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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第98話 上級回復薬の扱いについて

お気に入り10920超、PV6190000超、ジャンル別日刊17位、応援ありがとうございます。




 


 重蔵さんの問い掛けに、俺達は頭を左右に振る。流石に緊急性も無いのに、平日の学校の授業を休んでまでダンジョンにのめり込む様な事態は遠慮したい。

 ……と言うのが、俺達の素直な気持ちだ。


「まぁ、そうじゃろうな。学校を休んでまでダンジョンに行くと言うのは、余り褒められた事では無いしの」


 どうやら重蔵さんも、本気で言っていた訳では無かった様だ。まぁココで質問にYESと答えると、留年探索者等と同じ選択肢を選んだ事になるから、俺達としても避けたい選択だ。

 それに、日帰りで行えるダンジョン探索は、エリアボス討伐までが時間的に精一杯だからな。今以上に、下層に潜ろうと思えば、どう考えても日帰りは無理になる。


「しかしそうなると、ダンジョン以外でお主等が強敵と思う相手や身に迫る危機を感じられる場を見付けて来ねばならんが……はてさて、どうした物かの?」

「「「……」」」

 

 うーん、中々難しい問題だな。

 高レベル探索者である俺達が、命の危機感を覚える様な敵をダンジョン以外で探すとなると、重蔵さんの様な超級クラスや、中層以降に挑んでいる各国の最精鋭探索者チームを引っ張ってくるしかない。重蔵さんの様な超級クラスが簡単に見付かる訳が無いし、各国の最精鋭探索者チームと戦うと言う事は各国の軍と事を構えると言う事だ。

 それに身に迫る危機を感じる場と言っても、日本で大規模な市街地銃撃戦等は起きないだろうし、大規模災害等は身近で起きて欲しくない。そうすると、ダンジョン外の日常で命の危機を感じる様な場など無いに等しい。今の俺達なら、例え歩行中に車がノーブレーキで突っ込んで来ても躱すか軽傷で耐え切れるしな。


「……手詰まりじゃないか? これ?」

「そうね。私もどうすれば良いのか、ちょっと思いつかないわ……」


 裕二と柊さんも俺と同じ考えの様で、首を捻りながら困った表情を浮かべている。

 まぁ、そうだよな。超級クラスの達人の知り合いなんて重蔵さんしか知らないし、頼む伝手もなければ連絡先を探す宛も無い。それに、誰かに喧嘩を売ってまで危険を買うほど戦闘狂でも無いしな。


「ふむ。そうじゃの……」


 首を捻る俺達の姿を見ながら、重蔵さんは顎を右手で摩りながら物思いにフケていた。何か心当りがある様だ。


「……アイツに頼んでみるかの」

「アイツ?」

「何……昔の旅先で知り合った知人じゃよ。お主等、ちょっと待っとれ」


 重蔵さんはそう言って立ち上がり、俺達を残し道場を出て行く。残された俺達は、互いに顔を見合わせ重蔵さんの行動に首を捻るしか出来なかった。


 

 

 

 

 

 

 

