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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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幕間 拾伍話 ダンジョン科開設検討委員会


 お気に入り11640超、PV7990000超、ジャンル別日刊25位、応援ありがとうございます。



 昨日の活動報告でお知らせしていた件なのですが、この度本作が「レッドライジングブックス様より7月に書籍化」される事になりました!!

 これも全て、これまで本作を応援して下さった皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

 これまで以上に頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします!







 

 文部科学省が入居している合同庁舎のとある会議室で、ある検討委員会が開かれようとしていた。出席メンバーは十数人、誰もが厳しい顔付きで会議が始まるのを待っている。

 そして、時計の針が会議の開始予定時刻を指すと、コの字型に設置されたテーブルの中央左席に座るメガネをかけた男性が口を開く。


「ではこれより、第3回ダンジョン学科開設に関する検討委員会を始めたいと思います。皆様、お忙しい中お集り頂きありがとうございます」


 司会進行役の挨拶の声が部屋に響き、出席者達の緊張が増した。


「では早速、議題に入りたいと思います。まずは一つ目。高等学校在学生による、探索者資格取得の是非についてです。どなたか、ご意見はありませんか?」

「……はい」 

 

 司会に促され、右テーブルの端に座る若い男性が手を挙げる。


「どうぞ」 

「では先ず私から。以前も申した通り、私と致しましては在校生による探索者資格取得は禁止した方が良いと考えます」


 男の意見に右テーブルに座る者達は大きく首を縦に振って同意し、左テーブルに座る者達は眉を顰める。


「去年の私立公立合わせた高等学校における留年者数は、一昨年に比べ3倍に増加していました。留年者の留年理由を調べた所、出席日数の不足、学業不振、怪我による長期入院等です。そして、留年者達の探索者資格取得比率は凡そ6割。増加した留年者の殆どが、ダンジョン探索を原因として留年に至ったと思われます」


 男の話を聞き、全員苦々し気な表情を浮かべた。留年者の急激な増加は、色々と問題になっているからだ。

 そして、右テーブルに座る中年の男が手を上げ発言する。


「私からも良いでしょうか?」

「……どうぞ」

「ありがとうございます。先程の留年生に関する件に関連した話なのですが、教育現場の方から留年生の起こす問題について色々と報告が上がってきています。お手元の資料3をご覧下さい」


 男の指示に従い、会議室に綴じられた資料を開く音が響く。


「留年生による下級生……特に新入生に対する、様々な問題行動が起きています」

「脅迫、暴行、金品強奪……ですか」

「はい。留年生の多くは探索者資格保有者……つまり常人以上の力を持っています。全ての者がそうとは限りませんが、留年による不満をその力を使って晴らそうとしているのでしょうが……」

「向けられた方は、たまったものではありませんね」

「はい」


 被害者の事を思い、出席者達は鎮痛気な表情を浮かべる。


「そして残念ながら、ここに挙げられている物は全て発覚した問題……警察が動き表に出た問題だけです」

「つまり、表立っていない問題がまだあると?」

「はい。現場から挙げられている報告を見る限り、氷山の一角かと」

「「「……」」」


 会議室に沈黙が広がる。配られている資料の厚さからして、かなりの問題が発生しているのだろうに、これで氷山の一角とは……と思い。

 

「……もう一つ良いでしょうか?」

「……どうぞ」


 これ以上、他にも何かあるのかと言った様子で、司会進行役の男は手を挙げた右テーブルに座る若い男を指名する。


「警察から送られて来た資料によると、少年グループによる犯罪も増加傾向にあります」

「……そうですか」

「犯行内容もダンジョン開放以前に比べ過激化、凶悪化しているそうです。先日発生した、少年グループによる刀剣窃盗事件はご存知でしょうか?」


 男が会議出席者の顔を見ると、大半の出席者は顔を縦に振って頷く。 


「刀剣販売店から多数の刀剣類が盗まれた事件なのですが、犯行を犯した少年達は全員、高校在学中の探索者資格保有者でした」

「盗んだ刀剣を使ってダンジョン探索へ……と言う事ですか?」

「はい。捕まった少年達が自供した犯行理由を信じるならば、ダンジョンで使う武器を確保したかったそうです。ダンジョン探索が上手く行かず、活動資金も底を突き、代理人から武器を買うお金を用意出来なかったから、店に盗みに入ったとの事です」

「……何と、まぁ」


 溜息が会議室に溢れる。

 出席者の内心は一致していた、そんな事で人生を棒に振りかねない馬鹿な事件を起こすとは……と。 


「高校生という心身共に未発達な時期の者にとって、探索者の力と言う物は毒なのかもしれませんね……」

「そうですな。大人でさえ力に酔って見失う者もいるのですから、高校生ともなれば……」

「時期尚早……なのでしょうな」


 これまでの報告を聞いていた事で、会議出席者の心情は高校生による探索者資格取得を禁止した方が良いのではと言う方向に傾き始める。

 しかし、その流れに待ったをかける者が声を上げる。


「待って下さい。一部の者が犯した過ちを取り沙汰して、全体を禁止するのは間違っています」

「しかし……」

「大多数の探索者資格保有者は、真面目に勉学とダンジョン探索を両立しています。現状問題になっているのは、馬鹿な真似を行う一部の者達です」

「ではどうしろと? 誰が犯罪を犯すのかなど、分からないのですよ?」

「それは……」


 問われた若い男は返答に困り、言葉に詰まる。男は助けを求める様に、左テーブルに座る者達に視線を送った。

 そして、左テーブルの一番上座に座る初老の男性が口を開く。

 

