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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第114話 柊さんに説明する

お気に入り11370超、PV7220000超、ジャンル別日刊40位、応援ありがとうございます。






 俺は柊さんの質問を聞き、軽く目を見開き驚く。前に3人で、美佳達にはアレの事は教えないと決めた筈なのにと。

 だが、柊さんが俺に向けてくる目を見て、質問の意図を問い質す様な言葉を口には出さず飲み込む。柊さんの目には、年下の後輩の身を真剣に案じる感情が簡単に見て取れたからだ。

 少し目を閉じ沈黙した後、俺は小さな声であったがハッキリとした声で柊さんに答えを返す。


「うん。今の所、美佳達にアレの存在を教える気はないよ」

「本当に良いの? アレを使えば、確実に美佳ちゃん達の安全は確保出来るのよ?」


 柊さんは不安と心配が入り混じった様な表情を顔に浮かべ、俺の顔を覗き込んでくる。


「そうなんだけど、以前相談した時とは状況が変わっちゃったからね。今アレの存在を美佳達に教えるのは、美佳達の為にならないと思うから」

「美佳ちゃん達の為にならない?」

「……大樹、それはどう言う事だ?」


 柊さんと小声で話していると俺の隣で黙って座っていた裕二が、聞き捨てならないとばかりに話に参加してきた。

 俺は二人の顔を見回した後、小声で自分の考えを口にする。


「美佳達が個人もしくは俺達のパーティーメンバーとしてダンジョンに挑むのなら、俺もアレを積極的に使ってレベルの底上げをしようと提案するよ。前と同じ様にね。でも、美佳達が探索者になって、対抗組織を立ち上げようとしている今はダメだと思う」

「何でダメなんだ? 対抗組織を作るんだから、探索者としての能力は高い方が良くないか?」

「そうよ。相手の組織より強いって言うのは、立派なアピールポイントになるわ」


 俺は二人の意見を聞いて、静かに首を左右に振るう。

 

「確かに2人が言う様に、強いって言うのは対抗組織としての性質を考えれば必須項目と言えるよ。部員として1年生を勧誘する時にも、有効に働くと思う。でも、強いだけじゃ組織を維持出来無くなると思うんだ」

「……維持出来無くなる?」

「九重君、それはどう言う事なの?」


 俺の考えを聞き、2人は頭に疑問符を浮かべる。


「2人がアレを使って留年生より強く……もしくは同等になれば、対抗組織としては名実共に十分機能する事になると思うよ、最初はね。でも代わりに、時間が経てば組織が瓦解する危険性が出てくると思うんだ」

「? どうして、瓦解する可能性が出てくるんだよ。基本的に部員になるターゲット層は、留年生達の活動に反感を持つ反対派と、反対派よりの中立派だろ? 折角対抗組織が出来たのに、時間が経ったとしても瓦解するか?」

「仮に瓦解しなくても、内部分裂して統制は取りにくくなるだろうね。特に、組織が大きくなればなる程」

「「?」」

  

 どうやら、2人は更に分からなくなって来たようだ。


「確かに俺達が今から立ち上げようとしている組織……部活なんだけどさ。大義名分(暴走抑止)錦の御旗(学校公認組織)もあるけど、部員の大半を占める1年生を率いるのは美佳達なんだよ?」

「あっ」

「?」


 裕二は俺が言いたい事に気が付いた様だ。


「俺達2年生と1年生達では、間に見え無い壁があって介入しづらいからな。名目上俺達が部活の上位者にはなると思うけど、後見人的立場について積極的に介入するつもりは無いだろ? そうなると、1年生間での活動のメインは美佳達が引き受ける形になるじゃないか」


 この壁が無いのなら、既に上級生が介入して留年生達のチームを潰している筈だからな。だけどあの連中は巧みに1年生の範囲の中で活動しているからこそ、上級生達も介入出来ない状況になっているのだ。

 下級生の問題に上級生が無遠慮に首を突っ込んで介入してくるのは、酷くカッコ悪い行為だと言う風潮を作って。


「こう言ったら何だけど、美佳達に大人数を率いる素養があると思う?」

「それは……」

「……無い、と思うわ」

「美佳達は只の高校生だからね。漫画に出てくる様な、有無を言わせない圧倒的なカリスマ性は持っていないし、黙っていても周りから人が集まってくるような人徳があるって言うタイプでもない。そうなると、2人が人を率いるのに必要な物は何だと思う?」

「「……」」


 俺の問い掛けに、2人は考え込んで黙り込む。

 漫画的王道展開ならこう言う場合、主人公が組織を立ち上げたら勝手に有能な人が集まって来て一致団結し、敵対する敵や組織を倒すって言う流れになるんだろうけど、現実問題として見るとそうは行かない。大義名分を掲げて人を集めても、行動の方向性は一致していても個人個人の考えは千差万別。組織は立ち上げるよりも、維持する方が難しいのだ。

