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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第117話 難関な第4段階

お気に入り11420超、PV 7400000超、ジャンル別日刊27位、応援ありがとうございます。





 

 放課後。

 裕二の家に行く帰り道の道すがらに俺が美佳達に橋本先生から預かった書類を見せると、許可書を確認した美佳達は殊のほか喜びの声を上げた。どうやら、許可が出るのかどうかをかなり心配していたようだ。 


「やっと創部の許可が出たんだね!」


 美佳は受け取った許可書を手に持って眺めながら、表情を綻ばせていた。 


「ああ。中間考査が間に入ってたからな、申請書類を出しても直ぐには職員会議の議題にはかけられなかったんだよ。何だかんだ言っても、創部申請と試験準備を比べたら試験が優先だからな。テストの返却も大方終わって、職員室が落ち着いた所を見計らって昨日橋本先生が議題に上げてくれたんだよ」

「そうですか……。私、申請書類を提出してから3週間以上経ってましたから、ちゃんと議題に上がっているのか結構心配していたんですよ?」

「まぁ、そうだよね」


 沙織ちゃんの心配も無理はないだろう。

 俺達は途中経過を橋本先生本人と顔を合わせ直接聞いていたけど、美佳達は俺達が聞いた事の又聞きだったからな。本当に話が進んでいるのか、把握しづらかったのだろう。

 今回、俺が渡した許可書を見て初めて実感したんだろうな。


「取り敢えず。これで学校側の許可は取れたから、後は生徒会の方にその申請書類を提出すれば創部出来る筈だよ」


 同好会だから部費は出ないだろうけど、同好会も生徒会傘下の組織活動だからね。創部申請は、ちゃんとしないとな。

 まぁ、申請の学校側の許可が下りている以上、生徒会も俺達の創部申請を棄却はしないだろう。 

 

「そうですね」

「早速、明日にでも持って行ってくるよ」

「お願いします」


 沙織ちゃんが軽く頭を下げながら、俺にお礼を言う。

 まぁ、入学したての1年生が創部申請書類を持って生徒会室に行くよりは、俺達2年生の方がこういうのは持って行き易いしな。

 俺は長々と許可書を眺めている美佳から、申請書類を返して貰い通学鞄にしまう。   

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 裕二の家の前で美佳達と別れた後、俺達は何時もの様に室井さんが運転する車に乗って稽古場の山に移動した。

 そして……。


「おっ! やっとマトモな反応が出来る様になったじゃないか!」

「ええ、これだけ手足も出せずにやられ続ければ、嫌でも対処法は覚えますよ!」


 何時もの様に正面から近付いて来た文哉さんに気が付いた裕二は、両手に持った小太刀の模擬刀を駆使して進行を阻止しようと攻撃する。が、文哉さんは裕二が振るう小太刀の刃を軽々と交わす。


「そんな大振りじゃ、いくら素早い太刀筋と言ってもテレフォンパンチと変わらないぞ! もっとコンパクトに、無駄な動作を消せ! お前の持っている武器は、力任せに叩き切る剣じゃない!切り裂く剣だ! 余計な力を入れるな!」

「はい!」


 余計な力を抜け……つまり予備動作が大きいと文哉さんは言っているのだろうが、俺の目には裕二の太刀筋が大振りになっている様には見えないんだけど……。

 そんな俺の感想を横に、二人の攻防は続く。


「それとな、勝負を焦るな! もっと相手と自分の立ち位置を、正確に認識しろ!」


 文哉さんは裕二の攻撃を凌ぎながら、何時の間にか裕二を俺達から離れさせる様に誘導していた。 

 そして、ある程度裕二が俺達から離れた時、裕二の攻撃を凌ぎ続けていた文哉さんは右手から白い何かを裕二目掛けて投げる。


「!? あっ!」 

「隙だらけだぞ!」


 裕二は反射的に白い何かを避けたのだが、避けた先には凛々華さんが立っていた。

 その事実に動揺し裕二は思わず動きを止め無防備な姿を晒してしまい、文哉さんの攻撃を受けてしまう。


「っ!?」


 俺は咄嗟に凛々華さんの前に出て模擬刀を振るい、飛んでくる白い何かを打ち落とす。白い何かは模擬刀に当たった瞬間に砕け、辺りに白い粉を撒き散らした。


「……チョーク?」


 砕けた白い何かを観察すると、その正体は俺達が良く目にするチョークだった。文哉さんは、袖口に隠し持っていたチョークを投げたのだ。

 俺が怪訝な表情を浮かべながら顔を上げると、そこでは裕二が文哉さんに叱責されている光景が広がっていた。  


「良いか? 護衛である以上、常に己の立ち位置を考えろ」

「……はい」

「立ち位置を把握していないと、今の様に護衛対象への奇襲を許し自分の隙にも繋がるからな」

「……はい」


 裕二は頭を垂れ落ち込みながら、文哉さんの説教を聴いていた。って! まだ稽古中なんですけど!?