「……はぁ。どうするのかと聞かれたら、過ちを起こさない様に教育を施すしかありませんね」

「教育、ですか……」

「ええ。力を持つ意味、力を振るう事によって生じる責任等を教育するのですよ。そうすれば、自分の持った力を考え無しに振るうような事も少なくなるでしょう」

「そうでしょうか……」

「得た力に対し、何ら教育も受けていない子供達が得た力を持て余し振り回す現状よりは、マシになると思いますよ。法律上、16歳以上であれば資格自体は取得可能なのです。例え高等学校において資格取得を全面禁止したとしても、裏で資格を取得するものは出てくるでしょうし、探索者として生計を立てられているのなら自主退学と言う道を選択するものも出て来る筈。問題が起きるから全面的に禁止し、問題を起こした者を放逐するのでは、些か無責任すぎますよ。現状を例えるのなら、お金の使い方を知らない子供に大金を持たせるようなものですからね。子供達が身持ちを崩さない様に、使い方を教えるのも我々の仕事の筈です」


 初老の男性の言葉で、高校生の探索者資格取得を全面禁止にすべきと言う流れは一時止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 出席者全員が揃って口を閉じたので、司会進行役の男は咳払いを入れ次の議題へ話を進める。


「……ええと、では次の議題に進みたいと思いますが、宜しいでしょうか?」 


 男の問いに、出席者は厳しい顔つきのまま全員が頷く。


「では、2つ目の議題に移りたいと思います。お手元の資料、5を開いて下さい。2つ目の議題は、全国高等学校体育連盟をはじめとした複数のスポーツ団体から挙げられた問題、インターハイなどスポーツ大会に関する物です」


 会議室に、資料を開く音が響く。


「お手元の資料は、今年の5月に全国の高等学校で実施されたスポーツテストの結果を纏めた物です」

「……探索者と非探索者の運動能力の差が、凄いですね」


 資料に目を通した出席者達は、一様に小さく驚嘆の声を上げる。資料を斜め読みしただけでも、探索者と非探索者の計測値の差が顕著に現れているからだ。

 

「はい。新入生である1年生の数値は前年と大した差はありませんが、2年生以上の者達……特に探索者資格を持つ者達の身体能力は驚異的と言っても良いでしょう」

「ここまで顕著な差があるのでは高体連や他の団体も、探索者資格保有者の大会参加を自粛させる訳ですな」

「はい。ここまでの差があっては、探索者と非探索者を同じ大会で競わせる意味はありません。市販車とF1を、同じレースで競わせる様な物ですからね」

 

 司会進行役の男の例えに納得したのか、出席者からは唸り声しか出てこない。

 

「ですがこの措置に対し、探索者資格を保有する生徒及び保護者の不満が募っていると、教育現場から報告が上がってきています」

「まぁ、当然でしょうな。幼い頃からその競技を家族ぐるみで行ってきた子供やその保護者であれば、探索者資格を持つという一点で全ての大会に参加出来ないと言う事になれば、不満の一つも出てくると言うものですな」

「はい。ですがこの流れの影響は、それらだけに留まりません。去年のドラフト会議後の出来事を覚えていらっしゃいますか?」

「……ああ、覚えているよ」


 司会進行役の男の問いに、質問された男は苦々し気な表情を浮かべる。


「ドラフト会議で1位指名された選手が、在学期間中に探索者資格を保有した為、指名が取り消され契約解除された出来事の事だね? 当時、ニュースで騒がれたから覚えているよ」

「はい。その出来事です。他にもニュースなどで取り上げられていませんが、似た様な出来事が各スポーツ業界で起きています」

「……本当かね?」

「残念ながら」


 プロスポーツの世界でも、探索者資格を保有する選手の扱いについては体制側の対応が追いついておらず不透明化していた。現在の所、各団体では資格保有者に公式試合での出場停止が言い渡されており、多数の選手が協議の結果待ちと言う状態だ。

 そしてその煽りを受ける形で、ドラフト指名やスカウトされ契約を結んだのに、探索者資格を有すると言う事でプロ契約が解除される、と言う事態が少なくない数起きていた。


「現在、各団体が把握している登録選手の中で、高校生で探索者資格を有する者は全体の4割を超えているそうです」

「……そんなに」

「はい。特に、将来を有望視されたのに成績が伸びず燻っている様な若手選手や、弱小と呼ばれていた学校にその傾向が多いそうです。そしてそれら探索者資格を保有する選手らに触発され、指定強化選手の中にも探索者資格を保有しようとする者が出ており、現在各団体はその対応に追われているそうです」