 そして、組織を維持するのに必要な物の代表的な物と言えば、人を引き付けるカリスマ性や人徳、義務感や高待遇等など。どれも、普通の高校生が用意するには困難極まりない物ばかりだ。その上、俺達の立ち上げる予定の部活は設立目的からして、夢やロマンと言った物を語るには生々しいし相応しくはない。 

 ならば、何を以て人を纏めるかと考えると……。


「……俺が美佳達に必要と思う物は、共感させる事だと思うんだ」

「共感?」

「美佳達の起こした行動が、自分達も考えていた行動だって思わせるんだ」


 美佳達の行動は切っ掛けだ。

 最初の一歩を自分で踏み出す勇気は無いが、行動を起こした者に賛同すると言う層は一定数存在する。小人数のデモが、大規模デモに発展する過程と同じだ。そういう者達は、美佳達の起こした行動に共感し賛同し行動を起こす。


「それが出来れば一気に対抗組織は拡大するだろうし、組織を維持する事も割と楽になるんじゃないかな。少なくとも、留年生達の組織を壊滅させるまでは陣容を保てると思う」

「……確かにそうだな」


 新部の創設目的からして、留年生達の問題さえ解決したら後は肥大化した陣容を維持する必要は無いからな。段階的に組織を解体して行き、最終的に自分達が残ればそれで良い。

その為にも……。


「美佳達には、人が共感する要素は沢山あった方が良いと思うんだ」

「なる程な」

「でも九重君、その事と美佳ちゃん達にアレを使わせない事がどう関係するのよ?」


 裕二も柊さんも、俺の考えに基本的には賛同してくれてはいたらしいのだが、やはり疑問も残っているようだ。まっ、当然だな。

 だからこそ、俺はこの質問を2人にぶつける。


「ねぇ、裕二、柊さん。一つ質問なんだけど、初めてダンジョン攻略に挑んだ後に感じた感想は何?」

「ん? 初めてダンジョン攻略をした時の? そうだな……気持ち悪かったって言う感想かな?」

「そうね。私も広瀬君と同じで、気持ち悪かったって感想ね。モンスターを殺した時の感触が、とても気持ち悪かったのを今でも覚えているわ……」


 やっぱり、そう言う感想になるよな。


「俺も二人と同じ感想だよ。でも、普通の探索者が初ダンジョン攻略後に持っている感想は、怖かったって言う物が大半だよ」

「「!?」」

 

 裕二と柊さんが、俺の答えを聞き眉をはね上げ驚いた。

 そう、俺達が初ダンジョン攻略後に抱いたのは嫌悪の感情だが、普通の探索者が抱く感情は恐怖だ。どうしてこんな差が出たかと考えると、自ずと答えが出る。


「俺達は初めてのダンジョン攻略に行く前に、アレで底上げをしたからね。ダンジョンでモンスターと遭遇しても力の差から大して怖いとは思わなかったし、その後の体験の方が強烈な印象として残ったからそうなったんだと思う」


 スライムダンジョンの御陰で、俺達はダンジョン攻略に苦労はしていない。だがそのせいで、俺達の持っている感性は普通の探索者とは異なる物になっている。

 今回の様に、共感でもって組織を作ろうとしているのなら、この差は致命的と言っても良い。


「今の1年生の中にも留年生達に迎合していない探索者はそれなりの数が居るだろうし、時間が経てば集まったメンバーの中から探索者になる1年生も増える。美佳達が自分達とは違う感性を持っていると気が付いた時、果たしてそういう連中は美佳達の行動に共感してくれるだろうか?」

「それは……」

「美佳達がアレを使って底上げして、最初から容易くダンジョン攻略した場合、俺達と似た感性を身に付けさせる事になるかも知れない。無いとは思うけど、美佳達が容易くダンジョンを攻略出来る事を鼻に掛けたかの様な行動もしくは匂わす様な行動を取ったら、周りからは強者の道楽として捉えられかねない」


 探索者としての、力や実績を誇示する鼻に付く奴、そう取られるかもしれない。一度そう受け取られれば、偏見のフィルターが入り、美佳達がどんな行動を取ったとしても、悪い様にしか見られなくなるだろう。

 そうなったら、他人からの好意的な共感を得る事は出来無いだろうからな。

 

「そうなれば何れ、探索者連中を中心に不平不満がつのって内部に亀裂が入るんじゃないかな? 一度亀裂が入ればそこを起点に亀裂は広がり、何れは組織を破綻させる要因になると思うんだ」


