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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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幕間 拾肆話 日本政府から見るダンジョンが齎す負の側面

お気に入り11610超、PV 7910000超、ジャンル別日刊17位、応援ありがとうございます。





 

 余りの世界の混乱振りに、首相を始めとした閣僚達は揃って頭を抱えていた。  


「まさかダンジョン出現のせいで、ここまで世界情勢が混乱する事になるとはな……」

「はい。流石にここまでの混乱が生じるとは、思いも寄りませんでした」

「米国やロシア、オセアニアの混乱は想定内と言えば想定内なのですが、他の地域の混乱が目を覆わんばかりです」

「特に、アフリカ大陸で起きているパンデミックが目に余りますね。今はアフリカ大陸内で収まっていますが、これだけ国際情勢が混乱していれば何時、他の地域に飛び火するか……」

「それを言うのならば、中東情勢も穏やかではありません。一部ですが紛争が再開した事もあり、他の対立する中東諸国間の緊張も高まっています。相手に撃たれる前に、自分達から……と言った具合です」


 会議に出席している閣僚達は、各々の省が抱える問題を愚痴る様に次々口にする。誰も彼もが解決困難な問題を抱えており、かなりの不満を溜め込んでいるらしい。

 ある程度出席者達が愚痴を吐き出した頃合いをみて、首相が会議室内の空気を仕切り直す。


「ふぅ……何時までも愚痴を吐き続けても仕方がない。それぞれの事案に対する対策を、検討するとしよう」

「そうですね。何時までも皆で愚痴を吐き続けても、問題は何一つ解決しませんね」

 

 首相の言葉に、閣僚達は互いに顔を見合わせた後軽く頷き、机の上に置かれている資料を手に取る。

 そして首相に変わり、官房長官が司会進行を行う。


「ではまず、アフリカ大陸で起きている、パンデミックに対する対応について話し合いたいと思います。外務大臣、現地の国々との外交交渉はどうなっていますか?」

「現在アフリカ地域の国々とは、コアクリスタル等のアイテム類を代価に、日本国内で産出した回復薬を拠出する取り決めを結んでいます。現在の所、月に1万本程の低級回復薬を自衛隊の協力のもと、空輸にて国々に拠出しています」

「1万本……アフリカ地域のパンデミックを抑える為には数が少ないのではないですか? 感染患者は、数万人に及ぶと聞いているのですが……」


 外務大臣の現状報告に対し、厚生大臣が回復薬の拠出数について指摘する。回復薬の拠出数を絞った結果、パンデミックが世界規模に広がるのではないのか?と。

 それに対し、外務大臣は申し訳なさ気な表情を浮かべながら顔を左右に振る。 


「確かに感染患者の数に対し、回復薬の拠出数が少ない事は否めませんが……これ以上の数を国内だけで確保する事は困難です。回復薬の調達を製造では無く、ダンジョンからの拾得に頼っている現段階では……」

「私も、外務大臣の意見に賛成します。現在我が国がアフリカ地域に供給している回復薬は、自衛隊がダンジョンに潜り拾得した、各地方自治体に回す予定だった防災備蓄品です。それらは自衛隊がダンジョン探索時に使用する物と予備を除いた余剰分であり、現数以上の拠出は自衛隊によるダンジョン探索を遅延、若しくは停滞させる要因となります」


 外務大臣の拠出数の増加は困難と言うセリフに、防衛大臣も苦言を呈す様な口調で補足を追加する。


「で、では、ダンジョン協会が探索者から買取っている回復薬を供給に回せば……」

「それは無理ですよ。ダンジョン協会が確保している回復薬の多くは、ダンジョンに潜る探索者や製薬会社、民間の救急病院等に流れています。仮にダンジョン協会が買い取っている回復薬を政府が拠出用に押さえた場合、ダンジョンに潜る探索者の死傷者数や、救急搬送された患者の死亡率が急増すると思われます」

「……」


 拠出数の増加を諦めきれなかった厚生大臣の追求は、ダンジョン協会を所管する官房長官の説明で途切れた。自国民の怪我や事故による死傷者数の増加に目を瞑って、他国に拠出する回復薬を増やせとは立場上言えないからだ。

 

 

 

 

 

 厚生大臣が押し黙った所を見計らい、首相はとある質問を投げかける。


「よろしいでしょうか、厚生大臣? 聞きたいのですが、回復薬の複製の目処は立ちませんか? 回復薬の人工製造が可能となれば、今回の様な緊急時の拠出品確保が容易になるのですが」


