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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第111話 第3段階スタート

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皆様、応援ありがとうございます!





 プレハブ小屋の中にいる人の多さに圧倒されていると、俺達の入室に気が付いた凛々華さんが声をかけながら近寄って来てくれた。


「こんにちは皆さん、お久しぶりですね。テストの調子はどうでした? 上手く行きましたか?」 

「えっ、あっ、はい。そこそこの手応えはありましたので、恐らく大丈夫だとは思いますけど……この人集りは何ですか?」


 にこやかに話しかけて来てくれる凛々華さんに返事を返しつつ、裕二がプレハブ小屋の中の人の多さについて控え気味に問いかける。


「この人達は家の門下生の方です、今日の皆さんの稽古の敵役を務めてくれます」

「……ここにいる人達、全員が敵役でですか?」

「ええ。山全体を使った稽古ですからね、コレくらいは人手が必要になります」

「……そう、ですか」


 聞き間違えかと思ったが、何の気無しに答えを返す凛々華さんの様子に嘘や冗談ではないのだと俺達は認識し覚悟を決める。どうやらこれまでの稽古以上に、一筋縄では行かないらしい。 

 俺達が入り口付近で凛々華さんと話していると、何時の間にか近付いて来ていた幻夜さんに声をかけられた。


「悪いね君達、定期試験が終わって直ぐに稽古再開で……」

「いえ、自分達の方から稽古をお願いしている立場ですし、気に為さらないで下さい」

「もう少し間を置いても良いとは思うんだが、あまり間を開けるとせっかく鍛えた感覚が鈍ってしまうからね。これからの稽古内容を考えると、出来ればそれは避けたかったんだよ」

「なる程、そうですか」


 確かに、幻夜さんの言う通りだ。あまり稽古を休む時間をとると、前回GWでやった様に腕が鈍りまくるからな。あの時の二の舞は勘弁して貰いたい、特に今回のペナルティーである電撃は痛いんだから。


「そう言えば君達、お昼は取ったかね? まだ食べていないのなら、用意して来た弁当に少し余りがあるが……」

「あっ、大丈夫です。ここに来る途中の車の中で、コンビニで買ったおにぎりを食べましたから」

「そうかね?」

「はい。お気遣い、ありがとうございます」


 弁当が余っていたのか……おしかったな、もう少し早く知っていれば馬鹿高いおにぎりなんて買わなかったのに。


「では早速、稽古の準備を始めるとするかな」


 そう言って幻夜さんは、俺達に背を向け柏手を打つ。

 プレハブ小屋の中に手を打ち合わせた音が響き、門下生達の注目が幻夜さんに集中する。門下生達の視線が集まった事を確認し、幻夜さんは口を開く。


「さて、諸君。そろそろ稽古の準備を始めよう。初見になる者も居るだろうが、彼らが今日の稽古相手だ。さっ、広瀬君」


 そう言って、幻夜さんは俺達を門下生達に紹介する。

 突然話を振られた裕二は、幻夜さんに促され戸惑いながら自己紹介を始めた。


「えっと、あの、広瀬です。皆さん、お忙しい所、今日は俺達の稽古にお付き合い頂きありがとうございます! よろしくお願いします!」

「「よろしくお願いします」」


 30人近い人の前で緊張し上手くスピーチ出来なかったみたいだが、裕二が頭を下げお礼の言葉を紡いだのに合わせ、俺と柊さんも頭を下げた。これから直ぐに敵味方に分かれて攻守でやり合うが、手心をと言う訳では無いが互いに礼節は大事だからな。

 俺達が頭を下げたタイミングで門下生達から拍手が起きたので、無事受け入れて貰えた様だ。


「では、挨拶はこの辺にして、稽古を始めよう。これより30分後に、彼等には山に入って貰う。各自30分以内に準備を整える様に……解散」


 幻夜さんの締めの言葉に合わせ、門下生達は各々荷物を持ちプレハブ小屋から出て行く。その際、門下生の方達は俺達に一言ずつ挨拶をして出て行った。

 そして、物の5分もせずプレハブ小屋の中から俺達を除いて人気が消える。


「では私も外で待っているので、君達も稽古着に着替えなさい。分かっているとは思うが、既にスタートまでのカウントは始まっているのだからね?」

「はい」


 幻夜さんと凛々華さんがプレハブ小屋を出て行ったので、俺達は急いで稽古着に着替え始める。最初の頃は柊さんとパーティションを挟んで着替えていると言う事実に緊張していたが、今ではもう慣れてしまい緊張の一つさえしなくなったな。俺達は手早く稽古着に着替え、ビリビリ装置を手足に装着しプレハブ小屋を出た。

