第95話 この混雑は俺達が原因らしい
お気に入り10830超、PV6000000超、ジャンル別日刊15位、応援ありがとうございます。
祝、PV600万突破しました! そして、なろうで初めてレビューを書いて頂きました!
皆様、応援ありがとうございます!
オーガ戦を行ったGWの中日以来、久しぶりのダンジョンだ。
何時もと同じ乗車時間の電車を使って来たのだが、心なしかダンジョンに向かう人の数が多い様に感じる。長期休みでもないのにこの人数……何かイベントでもあるのだろうか?
「随分混んでるな……」
「ああ。こんなにこの電車が混むなんて、最近では珍しいな……」
「そうね。3月のダイヤ改正で編成車両数が増えてからは、乗客皆が椅子に座れる程度には余裕があったと思うんだけど……」
俺達が今乗っている電車は、乗車率100%超の通勤電車と言った所だろう。
ダンジョン出現以前は2両編成で運行されていたローカル線なので立ち乗り客も多かったが、探索者需要を見込んで3月のダイヤ改正で2両編成から4両編成に変わった御陰で椅子に座れる様になっていたのだが……。
何でGW明けの休日で、乗客がこんなに急増するのだろう?
「格好や荷物から見て、殆どの乗客はダンジョンに行く探索者みたいだな」
「そうね。イベントに向かう団体客が乗ってる、って訳じゃなさそうよね」
裕二の言う通り乗客の殆どは探索者だろうし、GWを過ぎて今更桜見イベントが開催されていると言う落もないだろう。
そんなこんな3人で小声で話しながら満員理由を考え暇を潰していると、電車はダンジョン最寄りの目的の駅に到着した。
「……まぁ、分かってた事なんだけどね」
大荷物を持った乗客の殆どが、我先にと電車を降り改札口へ向かう。電車を降りた俺達3人は改札での混雑を嫌い、駅のホームの隅に残って乗客の波が落ち着くのを少し待つ事にした。
「凄い数の人だな。200人以上は乗ってたんじゃないか?」
「そうね、その位かしら。あれって皆、ダンジョンへ向かう探索者よね?」
鄙びた古い駅舎なので、ホームからでも改札での混乱とロータリーの混み具合がよく見えた。駅員さんは必死に降車客の切符を受け取り、ロータリーでは雇われ警備員らしき中年男性が誘導棒を持ってバス利用客を縁石からはみ出さない様に一列に並べている。
あの中に入るのは、嫌だな……。
「なぁ……人が減るまで、もう少しここで待たない?」
「賛成」
「私も。流石に今、あの人波に加わりたくはないわ」
2人の合意を得られて、一安心する。今更あんな所に突っ込んでも、第1便のバスには乗れないしな。ある程度、人の流れが落ち着くまで待っていても、問題は無い。
「にしても、ホント人が多くなったな……」
「そうだな。特別若者が多いって訳じゃないから、探索者資格を取った新入高校生が押しかけた……って事でも無さそうだしな」
「どちらかと言うと、多いのは20代後半から30代前半の男性かしら?」
確かに柊さんが言う様に、増えている探索者層は若い社会人が多いみたいだ。皆、何かしらを狙っている様な雰囲気を並ぶ背中から醸し出している。
暫くホームで待っていると、バスが続々到着したらしく人がどんどん減っていく。
「じゃ、そろそろホームを出ようか?」
「そうだな。半分は居なくなったしな」
改札を通りロータリーに出ると、バス待ちしている人も大分減っていた。俺達は列の最後に並び、バスを待つ。
すると、列の前に並んでいる二人組の男達の話し声が聞こえて来た。
「なぁ、知ってるか? ここのダンジョン、最近エリアボスが倒されたらしいぞ」
「へー、エリアボスを。自衛隊か警察のチームがやったのか?」
「いいや、民間の探索者がやったらしい。警察や自衛隊の連中は、自分達で確保しているダンジョンにしか潜ってないよ」
「マジか!? だったらスゲえな、そいつら! エリアボス討伐なんて、自衛隊や警察以外だと数える位しかされてないじゃんか!」
エリアボスを討伐したって……俺達の事だよな?
