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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第104話 第1段階はクリア

お気に入り11130超、PV66100000 超、ジャンル別日刊23位、応援ありがとうございます。





 

 電撃を受け続ける事、3桁超。この日、最後の挑戦で俺達は漸く課題をクリアした。凛々華さんを守りつつ、潜伏者を発見し迎撃。山頂で目印を回収した後、悠々と下山。 何時もの如く折り畳みチェアに座ってお茶を啜っていた幻夜さんに、胸を張って課題クリアを報告した。


「どうです? 無傷でクリアしましたよ、幻夜さん」

「ふむ。制限時間を半分残して、無傷で帰還か……まぁまぁだね」

「まぁまぁ……ですか?」

「この課題は、準備運動の様な物だからね」


 えっ? 準備運動?

 俺達3人が驚いていると、幻夜さんが立ち上がり凛々華さんに話し掛ける。


「凛々華、3人の稽古中の様子はどうだ?」

「基本は押さえられていると思います。襲撃の予測も潜伏場所の割り出し予想も出来る様になっていますし、襲撃を誘うフェイントもなかなか上手でした」

「そうか。では、次の段階に移っても大丈夫だな」

「はい」


 ……次? 

 首を傾げていると、幻夜さんは俺達に顔を向け少し目を細めて宣言する。


「では君達、明日より稽古を第2段階に移行させる。今度の稽古ではトラップも仕掛けるので、潜伏者とトラップを掻い潜り、第1段階と同じ条件……1時間以内に無傷で稽古をクリアして貰う」


 幻夜さんの宣言を聞き、俺達は顔を顰める。今回の稽古がクリア出来たのも、潜伏者の警戒だけに集中出来た面が大きい。これで、トラップを追加されるとなると……。

  

「トラップアリですか……」

「ああ。今までの稽古はあくまでも、トラップなどの搦手を使わない至って稚拙な潜伏者からの襲撃を凌ぐだけの稽古だ」

「稚拙、ですか?」

「本当に警護対象を襲撃しようと思う者ならば、2手3手と警護の意識を逸らす手段を用いてから襲撃するからね。ドラマや映画でも、爆発等で意識を逸らしてから襲撃するシーンがあるだろ? ああ言うのだよ」

「……なる程」


 確かに、幻夜さんの言う通りだ。幾人にも警護された対象を、陽動も無く襲撃する等まず無いだろうしな。先程までやっていた稽古は、本当に準備運動って訳か……。

 そこまで考え、俺は溜息を吐く。


「……まぁ、そう言う事だから。明日の稽古も頑張ってくれ」

「……はい」


 俺達は姿勢を崩し些か疲れた表情を浮かべながら、幻夜さんに力無く短い返事を返す。

 そんな俺達の姿を、凛々華さんは苦笑を漏らしながら眺めていた。


 

 

 

 

 

 


 室井さんに家まで送って貰い風呂で汗を流した後、俺は家族と一緒に夕食を取っていた。 

 明日からの稽古の事を思い、箸の進みが遅れていると美佳が話しかけてくる。 


「随分疲れているみたいだけど、お兄ちゃん大丈夫?」

「ああ。大丈夫だよ」

「そうは見えないんだけど……お兄ちゃん達、今どんな訓練をしているの? 山登りをしているって言ってたけど、今のお兄ちゃん達なら日帰りの山登り程度でそんなに疲れ無いと思うんだけど……」


 まぁ、そうだよな。美佳の言う様に、只の山登りなら富士山登山でもここまで疲れる様な事は無い筈だ。

 と言ってもコレは、肉体的疲労って言うより精神的疲労って面が大きいんだけどな。

 

「山登りをしながら、隠れんぼを一緒にしているんだよ」 

「……何それ」


 俺の返事に、美佳は怪訝な表情を浮かべる。嘘は言っていないぞ、嘘は。ここで詳しい訓練内容を話すと、父さんや母さんにやめさせられそうだから言わないけど。

 取り敢えず、追求されたくないから話題をずらそう。


「……そう言えば、美佳の方の稽古はどんな調子だ? 重蔵さんに、扱かれているのか?」 

「……うん」


 俺が美佳に稽古の様子を聞くと、嘘の様に先程までの元気を無くし暗い雰囲気を纏う。

 ……どうしたんだ?


「稽古中に、怪我でもしたのか? それなら回復薬のストックがあるぞ?」

「ううん。怪我はしていないよ。只……今日も沙織ちゃんと一緒に重蔵さんの前で、体力が無くなるまでずっと木槍で素振りをしていたの……」


 ん? 素振り? 別に、おかしい事じゃないだろ? どこに、暗くなる要素があるんだ?