 すると、何時もの折りたたみ椅子に座ったままの幻夜さんが、顔だけ俺達の方に向け話しかけてくる。


「早かったね。スタートまで15分ほど時間が残っているよ。さっ、今回の稽古内容について説明しようか」

「はっ、はい」

 

 幻夜さんは椅子から立ち上がり、何時も稽古に使っていた物と違う地図を俺達に渡してくる。受け取った地図を広げてみると、山の中にA~Hまでの記号が振られた8つの印が書き込まれていた。


「地図を見て分かる通り、今回の稽古では山の中には8つ通過ポイントが設定されている。君達にはこれらのポイントを巡り、各ポイントの到達証明を集めここに戻って貰う」

「ポイントを回る順番は、地図に書き込まれている記号順ですか?」

「特に回る順番の指定はしていない。君達でポイントをどう言う順番で回るかを決めてくれれば良い。稽古のクリア条件は今までの稽古と同様、制限時間内に到達証明を集め無傷で帰還する事。これだけだ」

「今回の制限時間は、どれくらいですか?」

「制限時間は3時間だよ」

「3時間……ですか」


 第2段階を制限時間ギリギリでクリアした以上、3時間と言う制限時間はかなり厳しい時間設定の様な気がしてならない。これは通過ポイントを回るルートの選定が、クリアするかどうかを決める重要な物になるな。

 俺達が地図を真剣に見始めた事を察した幻夜さんは、稽古の説明を締める。


「私からの稽古の説明は以上だ、今回の稽古ではトラップも潜伏者の数も大幅に増えている。十分気を付ける様に。では後7分程でスタートだが、スタートまでの時間を有意義に使ってくれ」

「はい」


 そう言って、幻夜さんは元の折りたたみ椅子に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は貰った地図を突き合わせ、ポイントをどう言う順番で回るかを話し始めた。通過ポイントはそれぞれ山の裾野に正方形状に4つ、山の中腹に正三角形上に3つ、そして山頂に1つだ。 


「うーん、素直に記号順に回るのはどうだ?」

「記号順か……最初は様子見で記号順に回ってみるか?」

「それはどうかしら? 少なくともちゃんとした理由を考えて、ルート選定をした方が良いんじゃないかしら? だって、ほら。ここのCポイントなんて側面が急斜面になっているから、先に上のFポイントの安全を確認しないと頭上から狙撃されるわよ?」


 柊さんが指摘する地図上の場所を見てみると、確かに急斜面になっておりFポイントからの狙撃が可能な地形をしていた。


「あー、言われてみるとそうだね。そうなると記号順に回るのは、愚策かな?」

「そうだな。多少遠回りする事になっても、安全なルートを選定した方が良いだろう……」

「まず最初に、山頂のポイントを抑えるのはどうかしら? 初めから頭を抑えられている状況は、避けた方が良いと思うの。それに、新しく参加する人達の動きを見る為にも、全く知らない道を使うより通い慣れた道を使って反応を見てみたいわ」

「なる程。となると山頂から攻略するとすると、HEGBAFCDの順番が無難かな?」


 俺は地図上の記号を指でなぞり繋ぎながら、裕二や柊さん、凛々華さんに攻略ルートを指し示す。


「まぁ、良いんじゃないか?」

「そうね。取り敢えずそのルートで良いと思うわ」

「それと、凛々華さんもこのルートで大丈夫ですか? 体力的にキツい様なら、ルート変更しますけど……」


 俺は確認の為、凛々華さんに了承を求める。

 俺達と凛々華さんとのレベルの差からくる身体能力の差は、今までの稽古でそれなりに出ている。俺達にとって何でも無い進行ルートであっても、凛々華さんからしたら重労働になりかねないから気を付けないとな。


「大丈夫ですよ。別に山道を走り回る訳では無いので、このルートでも皆さんについて行く分には支障ありません」

「……分かりました。でも、キツい様なら何時でも言って下さいね」

「ありがとうございます」

「それじゃぁ、このルートで回りましょう」


 取り敢えず、スタート前に進行ルートだけは決められたな。まぁ、潜伏場所の予測やトラップの配置予想は、制限時間的に詳しく分析する余裕はない。あまり気が進まないけど、ある程度はぶっつけ本番で行くしかないな。










 地図片手にミーティングを行っていた俺達に、幻夜さんが時間を知らせてくれた。


「おーい、スタート1分前だぞ? 話し合いもそこそこにして、出発する準備を整えておきなさい」

「は、はい」


 裕二の返事を聞き、幻夜さんは室井さんに問いかける。


「室井君、山に入った者達の準備は出来ているかね?」

「……はい。全員から、準備完了との連絡が来ています。何時でも始められます」

「そうか……後20秒だな」


 幻夜さんの呟きを聞きながら俺達は装備を整え、裕二を先頭にした正三角形の隊列を組んで凛々華さんの守りを固めた。そして一応、俺は幻夜さんと室井さんの動きにも注意を配る。またスタート直後に、後ろから銃撃されたら嫌だからな。