 俺は咄嗟に、武器を仕舞い裕二に説教をしている文哉さんに攻撃を仕掛けようと、足に力をこめ飛び出そうとしたのだが……。

 

「いや? 残念だけど、もう終わりだよ?」

「えっ?」 


 背後から聞こえて来た声に反応し振り返ると、凛々華さんの右隣に模擬ナイフを手にした賢治さんが立っていた。


「……何時の間に」

「君が文哉の攻撃を凌いだ時にだね。攻撃を凌いだのは良いけど、そのせいで警戒が疎かになっていたよ。それまで目立つ隙がなかった分、残念だったかな?」

「……」


 賢治さんがシニカルな笑みを浮かべながら、俺の失点を指摘する。

 確かに、チョークを打ち落とす為に一瞬周辺警戒を解いたけど……その隙を突かれたのか。


「潜伏するのが得意な者が襲撃者に紛れていた場合、一瞬の無警戒が致命傷になるからな。どんな状況が起きても、警戒は切らさない様にしないといけないぞ?」

「……はい」


 賢治さんに説教されながら、俺も裕二と同じ様に項垂れた。

 

「さてと、文哉や明日香の方も終わったみたいだし、一旦戻ろうか?」

「……はい」


 明日香さんの名前が出たのでちらりと視線を柊さんの方に向けると、そこに明日香さんによって地面に仰向けに組み伏せられた柊さんの姿があった。


「槍を突き出すスピードは文句無しですが、長物の武器を使う場合はちゃんと重心を意識しておかないといけませんよ? でないと、突きの勢いを利用され今みたいに無様を晒す事になりますからね?」

「……はい」


 どうやら、柊さんもいい様に遊ばれたらしい。

 説教の内容を聞く限り、木の陰に隠れていた明日香さんを見付け攻撃を仕掛けた所までは良かったらしいのだが、柊さんが攻撃の為に突き出した槍の先端を合気の要領で捻られ空中で一回転させられ地面に転がされたらしい。

 柊さんの突きのスピードに合わせて、合気を仕掛けるって……トンでもないな。

    

 

 

 

 

 

 下山した俺達は幻夜さんの前に並んで、失敗した稽古内容を文哉さんが代表して報告をする。 


「そうか、君達の攻撃に気付ける様にはなったか……」

「はい。まだまだ荒削りではありますが、襲い来る敵の存在に気付かずにやられると言う事はないかと」

「なる程……」

 

 文哉さんの説明に一つ頷いた後、幻夜さんは俺達に視線を移す。 

 

「どうだね、実際彼らと直接やりあってみて?」


 幻夜さんにそう問われた俺達は互の顔を見合わせた後、裕二が代表して口を開いた。


「自分達の未熟さを痛感するばかりです」

「ほぉ、どんな事に未熟を感じるのかな?」

「どんな事かと言えば、全てですね。気配の察知の仕方や襲撃に対する対処法、上げればキリがありませんよ。自分達もそれ相応に武術の訓練を積んでいましたが、それらはあくまでも自身に向かってくる敵を倒すための武術で、誰かを守りながら使うと言うものではありませんから」

「ほぉ……」


 裕二の言う通りだな。俺達が重蔵さんに習っていた武術は、敵を倒し自身を守る為の武術だ。誰かを守りながら戦うと言うのは、主目的では無く結果として守っているというだけだった。

 だが、今俺達が幻夜さん達から学んでいるのは、誰かを守る為の武術だ。


「自身に向けられる敵意や殺意なら、これまでの経験のおかげで些細なものでもそれなりに感じられます。ですが、自身ではなく護衛対象に向けられている物となると勝手が違ってきますからね。こう言っては何ですが、第3段階までの稽古に付き合って頂いた方達の殺気や敵意は、護衛対象以外に向けられていても拡散していたので察知もある程度可能でした」

「……ふむ」


 幻夜さんの表情が、微かに歪む。 

 裕二が指摘した、門下生の未熟さが気になるのだろうか?


「逆に、加藤さん達の殺気や敵意は殆ど感じられません。視線も誰かに集中する事もありませんし」

「では今回、どうやって加藤君達の攻撃に気が付いたのかね?」


 幻夜さんの質問は尤もだ。敵意や視線を感じられない以上、俺達に襲撃を察知する方法はない筈なのだから。だが俺達は今回、文哉さん達の襲撃を察知している。


「俺達は今回、凛々華さんの反応を見ていました」

「凛々華の?」

「はい。これまでも稽古から、俺達に視線や敵意が向く事は無くとも凛々華さんになら向く可能性はあると思いまして、今回は凛々華さんの反応を観察しながら山を上っていました」