「稽古を始めてから10日近く経つけど、私達が今まで教えて貰った事って素振りだけなんだよ? 他の事もやってみたいのに……」


 と、美佳は稽古の内容を不満気に愚痴る。

 ああ、そう言う事か。確かに、10日近く素振りばかりしていれば飽きるわな。俺達も同じ様に、稽古始めの頃はそう思っていたからな。

 ……でもな。


「確かに美佳の言う通り、素振りばかりだと飽きるかもしれないな」

「でしょ? だからお兄ちゃんからも「でも!」……」


 俺が美佳の意見に賛同する様な返事をしたので、美佳は喜色を浮かべ懇願する様な眼差しを向けて来るが、俺はそれを左手を軽く挙げて制した。


「でも、重蔵さんが美佳達に入念に素振りをさせるのには、ちゃんとした理由があるんだからな?」

「……ちゃんとした理由?」

「ああ、重蔵さんから聞いていないのか?」


 あれ? 重蔵さん、美佳達に素振りの意味を説明していないのかな?

 説明を聞いていれば、美佳達から不満は出ないと思うんだけど……。


「ちゃんとした型で武器は振らないと怪我をするからな、って言われているけど……」

「……他には?」

「それだけしか、聞いてないよ?」


 重蔵さん……言葉足らずで素振りの意味が伝わってませんよ。

 俺は思わず溜息をつき、美佳に素振りについての補足説明を行う。


「はぁ……、あのな美佳? ちゃんとした型での素振りって言うのは、武器を使う時に最も体に負担の少ない動作を体に覚え込ませるって言う意味があるんだ」

「負担が少ない?」


 意味が良くわかっていないのか、美佳は首を傾げている。

 まぁ、実戦を経験して差を実感し無いと分からない……。


「ああ。武器を用いて戦うと言うのは、正式な型を覚えていても相当な負担を体にかけるんだ。これが自己流になると、更に負担が増える。つまり体を酷使している上、怪我をし易い体の状態になるんだ。ここまでは良いか?」

「うん」

「そして体への負担が大きいと言う事は、それだけ体力の消耗も激しいって事だ」

「あっ!」


 俺の説明を聞き、美佳は驚きの声を上げる。

   

「体力を短期間で消耗して疲れる上、戦えば戦うだけ負担が体に蓄積して怪我をしやすくなる……正式な型を覚えないだけで、軽く上げてもコレだけデメリットがあるんだ」

「……」


 他にもデメリットは色々とあるけどな。

 俺達は事前にスライムダンジョンでレベルを上げカサ上げをしていたからあまり細かな差は気にしなくてもよかったが、カサ上げをしないでダンジョンに挑む美佳達には僅かな消耗や負担の差が生死に関わる差になりかねない。

 まぁ俺達にしても、正式に型を覚えていなかったせいで武器に負担が蓄積して、打ち直しって言う大デメリットが発生したけどな。あれで、どれだけ財布が軽くなった事か……。


「それと、真っ新な状態で正しい型を覚えるのと、自己流で鍛えた後に正式な型へ修正しようとするのとでは必要な訓練期間に差が出るからな? 今の内に念入りに素振りを繰り返して、徹底的に正しい型を体に覚え込ませた方が良い。素振り中、素振りの型が崩れたら重蔵さんが指摘してくれてるだろ?」

「うん。何回か素振りをする度に、細かく修正点を教えてくれるよ」


 随分丁寧に教えてくれているんだな、重蔵さん。

 今度、ちゃんとお礼を言っておかないと……。  


「まぁ、そんな訳だから。正式な型を体に覚え込ませる為にも、ちゃんと重蔵さんの言う事を聞いて練習を重ねろよ? 基礎を疎かにすると、後で泣く事になるからな?」

「うん。分かった」 

 

 俺の説明に納得したのか、返事をする美佳に先程までの不満気な雰囲気は無い。納得してくれた様で良かった。

 でも美佳がこの分だと、近い内に沙織ちゃんにも素振りの説明しておいた方が良さそうだな。

 

「でも、正統と我流でそんなに訓練期間が変わる物なんだ」

「自己流で鍛えた場合、体の作りから鍛え直す必要が出てくるからな。我流って言う響きはカッコ良いかも知れないけど、積み重ねの裏打ちの無い物だ。中には我流で大成する人も居るかも知れないけど、そんな例外は極々一部。大半は失敗するのがオチだよ」


 当代きっての天才が命懸けの戦場で実戦を重ねて編み出し、継承者達が連綿と歴史を重ねながら改良を施して来た物に、ぽっと出の我流で対抗するのは困難極まり無いだろう。

 まぁ、余程の天才だったら話は変わるだろうけどな。

  

 

 

 

 

 

 

 