「時間だな。では……始め」


 幻夜さんの声を合図に、俺達は凛々華さんを護衛しながら出発する。まずは予定通り、山の頂上のポイントを目指す。ここ暫くの稽古で使い慣れた頂上へと続く道を登りながら、辺りを警戒しつつ歩いて行く。


「取り敢えず、今の所直ぐに仕掛けてくる様子は無いな……」

「ああ。山全体に敵が散らばっているとすると、入り口付近で襲わないで奥に招き入れてから仕掛けてくる可能性が高いな」

「そうね。罠との連携を考えているとしたら、入り口付近で仕掛けてくる可能性は少ないわね。勿論、警戒を緩める理由にはならないけど」


 周囲を緊張しすぎる事無く警戒しつつ、俺達は軽口を交わしながら山を登って行く。因みに、コレが自然と出来る様になったのは、第2段階の稽古の終わり頃だった。何事も、経験の積み重ねだな。


「っと、襲撃はなくても早速トラップだ」


 突然歩みを止めた裕二はそう言って、しゃがんで地面の様子を調べる。


「種類は?」

「落ち葉なんかでカモフラージュされているが、指向性散弾地雷(クレイモア)だな。あの2本の木の間にワイヤーが張られている。本体はあっちの木の根元だな」


 裕二が指さす先を見てみると、木の根元に隠す様に設置された小さな箱状の物体から、細い何かが伸びていた。


「広瀬君、他にトラップは無いの? 前の様に、トラップを避けた回避ルート上に別のが隠されているとか」

「ちょっと待ってくれ、今調べるから」


 裕二はしゃがんだ体勢のまま、辺りを観察する。その間、俺と柊さんは凛々華さんの護衛をしつつ、遠くの草木の影や木の上を観察し潜伏者がいないか確認していく。レーザーガンは射程が長いので、動きを止めていると高確率で狙撃されるからな。油断していると、電気ショックの餌食だ。

 1分と待たずに裕二が立ち上がり、観察結果を俺達に報告する。


「大丈夫だ。この辺りにあるトラップは、あのクレイモアだけだ」

「そっか。じゃぁ、少し進路を変更して回避して進もうぜ」


 後々の為にワイヤーに落ち木でも投げて爆破処理してもいいのだが、クレイモアの爆発効果範囲外に出て行う必要がある。クレイモアの効果範囲は広いので、態々効果範囲外に出てから爆破させる位なら、設置場所を地図に記載し回避したほうが時間節約だ。制限時間内で全てのポイントを巡り、無事ゴール出来るか分からない以上、節約出来る所は節約しておきたいからな。

 俺達は再び隊列を組み直し、凛々華さんを護衛しながらクレイモアを回避して山道を進む。






 

 クレイモアを回避して少し歩いていると、俺達は揃って苦々し気な表情を浮かべた。何故なら……。


「……大樹、柊さん。気が付いている?」

「ああ、勿論」

「ええ。見られているわね、私達」


 誰かに見られている様な気配を感じるのだ。俺達は出来るだけ歩測を変えず歩きながら、目だけ動かし視線を強く感じる方角を中心に観察し視線の主を探し……見付けた。俺達の進行方向の左斜め前、50m程離れた所にあるブッシュが不自然に揺れている。恐らく、ブッシュの中に伏せる様にして敵が隠れているのだろう。向けられる視線に害意は載っていないので、まだ狙撃を敢行するつもりはない様だ。


「潜伏者の狙いは凛々華さんかな?」

「そうじゃないか? 向けられる視線の中心が、俺達に向いている様には感じられないからな」

「となると、凛々華さんが狙いなのか……」


 だがターゲットがハッキリしているとなると、タイミングを見極められれば潜伏者の排除も可能だな。

 俺は顔を凛々華さんの方に向け、とある相談事を切り出す。


「凛々華さん、相談なんですけど……」

「構いませんよ」

「いや、あの……何も言っていないんですが……」

「話は聞こえました。私は囮役を行えばいいんですよね?」

「……はい。その、お願い出来ますか?」

「勿論」

「ありがとうございます」


 よし、凛々華さんの許可も取れた事だし、いっちょやってみるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


第3段階スタート。山全体を使った、難易度の高い訓練です。試験休みで出来たブランクが、心配ですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人件費とかも凄そう。 護衛を囮にするのは微妙な選択な気がしなくもない。
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