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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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幕間 拾参話 ダンジョンまでの道程

お気に入り11600超、PV 7850000超、ジャンル別日刊32位、応援ありがとうございます。




 

 

 

 今日も美佳ちゃんのお兄さんに、家の前まで送って貰いました。

 それも、2つの大荷物込みで。


「何時も送って貰い、ありがとうございます」

「良いよ良いよ、気にしないで。夜道を、沙織ちゃん1人で帰す訳には行かないからね」

「でも今日は、こんな大荷物まで持って貰って……」

「沙織ちゃん一人で、この量と重さの荷物を持って帰るのは、無理だからね。それに俺、これでも探索者の端くれだよ? レベルアップの御陰で、この位の荷物を運ぶのなんて、ワケないしさ」

 

 そう言って、お兄さんは大荷物を持っても少しも苦にした様子を感じさせません。美佳ちゃんの家を出る前に一応持たせて貰ったけど、片方の荷物でも私には重過ぎて容易に持って歩く事なんて出来なかったのに……。


「そうですか……」 

「うん。じゃぁ、荷物を運び込んじゃおうか?」

「はい」


 何時もはここでお別れですが、今日は大荷物があるのでお兄さんも一緒に家に上がって貰います。だって、重くて私じゃ部屋まで持って上がれないから。

 私は玄関を開け、大きな声で帰宅の声をかける。 


「ただいま!」

「……お帰りなさい、沙織ちゃん」


 家の奥の方から、声が返って来た。

 そして少しすると私のお母さん、岸田茜きしだ あかねが玄関に顔を出し、大荷物を持つ私とお兄さんの姿を見て驚いた様な表情を浮かべる。


「まぁ、大樹君。いらっしゃい」

「はい。お久しぶりです、(あかね)さん」 

「ええ。それにしても二人共……凄い荷物ね」

 

 お母さんはそう言って、私とお兄さんの持っている荷物を興味深げな目で見てくる。


「全部、私が探索者をするのに必要な道具だよ」

「まぁ……そうなの?」


 私の話が信じられなかったのか、お母さんは確認する様にお兄さんに視線向ける。


「ええ。予備なんかもありますが、最低限必要な物ばかりですよ。探索者を続ければ、もう少し増えるかもしれませんね……」

「そう……」


 お兄さんの説明に納得したのか、お母さんは軽くため息を吐いた。今持っている荷物だけでも結構な量なのに、まだまだ荷物が増えると聞けばため息も出るよね。 

 でも、それより…… 


「お母さん。荷物を部屋に運び込みたいから、上がっても良い? 何時までもお兄さんに、重い荷物を持たせる訳には行かないし……」

「あっ、そうね。ごめんなさいね、大樹君。さっ、上がって」

「はい。少しの間、お邪魔します」


 お母さんに促され、私とお兄さんは玄関を上がり私の部屋へと移動した。








 

 お兄さんの御陰で、ガンロッカーの組立と部屋の隅への設置が終了した。でも、部屋に置かれた灰色塗装のロッカーがかなりの異彩を放っているから、その内表面にインテリアシートでも貼って、目立たない様にしないといけないな……。


「色々手伝ってもらって、ありがとうございます」

「この位、お安い御用だよ」

「でもお兄さんの御陰で、思ったより荷物の整理が早く済みました」


 実際、私はお兄さんがガンロッカーを組みたてている間に、持って帰ってきた大体の荷物の片付けは終わらせていた。

 残るのは……。


「後は、槍の収納だね」

「はい」


 私は重蔵さんから譲って貰った、美佳ちゃんとお揃いの槍と懐刀を運搬バッグから取り出す。

 でも、ここで問題が発生。懐刀の方は特に問題は無いんだけど、槍の方が問題。ガンロッカーの大きさより、槍の全長の方が長いんだけど……どうやって収納すれば良いの?

