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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第113話 テストの結果は……

お気に入り11350超、PV 7170000超、ジャンル別日刊23位、応援ありがとうございます。






 中間考査が終わった翌日から採点が終わった物から順次テストが返却され始め、土曜日の今日で全てのテスト用紙が返却された。一喜一憂。十人十色。学校のあちらこちらで、テストに関する悲喜交々の寸劇が数多く展開されている。

 そして俺達も、その寸劇の当事者であった。


「裕二……結果はどうだった?」

「まぁまぁかな? 勉強会の効果はあったぞ。1つだけ平均点以下の教科はあったけど、後の教科は平均点以上が取れていた。大樹は?」

「俺も、まぁまぁかな? 全教科、平均点以上は取れたよ」


 俺と裕二はお互いにテスト結果を教え合い、良好な結果に安堵する。2年最初の定期考査と言う事もあり、テスト返還は中々緊張したな。


「良いよな。景気の良い話が出来る奴らは……」

「「ん?」」


 俺の席で裕二と話していると、近くから恨みがましい声が響いてきた。声がする方に目を向けてみると、声の主は机に力無く倒れ伏している重盛だ。

 机に伏したまま顔だけ俺達の方に傾け、弱々しいハイライトが消えた目を向けて来ていた。


「……どうした重盛、目が死んでるぞ?」

「ああ、死んだ魚のような目だな」

「……ふっ」


 重盛のあまりの悲惨な有様に、俺と裕二は頬を引きつらせながら声をかける。

 そして、俺達のかけた言葉に反応し重盛は自虐に満ち満ちた鼻息を一つ立てた。 

 

「ああ、そうさ。どうせ俺は、岸に打ち上げられ死にかけている小魚だよ」


 おいおい、本格的にどうした?

 想像以上に打ち拉がれ絶望している重盛に、俺と裕二は何と声を掛けて良いのか分からず、より引き攣り具合が大きくなった顔を見合わせる。


「お前……もしかして、テストの結果が?」

「……ふっ」


 どうやら正解らしい。

 

「お前らは良いよな。平均以上だ、平均以下だのの話が出来て。俺なんかな……平均以上なんて、一つもないんだぞ?」

「……うわぁ」

「そ、そうなのか?」

「……」


 話を聞いた俺達の反応に、重盛のハイライトが消えた目が虚ろになっていく。

 って、やばいやばい!


「おい、重盛! 正気に戻れ!」


 俺は慌てて重盛の体を揺すり、正気を取り戻させようとした。それが功を奏したのか、次第に重盛の目に光が戻っていく。

 ふぅ、良かった。

 俺と裕二は重盛が落ち着きを取り戻した頃あいを見計らい、話の続きを聞く。


「……ごめん、迷惑かけた」

「いや、それは良いんだけど……正気を失う程酷い結果だったのか?」

「何とか、赤点だけは避けられたけど……全滅と言っても過言で無い惨憺たる結果だよ」


 そう言って重盛は上体を起こし、机からクリアファイルを取り出し俺達の前に置く。


「……見てみろよ」

「じゃあ、失礼して……」


 クリアファイルを開き、中からテスト用紙を取り出し手早く目を通す。 

 うわっ、コレはないわ……。重盛のテストは殆どが50点台前半、いくつか40点台が混じっていた。

 何やってんの?と言う感想を眼差しに乗せ、テスト用紙に目を通した俺と裕二は重盛を見た。


「そんな目で見るなよ……今回のテストで張っていた山が尽く全部外れたんだよ。まさか、こんな事になるだなんて……」


 そう言って、重盛は再び机に力無く伏した。

 ああ、なる程。重盛はテストで、山を張るタイプなのか。確かに当たればデカいけど、外したらな……。

 今回は悪い方に傾いたか。


「くそ、山が当たってれば俺も8割9割は堅かったのに……」


 ギャンブラーだな、コイツ。8割9割って、どんだけデカい山を張っているんだよ……。  

 ひょっとしてコイツ、今までの試験も山張りで乗り越えてきたのか?


「……まぁ、何だ? 今回は運がなかったな」

「そうだな。まぁ不幸中の幸い、赤点を逃れているんだ。次のテストで頑張れば、挽回出来るさ」

「……」


 俺と裕二はテスト用紙をクリアファイルに戻し、机に伏している重盛の腕の下に差し込み肩を軽く叩いて励ました。

 残念な結果ではあるが終わってしまった以上、どうしようもないしな。まぁ、赤点は出していないんだから、次頑張れとしか言いようがない。

 

 

 

 

 

  

  


