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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第7章 ダンジョンデビューに向けて
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第93話 トラップ満載のアスレチック施設

お気に入り10770超、PV5870000超、ジャンル別日刊26位、応援ありがとうございます。


お待たせしました、第7章スタートです。

 

 

 

  

 土曜日の半日授業を終えた俺達5人は、揃って市内のとある施設を目指して移動していた。学校帰りと言う事もあって学生服を着たままであるが、周りにも学生服姿の者達が多く居るので特に違和感は無い。恐らくこの内の何人かは、俺達と同じ目的地に行くんだろうな。


「ねえ、お兄ちゃん。これから行く所って、どんな所なの?」

「私も知りたいです。アスレチック施設だとは聞いていますが……」

「まぁ、もう直ぐ到着するから、着いてからのお楽しみにしておいてよ」


 前を歩く美佳と沙織ちゃんが、怪訝な表情を浮かべ振り返りながら後ろを歩く俺に尋ねて来るので、曖昧な笑顔を浮かべながら行き先はまだ秘密だと伝えた。


「アスレチック……まぁ確かに、アスレチック施設と言えばアスレチック施設よね」

「そうだな。だが、アスレチック施設と言うよりどちらかと言うと忍者屋敷だけどな」


 裕二と柊さんは、俺が教えた例え話を可笑しそうに忍び笑いを漏らす。

 まぁ、自覚はあるけどさ、他に良い例えがなかったんだよ。

 

「アスレチック……なんだよね?」

「忍者屋敷ですか?」 


 裕二達の情報を聞き、二人は益々混乱した様子で首を捻って足を止めてしまう。俺は首を捻る2人の背中を押しながら、最寄りのバス停までの道のりを急いだ。

 

 

 

 

 

 

 バス移動して歩く事十分程、俺達は工場の倉庫を改修したと思われる、簡素な白壁作りの建物に到着した。敷地の入り口付近に立てられた大きな看板には、“ダンジョントラップ訓練センター”と書かれていた。

 建物の入り口付近には、俺達とは違う制服を着た、同年代らしき学生の姿が、チラホラと見受けられる。


「おっきい建物だね」

「元は、とある物流会社の倉庫群だったらしいぞ? ダンジョンが現れた時の騒動で経営が傾き、運営資金確保の為に売りに出されていた物をダンジョン協会が買い取って、探索者向けの訓練施設に改修した……と言う風に聞いてる」

「へぇー」


 俺の説明を聞き、美佳は感心した様な声を上げながら建物を眺め続ける。

 そんな美佳を尻目に、沙織ちゃんは振り返り俺達に疑問を投げかけてきた。

 

「お兄さん達は、良くココに来て訓練しているんですか?」

「あっ、いや。俺達は……」

「ふふっ、私達もここに来たのは初めてなのよ」

「えっ!? そうなんですか!?」


 沙織ちゃんの質問に俺が答えに窮していると、横に立つ柊さんが代わりに初利用だと答えた。それを聞いた沙織ちゃんは、目を見開いて驚きの声を上げる。

 だって俺達……態々こう言う施設で訓練しなくても、俺の鑑定解析スキルの御陰でトラップ類はスルー出来るしさ。訓練する必要性がなかったんだよ。

 この施設の存在だって、ダンジョン協会のHPで知ったぐらいだし。 


「うん。実はそうなんだ。この手の訓練施設が完成する前に、ダンジョントラップについては色々経験を積んだからね。だから、ここに来たのは初めてだよ」


 まさか、本当の事を言える訳も無いので、それらしい理由を口にしてこの場を誤魔化す。


「そうなんですか……」


 どうやら沙織ちゃんは、俺の口走った適当な理由で一応は納得してくれたらしい。まぁ、強ち間違った言い訳でもないんだけどな。この手の施設が完成したのは、今年に入ってから。つまり、去年探索者になった者達にはあまり馴染み無い施設なのだ。

 探索者達に必要とされた時期には未完成で、完成した時には利用する必要が無い程度にはトラップに慣れていたのだから。


「さっ、早く中に入って施設利用の手続きをしようか」

「うん!」

「はい!」


 足を止めていた2人に先へ進む事を勧め、俺達は訓練施設の中に入って行く。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日のお昼過ぎと言う事もあり、受付の前には短いなりに列が出来ていた。半分程が学生服を着ている所を見ると、俺達と同じ様に学校帰りそのままにココへ来た連中の様だ。

 受付に並ぶ事10分程、漸く俺達の番が回って来た。


「お待たせしました。何名様で御利用でしょうか?」 

「あっ、5人でお願いします」

「男性が2人、女性3人の5名様ですね? 少々お待ち下さい」

 