 厚生大臣は首相の追求に視線を揺らし、冷や汗をかく。


「残念ながら、未だ複製の目処は立っておりません。各製薬会社や研究室も努力はしているのですが、やはり解析には時間がかかります」

「……そうですか」

「……先頃防衛装備庁に納入されたと聞く、試作型量子コンピューターを回復薬を解析している理研にも回して貰えませんか? コンピューターの解析性能が上がれば、飛躍的に創薬研究速度も上がると思うのですが……」

「それは……」

「私は反対です」


 厚生大臣の試作型量子コンピューター導入要請を、防衛大臣は一刀両断と言った口調で断った。


「防衛大臣?」

「後程報告しようと思っていたのですが、現在防衛装備庁に納入されている試作型量子コンピューターなのですが……とてもではありませんが、現段階で防諜体制に心配がある場所への配置は安全保障問題上同意出来ません」

「……何故です?」

「試作型量子コンピューターを用いた暗号解読試験を行った所、現在使用されているどの暗号方式も極々短時間で解読が可能でした。最低でも、新方式の量子暗号方式が確立するまでは量子コンピューターの存在は表に出せません」

「「……」」


 防衛大臣の試作型量子コンピューターによる既存暗号の無効化発言に、閣議出席者達は凍りついた。現在使用されている暗号が無力になると言う事は、現在ネットや通信を使用して行われている情報交換が全て筒抜けになると言う事だ。最重要機密事項に関しては書面や口頭伝達によって行われているが、全ての機密情報が同じ方法が使われている訳ではない。情報鮮度が重要な物は、厳重な暗号化やプロテクトがかけられネット経由で送られている。

 それらの情報が筒抜けになるなど、国家機密を多く扱う閣議出席者達にとって悪夢でしかなかった。


「新方式の量子暗号が確立する目処は、立っているのですか?」

「現在の所、予定は未定です。現在情報本部が、暗号開発に必要な国内の数学者をリストアップしています。メンバー選考後、開発を始めるので年内の完成は厳しいかと」

「そうですか……」


 防衛大臣の発言に首相は頭を抱え、閣議に出席しているほかの大臣達も顔色を変え頭を抱えていた。量子コンピューターが開発されれば現在の暗号が無力化すると言われ続けてはいたが、それでも開発には十年以上の時間的猶予はあると思っていのだ。

 しかし、現実として量子コンピューターの完成は目前でありながら、十分な電子防諜体制は出来ていない。


「……我が国以外で、量子コンピューターを開発している可能性はありますか?」

「当然あります。我々が開発に成功している以上、他国に開発できないと考えるのは些か楽観的過ぎます。他国も量子コンピューターを保有している事を前提に、対応すべきかと……」

「そうですね……確かに我が国に開発出来、他国に開発出来ない等と考えるのは傲慢ですね」


 自分の楽観的思考を指摘され、首相は自嘲の笑みを浮かべた。

 

「では、他国も量子コンピューターを保有している事を前提に動くとしましょう。新式量子暗号方式が確立するまでは、機密書類の作成や保管はスタンドアローン化したコンピューター、又は手書き書類で行う事を徹底させて下さい。それと、書類の安全な高速配達手段も検討して下さい。流石に緊急性を伴う非常時の連絡は従来の方法で行うしかないでしょうが、それ以外での機密漏洩のリスクは減らしたいですからね」

「大変な手間ですが、機密漏洩のリスクを思えば仕方ありませんね。しかし、だいぶ予算を使う事になりますね……」


 財務大臣は対策に必要な経費を大雑把に暗算し、苦々し気に表情を歪めた。


「掛かる予算は安くは無いですが、機密が漏れた事に伴う損失を思えば、安い物です」

「まぁそうですが、これまた痛い出費である事には違いありません。只でさえ、ダンジョン出現に伴う対策費や複数のコアクリスタル発電所建設、新技術の開発で予算が厳しいんですから……」

「それでも日本は、他国に比べまだマシですよ」

「まぁ、そうですが……今回ほど日本人の国民性に感謝した試しはありません。この様な非常事態が起きても、他国の様に暴動や略奪も起こさずに冷静に行動してくれるのですから」


 財務大臣は、他国に比べ格段に治安維持対策費が低い事を思い浮かべ安堵の息を吐く。ざっと見積っただけでも、先進国と呼ばれている国々が消費しただろう必要経費とは桁が一つは違っている。

 

「それに最近は、ダンジョン特需の御陰で景気も上向いているじゃないですか。今夏にコアクリスタル発電が完成し、年内に商業運転を開始すれば更に景気が良くなって税収も増えますよ」