「しかも、レイドチームや大人数のパーティーで倒したんじゃなくって、少人数パーティーで倒したんだってさ。どんな手を使ったんだろうな?」
「はぁ!? それ絶対嘘だろ、エリアボスを少人数パーティーで何て無理に決まってるだろが!」
「だよな。少人数パーティーでエリアボスを倒すなんて、民間の探索者には無理だよな」
そう言って、2人は笑い声を上げた。すみません、その話本当です。
俺は裕二と柊さんの方に気まずい表情を浮かべた顔を向け、二人だけに聞こえる大きさの声で話しかける。
「どうしよう? 思っていたより、エリアボスを倒した事が広まってるみたい」
「そうだな。幸い俺達の事は漏れてないみたいだけど、どこから情報が漏れたんだ?」
「さぁ、ね。でも、私達がエリアボスを討伐した事を知っているのは、ボスドロップアイテムを換金の為に提出した協会位よ。もし協会から情報が流出したとなると、個人情報保護がなっていないわね」
柊さんの言う通り、本当に協会から漏れたのなら情報管理がなってないよな。
多分、話を聞いた協会職員が呟いて広まったんじゃないのかな?良くある事と言えば、良くある事だけど。
「取り敢えず、俺達の事がバレていないのなら黙っていよう」
「そうだな。態々名乗り出る様な物でもないしな」
「そうね。無駄に騒がれて、注目を集めるのは遠慮したいわ」
大体こういう事がバレると、妙な連中に絡まれるってのがお約束だからな。自分達からバラして、余計な面倒事を抱え込みたくはないしな。
暫く噂話を聞きながら待っていると、次のバスが到着したので俺達はバスに乗り込みダンジョンへ向かった。
ダンジョンに到着すると、予想以上に多くの人だかりが出来ていた。基本、全員がダンジョンに潜る探索者ルックなので、これだけの人数が一斉に集まると物々しさが凄まじい。
俺達は人だかりを避けつつ足早に更衣室に向かうが、既に室内更衣室は満員だった。そこで俺達は仮設された簡易更衣室……大型テントの中にブルーシートを敷いて鍵付きロッカーを並べただけの簡単な作り……に回された。
「まさか外に仮設更衣室を作る必要がある程、人が集まってるなんて……」
「まぁ、人が増えたのは俺達が原因みたいなんだけどな」
俺と裕二は服を着替えながら、俺達が原因で探索者が増えた事について話す。どうやら、少人数でエリアボスが倒されたと言う話が広まった時、ここのダンジョンの攻略難易度が低いと言う根拠の無い噂も一緒に広まったらしい。
で結果、ダンジョンで一山当てようと言う人間が多く集まったとの事だ。
「まぁ、ダンジョン探索で生計を立てている人間なら態々難易度が高い……怪我を負う可能性が高い場所は避けるわな」
「そうだな。よし、着替えも終わったし外に行くか?」
「ああ」
手早く着替えを済ませた俺と裕二は、得物を持って簡易更衣室の外に出て柊さんを待つ。数分程で柊さんも更衣室から出て来たので合流し、ダンジョンの入口ゲートへ移動する。
すると、気が滅入るものが目に飛び込んできた。
「これまた、長い行列だな……」
「そうだな……」
「入るのには時間がかかりそうね……」
更衣室の混雑具合から予想していたとは言え、実際に入口ゲートに出来た長蛇の列を目にすると項垂れる。これ、100人位は並んでいないだろうか?
俺は行列を見て、とある豆知識を思い出す。
「……そう言えば、どこかのテレビ情報番組で行列の待ち時間を大凡計算出来る法則があるって言ってたな」
「聞いた事無いな……」
「それ、私知ってるわ。確か何とかの法則って言って、前に並んでる人数と1分後に後ろに並んだ人数で待ち時間を出す奴よね?」
「そうそう、それ」
法則の名前は忘れたが、計算方法は知ってる。現時点で自分を含めた並んでいる人数を、1分後までに並んだ人数で割った物だ。
試しに時計を見ながら、俺達の後ろに並んだ人数を数えてみる。
「……7人か」
「すると、120人割る7人だから……」
裕二が数えていた行列の人数を、俺が数えた後ろに並んだ人数で割ると。
「凡そ、17分ね。つまり、あと20分も待てばダンジョンに入れるって事ね。勿論、計算上の話だけど」
「何の目安も無く待つよりはマシ、そう思っておけば待つのも少しは楽になるよ」
「本当に当たるのか?」
「TVの検証VTRでは、大体当たってたぞ」
俺の言葉に裕二は半信半疑と言った様子で、自分の腕時計を見ている。無理も無い。俺だって最初、半信半疑で検証VTR見てたからな。
「まぁ、行列が出来る飲食店で検証していたからな、ダンジョンの行列が当てはまるかは知らないよ」
「適当だな……」
「所詮、暇潰しの豆知識だからな」
俺が当たるも八卦当たらぬも八卦と言うと、裕二から微妙に呆れた様な眼差しを向けられた。
で、結果はと言うと……。
「……大体当たったな」