 保管規則上、部屋に出しっ放しって言うのは不味いし……。


「お兄さん、槍はどうやって収納します? 大きさ的に、ロッカーには入りませんよね?」

「ああ、それはね……」

 

 そう言いながら、お兄さんは私の手から槍を手に取り収納方法を説明し始める。


「槍の先端。ココとココを持って回せば、穂先と柄が分離するんだよ」

「あっ、本当だ。回った」


 お兄さんが右手で穂先の方を握って固定し、左手で柄の方を回すと二つの間に隙間が生まれた。微かに見える隙間には、ボルトに刻まれている様なネジ山が見える。

 

「沙織ちゃん、分解中は穂先の刃で怪我をしない様に注意してね?」

「はい」 

「ちょっと面倒だけど柄を回していれば、その内穂先は外れるから」


 お兄さんがどんどん柄を回していくと、暫くして柄から穂先が外れる。取り外した穂先の穂の長さは30cm程で、穂先を外した槍はガンロッカーに収納可能な長さになっていた。

 お兄さんは2つに分かれた槍を、私に手渡しながら話をする。


「はい。ロッカーに収納する時は、穂先と柄に分解すると収納は可能だから」

「分かりました。ありがとうございます」


 私はお兄さんにお礼を言いながら、ガンロッカーに分解した槍と懐刀を収納する。


「ああでも、穂先を柄に締め付ける時には結構力がいるから、沙織ちゃんのレベルがある程度まで上がるまでは、コンビネーションプライヤー位は用意しておいた方が良いかもしれないよ?」

「コンビネーションプライヤー……ですか?」

「ホームセンターとかに売っている、開口範囲を変えられるペンチの事だよ。まぁ、レベルが上がれば必要はないだろうけどね……」


 そう言えば、お兄さんが槍を分解する時、最初の方は金属が軋む様な結構硬そうな音がしていたな。お兄さんが素手で回していたから、簡単に回るのかと思っていたけど、探索者としての身体能力があっての事だったらしい。   

 お兄さんの注意を聞きながら、私はガンロッカーの扉に鍵をかけた。


「さて、と。片付けも済んだ事だし、俺はそろそろお暇させて貰おうかな?」


 私がガンロッカーに鍵を掛けた事を確認し、お兄さんは腰を上げ帰ると言い出す。壁に掛かった時計を見てみると、もう直ぐ18時だ。

 何時の間にか、大分時間が経っていたらしい。 

  

「お兄さん、今日は色々ありがとうございました」

「気にしなくて良いよ。それより沙織ちゃん、明日は朝が早いから今日は早めに休むんだよ?」

「はい」

 

 お兄さんも、雪乃さんと同じ様な事を口にする。もしかしたら、お兄さん達もダンジョンに行く前日は気持ちが高ぶって、余り寝られなかったと言う実体験があるのかもしれない。だから私と美佳ちゃんに、何度も早めに休む様にと言っているのかもしれないな。

 

「それじゃぁ、沙織ちゃん。また明日ね?」

「はい。明日も、よろしくお願いします」

「2人の期待に応えられる様に、頑張るよ」


 そう言い残し、お兄さんは小さく笑みを浮かべながら帰っていった。








 お兄さんが帰った後、私はご飯とお風呂を済ませ、明日の準備に取り掛かった。


「えっ……と? コレとコレは持って行って、これは予備だから持っていかない。後は……」


 持って帰ってきた大容量リュックサックに、ダンジョン内で使うジャージやプロテクターを詰めて行く。事前に、お兄さんに必要な物は何なのか聞いているので、大して手間取る事も無く準備は終了した。 

 後は家を出る前に、武器をロッカーから出して運搬バッグに移すだけだ。事前に武器を運搬バッグに入れて用意しておこうかと思っていたのだが、お兄さんに保安上問題があると言われたので止めておく。


