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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6.5章 ダンジョン出現で揺れ動く世界 
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第92話 紛糾すれども進展しない国連

本日の投稿は、これで終了です。

次回からは、主人公がメインの第7章をスタートします。



 

 

 

 

 大会議場に響く怒声。議長の静粛を促す声も会場に満ちる怒声の中に消え、出席者達はヒートアップし続ける。

 

「ダンジョン問題は既に、地球規模の国際問題なんだぞ! 現在出現しているダンジョンの管理は国連が受け持ち、国連の多国籍軍で周辺の治安維持をさせるべきだ!」

「巫山戯るな! 自国内に存在するダンジョンは、その当事国が当事国の責任の元に管理すべきだ!」

「出現したダンジョンが、いくつあると思うんだ!」

「既に世界規模で、多数の死傷者を出しているのだ! 素早く事態を沈静化させる為にも、国連に任せるべきだ!」


 紛糾する総会において、ダンジョンの扱いについて各国の意見は主に二つに分かれていた。

 ダンジョンの管理は自国で行うべきと主張するグループ、ダンジョンの管理を国連に委託すべきと主張するグループ。前者は、それなりの規模の国軍を持ち国連の自国領土への介入を嫌う先進国を中心としたグループ。後者は、国軍が小規模若しくは国軍を持たない開発途上国が中心だ。

 前者のグループとしては、自国に出現したダンジョンについては現有兵力で抑える事が出来ているのでPKOにより他国軍の兵が自国に展開する事は避けたい上、ダンジョン出現に伴う出費が嵩む現状で臨時PKOに必要な活動費の捻出などしたくないと言うのが本音である。  

 そして後者のグループは、自国の保有兵力では治安維持にも事を欠き、とてもではないがダンジョン警護にまで回せる人手も予算も無く国連の多国籍軍に頼るしかないのだ。


「各国ともに、自国のダンジョンへの対応で手一杯だ! とてもではないが、余剰兵力が無い現状で多国籍軍の設立など不可能だ!」

「しかし、このままダンジョンを放置する事など出来ないんだぞ!」

「だからこそ、自国内のダンジョンは当事国が責任を持って対処すべきだと言っているのだ!」

「だが、ダンジョンの出現範囲は全世界中だ! 素早く対応する為にもここは国連主体で……」


 話は堂々巡りを続ける。

 突然のダンジョン出現と言う非常事態の為、総会前の根回しが十分に出来ておらず、各国が各々自国の利益を優先し発言するので収拾が付かなくなったのだ。 

 そして……。


「静粛に! 静粛に! 皆様、総会を一時閉廷とします! 総会再開の日程は、後日通達します!」


 このまま総会を続けても話が付かないと判断した議長は、総会を一時閉廷する結論を下した。出席者達の興奮は未だ冷めやらない様子だが、現状で会議を続けても結論は出ないと理解しているので粛々と大会議場を退出して行く。会議場を退出した大使達は自室に到着すると、素早く秘書官達を呼び寄せダンジョン問題に関する他国への根回し準備を進める様に指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 照明が落とされた薄暗い会議室のスクリーンに、各種グラフが表示されていた。会議出席者達は揃って、難しい表情を浮かべている。


「ダンジョン出現の影響で、各国の経済が不安定化しています。特に、アフリカ大陸の経済状態が悪化しており、世界規模で影響が波及する可能性があります」

「アフリカ大陸か……」

「あそこは今大陸全土でパンデミックが発生しており、非常事態宣言が発令されていますからね」

「あの様な状態では、正常な経済活動は困難でしょう」


 アフリカ大陸と聞き、会議出席者は溜息を漏らす。アフリカ大陸では、過去に類を見ない規模で感染被害が拡大していると知っているからだ。

 そして、アフリカ大陸出身の大使は手を上げながら発言をする。


「我が国……いや、アフリカ大陸の国々は現在早急な経済支援……融資を必要としています」

「同じく。このままでは、経済が破綻する国が続出する可能性があります」

「流石に、破綻されては……困りますな」


 アフリカ出身大使の主張に同調する大使も続出するが、大多数の大使は表情を歪める。

 

「しかし、アフリカ全土への融資となると財源が……」

「そうですな。現状ではどの国々もダンジョン対策費の出費で苦しいのは同じ、とてもではありませんが大規模な出資は困難かと」

「「「……」」」


 会議室に沈黙が舞い降りる。

 金が無い。それが出席者全員の胸中に浮かんだ、共通認識だった。

 

「……どこか、資金の出資が可能な国は無いのだろうか?」

「そうだな。ダンジョン出現以降も経済が順調そうな……」


 各国大使達は口々にそう言いながら、視線をとある一点に集中させる。

 

「……もしかして、我が国の事を指して言っているのですか?」

「……」


 視線が集中した大使……日本大使であった。

 日本大使は、努めて冷静な表情と口調を装い、各国大使達に向け喋り始める。


「……確かに現在我が国は、ダンジョン被害も少なく正常な経済活動を行えていますが、決して潤沢な資金を出資可能とは言えない状況です」

「ですが、あなたの国はコアクリスタル発電発表の御陰で、経済成長著しいと聞いているのですが……」

「確かに、コアクリスタル発電発表の御陰で、国内経済は上向きになり始めています。ですが、本格的に経済状況が上向くのは、現在建設中の大規模コアクリスタル発電が営業運転を始めた後と思われています」

