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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第119話 ネットショッピング

お気に入り11450超、PV7520000超、ジャンル別日刊21位、応援ありがとうございます。




 


 興奮する美佳を宥めつつ、俺はリビングへと入る。

 リビングにはソファーに座り、コーヒーで一服している母さんが居た。


「ただいま」

「お帰りなさい、大樹。今日は何時もより少し早かったわね?」

「うん。思ってたより早く、稽古が終わってね」

「そうなの……」 


 何時もより早く帰宅出来た理由を母さんに話していると、一緒にリビングに入ってきた美佳が俺の腕を引っ張る。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。合格通知が来たんだから、アレで注文して良いよね?」

「アレ……? ああ、アレか。良いんじゃないか?」

「やった!」


 俺の返事に美佳は嬉し気に小さくガッツポーズを取り、そんな美佳の様子を見ながら俺は気になった事を美佳に聞く。


「そう言えば美佳、沙織ちゃんも合格したのか?」

「沙織ちゃん……? うん! 帰って来てすぐに、沙織ちゃんも合格してたって言う連絡があったよ!」

「そうか」


 沙織ちゃんも無事に、合格出来たんだ。

 2人で一緒に受験をして片方だけが落ちてたら、なんて言って慰めたら良いか分からなかったから2人共合格して良かったよ。本当。


「あら? 貴方達、今から何かする予定なの?」

「うん! 今からお兄ちゃんと一緒に、ネットショッピングをするの! 合格通知が届いたら、一緒にやるって約束だったんだ! それに、今からお急ぎ便で注文すれば明日の内に荷物は届くからね!」

「そう。夕飯は何時もの時間に用意するから、それまでに終わらせるのよ?」

「うん! 分かった!」


 少々興奮気味な美佳は、母さんの質問に嬉しそうに答えた。母さんが一瞬、俺に呆れ気味の視線を送ってきたが、俺には何も言わない。


「行こっ! お兄ちゃん!」

「……ああ、行こうか」


 俺と母さんが視線だけでやり取りをしていると、美佳が掴んでいた俺の腕を引っ張る。重蔵さんの稽古の成果か、俺の腕を引っ張る美佳の重心にブレは見て取れない。こんな所で稽古の成果を見せられてもな……。


「呼んだら、直ぐに下りてくるのよ?」

「はーい」


 俺は美佳に腕を引っ張られ、右手を小さく左右に振る母さんに見送られリビングを後にした。







 部屋に到着した俺は、美佳を部屋の前に待たせ部屋に入る。通学鞄などの荷物を机の脇に置いて、制服から部屋着に着替えを済ませ机の上のPCの電源を入れた。


「美佳、もう入って良いぞ」

「おじゃましまーす」


 俺がドアに向かって声をかけると、美佳が自分の椅子を持って部屋に入ってくる。美佳は持って来た椅子を、机の上のPC画面が見える位置に置き座った。


「じゃぁ、PCも立ち上がった事だし、早速始めるか?」

「うん!」


 俺は起動したPCでインターネットブラウザーを開き、お気に入り登録しているダンジョン協会のHPにアクセスする。

 HPへのアクセスが完了した事を確認し、俺は隣に座る美佳に声をかけた。


「美佳。前に渡した、購入物品の予定リストの記載項目は埋めたか?」

「うん」

「そうか……沙織ちゃんの分は?」

「合格通知の連絡を取った時に話を通して、サイズなんかをメールで送って貰ったよ」


 そう言って美佳は、ポケットから8つに折り畳まれたA4用紙を取り出す。以前俺が作成した、ダンジョン探索に最低限必要だろうと思われる、購入しておいた方が良い物品を纏めた一覧表である。

 服や靴などの購入にサイズを選択する必要があるので、サイズを記入しておいてくれと言って美佳と沙織ちゃんに渡していた物だ。

 

「じゃぁ、大丈夫だな」 


 俺は美佳に購入に際し必要な確認を済ませ、協会HPへのログイン作業を始める。ログインウインドウを開き、用意していた探索者カードの固有登録番号とパスワードを入力。画面が、探索者利用ページに切り替わった。


「へー、協会のHPってログインするとこんな風に変わるんだ……」

「まぁ、一般公開されない探索者の為の内部仕様だからな。このページにアクセスするには、正式に探索者として協会に登録し、固有登録番号を発行して貰う必要があるんだ」


 PC画面は先程までの一般へ向けての宣伝色が強い作りから、協会から探索者への連絡事項などが踊る実用的な作りに変わった。 


「そのせいで新人探索者未満の者は、このオークションページの存在なんかを知らないんだよ。知った時には既に必要な物の大半を新品で購入し終わっていて、先走って物品を買い揃えた者達が地団駄を踏むって言うのは良くある話さ」