「うーん。それにしても、ここまで来るのに随分時間がかかっちゃったな……」


 私は荷物の入ったリュックサックをガンロッカーの前に置き、感慨深げにこれまでの事を思い出す。ダンジョンが出現してから、もう一年は経つんだな……と。

 ダンジョンが出現した時、私は中学校3年生だった。あの時の出来事は、今でも鮮明に覚えている。朝起きて家族皆で朝食を取っていたら急に政府放送が始まって、報道官の人が大真面目にダンジョン出現の報告をしだしたのだから。


「でも本当、アレには驚いたな……」


 どのチャンネルに変えても、似た様な構図の報道官の人しか映らなかったんだもの。お父さんやお母さんも、驚いた表情を浮かべながら報道官の人が何を言い出すのかとTV画面を注視していたのを覚えている。御陰で、ダンジョンが出現したと報道官の人が口にした時には、お父さんもお母さんも揃って口を開けて放心していたな……。

 私はベッドの上で横になり、回想を続ける。


「そう言えば、あの頃だったかな? ダンジョンから、モンスターが溢れ出てくるって言う噂も流れたのは……」


 ダンジョンが出現して1ヶ月と経たない内に、正しい情報がロクに無い状況で、そんな噂が流れたせいで、近くにダンジョンが出現した町々では、大混乱が発生した。噂を信じ、モンスターが溢れる前に、街から逃げ出そうとする人々、ダンジョンを封鎖していた警察や自衛隊に、デモ抗議活動をする人々、混乱に乗じ空き巣や窃盗を働く犯罪者など様々。事態の沈静化の為、警察や自衛隊が大増員された事で、当時のTVニュースを大いに騒がせた事を覚えている。

 そして結局、混乱は噂が何の根拠も無い放言であると言う事が知れ渡るまで続いた。


「でも、魔法が現実に存在するって分かった時の熱狂は本当凄かったな……」


 ネット投稿動画に、アレの実演映像が流れた御陰で、世間のダンジョンに対するイメージは一変。ダンジョンへの立ち入りが厳しく制限されていた、日本や少数の国を除いて、多くの国の民間人がロクな準備もせず、挙ってダンジョンに殺到し、多数の死傷者が発生した、と言うニュースが連日報道されていた。それでも、ダンジョンへ入ろうとする、民間人は後を立たず、死屍累々と言った有様が、世界のアチラコチラで広がっていたのを覚えている。

 確か暫くたった後のニュースで、あの時の騒動で最低でも数千人の人が亡くなったと言ってた。 


「そして日本でも、世間の声に応じる形でダンジョン協会が設立されたんだよね。お兄さんは違うって言ってたけど……」


 私は首を傾げながら、当時お兄さんが言っていた事を思い出す。確か三角語、単行……何だったっけ? 話半分に聞いていたので、うろ覚えで良く思い出せない。

 でも、お兄さんが難しそうな表情を浮かべていたのは覚えている。あまり探索者と言う存在に、好意的な印象を持っていなかったみたいだったな。 


「でも結局、お兄さんも今は探索者をやっているんだよね……」


 それも、民間探索者の中でもトップクラスに腕が立つ。

 高校受験が終わった時に御褒美として出して貰ったミノ肉の焼肉は、あの当時の状況を鑑みると、トップクラスの探索者でなければ用意する事は出来ない物だ。高額なのは当たり前だが、当時はミノ肉の流通量自体が少なかったので、買うとなるとそれなりの伝手が必要になる。そんな品をお兄さん達が大量に用意出来たと言う事は、お兄さん達が自分達でミノ肉を確保出来るトップクラスの探索者だという証拠だろう。

 そう言えば、お兄さんが探索者試験を受ける事になった時の美佳ちゃんの騒ぎ様は昨日の様に思い出せる。嬉しそうで悔しそうな、そして少し心配げな表情を浮かべてたな。 

 そして、お兄さんが合格通知を貰った時には、我が事の様に美佳ちゃんも喜んでいた。本当、あの兄妹は仲が良い。私にも兄弟がいれば、あんな感じだったのかな?


