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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第96話 失敗から得られる物は?

お気に入り10860超、PV 6060000超、ジャンル別日刊24位、応援ありがとうございます。


 

 

 

 


 ホーンラビットが消えた床には、ドロップアイテムの類は何も残らない。今回はハズレの様だ。

 しかし、そんなことは今の俺たちには関係がなかった。何故なら、痛い程の沈黙が俺達の間に流れていたからだ。


「……ごめんなさい」


 ポツリと、顔を俯かせた柊さんが謝罪の言葉を口にする。

 俺と裕二はハッとし、戸惑いつつ口を開く。


「あっ、いや……その……」

「まぁ、なんだ。失敗なら誰にでもある、気にするな」

「……うん」


 柊さんは俺と裕二のフォローに、小さな声で答える。

 魔法を外した事を、随分と気にしている様だ。  


「参ったわね。こんな近距離の魔法を外す程、集中力を欠くなんて……」


 悔しげに漏れる柊さんの言葉が、俺の胸に突き刺さる。

 さっきの戦闘で、俺も集中力を欠いている自覚があったからだ。


「……スキル頼りだったツケだな。索敵やトラップ確認の気疲れで、戦闘中の集中力を欠くって事は……」

「うん。そうだね……」

「ええ。ホント、情けない限りだわ……」


 裕二が沈痛な面持ちで口にした言葉に、俺と柊さんは溜息を吐きながら落ち込む。

 ダンジョンに潜る前は、エリアボスを大して苦戦する事無く倒していたので、スキル無しでのダンジョン攻略も大して難しくないと思っていたのだが……どうやら思い上がっていた様だ。

 

「スキルが無いと、こんなにダンジョン攻略が難しいなんて……」

「そうだね……」


 俺と柊さんは自嘲の笑みを浮かべながら顔を見合わせ、互いの不甲斐なさに情けなくなった。

 そんな俺と柊さんに、裕二が喝を入れる。


「不甲斐なさを自覚しているのなら、回数をこなして体で覚えるしかないさ。幸い、俺達はダンジョン探索やモンスター戦闘はそれなりの数はこなしているんだ。全くの素人って言う訳じゃないんだから、その内慣れるさ」

「……だと良いな」

「そうね」

「まぁ……今日は時間一杯、1階層を歩き回ってスキル無しの探索に慣れるとしよう」

「「……」」


 裕二の提案に俺と柊さんが否と言える訳もなく、黙って頷き了承した。こんだけスキルに頼りきっていたと言う事実を晒しておいて、もっと下の階層へ行こうぜ、等と言える訳がない。 

 まぁ、美佳達をダンジョンに連れてくる前に、自身の未熟さがハッキリと発覚したのは不幸中の幸いだろう。なぁなぁの状態で美佳達を引率していた場合、思わぬ落とし穴に落ちていたかもしれないのだから。

 俺と柊さんが裕二の前に出て、周辺警戒をしながらダンジョン探索を再開した。

 

 

 

 

 


 休憩を入れつつ、3時間。予定時間の半分を終えた時、俺と柊さんは体力的には問題ないのだが、精神的に疲労困憊と言って良い有様だった。

 中に何も無い小部屋で、俺達は休憩を取る。 

 

「「……」」

「……二人共、大丈夫か?」


 裕二の気遣う声が聞こえるが、俺と柊さんは小部屋の壁に凭れ掛かり床に座り込んでいた。見える床や壁すべてに、トラップが仕掛けられているかもと疑い続けていたからだ。柊さんも同様で、曲がる角全てからモンスターが飛び出してくるのではないのかと、疑い続けていたらしい。


「……疲れた」

「ええ……私も」


 俺と柊さんの有様に、裕二は溜息を吐きながら忠告を入れてくる。


「はぁ。二人共……気を張り過ぎだ。そんな過剰な警戒の仕方をしていたら、誰だって精神が持たないさ」

「でも……」

「でも、じゃない。もっと力を抜いて自然体で警戒をする様にしないと、いざモンスターと戦おうって時には今の2人の様に精神的疲労で力を発揮出来ないさ」

「分かってはいるのだけど、中々……ね?」


 裕二の言う事も頭では分かっているのだが、スキルを使っていないと言う不安からつい全てを警戒してしまうのだ。

 俺と柊さんの返事に、裕二は再び溜息を吐く。


「二人共……これを言ったら元も子も無いんだろうけど、1階層に出てくるトラップやモンスター如きに、俺達が怪我を負う様な事は無いからな? 俺達の今のスペックなら、トラップが発動してからでも余裕を持って避けられるし、1階層に出てくるモンスターも軽い牽制の一撃で倒せるんだ」

「「……」」

「つまり……二人の様に全てを疑う様な警戒の仕方は、俺達の能力からしたら単なる無駄だからな?」


 ぐうの音も出ない。裕二の言う事は尤もであり、俺と柊さんのしている過剰警戒は無駄の一言だろう。事前に把握している1階層の情報から見ても、まず俺達が怪我を負う可能性は無いに等しい。

 

「……と言っても、直ぐには改善出来ない事だろうな」


 俯き黙り込む俺と柊さんに、裕二はそんな呟きを漏らす。頭では分かっているんだよ、頭では。


「仕方無い、多少荒療治だけど……」


 裕二が、何か不穏な言葉を漏らしているのが聞こえた。


「大樹」

「……何だ?」

「スキルを使って、この辺りにトラップが無いか探してくれ」


 調べるのは構わないのだが、トラップを探してどうする気だ?