 俺はオークションページを開きながら、美佳に探索者あるあるを教える。何を隠そう、俺達3人も引っ掛かった事だしな。幸い俺達はスライムダンジョンのおかげで資金繰りに関しては何とかなったけど、初期投資のせいで経済的に困窮した新人探索者は多く出た事だろう。

 最近どうかは知らないけど……。


「協会もあんな宣伝パンフレットを配るくらいなら、試験の時にオークションページの事を1言教えてくれれば良いのに……」


 美佳は溜息を吐きながら、協会への愚痴を零す。まぁ、確かにそうだよな。

 でも……。


「協会としても中古品が多く売れるより、新品が売れた方が都合が良いだろうから言わないだろうな。誰かに聞かれたら答えるだろうけど、聞かれない限りは答えないだろうさ。新品が多く売れれば、納品業者からのインセンティブ……お礼が期待出来るだろうしね」


 協会がオークションページの存在を声高に主張しない理由は、裏側の事情を鑑みれば凡そそんな物だろう。誰だって、折角手に入れた利権は手放したくないだろうしな。

 そんな俺の推測混じりの話を聞き、美佳はますます疲れた様な表情を見せた。


「まぁ、今はそんな裏事情は考えないで、商品選びを始めよう。夕飯まであんまり時間もないんだしさ」

「うん……そうだね」

「じゃぁ、まずは服。戦闘服から選ぶか」


 そう言って俺はカテゴリー選択から、レディースファッションの項目を選択する。すると、万に近い数千点の商品が検索にヒットした。


「結構いっぱいあるな……」

「そうだね……うわっ、こんなに未使用品がいっぱい」

「予備で購入して、使わないまま探索者を引退して出品したって所かな?」


 未使用品の出品物だけに絞っても、2千件近い数のヒットがあった。

 

「美佳、戦闘服はジャージで良いのか?」

「うん。お兄ちゃんの作ってくれたリストにもジャージがオススメだって書いてたし、沙織ちゃんも動くのなら服装はジャージで良いって言ってるよ」

「そうか」


 実際、ダンジョン内では結構激しく動くので、俺としては服装はジャージがオススメだ。下手な服だと動きを阻害し、思わぬ隙を作る事になるからな。 


「でもお兄ちゃん。ジャージなら、その辺のスポーツ用品店で買っても良いんじゃないの? 態々、協会のサイトで買わなくても……」

「まぁ確かに普通のジャージならそうなんだろうけど、協会が売っている探索者用のジャージは少し特殊だからな。普通の所には売ってないし、買うとするとかなり高くつくんだよ」

「……特殊?」

「ジャージ生地の中に、アラミド繊維って言う防弾チョッキなんかにも使われている特殊な繊維が織り込まれているんだよ。そのお陰で、普通のジャージと比べて驚く位に耐久力が上がっているんだ。モンスターの軽い引っかき攻撃くらいなら、一度は耐えられるんじゃないかな?」

「へー、そうなんだ」


 美香が感心している間に、俺は検索ワードにジャージ、レディース、未使用と記入し検索をかけた。

 すると……。


「えっと……検索のヒット数は4百件か。まだ結構あるな。美佳、お前と沙織ちゃんのサイズは?」

「二人ともMサイズだよ」

 

 検索ワードにMサイズを追加入力し、再度検索をかける。すると150件程までに絞れた。

 ここまで絞れば、後は見ながら決めるか。


「後はデザインと色だな。希望は?」

「単色だと学校指定のジャージみたいでパッとしないから、何色か使ってるのが良いかな?」

「了解」


 俺はページをゆっくりスクロールしながら、商品画像を美佳に見せていく。  

 暫く無言で美佳と商品画像を眺めていると、ある商品で目が止まる。白と緑のツートンカラーのジャージだ。


「美佳、これなんか良いんじゃないか? ストライプもアクセントに入っているし、デザインもそう悪くないと思うんだけど……」

「うん。そうだね……」


 美佳は少し不満そうに、俺が指さす商品画像を眺めていた。


「何か気になる所があるのか?」

「うん、ちょっと色がね。沙織ちゃんは緑色が好きだから、これで良いと思うんだけど……青だったら良かったな」

「そうか……」

 

 気に入らないのならしょうがない、買うのは美佳だしな。取り敢えず沙織ちゃん用としてこの商品はキープするとして、俺と美佳は再び検索を続ける。

 すると……。


「あっ、あった!」

「おっ、本当だな」


 沙織ちゃん用にと考えていた物と同じデザインで、色違いの白と青のジャージが出品されていた。


「お兄ちゃん、私これで良いよ」

「そうか。じゃぁ、さっきのと一緒に入札しておこう」

「うん」


 俺は早速、選んだジャージ2点の入札手続きを始める。

 幸い2点とも入札者は1人も無く、終了時間が近い事もあり結構安く即決価格が設定されていたので、俺は美佳の了承を得て即決価格で入札を行った。


「よし、これでこの2点の手続きは終わりっと。あとは取引完了の返事待ちだな」

「無事落札出来るか、少し心配だね」

「まぁ他に入札者もいないし、大丈夫だろう。じゃぁ、今の内に他の商品も選ぶか」

「うん」


 俺と美佳は最初の商品選択が上手くいった事に気を良くし、次の商品の品定めを始める。

 そしてその後の商品選びは順調に進み、母さんが夕飯の声をかける前には全ての商品選びは終了し入札も全て済ませた。俺と美佳は入札の結果を待ちつつ、母さんに呼ばれたので夕飯を食べにリビングへと向かった。