「あっ、そう言えばお兄さんが初めてダンジョンにチャレンジした次の日、美佳ちゃん……元気が無かったな」


 お兄さんから色々ダンジョン話を聞いているだろうと思って、美佳ちゃんにその話を聞こうとしていたんだけど、とても気軽に聞ける雰囲気じゃなかった。 

 今にして思えば美佳ちゃん、あの時お兄さんにキツい内容の話を聞かされていたのかもしれない。私も何度かお兄さんに映像付きでダンジョン内の話を聞いたけど、初めて映像付きで話を聞いた時は思わず喉をこみ上げてくる物を感じ口元を抑えたのを覚えている。ダンジョンに行きたいって気持ちは変わらなかったけど、お兄さんの話を聞いてTVや雑誌で言われている事を鵜呑みにするのは辞めた。どれだけ加飾された話なのか、お兄さんの話を聞いて気が付いたから。嘘は言ってないけど、本当の事も言っていない。

 思い出してみると、あの頃に流れていた新聞記事やTVニュースは正にそれだったな。


「あっ、そうだ」


 私はある事を思い出し、ベッドから起き上がった。ガンロッカーの前に置いたリュックサックを退かし、鍵を開ける。ガンロッカーの中には、分解された槍と懐刀が収まっていた。

 私は慎重な手付きで、穂先を取り出し鞘を外す。


「やっぱり、綺麗だな。あの時見せて貰った、お兄さんの刀にも引けを取らないよ」


 室内灯の光を反射し輝く穂先を見ながら、私は感慨深げに鑑賞し続ける。あの時の私は、刀等の刃物にあまり興味は無かった。でも、お兄さんの刀を見た時から、私は刀の魅力に魅せられた。自分だけの物が欲しいと思うほどに。

 そして私は、探索者になった事で自分だけの物を手に入れた。正直言って、ダンジョンでモンスター相手に振るい、汚す事に軽い忌避感を覚える自分がいる。これほど美しい物を、モンスターの血肉で汚すのは勿体無いと。

 しかし……


「でも、切れ味も試してみたいしな……」


 これ程鋭い刃なら、何れ程良く切れるのか知りたいという思いもある。

 多分、さほど抵抗を受ける事もなく切れるんじゃないかな? とは言え、まさか人間相手に試す訳にもいかないしね。

 もっとも……。 


「あの連中が血迷って襲いかかって来たら、遠慮しないけどね」


 私は高校進学で遭遇したあの不愉快極まり無い連中の事を思い出し、急速に気分が悪くなって行くのを自覚した。ほんと、迷惑な連中だよね。目の前に居ても居なくても、迷惑をかけるだなんて。

 私は穂先に鞘を付け直し、ガンロッカーへと戻した。機嫌が悪い時に持っているには、危ない物だからね。片付けを終えた私は、部屋の電気を消しベッドに潜り込む。


「明日は早いんだし、今日は早く寝よ。おやすみなさい」


 電気が消え暗くなった部屋に、私の就寝合図の声が響いた。

 明日は漸く、念願のダンジョンデビュー。寝不足で……なんて無様を晒さない様にしないと。そう思いながら、私は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


沙織ちゃん視点の閑話です。

ダンジョン行きを目前に控え、これまでの事を振り替えって見ました。


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― 新着の感想 ―
「もう我慢できない…。懲りない貴方たちが悪いのですよ。ふふふふっ」とかつぶやき始めそう。
やっぱりヤバい子だったな…… 刃物に魅了されて切れ味確かめたいはヤベェやつなんよ そもそも研ぎの状態とかで変わってくるんだから最初の切れ味を過不足なく維持なんて出来ないし 迷惑行為を繰り返すやつ相手と…
[気になる点] 主人公が人妻を名前呼びwww
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