 受付の女性係員さんは俺達を見た後、背後の棚から鍵を人数分取り出す。鍵を取り出し終えると、女性係員さんは再び俺達の方に顔を向ける                       


「お客様、当施設の御利用は初めてでしょうか?」

「はい」

「では、簡単な説明をさせて頂きますね。当施設はダンジョン協会が運営する、ダンジョントラップの訓練施設になります。訓練施設は4つのエリアに分かれており、体験ゾーン・初級ゾーン・中級ゾーン・上級ゾーンになっています。体験ゾーンは一般の方でも御利用出来ますが、初級以降の訓練施設は探索者の方限定となっています」 

「一般人が利用可能なのは、体験ゾーンだけなんですか?」 

「はい。初級以降は難易度も上がり、一般の方では怪我を負う可能性もあるので基本的に御利用はお断りしています。例外といたしましては、探索者試験を受けて合否判定待ちの方に関してのみ初級ゾーンの利用が許可されています」

「なる程」

 

 と言う事は、美佳と沙織ちゃんは体験ゾーン以外の利用は出来無いのか。まぁ、トラップに慣れるのには、体験ゾーンからやっていった方が良いのかな?

 俺が説明を聞いて頷くのを確認し、係員の女性はカウンターに置かれているカードを一枚取り出し俺達に見せる。


「体験ゾーンには、ダンジョンに存在する各トラップを簡易的に再現した物が20個程設置してあります。各トラップにて設定してある合格基準を満たせば、係員により合格のスタンプがこちらのカードに押されます。スタンプが全て貯まると、記念品が贈呈されるので挑戦してみて下さい」

「はぁ、はい」 


 カードを渡されたが……記念品、ねぇ。

 俺は貰ったカードを一瞥した後、隣の美佳に渡す。美佳は興味深気にカードを見ているが、まぁ、良いか。


「次に初級ゾーンについてですが……探索者カードはお持ちですか?」

「あっ、はい。持っています」

「では、初級ゾーン以降も御利用可能ですね。初級ゾーンでは、体験ゾーンに設置してあるトラップが組み合わされ設置してあるタイムアタックゾーンです。規定のタイム以内でゾーンを抜けられれば合格です」

「初級ゾーンをクリアしないと、中級ゾーンは利用出来無いんですか?」

「いいえ。利用するだけなら、合格してなくても利用は出来ます。ですが、合格してから上のゾーンに挑戦する事をお勧めします。行き成り高難度ゾーンに挑んでも、訓練中に怪我を負うリスクが上がるだけですので」


 なる程、確かに行き成り高難易度のゾーンに挑んでも、大半の利用者はクリアは出来ないよな。


「初級ゾーンに設置してあるトラップは体験ゾーンに設置してある物と同じ物なので、規定タイム以内でクリア出来無い場合は体験ゾーンでトラップに慣れてから再挑戦する事をお勧めします」

「あっ、はい」


 態々係員さんがこういう事を言うというのは、いきなり初級ゾーンに挑んで失敗する輩が続出しているんだろうな。言外に、体験ゾーンをクリアしてから初級ゾーンに挑めと言っているんだから。

 俺達が言っている意味を理解していると見たのか、係員の女性は説明を続ける。


「中級ゾーンも規定タイムが設けられたタイムアタックゾーンですが、トラップ自体は初級ゾーンと同様の物が設置されていますが追加で妨害行動が行われます」

「妨害……ですか?」

「はい。ご存知と思いますが、ダンジョン内にはモンスターが出現します。トラップの突破中に、モンスターが出現し攻撃を仕掛けてきた……という事を想定してとの事です」

「なる程、そう言う事ですか」


 俺は係員さんの説明を聞き、納得したように頭を縦に何度か振って頷く。

 確かに実際、トラップ解除中でもモンスターが襲ってきた時があったな。近づく前に、柊さんの投槍で串刺しになっていたけど。

 

「そして上級ゾーンですが、このゾーンではトラップの種類や質が変わります」

「種類の変更は分かりますが、質が変わるって言うのは?」

「中級ゾーンまでのトラップは挑戦者の行動阻害を主眼に置いた物が設置してあるのですが、上級ゾーンのトラップは挑戦者の排除撃退を主眼に置いたトラップが設置してあります」

「排除撃退……」


 つまり、中級ゾーンまでが防犯的トラップだとすれば、上級ゾーンのトラップはブービートラップ的な代物に変わっていると言う事か?

