段は2~30万ぐらいじゃなかったか?」

「そうね。確か、そのくらいだったはずよ」

「2~30万……」


 裕二と柊さんの話を聞き、美佳と沙織ちゃんは自分の身に着けているプロテクターを唖然とした眼差しで眺めていた。

 まぁ、元値が落札価格の数十倍と聞けば驚くか。


「まぁ値段は良いとして、他に違和感なんかを感じる事はあるかな?」

「今の所、他に違和感はないかな? ねっ、沙織ちゃん?」

「う、うん」


 どうやら、特に問題は無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 


 その後、俺達が10分程かけ念入りに動作確認と準備運動をしていると、突然部屋の外から扉がノックされた。


「はーい!どちら様ですか!?」

「受付の者です。ご注文の品をお届けに参りました。入室しても宜しいでしょうか?」


 俺は扉に近づきながら、返事を返す。


「はーい、ご苦労様です。どうぞ、入って下さい」

「失礼します」


 部屋の扉が開き、箱の乗った台車を押した制服を着た女性職員が部屋の中に入ってきた。


「ダミー標的をお持ちしました」

「ありがとうございます」

「ご注文の品は小中大が其々2個ずつ、計6個でお間違いありませんか?」

「はい。間違いありません」

「では、こちらをどうぞ」


 そう言われ、俺は女性職員からダミー標的の箱を台車から受け取った。


「では、失礼いたします」

「ありがとうございました」


 女性職員は軽く一礼した後、台車を押しながら部屋を去っていく。俺は受け取った箱を部屋の隅、手荷物を置いている場所の近くに置いた。 

 

「さてと……荷物も届いた事だし、準備運動はこの辺にして武器を使った練習をしようか?」

「うん!」

「はい!」


 準備運動を終わろうと言う俺の声に反応し、美佳達は元気良く返事を返してきた。


「じゃぁ、装備品を全て身に着けよう。ダンジョンの中でするのと同じ格好じゃないと、確認する意味がないからね」


 俺達は部屋の隅に置いておいた荷物を全て身に着けていく。頭にライト付きのヘルメット、背中にバックパック、腰に小物入れのポーチと懐刀。そして、手に各々のメイン武器を。


「準備出来たみたいだね。じゃぁまずは……素振りから始めようか?」

「うん」

「はい」

「裕二、柊さん。二人の素振りで変な所があったら、指摘してあげて」

「おう、良いぞ」

「私も良いわよ」

「じゃぁ二人とも、槍が振るえる程度に広がって」

 

 美佳と沙織ちゃんは俺の指示に従い、槍の間合いが重ならない様に距離を取って広がる。因みに、裕二と柊さんはそれぞれの正面の壁際に陣取り素振りを観察する準備を整え、俺は美佳と沙織ちゃんの後ろの壁際に下がり観察する準備を整えていた。


「じゃぁ、二人とも始めて」

「「はい」」


 俺の合図と共に、美佳と沙織ちゃんは型の素振りを始めた。

 二人の素振りは柄の中程を持った突きから始まり、払い、切り。柄の持つ部分を変える間合いの切り替えや、石突きを使った足払いなど様々な型をこなして行く。流石に室内なので、投槍はしなかったけどな。 

 そして一通り二人の型が終わった後、裕二と柊さん、俺の指摘が始まる。


「美佳ちゃん。柄を長く持った突きの時、穂先がブレてるよ? 真っ直ぐ突き出さないと、場合によっては弾かれるから気を付けないと」

「沙織ちゃんの指摘点は、切りの動作の時ね。穂先の刃筋が立っていないわ。まだその槍を使い慣れていないせいでしょうけど、あれだと対象を切り損なうわよ?」


 二人の指摘に、美佳と沙織ちゃんは落ち込む。

 まぁ二人が指摘した点は、武器に対する熟練度からくる問題なのでこれからの練習次第で解決は可能だろう。


「俺が指摘するのは、二人の足運びかな? 二人とも、ブーツを履いて型をやったのは初めてだよね? バックパックの重さもあって、重心がぶれて上手くステップを踏めていなかった所があったよ」


 普段二人とも、重蔵さんと稽古をする時は稽古着で素足だからな。背中に重量物を背負い、脛の半ばまで紐で固定するブーツと素足だと、勝手も違うだろうから仕方ないのかもしれない。 

 

「で、2人とも。実際に装備品を全部身に着けて、武器を振り回してみた感想は?」


 俺は俺達の指摘で落ち込む2人に、感想を求めた。

 そしてまず、美佳が口を開く。


「お兄ちゃん達が指摘した所は、私も気が付いていた所だよ。確かに槍を長く持った時は、重さに引っ張られて穂先がブレたって自覚してたし」

「私も切りの動作の時、穂先の刃の角度が分からなくなりました」


 どうやら二人共、裕二と柊さんに指摘された点は自覚していた様だ。


「それとお兄ちゃんが指摘した重心と足運びも、分かっては居たんだけど体を回転させると荷物の重さに引っ張られて……」

「只突いたり切ったりする型なら、まだ問題はないんですけど……」

「うーん」


 コレも慣れるしかないかな? 