「……トラップをか?」

「ああ。ちょっと試してみたい事があってな」

「……分かった」 


 裕二の試したいと言う物の事は気になるが、俺は立ち上がり小部屋を出て鑑定解析スキルを使う。すると、トラップはすぐに見つかった。


「あの壁傍の床に、トラップを作動させるスイッチがあるみたいだ」

「あそこの床か?」

「ああ。トラップの内容は……」

「それは言わなくて良いぞ、大樹」

「?」


 トラップを見つけろと言った割に、内容は知らなくて良いのだろうか?俺が裕二の不可解な行動に首を捻っていると、裕二は柊さんに小部屋を出る様に声を掛け歩き出す。

 俺が教えた、トラップの発動スイッチがある床に向かって。


「二人共、見ていろよ」


 そう言って、裕二は無造作にトラップのスイッチがある床を踏んだ。すると、スイッチがある床の横の壁の隙間から刃引きされた半円状の金属板が裕二の胴を薙ぐ様に飛び出して来た。

 咄嗟に、俺と柊さんは裕二に、危険だと声を掛けようとしたのだが、その前に裕二が行動を起こす。 


「ふっ!」


 裕二は素早く右手と右足を動かし、自分の胴を薙ぎに来た金属板を右手の肘と右足の膝を使い白羽取りの要領で挟んで動きを止めたのだ。暫く裕二が手足で金属板を挟んで動きを止めていたが、裕二が手足の力を抜くと金属板は元の位置に戻った 

 トラップを正面から遣り過ごした裕二は、俺と柊さんに軽い調子で声を掛けながら俺達の居る小部屋の方に戻って来る。


「どうだ?」

「いや、どうだって言われても……」


 悪びれた様子もない裕二に、俺と柊さんは思わず眉を顰める。

 先程裕二が呟いていた、荒療治の意味が漸く分かった。


「今俺が証明した様に、1階層のトラップなら作動させても作動後に対処可能だったろ?」

「……無茶をするな」

「大丈夫だって、最初っから分かってたからな」


 だとしても、本当に無茶をする。

 しかし御陰で、裕二の言う様に俺達に取って1階層にあるトラップは障害足りえないと言う事が証明された形だ。 


「これで二人も、少しは力を抜いてダンジョン探索が出来るよな?」

「……ああ、そうだな」

「そうね。こうも目の前で見せ付けられたら、ね」

「そうか、そうか。それは良かった」


 裕二の浮かべる、勝ち誇ったドヤ顔が妙にイラっと来る。

 しかし、まぁ、裕二が取った無茶な行動の原因は俺達の不甲斐なさからだからなぁ。これ以上、裕二に無茶をさせない様にする為にも、俺達が確りしないといけないな。俺は横で憮然とした表情を浮かべている柊さんに、気合を入れ直そうとアイコンタクトを送り軽く頷いた。

 スキル使用禁止が、なんぼのもんだ!?

 

 

 

 

 

 


 裕二が無茶な証明をした後、俺達は食事を兼ねた長めの休憩をとってから再びダンジョン探索を再開した。俺も柊さんも休憩前の様な過剰な警戒はせず、ダンジョンの中を歩いて回る。力を抜いている分、再開した初めの方はトラップやモンスターの存在を見落とす事も多かったが、要所要所で裕二がフォローをしてくれた。御陰で再開して2時間もすると、俺と柊さんもいつもの調子を取り戻し、大分自然体で警戒が行える様になり、見落としも余りしないで済んでいる。 

 そして……。


「エアカッター!」


 柊さんの魔法がハウンドドッグに直撃し、胴体を前後に断ち切り分断する。二つに分断されたハウンドドッグは力無く床に倒れ、血の海を作って動かなくなった。

 俺達はハウンドドッグの死体が消えるまで武器を構えたまま警戒し、ハウンドドッグがコアクリスタルを残し消えたのを確認し警戒を解く。


「……ふぅ、お疲れ。二人共、大分上手く戦える様になったな」

「まぁ、そうだな」

「警戒し過ぎないで、自然体で居れているお陰だな。変な力みも少ないし、集中力が欠けている様な印象もないし」

「そうか?」

「ああ。ダンジョンに入った時に比べれば、格段に上手くなったさ。一応、連携もそれっぽくなったしな」


 ハウンドドッグがドロップしたコアクリスタルを拾った裕二が、コアクリスタルを俺に投げ渡しながら話しかけてくる。俺は受け取ったコアクリスタルを空間収納では無く、背負っているバッグに入れた。