 放課後。それぞれの稽古場に移動する前に、俺達5人は学食に集まって昼食を取っていた。  

 因みに、今回のメニューは全員カレーだ。


「へー、そんな事があったんだ」

「ああ、アレにはどう言えば良いのか参ったよ、本当」


 山張りを失敗した重盛の事を美佳達女性陣に話をしながら、俺はカレー皿を突く。話し始めの掴みには、丁度良い話題だからな……本人の近くでは言えないけど。


「それで、美佳達のテスト結果はどうだったんだ? 俺と裕二は勉強会の効果もあって、まぁまぁの結果だったぞ」

 

 さり気無く俺達のテスト結果を挟みながら、本題を聞く。美佳達は手に持っていたスプーンの動きを止め顔を見合わせた後、まず最初に柊さんが口を開いた。


「私のテスト結果も、まぁまぁだったわよ。平均点以下の教科は無いしね」

「私もです。全教科、平均点以上は取りました」


 柊さんは、当然と言った様子でテスト結果を口にし、沙織ちゃんも予想通りだといった様子で、テスト結果を口にした。まぁこの2人に関しては、勉強会の様子から、そんなに心配はしなくても大丈夫だろう、と思っていたから問題は無い。

 問題は……。


「美佳のテスト結果はどうだったんだ?」

「えっと、あの、その……」


 俺の質問に、美佳は答えづらそうに口篭る。

 そんな美佳の様子を見て、俺はテストの結果を察した。


「美佳?」

「その……文系科目は8割以上取れたんだけど、理系科目が、あの、その……」

「赤点か?」

「ううん。赤点は取ってないよ。只、平均点より大分下だったって言うだけで……」


 美佳の話を詳しく聞くと、理系科目のテスト結果が50点台前半だったとの事だ。理系が苦手な美佳が、赤点を取らなかった事を褒めれば良いのか、もっと頑張れと発破をかければ良いのか……。 

 

「でも、お兄ちゃん。平均点以下だったとしても、赤点は避けられたんだから私、明日の試験は受験出来るよね?」

「まぁ、赤点を取ったら中止って約束だったからな……母さんから小言を貰うかもしれないけど大丈夫だろう」

「やった! でも……小言があるんだ」


 俺の返事に美佳は一瞬喜んで、直ぐに落ち込んだ。

 

「探索者をやっていない状況で、理系科目が50点台前半だからな。探索者をやったら、更に悪い点をとるんじゃないかと思われても不思議じゃないさ。せめて60点台をとっていれば、小言はなかったかもな」

「あうっ」


 美佳は悔し気な声を漏らす。まぁ、一言二言の短い小言だろうから、我慢するんだな。

 しかし、まぁこれで……今回のテストは結果を含めて無事終了だ。

 後は……。


「例の集団の、テスト結果がどうなったかだな……」

「ああ。構成メンバーから何人か赤点者が出ていれば、学業不振を理由に学校側も連中の活動への介入をするだろうな」

「そうね。それが一番楽なんだけど……美佳ちゃん、沙織ちゃん、そこの辺はどうなっているの?」


 俺達3人の期待と疑問の込められた視線が、1年生コンビに注がれる。

 だが……。


「……」

「……」


 二人は俺達の視線の先で、無言で悔し気な表情を浮かべていた。

 つまりは……。


「残念だけどお兄ちゃん、アイツ等の中から赤点を出した人は居なかったみたいだよ。ねっ、沙織ちゃん?」

「うん。リーダーの留年生がメンバーからの報告を受けて、胸をなで下ろしている姿を見ました。あの様子だと、赤点ギリギリのメンバーは居ても、実際に赤点を出した人はいなかったんだと思います」

「……そっか、赤点者は出なかったんだ」

「うん」

「はい」 


 全くもって、残念極まりない事だな。 

 裕二の言う様にチームメンバーの中に赤点者が居ればそこを突破口に学校側も、留年生チームを構成する者達に生活指導と言う名の介入が出来たんだろうに。このタイミングで学校側が介入出来ないと言う事は、事態の初期消火には失敗したと言う事だ。

 新年度が始まってそれほど時間が経っていないこの段階で学校の指導が入っていれば、学校側に目を付けられている団体だと言う印象を勧誘ターゲットになっている新入生に植え付ける事が出来、組織拡大に歯止めが掛けられただろう。上手く行けば、立ち上がったばかりの組織なので解体も容易に出来ていた可能性があった。

 だが、このタイミングでの学校側の介入を逃した以上、彼らの組織固めも今まで以上に進むだろうな。加えて、今回のテストで雑多な個性を持つ構成員全員が赤点を回避したと言う実績が団体についた。成績に悩む者達を誘う勧誘文句に、打って付けの実績だろう。羽振りが良く、構成人数も多い、更に学業サポートも付く。誘われれば、その誘いに乗る者も出てくるだろうな。 