「なる程。それで、凛々華の反応から加藤君達の襲撃を察せたのかな?」

「はい。加藤さん達が攻撃を始める直前に僅かに漏れたのか、凛々華さんが反応していたので辛うじて襲撃を察知する事が出来ました」


 裕二は文哉さん達の方を伺いながら理由を説明する。

 

「へぇー、やるな、お前達」

「そうね。敢えて漏らしていたって言うのもあるけど、それに気付いて対応するなんてやるじゃない」

「そうだな」

「私の反応を見ていたんですか……全然気付きませんでした」


 裕二が察知出来た理由は正解だったらしく、師範三人組は感心した様な雰囲気を出し、凛々華さんは驚いたような表情を浮かべた後落ち込んでいた。

 そして幻夜さんは少し考えこんだ後、文哉さんに声をかける。 


「……加藤君」  

「はい」

「彼等の稽古内容なのだが護衛対象がいなかった場合、条件をクリア出来ると思うかね?」

「護衛なしで、ですか? そうですね……多分出来ますね」


 幻夜さんの問いに文哉さんは少し考えた後、真剣な表情を浮かべ出来ると返事を返す。


「護衛対象がいないのなら、こいつらの力は十分一流クラスの奴らが相手でも戦えるレベルですよ。勝てるかと聞かれると、勝てるとは断言出来ませんけど」

「分かった。ありがとう加藤君、参考にさせて貰うよ」

「はい」

「では、少し休憩を挟んだ後、もう一度挑戦してもらうとしよう。室井君、皆に飲み物を出してやってくれ」

「はい」

 

 幻夜さんに促され、室井さんがクーラーボックスからミニペットボトルのお茶を取り出し配り始める。俺はお茶を受け取りながら、先程の2人の会話の意味を考えていた。








 惜しい所まで行ったのだが、今日も稽古をクリア出来ずに終わった。

 やはり純粋な技量差から来る差は大きく、交戦を避け逃走に徹しても、潜んでいた師範三人組の奇襲を凌ぎ切れずに山を出る前に捕捉され戦闘に発展。交戦中に僅かな隙を突かれ、飛び道具による攻撃で凛々華さんをやられてしまった。

 一度経験したので飛び道具には十分警戒していたのだが、まさかアイコンタクトだけで連携して武器を弾き合わせ攻撃するなんて思ってもみなかったよ。あんな攻撃方法があるなんてな……。

 俺達は車中で意気消沈しつつ、室井さんの運転する車で送って貰い帰宅する。

 

「ただいま」

「おかえり!」

「お帰りなさい」

「おかえり」


 リビングに上がると美佳と母さん、そして珍しく父さんが迎えてくれた。


「あれ? 父さん今日は早いね」

「まぁ、たまにはな。今日は会社の飲み会もなかったし、早く帰ってきたんだよ」

「へぇー、そうなんだ」


 俺が父さんと話していると、美佳が声をかけてくる。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん! あの書類貸してよ」

「あの書類? ……ああ、創部届けの事か」

「ねぇ、良いでしょ?」

「別に良いけど、何に使うんだ?」

「お母さんとお父さんに見せるの」

「ふーん」


 俺は美佳にせがまれるまま、カバンの中から書類を取り出して渡す。


「汚すなよ?」

「うん!」


 美佳は書類を持って、台所で夕食の準備をしている母さんに見せに行った。

 そして、俺達の話を聞いていた父さんが尋ねてくる。


「何だ、お前達部活を立ち上げたのか?」

「うん。まだ立ち上げ途中で、部じゃなく同好会なんだけどね」

「そうか。まぁ、学生の内は色々経験しておいた方が良いからな。きっと良い経験になるさ、頑張れよ」

「……うん」

 

 俺は父さんに返事をしながら、顔の表情が引き釣らない様に何とか耐える。

 普通の部活なら父さんの言う通り良い経験になるのだろうが、設立理由が理由だからな……。素直に父さんの言葉を聞けない自分が、少し物哀しいかな?


「大樹、ご飯にするから荷物を置いてきなさい」

「はーい。じゃっ父さん、ちょっと部屋に荷物を置いてくるから」

「ああ」

「美佳! 部屋に戻るから、書類返せよ」

「あっ、はーい!」


 俺は美佳から書類を返して貰い、部屋に荷物を置きにリビングを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

段々師範3人組の動きが見える様になり始めました。

ですが、見えたからと言って勝てるかは別問題。


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― 新着の感想 ―
よく考えたら探索者の大人組で犯罪者が出るかもしれんし、留年組も暴挙に出る可能性は捨てきれんからな…… 襲撃前に一度冷静になってしっかりスキル使って襲撃してくる可能性もあるから、無駄にはならんやろ
[良い点] 留年生グループからしたら大人の力を背景に学校外の自由な活動を潰しに来る先生の手先って感じでしょうね。 「先生にチクる」 生徒達にとってはかなりマイナスな印象。 まさに権力者にすりより我を…
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