 

 

 

 

 

 

 夕食を食べ終わって休憩を入れた後、俺と美佳は再びPCの前に並んで陣取っていた。夕食前に済ませた、オークションの入札結果を確認するためだ。

 

「さて、結果はどうなったかな……っと、おおっ!」

「やった! 全部落札出来てる!」

「そうだな。数が多かったから、幾つかは引っかかるかもと思ってたけど全部落札出来たな」


 俺と美佳は入札結果を見て、揃って胸を撫で下ろし安堵する。

 オークションのマイページには入札していた全ての商品が並んでおり、全ての商品の欄に落札の文字がついていたからだ。


「早速、入金を済ませて商品を発送して貰おう」

「入金って……代引きとか使えない?」

「高ランクの探索者は、アイテムの買取金の振込用に銀行口座を登録しているからな。このページでの買物でも、その口座を利用したネットバンク経由での決済が出来るんだよ。急いで商品を発送して貰いたいのなら、ネットバンク経由の振込が一番だな」

「へー。じゃぁ、私と沙織ちゃんも銀行口座を作らないといけないね」

「そうだな。でもまぁ、探索者を始めたばかりの新人探索者なら買取金も少ないだろうから、直ぐに口座を作る必要も無いだろう。探索者のランクが上がったら一度のアイテム買取で動く金額が金額だから、安全のためにも振込の方が良いだろうけどな」


 流石に俺も、何百万もの現ナマを持って移動はやりたくないから、買取金は口座振込にして貰っている。平均して、一回で数十万は稼いでるからな。

 俺は美佳と話しながら、素早くネット決済の手続きを進める。


「よし。振込はコレで完了。商品が届いた後に請求書を渡すから、ちゃんと払えよ?」

「うん、もちろん。バイトして貯めたお金があるから、大丈夫だよ!」

「そうか。じゃぁ、沙織ちゃんにも金額を伝えておいてくれよ?」

「うん」


 今回は手続き上、俺の口座から立替え振込をしているので、後日美佳達に請求書を渡し代金を払って貰わないといけない。俺の懐事情的にはプレゼントと言う形で美佳達に買って上げても良いのだが、食事代金などの奢りとは金額が違うので、きっちりと請求書を渡すことにしたのだ。

 あまり奢りすぎるのも、本人達の為にも良くないしな。奢られ癖が付き過ぎたら、何れお金で身持ちを崩しそうな気がするし……。

 そんなことを考えつつ、俺は商品発送手続きに入る。


「発送方法は、当日お急ぎ便でっと……」

「当日って、今日は流石に無理じゃない?」

「だろうな。まぁ、明日の内に届けばいいさ……と、到着は早くても明日のお昼か」


 やっぱりこの時間からだと、今日中は無理だよな。別に問題ないけど。


「美佳? 母さんって、明日は家にいるよな?」

「うーん、どうだろ? ちょっと聞いてくるから、待ってて!」


 そう言って美佳は部屋を出て、リビングにいるであろう母さんに予定を聞きに行く。そして数分後、美佳が部屋に戻ってきた。


「お母さん、お昼からは家にいるって。注文した荷物の受け取りは、任せても大丈夫だって言ってくれたよ」 

「そうか。じゃ、お昼からの配送を頼んでも大丈夫そうだな」


 俺は配送時間の希望を14時から16時を指定し、発送手続きを終了した。


「よし。これで手続きは全部完了だな」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「いや、大した事はしていないよ」


 美佳が笑顔を浮かべながら、俺にお礼を言ってくる。


「それでもありがとう。じゃ私、沙織ちゃんにこの事を伝えてくるね!」

「ああ。沙織ちゃんに宜しくな?」

「うん!」


 そう言って、美佳は椅子を持って俺の部屋を出て行った。

 まるで、嵐の様な賑やかさだったな。


「さてと……じゃぁ、俺も連絡を入れておくか」


 俺はスマホを取り出し、電話をかける。


「……もしもし? あっ、裕二か? 実は美佳達の事で話があって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン協会主催のオークションサイトで、ネットショッピング。状態の良い、新古品を狙っています。

因みにオークションサイトの形態は、丸投げ代行取引方式です。


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[気になる点] 即決価格で入札を行ったのに無事落札出来るか分からないのはおかしくない? 即座に落札決定だから即決なんじゃないの?
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