 人間、不満を持ったまま、組織に属し続けると言う事は、中々に難しい。自立した、社会人の大人ならば、養う義務を持つ、家族の生活を守る等の理由から、艱難辛苦の末に我慢し続ける事も、出来るかもしれない。だが、学生の場合どうだ? 一般的に、生活基盤は基本的に、親と言う保護者に依存しており、生活の為に無理に、組織に属し続ける必要性は無い。その上、俺達が立ち上げる新部は、あくまでも校内に多数存在する、部活の中の一組織に過ぎないのだ。嫌になったから辞めたとて、誰に責められると言う物では無い。

 そして1人でも不満を理由に辞めると、連鎖的に不満を持つ者は辞めて行くだろう。沈む船から早く逃げ出せ、と言う様に。 


「「……」」

「だからこそ俺は今、美佳達にアレを使わせるのは得策じゃないと思うんだ。確かに美佳達の安全を考えれば今の内にアレを使わせるべきなんだろうけど、組織を率いてあの連中と対抗すると美佳達が決めた以上、俺はそれが成功する様に応援しようと思うんだ」


 アレを使う事が、美佳達の為になるとは限らない。


「俺達が美佳達を連れてダンジョンでパワーレベリングするだけならば、アレを使って強くなる場合と違い、一般の探索者と感性の齟齬が起きる可能性は減ると思うんだ。幾ら俺達が強くて周りを固めていたとしても、美佳達自身が強いと言う訳では無いからね。美佳達が無防備に一撃を喰らえば、間違いなく大怪我を負う。俺達の様に、初ダンジョン攻略で恐怖心を抱かないと言う事態は起きないと思うよ」


 幸か不幸か俺達は幻夜さんの下で、護衛に必要な技能を得る訓練を設けている。過信する訳では無いが、表層階のモンスターが相手ならば美佳達を守りながらでも後れを取る事は無い。

 もしかして、ここまで考えて重蔵さんは俺達に幻夜さんを紹介してくれたのだろうか?


「裕二、柊さん。俺は十人十色の体験をする探索者の共感を得られる事が出来る事柄は、基本的に2つしかないと思っているんだ。探索者試験での体験と、初ダンジョン攻略での体験だよ。この2つは探索者をやるのなら、必ず共通して体験する経験だからね」

「……ああ、そうだな」

「……」    

「その共通して体験する経験を、アレを使って底上げしたら他人とは共有出来無い経験に変わるんだ。共通する根本の部分で共感出来ない……組織を率いる人間の体験と考えると致命的だよね?」


 だからこそ、今の状況で美佳達にスライムダンジョンを使わせる事は避けた方がいいと俺は思う。 


「柊さん。コレが俺が今の段階で美佳達にアレの存在を教えないといった理由だよ」

「……」


 俺の説明を聞き終わり、柊さんは目を閉じ考え込む。

 そして、1分程間を開け柊さんは口を開いた。


「……九重君の考えは良く分かったわ。確かに九重君の言う様な事は、ありえるのかもしれないわ。アレを使った事で生まれるデメリットか……それは私達がいま散々実感している事柄だものね」

「うん」


 そのせいで、俺達は今幻夜さんの下でキツイ訓練を受けているんだからね。まぁ、必要な事だとは理解してるけど。 


「……分かったわ。私も出来る限り美佳ちゃん達のフォローをさせて貰うわね」

「俺も、微力ながら力を貸すよ」

「ありがとう、柊さん、裕二」


 俺は二人に軽く頭を下げ、協力の申し出にお礼を言った。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人と話している内に、思っていた以上に時間は過ぎていて室井さんが迎えに来る時間になっていた。重蔵さんに美佳達の稽古を頼んだ後、俺達は道場を退席し正門前で待っている室井さんの車に乗り込んだ。

 

「よろしくお願いします」

「はい」


 軽く挨拶を交わした後、直ぐに車は動き出した。

 さて、テスト結果も良好だったんだ、今日こそ第3段階をクリア出来る様に頑張るか!

 


 

 

 

 

 

 

 

 


利権やカリスマ性、人徳なんかも無いのに、優越感の様な物が見え隠れする鼻持ちならない人物がリーダーを務める組織って、だいたい短命ですよね?

 


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[気になる点] なんかニートが一生懸命部屋から出ない言い訳語ってるみたいで草 組織のトップなんて神輿やから担がれてなんぼやし 始めは皆素人トップなんやで 経験を積み重ねカリスマなり纏っていくもんや 後…
[一言] 強いだけじゃ組織を維持出来無くなると思うんだ」「……維持出来無くなる?」 妹の命の安全より、組織の維持が大切ですか。どれだけの人が、この考えに共感できるのかな。
[良い点] 共感を柱にする方がよっぽど短命だと思いますが、主人公の俺TUEEEEE維持のための言い訳ですから、そんなの関係ないですよね?
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