「だと、良いんですがね。最近は世界各地で、キナ臭さが増しているとも聞きます。何時まで、日本が対岸の火事でいられるか……」


 財務大臣のキナ臭いと言う発言に、閣僚達は顔を見合わせ何とも言えない表情を浮かべた。  


「そうですね。特に中東地域では今でこそダンジョン出現の混乱で紛争が停止していますが、何時紛争が再燃してもおかしくない緊張状態です」

「やはり、そこまで深刻ですか……」

「はい。特に我が国がコアクリスタル発電を発表して以降、石油のエネルギー資源としての価値が揺らぎました。その為、中東地域の石油を抑えると言う欧米諸国の方針が揺らぎ、欧米諸国と中東諸国との協力関係に動揺が走っています」

「……」


 分かっていた事だが、外務大臣に改めて言葉にされ首相は顔を顰めた。自国の発表が原因で、中東諸国の不安定化が進行したのだと言われたのだから。

 しかし、エネルギー資源の海外依存脱却と言う悲願を前にして、コアクリスタル発電の発表中止と言う選択を一国を預かる長として首相には取れなかった。


「産油国に対する経済支援や技術支援は、出来るだけ進めて下さい。彼等も石油依存経済脱却を掲げていましたが、この急な情勢変化には対応しきれないでしょう」

「はい。既に経産省や財務省と協力して作った、産油国に対する経済技術支援プランを提案中です。現在、実務者レベルでの交渉を重ねています」

「分かりました。そちらの対応の方は、よろしくお願いします」

「はい」


 首相は産油国に対するフォローを、外務大臣を始めとする大臣達に任せた。

 コアクリスタル発電を発表したとは言え、未だ石油が国を動かしている。産油国に対し何のフォローもせずに居れば、石油を禁輸……とまで行かずとも購入費を大幅に値上げされる可能性がある。そうなれば、ダンジョン特需で上向きだした景気が再び落ち込む可能性が大。その様な事態を避けたい首相は、産油国に対するフォローを卒無く手配した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某ホテルのレストランで夕食会を開いていた首相は、慌てた様子で近づいて来た補佐官に耳打ちをされると急遽会食を中止。招いた客に一言断りを入れ離席し、公用車に乗り込み首相官邸への道を急いだ。

 首相官邸に急ぐ車内で、首相は補佐官から概要を聞き驚きの声を上げた。 


「中東地域の紛争が再燃した!? それは本当ですか?」

「はい。1時間ほど前に、現地大使館から第一報が届いています。事前通告も無く、停戦条約を一方的に無視しての侵攻です。現地では大規模な市街戦も起き、かなりの被害が発生しているとの事。外務省は既に在留する大使館員達に、国外退避を行う様に通達を出しているとの事です」

「そうですか……他に情報は?」

「現在の所、これ以上の情報はありません。現在外務省や防衛省が情報収集中なので、首相官邸に到着する頃には新たな情報が入るかと」


 補佐官は、手元に詳細情報が無い事を申し訳なさ気に首相に謝罪する。 


「そうですか……紛争が再燃する可能性は想定されていましたが、まさかこんな短期間で紛争が再開するとは思っても見ませんでしたね」


 首相は公用車の窓から外の夜景を眺め、無念そうな表情を浮かべた。だが、そんな途方にくれた様な雰囲気を醸し出したのも一瞬、首相は首を軽く左右に振った後、気合いを入れ直し補佐官に指示を出し始める。


「しかし、再開してしまった物はどうしようもありません。悔いている時間があるのならば、これ以上紛争の影響が拡大しない様に方策を練るのが急務です。紛争当事国以外も火種が燻っている状態ですから、今回の紛争が飛び火し中東全域で紛争が再開するなどとなれば……」

「……最悪の事態ですね」

「ええ。ですので、我が国としても早急な対応が必要です。至急臨時閣議を開きたいのですが、各閣僚の招集状況は?」


 首相の質問に、補佐官はメモ用紙を取り出し閣僚達の状況を報告する。 


「既に、各閣僚の方々には招集連絡は出されています。ただし、米国へ外遊に出られている外務大臣に関しては、本日分の日程まで消化し帰国するとの連絡が入っています。他の閣僚の方々は、現在首相官邸へ移動中の筈です」

「そうですか。では、私達も急ぎましょう」

「はい」


 その後、30分と掛からず首相を乗せた公用車は首相官邸へ到着。既に集合していた閣僚等と共に臨時閣議を開催し、日本が取るべき対応について深夜遅くまで話し合いが続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラスの面があれば、それ相応のマイナスもありますよね。

この手の混乱は、どの位で終息するやら。何事も良いことだけとは限りませんね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 仮想通貨終了のお知らせ。
[良い点] 今回のコロナ禍を受けて日本国民のモラルというか同調圧力というか、大人しさがよく分かりましたよね。 暴動類が起こらず、政府からの要請があれば強制力がなくても、外出自粛を行って感染者が減ってい…
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