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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第106話 第2段階スタート

お気に入り11190超、PV6750000超、ジャンル別日刊16位、応援ありがとうございます。






 着替えを手早く済ませプレハブ小屋を出ると、目の届く範囲には幻夜さんと凛々華さん、室井さんだけしか残っていなかった。

 あれ? 他の門下生の人達は、何処に行ったんだ?


「お待たせしました。……他の門下生の方達は、どこに行ったんですか?」

「彼等なら、山に入っているよ」

「えっ? 全員ですか?」

「何人かはトラックでの作業で残っているが、残りは山の中だね」


 つまり、10人以上の人間が敵として潜伏中って事か……。って、第1段階の稽古より潜伏している人数が、倍近くになってるじゃないか!? 

 トラップが仕掛けられている上、潜伏者も増員って……。

 

「いきなり倍は、厳しくありませんか?」

「何を言ってるんだね? 初めから低い目標を設定していては、技能向上は図れんよ」

「はぁ。まぁ、そう何でしょうけど……」


 幻夜さんに、人数を変更する意思は無い様だな。となると、このまま稽古開始か……今度は何回電撃を浴びる事になるのやら、はぁ。

 まぁ、最近は望んでは無いけど電気ショックにも慣れてきたし、何とかな……。


「ああそうだ、言い忘れていた。君達が着けている電撃装置なんだが、電気ショックに大分慣れてきているようだったので、威力を上げておいたよ。今まで以上のショックを受けても、故障では無いからね」

「「「え゛っ」」」


 俺達の口から、思わず呻き声が漏れ出た。

 電気ショックの威力を、上げた!? 確かに最近は電撃の痛みに慣れてはきたけど、耐えられるだけで痛いのは痛いんですけど!? これ以上威力をあげたら、俺達何時か死にますよ!?

 

「痛みに慣れてしまっては、稽古の効果が薄れるからね。適度な刺激は維持しておかないと……」

「適度な刺激って……」

「まぁ軽い火傷程度なら、下級の回復薬を用意しているから問題無く治療可能だよ」

「……そう、ですか」


 即時治療が可能な回復薬のせいで、稽古の歯止めが無くなってないか? 確かに俺達はレベルのせいで電撃を浴びても酷い火傷はしにくいし、軽い外傷程度なら回復薬で治療可能だけどさ。何度も言うが、痛い物は痛い。

 俺達は不安げな表情を浮かべながら、手足に着いた電極リストバンドを凝視する。


「そう不安そうな表情を浮かべなくても、ほんの少ししか電気ショックの威力は上げていないよ。あくまでも、緊張感の維持が目的だからね。君達が気絶する程に、電気ショックの威力を上げても意味が無い」

「そう、ですよね……」


 安心しろと言う幻夜さんの笑顔が怖くて、不安しか湧いて来ない。俺の勘が、話を鵜呑みにするのは危険だと訴えているしさ。

 それは裕二や柊さんも同じ様で、2人とも顔が僅かに引きつっている。

 

「さて、そろそろ第2段階の稽古の説明を始めようか?」

「はっ、はい」

「第2段階の稽古も基本は第1段階と同様、制限時間以内にココから山頂までの往復だよ。第1段階との違いは、進行ルート上に各種トラップが仕掛けられている事と、敵役の潜伏者の人数が増えた事だね」


 幻夜さんは軽い口調で稽古内容を語るが、改めて話を聞くと難易度が段違いに上がっている。


「第1段階の稽古の様に潜伏者ばかりに気を配っていたら容易くトラップの餌食になるし、逆にトラップばかりに注意を配っていたら潜伏者にやられる事になるからね? どちらか片方だけに意識を傾けるのでは無く、均等に気配を探りながら周辺警戒をする事がクリアのコツだよ」

「はっ、はぁ……」


 幻夜さんのアドバイスを今一活かす自信が無い俺達は、不安気な返事を返す。


「まぁ、後は実際に経験して覚えていけば良い。凛々華、分かっているだろうが手出しは無用だぞ?」

「はい、分かっています」


 幻夜さんは稽古中は口を出さない様にと、凛々華さんに釘を刺す。

 

「では、そろそろ山に入った者達の準備も調っただろう。……室井君、彼等の準備の状況はどうだね!?」

「大丈夫です! 先程、最後の者から準備が整ったと連絡がありました!」

「分かった!」


 ワンボックスカーの近くで作業をしていた室井さんに準備状況を確認すると、準備完了との報告が上がってきた。

 それを聞いた幻夜さんは俺達を一瞥し、稽古の開始を告げる。


「では、稽古を始めよう。クリア条件は第1段階と同じ、無傷で1時間以内にここに戻ってくる事だ。良いね?」

「「「はい!」」」


 俺達は威力が上がった電気ショックの不安を押し潰し、覚悟を決める。


「では……始め」


 その言葉を切っ掛けに、俺達は凛々華さんを護衛しながら山へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ数日で見慣れた筈の山中の雰囲気が、トラップが仕掛けられていると思うだけで一変した様に感じる。目に映る木々や足元の土が全て、怪しく見えて仕方がない。