 俺達は重蔵さんが戻ってくるのを、お茶を飲みながら雑談をしつつ待っていた。

 しかし、既に30分以上時間が経っており些か時間を持て余し気味だ。


「遅いな……重蔵さん」

「ああ。そろそろ戻って来ても良いと思うんだがな……」

「そうね……」


 俺達も待ち草臥れ、かなり弛れて来た。

 いい加減日も暮れ、辺りが真っ暗になってきたんだけど。


「美佳に、遅くなるってメールを入れておくかな……」

「私も、お母さんにメール入れておこうかな……」


 俺と柊さんは真っ暗な窓の外を見て、遅れて帰宅する旨を家族に連絡しておくかと考える。既に美佳達を帰してから1時間以上経つからな。


「裕二。ちょっとメール打って来て良いか? あんまり帰りが遅いと、美佳も心配すると思うしさ」

「あっ、私も良いかな?」

「勿論、良いぞ。爺さんが帰ってきたら、俺から言っておくよ」


 裕二の了承が得られたので、俺と柊さんは更衣室に移動する。

 数分掛けて、遅れて帰宅する旨の内容を記載したメールのやり取りをし終えて道場に戻ると、裕二と一緒に重蔵さんがお茶を啜っていた。どうやら、入れ違いになっていた様だ。


「すみません、重蔵さん。ちょっと席を離れていました」

「いや? 別にかまわんぞ。居らんかった理由は、裕二から聞いておったしの。ワシも電話に、少し時間が掛かったからの」


 俺は重蔵さんに軽く頭を下げて離席していた事を謝罪し、元座っていた位置に腰を下ろした。柊さんは、まだ戻って来ていない様だな。

 そして俺に遅れる事数分、柊さんもメールのやり取りを終え道場に戻って来た。


「すみません、遅くなりました」

「構わんよ。ワシも長話しておったからの」


 柊さんが腰を下ろした事を確認し、お茶を飲んでいた重蔵さんは湯呑を置いて口を開く。


「さてとお主等……どうにか知り合いと連絡が取れたぞ。条件次第じゃが、お主等の修行を見てくれるそうじゃ」

「……条件? って言うか爺さん、どう言う知り合いと連絡を取ってたんだ? 俺達、何も聞いてないぞ?」

「……言っとらんかったか?」

「言ってない」


 裕二の追及に、重蔵さんは気不味気に、首を傾げ頭を掻く。


「あぁ……すまん、すまん。ワシが連絡を取ったのは昔旅先で知り合った、今で言うSP(ボディーガード)をやっておった奴じゃよ。色々あった旅先で知り合ったんじゃが、今でもたまに連絡を取りあっておる。そ奴に、お主等に稽古を付けてくれんかと頼んで来たんじゃ」


 重蔵さんの言う、色々って言うのが気になるが今は気にしないでおこう。


「へぇー、そう言う人なんだ……で、爺さん。その人が出した条件って言うのは、一体何なんだ?」

「ああ、その事なんじゃが……」


 重蔵さんは、何か言いづらそうに言葉を濁す。

 戸惑う重蔵さんという珍しい物を見て、俺達は不思議そうな表情を浮かべた。


「お主等、エリアボスを倒したんじゃよな?」

「エリアボス? はい、倒しましたけどそれがいったい……?」

「確認したいのは、お主等が回復薬は持っとるか?と言う事じゃ」 

「……回復薬?」


 俺達は思わず顔を見合わせ、首を軽く傾げた。

 ダンジョンに潜りモンスターと戦う探索者なら、金欠の駆け出し初心者でも無い限り幾つかは回復薬を持っている。何故、重蔵さんは回復薬の所有の有無を聞くんだ?


「……ああ、言葉足らずじゃったな。中級以上の回復薬を持っておらんか?と言う事じゃよ」

「中級以上の回復薬……ですか?」

「とある事情で、先方が中級以上……まぁ、上級回復薬の事なんじゃが。それを探しているらしくての、色々な伝手を使って上級回復薬を手に入れようとしておるのじゃ」

「はぁ……上級回復薬を」

 

 上級回復薬を欲していると言う事は、身内に大怪我を負った人でもいるのか?


「先方が言うには、上級回復薬は中層以降で希にドロップする貴重品じゃそうで、流通量も少なく伝手がないと手に入らんらしいのじゃ」


 ……あぁ、確かにそうかもしれないな。

 民間の探索者で中層に到達出来るのは少ないだろうし、上級回復薬を手に入れた探索者もお守り替わりにまず手放さない筈だ。それに、自衛隊の探索者チームが手に入れた上級回復薬も研究や国の重要人物用に確保するだろうから流通市場に放出する事は、まぁ無いだろうな。

 運良く余剰分を手に入れた民間探索者や、金に困った探索者が放出する事はあっても、市場が必要とする需要を満たせる訳がないからな。


「お主等に稽古をつける条件として、上級回復薬を手に入れる伝手を紹介してくれと言われての。エリアボスを倒したと言っておるし……ひょっとしてお主等、上級回復薬を持っておらんか?」

「「「……」」」


 俺達はそう聞かれて、顔を見合わせた。

 確かに俺達は、エリアボス戦のドロップアイテムとして上級回復薬を持っている。だが、それはあくまでも身内用の代物として確保している物だ。

 他人に譲渡する事など、最初から考慮にも入れていなかった。


「「「……」」」


 俺達は無言のまま、アイコンタクトを交わす。上級回復薬自体は、スライムダンジョンから得た物を合わせれば、かなりの数を確保している。

 しかし、ダンジョン協会の鑑定済みの上級回復薬はエリアボス戦で得た物、たった1つだけだ。それをココで譲渡してしまうと、いざ身内が必要とする時には出処不明の上級回復薬を使用すると言う事になる。ダンジョン外の日常生活で上級回復薬を使う場面など、緊急搬送された病院か事故現場しかない。そんな所で、出処不明の上級回復薬を使えば、入手ルートを追求され芋蔓式でスライムダンジョンの事も露見する事になる。そんな事態は、可能な限り避けたい。

 まぁ、いま確保している上級回復薬をダンジョン探索の成果として鑑定に出せば済む話なのだが、今度は頻度の問題が出てくる。上級回復薬自体、重蔵さんが言う様に中層のレアドロップ品だ。良くて、月1で鑑定に提出するのが関の山だろう。ゴールデンウィークの中日に鑑定に出している以上、来月まで上級回復薬を鑑定に出すのは控えておいた方が過剰に疑われない為にも無難だ。つまり、上級回復薬を譲渡するにしても来月以降だろう。万一の事態を考えれば、今月中の譲渡は避けたい。