俺達が入口のゲートに到着したのは、計測し始めてから凡そ19分後。少し計算とはズレたが、大凡計算通りの待ち時間だった。100人以上並んでいたが、今のダンジョンはパーティー攻略が基本なので意外とスムーズに列は減っていった。
「案外正確なんだな、何とかの法則って」
「みたいだな。使ってみたのは今回が初めてだったけど……」
法則の意外な正確さに驚いている内に、俺達の入場の番が回ってきた。何時もの手順で入場手続きを終え、俺達は久しぶりのダンジョンへ足を踏み入れた。
今回の探索の目的は、スキルを使わないダンジョン攻略の練習だ。俺は何時も使っている鑑定解析スキルを使わず、注意深くダンジョンの床や壁を注視して歩みを進めて行く。柊さんも気配察知スキルを使っていない様で、忙しなく上下左右に顔と目を動かしながら周囲を警戒していた。
「疲れるな……」
「普段それだけ、スキルに頼りきってたって事だな。まだ1階層目だぞ?」
「そうなんだよな……はぁ」
裕二の指摘する様に、どうやら俺は思ってた以上に優秀なスキルに頼りきっていたようだ。1階層を歩き回っただけで、精神的疲労が溜まり自覚する程度には集中力が落ちてきているのを感じる。周辺探索を行っている柊さんも同様の様で、頭を軽く振っている姿が何度も見受けられた。
「大丈夫、柊さん?」
「……ええ、一応。でも、私も随分スキルに頼りきっていた様だわ。たったこれだけ歩き回っただけなのに、もう集中力が散漫になってきているわ」
「そう。そう言えば、裕二は大丈夫なの? 裕二も同じ条件の筈なんだけど……」
「俺はお前らと違って、感知系のスキルは持っていないからな。普段から自分の感覚だよりで、ダンジョン攻略をやってたから慣れてるよ」
「そっか……」
どうやらスキル無しでのダンジョン探索を鍛え直す必要があるのは、俺と柊さんだけの様だ。
「それにしても……そろそろモンスターに出て来て貰わないと、連携の練習が出来ないな」
「俺はまだ、モンスターには出て来て欲しくないんだけどな……」
「私も。もう少し、今の状態に慣れる時間が欲しいわ」
裕二はモンスター相手に連携の練習をしたいようだが、正直言って俺と柊さんはまだモンスターの相手はしたくない。スキル無しの状態でのダンジョン探索は、思っていた以上に精神的に辛いからだ。
無意識に周辺の探索が出来る位になら無いと、とてもじゃないが下の階層に潜るのは危な過ぎると感じた。
「でもなぁ……相手の方が見逃してくれないみたいだぞ?」
「えっ?」
そんな事を言いながら裕二が通路の角を指さすので、指の先を追ってみると丁度通路の角からホーンラビットが姿を見せた。
やべっ。俺、気が付けなかったわ。
「……柊さん?」
「ごめんなさい。気が付けなかったわ」
俺は隣で周辺探索を行っていた柊さんに顔を向けると、柊さんは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ悔しがっていた。どうやら柊さんも、通路の角に隠れていたホーンラビットの存在に気が付けなかった様だ。裕二が気が付いている以上、精神的疲労で集中力が落ちていたとは言え、柊さんが気が付けなかったのは柊さんの落ち度と言える。
「二人共、落ち込んでいる暇はないぞ。奴さん、ヤル気満々だ」
「……そう、みたいだな」
「……そうね」
俺と柊さんは軽く息を吐いた後、意識を切り替えホーンラビットと対峙する。俺は抜いた不知火を正面で構え、柊さんも槍先をホーンラビットに向けた。
「で、どうするの?」
「俺が前衛で切り込んで体勢を崩すから、大樹は遠距離攻撃をする柊さんのガードをしてくれ。柊さんは俺が体勢を崩した所に、魔法で攻撃してトドメを刺す。取り敢えず、最初の連携攻撃としたらこんな物だろ」
「了解」
「分かったわ、止めは任せて」
「じゃぁ、行くぞ」
裕二が時雨を抜き警戒するホーンラビットに向けて歩き出すと、ホーンラビットはそれを敵対行動と判断したのか、角を裕二に向け跳躍突撃してきた。裕二は跳躍突撃してきたホーンラビットを躱しながら、時雨の切先の峯を前足に引っ掛ける様にして振り抜く。すると、跳躍している最中に力を加えられたホーンラビットは激しく縦回転をし始めた。
「柊さん!」
「ええ! エアーカッター!」
空中を高速縦回転するホーンラビットに、柊さんがエアーカッターを放ったが命中せずに外れる。結果、ホーンラビットは高速縦回転しながら床に叩きつけられ、血の花を咲かせたホーンラビットはピクリとも動かないまま光の粒になり散っていった。
「「「……」」」
連携失敗だよな、これ……。
スキル無しでのダンジョン探索に、大苦戦中!
普段から便利な物に慣れきっていると、いざそれが無くなった時には大混乱しますよね。
カーナビ然り、携帯然り……。