「むっ……」


 出席者は一様に、頭を抱える。資料の数値を見れば明らかに、探索者になる事で得られる力は大きい。

 しかし、現在の各スポーツ界の状況では、探索者資格保有選手に活躍の場は与えられない。青春を全てスポーツにかけてきた様な選手への悪影響は、計り知れないだろうと。


「現在各団体では、探索者資格保有選手と非探索者資格保有選手を分けて、別の大会を開催すべきではとの協議が行われていますが……」

「予算の都合……かね?」

「はい。他にも使用会場のスケジュール調整など、直ぐに対応する事は難しいそうです。長い物になれば、会場を半月近く専有しますからね。同じ規模の大会を2回となると……」

「すぐに対応する事は難しいと言う事か……」 

「はい」


 時間が必要か……その言葉が出席者達の脳裏によぎった。


 

 




 

 

 

 

 その後、会議では様々な議題が検討された。探索者資格保有者達の学力が低迷傾向にある事や、探索者資格保有者の出席率の悪化など。

 そして多くの議題で、現時点での解決は困難との結論が出される。


「やはり、これらの問題を解決するには、専門の学校を開校するしかないのでは? 現状の普通校に、ダンジョン学科を開設したのでは、探索者と非探索者の扱いで現場の対応も追いつかなくなる可能性が出てくるのではないかと……」

「確かに現在の状況を鑑みると、普通校にダンジョン学科を開設しても問題の解決にはなりませんな。しかし専門の学校となると、それは国立の高等専門学校と言う形でと言う事ですかな?」

「ええ。ですがこの際、もう少し大きな枠組みで考えても良いのではとも思っています」

「大きな枠組み……つまり、国立大学附属校と言う形でですか?」


 左テーブルに座る初老の男性の提案に、右テーブルの正面に座る初老の男性が興味を示す。


「ええ。現在我が国では、ダンジョン由来の技術を研究する機関は国立研究所や大学の研究室、そして企業と各地に点在しています。これらを集約し、ダンジョン研究を主体とする学園都市を形成するのも一手かと。幸か不幸か、現在我が省は研究調査用に数個のダンジョンを専有しています。中には、初期のダンジョン騒動で住民が避難し過疎化している地区に存在する物もある事ですし……」

「確かに、学園都市を形成すると言うのも一案ですな」

「ダンジョン研究を大学や招致企業が担い、保有するダンジョンを使い高等専門学校で探索者達の育成……」

「そして、街の治安維持をDPやダンジョン経験者を集めた警察が担うと?」

「ええ。現在各校で起きている問題点の多くは、探索者としての力を手に入れた事で非探索者と違い自分は特別だと言う優越感や錯覚、探索者になってプロ入り等の目標を失った喪失感や無力感からでしょう。ですが、街にDPと言う明確な上位者が居る環境、同じ探索者同士で競いあえる場所を提供すれば問題も減るかもしれません」


 右テーブルに座る初老の男性は、そう言って出席者の顔を見渡し言葉を締める。

 そして一呼吸間を開け、左テーブルに座る初老の男性が口を開いた。


「確かに貴方の言う様に、そうなれば理想的でしょう。現在発生している各校が抱える問題点も、粗方解決出来るかもしれません。ですが……そう上手く行きますか?」

「上手くいく……とは断言出来ませんね。ですが現状、何も手を打たない事こそが最も愚策かと。何事もやってみなければ、分からないでしょう? 今回の様な前例の無い事柄では特に……」

「……まぁ、そうですな」


 対派のリーダー同士の見解が一致した事で、会議の流れは決定した。

 司会進行役の男はその場の空気を読み、会議を締めにかかる。  


「では、他に何か意見はありませんか?」


 司会進行役の男の問いに、出席者達は沈黙で持って返事を返す。


「……無い様ですね。では、これにて本会議を終了したいと思います。皆様、長い時間ご苦労様でした」


 司会進行役の男のその挨拶を以て、第3回ダンジョン学科開設に関する検討委員会の会議は終了した。

 そしてこの後、検討会議の結果は文科大臣の手によって閣議に挙げられ、幾つかの修正点が加えられた後に承認される。

 その結果、ダンジョン学科開設に関する検討委員会はダンジョン学園都市開設準備委員会と名を変え、人員を増員し学園都市開設に向け奔走を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第7章、最後の閑話です。

 現場からあがる悲鳴の様な報告の山と、確りとしたデータ(スポーツテストの結果)が出たので、ついに政府も重い腰を上げ対策に乗り出しました。

 因みに学園都市開発計画には、探索者の力を用いた新工法やダンジョン由来の新技術の大規模実証試験という側面もあります。何事もやってみないと分からない事ってありますからね。


 次回からは、第8章に入りたいと思います!

 「書籍化」についての詳細は、活動報告の方に上げたいと思います。



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[一言] 地下構造体探索者専門学校を飛び越して、学園都市かぁ。 まさにファンタジーに現実が追いついた町になりそうだ。
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