 そんな俺達の妙な雰囲気を感じ取った重蔵さんが、軽く眉を顰めながら口を開く。


「……持っておらんのか?」

「あっ、いや、その……」


 俺が重蔵さんの問いにどう返して良いか迷っていると、裕二が横から口を開いた。


「爺さん。その先方の人、今すぐに上級回復薬が必要な状況なのか?」

「……いや、緊急性は無いと言う風に言っておった。じゃが、出来るだけ早く手に入れたいと言う感じじゃったな」

「そっか……」


 裕二は一度俺と柊さんに目線を送った後、決定的な一言を発した。


「確かに、俺達は上級回復薬を持ってるよ」

「……おお、やはりそうか」

「でも! その人に上級回復薬を譲渡する事は出来ないからな。少なくとも、俺達が新しい上級回復薬を手に入れるまではさ」


 裕二は上級回復薬の所持を認めたが、譲渡は条件付きで出来ないと重蔵さんに伝えた。


「俺達……と言うか、美佳ちゃん達がダンジョンに潜った時に大怪我を負ったら、上級回復薬は必要になるだろうからさ。せめて、もう一つ予備があれば譲渡しても良いとは思うんだけど……」

「そうね。確かに予備が無い状況で上級回復薬を譲渡するのは、ちょっと躊躇するわね」

「同感。美佳達をダンジョンに連れて行く事を考えれば、どんな怪我でも治せる上級回復薬の譲渡は出来ないかな?」

「……なる程の。確かに、お主等の言う事も尤もじゃな」


 重蔵さんは俺達の譲渡出来ないと言う理由を聞いて、溜息を付きながらも納得した様に頷いた。

   

「しかしそうなると、先方にはどう返事をした物か……。本当に、譲渡は無理かの? 九重の坊主達がダンジョンに入るのは来月の中旬頃、1ヶ月近く期間があるのじゃが……」

「そう言われても……なぁ?」

「そうね。絶対に譲れ無いと言う訳では無いけど……ねぇ?」

「……うん」

「そうか……」


 俺達は歯切れの悪い返事を口にし、重蔵さんも腕を組んで目を瞑って沈黙する。

 上級回復薬自体は譲渡しても良いのだが、鑑定済みの上級回復薬を譲渡するとなると……躊躇する。1ヶ月後なら、素直に譲渡に応じる事も出来るんだけどな……。

 でもまぁ……重蔵さんには散々お世話になっているしな。そう決心した俺は、裕二と柊さんに耳打ちをする。


「裕二。俺達、重蔵さんには散々お世話になってるんだから、ここは回復薬を先方に譲渡しないか?」

「……良いのか?」


 中級回復薬なら鑑定済みの物がそれなりの数あるし、美佳達がダンジョンに潜る前に手持ちの上級回復薬を鑑定に出せば良いんだしさ。


「うん」

「まぁ、世話になってるのは事実だし、俺達の為に態々頼んでくれたんだしな。……分かったよ」


 裕二は俺の意見を了承し、首を小さく縦に振って頷いてくれた。続いて俺は柊さんに耳打ちしようとしたが、どうやら俺と裕二の会話が聞こえていたらしい。


「聞こえていたわ。私の答えも広瀬君と同じよ」

「そう……良いんだね?」

「ええ。私達、重蔵さんには本当にお世話になっているもの。面子を潰す様な真似をさせる訳にはいかないじゃない?」

「あっ、うん。そうだね……」


 面子って……まぁ、了承は得られたんだし良しとするか。

 俺は二人の了承を得られたので、唸りながら沈黙する重蔵さんに声をかける。


「重蔵さん。上級回復薬、先方に譲渡しても良いですよ」

「……良いのか?」

「はい。折角重蔵さんが俺達の為に先方と繋ぎを取ってくれた事ですし、回復薬についても今直ぐ必要と言う訳でもありませんしね。上級よりは効果が落ちますけど、中級回復薬ならそれなりの数を持っていますから。致命傷さえ避ければ、何とかなると思います」

「そうか……スマンな」

「いえ、重蔵さんには何時もお世話になっていますし、俺達に出来る事なら出来るだけやりたいですからね」


 俺がそう言うと、重蔵さんが俺達に頭を下げ様としたので慌てて止めた。重蔵さんが、頭を下げる様な事じゃないからな。

 取り敢えずこれで上級回復薬の譲渡話は進み、重蔵さんが先方に連絡すると、翌日俺達が先方の家に向かい回復薬の譲渡と稽古を受ける事が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上級回復薬を対価に、重蔵さんの知り合いに稽古を付けて貰える約束を取り付けました。

そうそう、平日の学校は休みませんよ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 上級回復薬の伝を紹介が、どうして譲渡する事になったんだろ? 自主的に1000万あげようとしたのかな?
[気になる点] 修行と引き換えに1000万は無理では……?
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