 荷物の重さに引っ張られて体が流れるのは仕方ないので、流れる事を前提にした動きを覚えるしかない。

 俺達はその後暫く二人に型の素振りを繰り返させ、装備品を着けて動きまわる事になれさせた。 

 

 

 

 

 

 

 

 不慣れからくる問題点の洗い出しも粗方出来たので、今度は少し実践的な練習を二人にさせる事にした。

先ほど女性職員の人が届けてくれた物を使う為、部屋の隅に置いておいた箱を持ってくる。


「じゃぁ、二人とも。今度は少し実践的な練習をしようか」

「実践的?」

「これを使うんだよ」


 そう言って、俺は箱の中からダミー標的を取り出す。無地の白い布で作られた、簡素な動物の形をしただけのヌイグルミだ。綿が入っておりモコモコとしているが、縫製も甘く手抜き感が半端無い。


「これの大きさは、ダンジョンに出現する小型モンスターと同じ位かな?」


 大体、ホーンラビットとかの大きさに近いかな?

 

「それを使って何の練習をするの?」

「勿論。美佳達の持っている武器を使って、これを壊すんだよ」

「それを、ですか?」

「ああ」


 疑問符を浮かべる二人を横に、俺は手に持っているヌイグルミを少し離れた場所にいる裕二に一声かけた後に投げた。大体、小学生が投げるドッジボールくらいの速さだろうか?


「ホーンラビットの突撃の速さって、これ位か?」

「もう少し速くなかったか? ほら、この位」


 そう言って、裕二は俺が投げた速さより速く投げ返してきた。


「ああ、確かにこのくらいだったな」

「そうだろ」


 確認を終え顔を美佳達の方に戻すと、俺達のやり取りを聞いていた二人は驚いた表情を浮かべていた。


「今見て貰った様に、それなりの速度でモンスターは襲って来る。これから俺達がこれを投げて、簡単な対処法を教えるから。しっかり覚えて」

「う、うん!」

「はい!」

「じゃぁ、まずは美佳からやろうか。槍を持って部屋の中央に移動して。それと、危ないから沙織ちゃんもこっちに」

 

 美佳は部屋の中央に移動して槍を構え、俺達は美佳の正面の壁側に移動し準備は完了。


「これから美佳に向かってコレを投げるから、その槍で突き刺して」

「えっ! 突き刺すの!?」

「そっ。切りでも払いでも無く、突き。他はダメだからな。よし、良いか? 行くぞ……」

「ちょっ、お兄ちゃん! 無、無理だよ! あんな速さで飛んでくるのを、突きだけでなんて……!?」

「ほら行くぞ。3,2……」


 俺は美佳の抗議に耳を貸さず、問答無用でカウントダウンを始める。

 そんな俺の姿を見て、美佳も覚悟を決めたのか、腰を軽く落とし、槍を握る手に力を入れ、俺が持つヌイグルミが、何時投げられても良い様に、注目した。

 そして……。


「1,0!」


 カウント0と共に、俺は手に持っていたヌイグルミを美佳目掛けて投げる。ヌイグルミは真っ直ぐに、美佳の胸元目掛けて空を飛ぶ。

 そして……。


「……やっ!」


 美佳の気迫の篭った吐息と共に、柄を短く持った槍がヌイグルミ目掛けて繰り出される。槍は真っ直ぐヌイグルミ目掛けて進み、真正面からヌイグルミを貫いた。

 そう、貫き貫通していたのだ。


「やった!」

「美佳ちゃん、凄い!」


 ヌイグルミを貫いた事で美佳は喜びの声を上げ、沙織ちゃんも賞賛の声をかける。

 が、俺は溜息を吐きながら美佳に語りかける。


「美佳……」

「見てよ、お兄ちゃん! 一発で成功したよ!」

「ああ、見事に貫通しているな」

「でしょ!」

「で、貫通した後はどうするんだ?」

「……えっ?」


 そこで美佳は漸く、俺達3人が渋い表情を浮かべている事に気が付いた。それは美佳と一緒に喜んでいた沙織ちゃんも同様だ。


「貫通したと言う事は、槍にモンスターの死体が突き刺さったままになると言う事だ。相手が1体ならそれでも問題無いだろうけど、複数体を相手にした時には武器が封じられるって言う事態に陥るんだぞ」