 

「トラップって一言で言うけど、どんなのが仕掛けられてるんだ?」

「さぁ、な。あの積み重ねられていた荷物の山を見る限り、一種類や二種類しか無いと言う事は無いだろう」

「そうね。少なく見積もって、トラップ訓練施設で見た程度の種類はあると思っていた方が良いんじゃないのかしら?」

「そうだね」

 

 俺達は周辺を警戒しながら、軽口を叩き合う。緊張感が無いと言う訳では無く、ある程度余裕を持っていないと見える物も見えなくなると学習したからだ。

 何度集中力が切れた時のケアレスミスで、襲撃を凌ぎ損ねて電気ショックを受けた事か……。


「……凛々華さんは、何種類あるか知ってますか?」

「ごめんなさい。何種類あるかは知ってはいますけど、稽古中に教える事は……」

「ああ、そうですね。すみません、無粋な事を聞いて」


 俺の言った冗談に、苦笑を浮かべる凛々華さんに軽い調子で謝罪する。今では割と簡単にこなせる冗談交じりの軽口も、稽古を始めた頃は警戒に集中し過ぎて凛々華さんに話を振る余裕もなかったな……。

 俺達も成長したよ。 


「……っ! 皆止まれ!」

「! どうしたんだ、裕二!?」


 鋭い声を発しながら歩く足を止め、右腕を上げ俺達の動きを制する裕二に、俺は戸惑い気味に声をかける。


「……多分、トラップだ」

「えっ、何処に!?」

「アソコに見える木の根元だ。周りに比べて、土の色と質が変だ。多分、一度掘り返して埋め戻したんだろう」


 裕二に指摘され、俺と柊さんは裕二が指さす木の根元を観察する。確かに裕二の指摘する様に、木の根元の土は周りに比べ色が濃く、水分が多く湿っている様に見えた。


「アソコにトラップ本体があるとすると、この辺りにトリガーになる作動スイッチがある筈だ」

「作動スイッチ……」


 そう言われ、俺は辺りを見渡す。

 念を入れ、1,2分掛けて辺りを見渡すが、ワイヤー等のスイッチになりそうな仕掛けは見当たらなかった。


「裕二……スイッチになりそうな物は無いぞ?」

「……そうだな」


 そう言って裕二は軽く首をかしげた後、足元に転がっていた拳大の石を拾い木に向けて投げる。だが空中を飛ぶ石に反応する物は無く、地面に落ちた石は転がって色の変わった土の上で止まった。

 動体感知センサーの類も無しか……。


「あれ? 気のせいだったのか……?」

「かも知れないわね。でも一応、あそこは避けて通りましょう」

「賛成。用心して、損は無いからね」

「おっかしいな……」


 勘が外れたかと裕二は首を捻っているが、俺達は進行ルートを若干変更し歩き出した。

 そして、歩くこと数分。再び先程と同様、掘り返した様な跡がある木を見付け足を止める。


「さっきと同じ跡か……」

「裕二、これもダミーのトラップじゃないか?」

「そうかもな。もしかしたら、只の足止め用のダミートラップかもしれない」

「足止め?」

「クリア条件に、時間制限があるからな。ダミーかそうで無いかの見極めに時間を大幅に割けば、クリア条件を満たせなくなる」


 なる程ね。

 確かにトラップを警戒している俺達にとっては、実際にトラップを仕掛けられていなくてもトラップが有ると思わされる偽装を施されれば、それだけで十分な足止め効果を発揮させられる。制限時間がある以上、俺達は短時間でトラップの見極めをしなければならないからな。

 

「それなら、どうするんだ? さっきみたいにトラップの真偽を試すのか?」

「そうした方が良いんだろうが、一つ一つ確かめていたら時間が足り無いからな。触らぬ神に何とやらだ、ここは迂回しよう」


 裕二は時間節約の為、ルートを変更してトラップと思わしき地点を迂回する事を提案する。迂回にかかる時間とトラップの真偽を確かめる時間を比較すれば、迂回する方が時間はかからないからな。

 

「まぁ確かに、制限時間がある以上、時間を節約するに越した事は無いからな」

「そうね。ここは迂回して突破しましょう」


 クリア条件に時間制限がある事を考え、俺と柊さんは裕二の提案に賛同する。


「じゃぁ、迂回して進もう」


 俺達は土の色が変わった木の根元に注意を払いつつ、迂回して山道を進む。

 だが、この俺達の選択は悪手だった。

 