 美佳と互いの稽古についての話を夕食の席でしていると、母さんが話に割り込んできた。 


「貴方達? ダンジョンダンジョンと言っているのも良いけど、勉強の方は大丈夫なの? 確か貴方達の学校は、来週末から中間考査でしょ? テストの準備は出来ているの?」

「うっ!?」

「勿論、少しずつ勉強はやっているよ。少なくとも、赤点は取らないで済むと思う」


 母さんの質問に美佳は苦々し気な声を上げるが、俺は特に焦る事も無く気軽に返事を返す。 

 その俺達の対照的な反応の違う返事に、母さんは溜息をつく。 


「はぁ……、その様子だと大樹は大丈夫そうね。でも……美佳?」

「はっ、はい!」

「学生の本分は勉強よ? 解っているでしょうけど、中間考査で1教科でも赤点を取ったら、探索者試験は受けさせませんからね?」

「ええっ!?」


 母さんの発言に、美佳は驚きの声を上げた。だが、母さんは素知らぬ顔で話を続ける。


「当たり前でしょ? 学校の勉強も満足にこなせないのに、他の事にうつつを抜かす暇はない筈よ? それが嫌と言うのなら、ちゃんと勉強と探索者活動が両立出来ると言う事を証明してみせなさい」

「……はぁい」

「返事に力が無いわね……大丈夫かしら?」


 意気消沈し落ち込む美佳の姿に、母さんは頬に手をやり心配気な表情を浮かべる。

 うーん、手を貸してやった方が良いのかな?

 そんな事を思っていると、美佳の顔が俺の方を向いていた。


「ねぇ……お兄ちゃん? 私に勉強を、教えてくれないかな?」

「まぁ、教えるのは別に良いけど……俺も自分の分を勉強しないといけないから付きっ切りで、って言う訳には行かないからな? それでも良いか?」

「うん! 教えて貰えるだけで、十分だよ!」


 俺の返事に、落ち込んでいた美佳は地獄に仏とばかりに諸手を上げ大喜びする。

 だが、すかさず母さんの注意が飛ぶ。


「箸を持ったまま両手を上げるだなんて、行儀が悪いわよ美佳」 

「ごめんなさい」

「もう、全く……でも良いの大樹? 美佳に勉強を教えていて、自分の試験勉強は間に合うの?」

「うん、大丈夫。確かに放課後や休日は探索者活動に当てているけど、他の時間を優先的に勉強に当ててるから」


 母さんの心配はもっともだろうな。

 でも一応、学校の休み時間中にその日授業で習った事は復習するし、寝る前にも勉強を行っている。確かに各々の場面での勉強時間は短いだろうけど、合わせれば1日数時間は勉強時間を確保しているつもりだ。 

 

「そう。貴方が大丈夫と言うのなら、それでも良いけど……。でも、貴方も今度のテストで赤点を取ったら、探索者活動を中止させるわよ?」

「ええっ!? お兄ちゃんもなの!?」

「当然でしょ? と言う事で、大樹も良いわね?」

「うん。分かってる」

 

 美佳が抗議の声を上げるが、母さんは涼しい顔で俺にも釘を刺し忠告をする。

 まぁ、美佳の探索者活動を許可する条件の中には、俺の監督下でならと言うものがあるからな。だから、俺が赤点を取って探索者活動を中止させられたら、自動的に美佳のダンジョン行きも延期になる。

 二人揃って赤点を回避しないと、美佳のダンジョン行きは実現しない。


「美佳? 貴方がお兄ちゃんに頼ってばかりいたら、お兄ちゃんが赤点を取るかも知れないわよ?」

「うっ!?」

「抗議の声を上げる前に、貴方も自分の力で赤点を回避出来る様にお兄ちゃんの様に普段から勉強をしていなさい」

「……はぁい」


 美佳は渋々といった様子で、母さんに力の無い返事を返す。

 高校受験の時はちゃんと勉強していたけど、基本的に美佳は短期間での詰め込みタイプだからな。普段からの細々と勉強するのは、性に合わないのだろう。


「それより、長話はここまでにして早くご飯食べちゃいなさい。程々にしないと、ご飯が冷め切っちゃうわよ?」

「あっ、うん。ごめん」

「……うん」


 母さんに促されご飯の残りに手を付けると、確かにご飯は大分冷めてきていた。少し長話が過ぎたかな……。

 俺達は自分達の行動を反省しつつ、ご飯の残りを口に掻き込んだ。


「「ご馳走様でした」」


 俺はご飯を済ませた後、早速美佳に勉強を教える事にした。


「美佳。早速、勉強始めようか?」

「……うん。お願いします」


 若干テスト勉強を嫌がる美佳を誘い、俺は自分の勉強道具を持って美佳の部屋に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1段階をクリアしましたが、トラップ有りの第2段階が開始。

そして、学生の宿命の天敵である定期考査が出現!無事に乗りきれるのか!?

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