 実際に以前、柊さんがそんな事態に陥って大慌てした事を覚えている。まぁその時は、モンスターを槍に付けたまま振り回し鈍器扱いでその場を凌いでいたけどさ。

 美佳達の腕力では、そんな無茶は出来ないから参考にならないけど。


「それじゃ、どうすれば良かったの? お兄ちゃんは突きしかダメだって言ったよね?」

「ああ。言ったな」

「じゃぁ……」


 答えに窮した美佳が、不安気な表情を浮かべながら俺に答えを聞いてくる。 

 だが。


「まぁ、待てよ美佳。答えを教えるのは簡単だけど、その前にまず沙織ちゃんにも同じ練習をして貰うから。沙織ちゃんの練習を見た後に、答えを教えるよ」

「えっ!? 私、ですか?」

「うん。こう言う事は、まず自分で考えることが重要だからね。さっきの美佳の練習を見て、自分なりの対処法を考えてよ」

「……はい。分かりました」

「じゃ、美佳と交代しようか」


 俺の言葉に頷き、沙織ちゃんは自分の槍を持ち美佳と場所を交代する。その間、俺は新しいヌイグルミを箱から取り出す。

 すると、意気消沈した美佳が俺の横に立ち、ヌイグルミの残骸を俺に渡してくる。


「美佳も沙織ちゃんの練習を見ながら、どうすれば良かったのかを考えるんだぞ?」

「……うん」

「まぁ、そんなに難しく考えなくても少し考えればわかる答えだからな。それと、良く飛んでくるヌイグルミを空中で突けたな、凄かったぞ」

「……うん!」


 俺の褒め言葉に、沈んだ表情だった美佳は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 落ち込ませてばかりだとまずいしな、アフターケアは大事だ。


「良し。じゃ、始めようか。沙織ちゃん、準備は良い?」

「はい! 大丈夫です!」

「行くよ。3,2,1,0」


 俺はカウント0と共に、美佳と同じ様にヌイグルミを沙織ちゃんの胸元目掛けて投げる。沙織ちゃんは槍を構えたまま、飛んでくるヌイグルミを目で追いながら微動だにしない。

 そして……。


「っ!」


 飛んでくるヌイグルミを躱した。躱されたヌイグルミは沙織ちゃんを通り越し、背後の壁に当たり床に落ちる。

 そこを……。

 

「えぃ!」


 ヌイグルミを躱すと同時に駆け寄って、沙織ちゃんは床に落ちたヌイグルミ目掛けて槍を突き出し突き刺していた。 

 穂先はヌイグルミの胴体の中心を貫いており、一目で致命傷を与えられているだろうと分かる。


「どうです、お兄さん? これで正解ですか?」

「うん、正解かな」

「えっ、アレで良いの?」

「そっ。美佳がした様に、自分に向かって空中を飛んでくるモンスターを貫くなんて言う難易度の高い事はしなくても良いんだよ。まぁ、空中で軌道を変えられる様なモンスターだと話は変わるけどさ。モンスター相手の戦闘では、出来るだけリスクの少ない方法で倒す事を心がける様にしないと」

「そっか……」

 

 俺の説明に、美佳は納得した様に小さく呟く。 


「じゃぁ残りのヌイグルミを使って、他にも覚えておいた方が良いモンスターの対処法を教えるから。二人とも、確り覚えるんだよ」

「「はい!」」


 こうして俺達は部屋の貸切時間いっぱいまで、美佳と沙織ちゃんに俺達が得た対モンスター戦闘の教訓を教えた。全て伝えられた訳ではないが、これから行くチュートリアル階層に出現するモンスター相手になら、それなりの対応は出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロテクターを付けての動作確認と、ぬいぐるみを使ったモンスターへの簡易対処法講習を終え、ダンジョン探索の準備完了です。

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[一言] 今読んでる最中に経験談を語った過去話思い出してしまって読んでる最中に ※ただし新人女子2人はオムツ着用である ってフレーズが再生されました
[気になる点] 第7章 ダンジョンデビューに向けて 第123話 届いた荷物 のところで妹ちゃん達のプロテクターは3割引で購入出来たと記述あるのですが、本文中に6桁する商品を1万円程で買えたとなっていま…
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