 大丈夫か、それ? 挑戦するのが探索者だとしても、怪我人とかを量産しそうな気がするんだけど……。 


「無論、安全面には配慮してありますよ? 軟質素材の床壁や、ウレタンの武器とか」

「はぁ、そう……ですか」


 安全、なんだろうか? まぁ、新聞やニュースで大きく騒がれていないのだから、一応安全なんだろう。


「以上で、施設の簡易説明は終わりますが、何か質問はありますか?」

「いえ、特にはありません」

「そうですか。では、会計の方をよろしいでしょうか?」

「はい」

「高校生以上は大人料金となりますので、施設利用料は1人1000円となります。5名様での御利用なので、合計5000円になります」


 俺は財布から5千円札を取り出し、皆を代表して支払いを済ませる。係員の女性はお金を受け取り会計を済ませ、体験ゾーンのスタンプカードと用意していた鍵を俺に差し出してきた。


「こちらがスタンプカードと、更衣室のロッカーの鍵になります。赤が女性ロッカーで青が男性ロッカーの鍵になりますので、無くさない様に気を付けて下さい」

「はい」

「では、本日の御利用、ありがとうございます」


 係員の女性に見送られながら、俺達は受付の前を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 更衣室に入る前に裕二と柊さんが、俺が代払いした入場料の1000円を差し出してきたので受け取る。それを見た美佳と沙織ちゃんも財布を取り出し、入場料を払おうとしていたが俺はそれを止めた。 


「俺が2人をどこに行くのかを言わずに連れて来たんだから、今日の入場料は俺が持つよ」

「えっ、でも……」 

「そんな、悪いですよ」

「良いから良いから。でも、今度来る時は自分で出してね?」


 事前に俺が奢ると言っていなかったので、美佳と沙織ちゃんは少しグズったが何とか無事説得出来た。

 裕二と柊さんには事前に相談していたので代払いした入場料を受け取ったけど、何も言わずに連れて来た年下に払わせるのは……ね?

 支払いのゴタゴタを片付けた後、俺はロッカーの鍵を皆に配布した。


「じゃ着替えた後、ここに再集合って事で。柊さん、2人をお願い」

「ええ、分かったわ。じゃぁ、行きましょう。美佳ちゃん、沙織ちゃん」

「はーい」

「はい。じゃぁお兄さん、また後で」


 柊さんに引き連れられ、美佳と沙織ちゃんは女子更衣室の中へ入っていった。

 見送った俺は振り返り、裕二に声をかける。 


「じゃぁ、俺達も行こうか?」

「ああ」


 短く声を掛け合った後、俺達は男子更衣室に入っていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 更衣室で手早く持って来ていた学校指定のジャージに着替え、俺と裕二は更衣室の前で美佳達が出てくるのを雑談しながら待っていた。


「取り敢えず、今日は初心者ゾーンに行かずに体験ゾーンを回るって事で、良いよな?」

「ああ、それで良いと思うぞ。美佳ちゃん達はまだ探索者資格を取っていないから、初級ゾーンを利用出来ないしな。俺達もおさらいを兼ねて、体験ゾーンを回ってみよう」

「そうだな」


 俺が手に持っているスタンプカードを見ながら今日中にどれだけ回れるのかと想像していると、何かを思い出した様に裕二は手を叩く。


「あっ、そうだ大樹。お前、この施設内ではスキル使用禁止な?」

「えっ?」

「別に死ぬ危険がある訳じゃないんだから、スキルに頼らず自力でトラップを突破しろよ。じゃないと、訓練にならないからな」

「……分かった」


 不承不承と言った感はあるが、裕二の言う事にも一理あるので俺は首を縦に振った。確かに、スキルに頼らないトラップ突破技能は磨いておいた方が良いしな。

 そんな掛け合いをしていると、更衣室から美佳達が出て来た。


「待たせたわね」

「お待たせ」

「お待たせしました」


 3人とも俺達と同じ学校指定のジャージ姿だ。違いと言えば、学年を表す襟元と袖口のカラーの違いくらいだろうか?

 因みにウチの学校では1年が緑、2年が青で3年が白だ。


「何を話してたの?」

「特にどうって言う話じゃないよ。裕二にスキル使用を禁止されただけさ」

「……ああ、そう言う事ね」


 柊さんに小声で裕二とのやりとりの内容を教えると、一瞬の間を開けた後に理解の色を示す。前々からスキルに頼り過ぎない様に探索をしようと言っていたので、裕二の意図を容易に推察できたんだな。


「お兄ちゃん、雪乃さんと何を話してるの?」

 

 柊さんと顔を近付け内緒話をしていたので、怪訝そうな表情を浮かべ何をしているのかと美佳が聞いてくる。


「何でもないよ。さっ、皆揃った事だし早く行こうか」

「あっ、うん」


 美佳の質問を誤魔化しながら、俺はサッサと体験ゾーンへと歩みだす。

 さて、どんなトラップが用意されているんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン協会が作った、広報施設兼訓練施設です。

こう言う箱物施設は、良くありますよね?


朝ダン、好評発売中です。書店等で見掛けたら、是非お手に取ってみてください。



挿絵(By みてみん)

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