「「「!?」」」


 変色した木の根元と俺達を挟んだ反対側から、バネの弾ける音が響くと同時に何かが打ち上げられていた。意識を木の根元に割いていたせいで、俺達は咄嗟に反応出来ず初動が遅れる。

 打ち上げられた物体は、一般的なジュース缶程の大きさで円柱形をしていた。円柱状の物体が俺の胸程の高さに上がったり円柱の表面に小さな赤い光が点ったと思った瞬間、俺達の体に電気ショックの痛みが走る。


「「「痛った!!」」」


 幻夜さんの話を聞いて想像していた物より、かなり電気ショックの威力は上がっていた。俺達3人は堪らず、膝から崩れ落ち無様にも地面に転がる。電気ショックが走ったと言う事は、打ち上げられた円柱形の物体から赤外線が発せられたのだろう。 

 暫く痛みに耐えながら地面に転がっていた俺達は、フラフラと立ち上がる。 


「くそ! 跳躍地雷を仕掛ける何て、ありかよ……」

「ひ、広瀬君……跳躍地雷って、何?」

「対人地雷の一種で爆発物を空中に打ち上げた後、一定の高さで爆発させて破片を全方位に撒き散らせるタイプの地雷の事だよ」


 裕二は悪態を吐きながら、柊さんに先程の仕掛けの事を説明していた。未だ電気ショックの痛みが残っているのか、二人とも顔が引きつっている。 

 でもまさか、トラップって言って地雷を仕掛けるなんて……。この調子だと、他のトラップは一体何が仕掛けられているんだ? 

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

「ええ、何とか。でも、対人地雷が仕掛けられているなんて、思っても見ませんでしたよ? 幻夜さんは、一体何を考えてこんな物を用意したんだか……」

「……すみません」


 折角心配気に声をかけてくれた凛々華さんに、俺は体に残る電気ショックの痛みで苛立っていた為、思わず吐き捨てる様に愚痴を漏らしてしまった。

 凛々華さんの済まなそうな表情を浮かべ謝罪する姿を見て、俺は自分の失敗を自覚し居た堪れない気持ちになる。


「あっ、その、俺の方こそ、すみません。痛みで苛立っていたとは言え、関係の無い凛々華さんに暴言を吐いてしまって……」


 俺はバツの悪い表情を浮かべながら、軽く頭を下げながら凛々華さんに謝罪した。


「いえ、気にしないで下さい。電気ショックの痛みで、感情が荒立つのは仕方ない事です。私も経験がありますから……」

「そうなんですか?」

「ええ。以前、私も皆さんと同じ稽古を受けていますから。皆さんの苛立つ気持ちは、大よそ理解出来るつもりです」


 そう言って、凛々華さんは俺に穏やかな笑みを向けて来る。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く間を置き、電気ショックの痛みが抜けた俺達は落ち着きを取り戻した。考えを巡らせられる冷静さを取り戻したので、俺達は簡単な反省会を開く。 


「迂回すれば大丈夫だと思って、油断しちゃったな」

「ああ。考えてみれば、最初のダミーのトラップは今回のトラップの為の布石だったんだな。同じダミートラップだと油断させ、俺達の意識を木の根元に向けさせる為の」

「そうね。御陰で、他のトラップへの注意が疎かになってしまったわ」

「「「はぁ……」」」


 自分達の不甲斐なさを思い、3人揃って思わず溜息を吐く。何せ俺達は物の見事に、幻夜さん達が仕掛けた心理トラップに引っかかったのだから。

  

「あと、同じ範囲に別のトラップがあると考えなかったのも拙かったね……」

「そうだな。トラップを単体で設置するなんて手落ちな真似を、幻夜さんが許す筈ないのにな……」

「トラップは他の物と連動させてこそ効果的だと言うのに、それを忘れていたわ……」

「「「……」」」


 俺達は、自分達の能天気だった行動に頭を抱えた。これが本物のダンジョンだったら、俺達は無事だったとしても凛々華さんは致命傷を受けていたかも知れない。護衛役としては、完全に失格だな。

 はぁ……俺達、この稽古クリア出来るのか?

 山に入って殆ど進んでいないのにこの醜態、先行きが途轍も無く不安になった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回登場した跳躍地雷は、ジュース缶程の大きさの赤外線発信機を一定の高さまで打ち上げ全方位に赤外線を撒き散らす、発動後に対応するのは中々難しいでしょうね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まんまとトラップに引っかかってて笑えました。 襲撃者もいたらよかったのに、まだチュートリアルですかね?
[一言] 118話まで読んで。 単純な俺TUEEEEEEE作品と違い面白い、只気になるのが自分で選んだわりに訓練等に『覇気』が無いのが一寸イラつく、 訓練内容に疑問は良いが教えを受ける側なのに否定的な…
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