「美佳、彼等はもう何か行動を取っているか?」

「うん。テストの慰労会だって言って、この後パーティーを開くみたいだよ」

「確か近くのカラオケに行くって言って、参加者を募っていました」


 行動が素早い……開放感で皆の気が緩んでいる所を狙ったのか。

 テストが終わった時に騒げなかった分、みんな今日騒ごうと思っていただろうからな。


「今まで興味なさそうにしていた人も、折角だからって言って何人か誘われてパーティーに参加するって言っていたよね?」

「うん。でも、新規参加する人達ってテスト結果に落ち込んでいる人が多くなかった?」

「そう言えば、赤点を取って落ち込んでいた人に積極的に声をかけてた様な……」

「そうか」


 やっぱりそこの層を狙って、勧誘するんだな。テスト結果で気落ちしていると言う事は、心に付け込む隙があると言う事だ。効果的な説得をするのなら、相手が精神的に無防備になっている時にするのが常套手段だからな。

 実際に何人勧誘出来るかは分からないが、組織が拡大するのは間違いないだろう。


 

 

 

 

 

  

 

 食べ終わった食器類を片付け、俺達は食堂を後にし部活に励む生徒達を横目に下校する。

 そして、室井さんとの待ち合わせ場所になっている裕二の家を目指し、明日の事について美佳達と話しながら移動していた。

 

「俺達が受けた時の試験内容と変わっていないのなら、事前講習を受けた後にマークシート式の筆記試験を受ける。その後は、念入りな準備運動をしてからの実技試験だな」

「そうね。でも安心して、筆記試験は講師の先生の話を聞いていれば7割8割は解けるわ」 

「実技講習も、家の爺さんの稽古を受けていたのならクリアするのはそう難しくはないと思うぞ?」


 俺達は口々に明日探索者試験を受ける美佳達に、自分達が受けた探索者試験の経験談を語る。実際問題、今の美佳達ならあの程度の難易度の試験は苦もなく突破できるだろう。

 まぁ、元々合格基準がかなり甘い試験だからな。


「お兄ちゃん達の話を聞いていると、大して難しい様には聞こえないんだけど……ホントなの?」

「ホントだよ。こんな事で嘘を言っても仕方ないだろ?」

「うん、まぁ、そうなんだけど……」


 俺達の話を聞き、美佳と沙織ちゃんの試験に向けた緊張が必要以上に解けている様に見えるので、一応油断し過ぎない様に釘は刺しておくか。


「でも、だからと言って油断はするなよ? 油断していると、思い掛けない所で躓いて不合格になるからな?」

「うん!」

「はい」


 二人は素直に俺の注意に返事を返し、表情を引き締める。まぁ、この調子なら大丈夫か……。

 その後も歩きながら明日の探索者試験について皆で話し合っていると、何時の間にか裕二の家に到着していた。だがそこには、あると思っていた物が無い。


「あれ? 室井さんの車が無いね」

「そうだな、まだ来ていないのかな?」


 裕二の家の前には待っている筈の室井さんの車の姿は無かった。 


「待ち合わせ時間は、間違ってないよな?」   

「ああ。ちょっと確認を取ってみるから、少し待ってくれ」


 そう言って、裕二は懐からスマホを取り出し、室井さんに電話をかけ始めた。

 数回の呼び出し音の後、室井さんが電話に出る。


「あっ、もしもし。広瀬です。お世話になっています。あっ、はい。そうです、待ち合わせの件で。あっ、そうなんですか? はい、分かりました。では、失礼します」


 電話を切った裕二はスマホを元の場所に仕舞い、俺達に電話の結果を報告する。


「向こうで少しトラブルが有ったらしくてな、迎えに来るのが少し遅れるそうだ」

「ああ、そうなんだ」

「30分もあれば迎えに来れるそうだ。だから時間まで、家に上がって待っていないか?」

「賛成」


 という事で、俺達は裕二の家で室井さんが到着するまで休憩する事にした。

 始めは裕二の部屋で休ませて貰おうかと思ったが、重蔵さんに挨拶をしないといけないなと思い道場に移動。最終的には、時間まで美佳達の稽古風景を見学する事になった。

  

「ねぇ、九重君。一つ聞いても良いかしら?」

「ん? 何?」


 美佳達が重蔵さんに素振りを指導されている姿を横目で見ながら、柊さんが小声で話しかけてきた。


「一度反対した私がこう言うのはあれだけど、九重君はアレを使って美佳ちゃん達の底上げをするつもりは本当にもう無いの?」


 柊さんは俺の目を真っ直ぐ見ながら、そう問い掛けて来た。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テストは、日々の努力の積み重ねが大事ですね。

残念ながら今回のテストでは、留学生達から赤点者はギリギリ出ませんでした。

こう言う連中はしぶといですからね。



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