「それと、柊さん」

「何、広瀬君?」

「いや、さっきの魔法攻撃のタイミングの事なんだけど、出来ればもう少し早く出来ないかな?」

「早く?」

「ああ。攻撃のタイミングに問題無いんだけど、連携をしている以上は攻撃魔法が目標に到達するスピードも考慮して欲しいんだ」

「到達スピード……」


 裕二が先程の戦闘で気が付いた事を、柊さんに話して改善しようとする。


「1テンポか2テンポなんだけどね。今のタイミングだと、切り込むタイミングを遅らせたり、後退するタイミングを早めないといけないんだ。今程度の相手なら特別問題は無いんだけど、強敵と戦うとなると攻撃のリズムを崩すのは得策じゃないからね」

「……なる程、そう言う事ね」


 なる程、魔法の到達スピードか……。裕二の言う事には、些か心当たりが有る。 

 前回オーガと戦った時、柊さんが魔法で援護をしてくれたけどタイミングが微妙に合わなかったな。


「分かったわ。今度からは、そこら辺も考慮してみるわ」

「難しい事だとは思うけど、よろしく頼むな」


 到達スピードを考慮し魔法で援護を行うと言う事は、魔法の飛翔スピードを正確に把握し距離に応じて適切に調整する必要がある。それには何度も魔法を使って、目標に到達するタイミングを体で感覚を身に付けるしかない。

 EP的な意味でも、柊さんには負担をかける事になるな……。


「さてと、少し早いけど今日はそろそろ帰らないか? これ以上ダンジョンの中を歩き回るより、外に出て今日発覚した問題点を検討した方が良いと思うんだが……」

「そうだな。今日はもう、引き上げても良いかもしれないな……柊さんはどう?」

「確かに、このまま歩き回るより一度引き上げて、問題点の改善策を考えた方が良いと私も思うわ」

「じゃぁ、引き上げるとしよう」


 全員の意見が一致したので、俺達はダンジョンの出口に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 少し早めにダンジョンから出ると、俺達と同じ様に探索を終え帰還した探索者が沢山いた。俺と裕二は室内更衣室の前で柊さんと別れた後、シャワーを浴び着替えを済ませ休憩室でジュースを飲みながら簡単な反省会を行っていた。


「GW中にやった検証で事前に分かっていたとは言え、随分スキルにおんぶに抱っこしてたんだな……。今日の事で、その事を骨身に染みて実感したよ……」

「まぁ、そこら辺は仕方ないんじゃないか? ダンジョン攻略を始めた初期の頃から使い勝手の良いスキルを持っていたんだ。便利スキル使用を前提にダンジョンの攻略方法を組み立てている以上、便利スキル使用禁止って言う縛りを加えれば、まともにダンジョン攻略なんて出来ないさ」

「まぁ、そうなんだろうけど……」


 今回の失態に対し裕二が慰めの言葉をかけてくれるが、俺としてはそれで済ませるのは納得がいかない。


「まぁ今回の失敗のおかげで、便利スキルを持たない探索者の苦労って物が分かったろ? 今回の失敗を糧にして、美佳ちゃん達に教えてやれば良いんだよ。美佳ちゃん達は便利スキルを持ってないんだからさ、今回の失敗の経験は二人を指導する上で大分良い参考になると思うぞ? 成功の経験より、失敗の経験の方が得られる物は多いって言うしな」

「……」

「まっ、美佳ちゃん達を指導する前に、今回の事を含めて俺達が改善しておかないといけない事は多いけどな」 

「……そうだな。まずは俺達が、やる事をやってからだな」


 失敗した事を無かった事に出来無い以上、失敗から得る物を得て前に進むしかない。難しい事だろうけど、3人で遣れば何とかなるかな?

 俺はジュースを飲みながら、こちらに向かって手を振りながら歩いてくる柊さんを見てそう思った。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

スキルを使用しなかった場合の問題点が、浮き彫りに。

妹達との探索までに、改善出来るのか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんやろこの簡単に強くなれるのに 凄まじい回り道して命の安全性軽視してるなめぷ スライムかさ上げ>>>>>スキルなし一般ピーポー 確定してるんやろ?で1からスキルなしでやるのと怪我する…
[一言] スキルを使用しない訓練より、いかに有効にスキルを使用するかの訓練の方が良いと思う。
[気になる点] 何で、解析鑑定がある主人公がトラップを探して、気配察知がある柊がモンスターを探してるんです? 役割を逆にすべきでしょう。
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