「……それ(営業運転開始)は何時の事ですか?」

「建設計画が順調ならば7月には発電施設が完成し、年内の営業運転開始を予定しています。つまり……」

「今年度内の出資は困難……と言う事ですか?」

「はい」


 日本大使は出資拒否こそしなかった、即時出資は不可能だと発言した。それを聞いた多くの国の大使は、溜息をつく。彼らが欲しているのは、来年度に手に入るお金では無く今融資に必要なお金である。


「……本当に今年度内の出資は無理なのですか?」

「はい。とてもではありませんが、アフリカ大陸全土に融資可能なほどの資金を提供する事は不可能です。只でさえ、国内のダンジョン対策にも資金が必要な状況なので」

「……そうですか」


 ダンジョン対策費の出費……各国が抱える想定外の出費である。各国共にダンジョン対策で、年間予算の予備費を使い切る勢いで消費していた。その為どの国も、経済支援の融資とは言え出資には消極的なのだ。

 アフリカ大陸出身の大使も、その事は理解しているので無念そうな表情を浮かべ沈黙している


「……ですが、何もしないと言う訳にもいかないでしょう」

「……そう、ですな」


 その後も会議は進み、最終的に10億ドルの臨時融資資金が各国から集まった。アフリカ各国のGDPに比例した分配金が決定、順次融資が開始された。

  

 

 

 

 

 


 多数の裁判官の見守る法廷に立ち、男は証言台の上で声高らかに自国の主張を訴えていた。


「この地図を見て貰えれば分かる様に、このダンジョンは我が国の領土内に存在しています。よって、このダンジョンの所有権は我が国が有するものであり、安全保障上の問題でダンジョン近辺に軍を配備するのは我が国の正当な権利であります」

「異議有り!」

「静かに! まだA国の主張の途中です。許可の無い発言は、控えて下さい」 

「……くっ!」


 裁判長の注意に、B国の男は苦々し気な表情を浮かべ口を閉じる。


「……A国、主張の続きをどうぞ」

「はい」


 そんなB国の男の表情を一瞥し、A国の男は鼻で小さく笑い薄笑みを一瞬浮かべる。A国の主張は暫く続き、如何に自分達の行動が正当な権利の行使でありB国の主張が的外れな物かを訴えた。

 一通りの主張を終えたA国の男は裁判長の許可を得て、軽やかな足取りで自席に着席する。


「B国、主張をどうぞ」

「はい!」

 

 一度A国の男を忌々し気に睨んだ後、B国の男は鼻息荒げに証言台に立った。


「お手元の資料にある様に我が国とA国の間には、国境線沿いの緩衝地域に軍を派遣する行動を制限する条約が締結されています。今回A国の国境近辺での軍事行動は明確な条約違反であり、即刻軍の撤退を求めるものです!」


 A国とB国が今回、国際司法裁判所に持ち込んだ議題は国境を巡る条約違反に関する物だ。国境線沿いの緩衝地帯に設定してある地域に、ダンジョンが出現した事が争いの発端である。

 ダンジョンが出現した位置は緩衝地帯とはいえA国の領土内であり、A国は安全保障の為に軍を派遣した。だが、この動きに対しB国は条約を盾に猛抗議する。条約違反の為、即時派遣中の軍を撤退させろと。

 しかし、A国は条約締結時に特記事項として制定された、災害発生時の派遣許可事項に該当すると主張。ダンジョン出現を自然災害だと主張し、軍の派遣を正当化させたのだ。だが、そんな強弁をB国が認める筈もなく、緩衝地帯ギリギリの位置にB国も軍を派遣した事で両軍が睨み合う緊張状態に陥っていた。


「条約違反を犯しているのはA国であり、彼らが先に緩衝地帯から展開中の軍を撤退しない限り、我が国も安全保障上軍を引く事が出来ません。以上です」

「分かりました。では次に……」


 B国の主張も終わり、裁判長は双方の陳述内容の確認と陳述内容外の質疑応答に入る。陳述内容に関しては双方とも無難な反論が記載されていたので、確認には大した時間もかからず短時間で終了した。が、陳述内容外の質疑応答で法廷は荒れた。裁判の争点は、陳述内容外のダンジョンの存在を条約が制定する、自然災害として扱うかどうかについてだ。

 無論、A国はダンジョンの存在を火山噴火や洪水等と同じ自然災害だと主張し、軍のダンジョン派遣は正当だと断言。反対にB国はダンジョンの存在は危険な野生動物の巣等と同じであり、自然災害では無いと主張しダンジョンの封鎖に軍など必要無く警察等の治安部隊だけで対処可能だと反論する。双方ともに己の主張を曲げず、話は平行線の模様を呈す。

 そこで両国の男達は、裁判官達にダンジョンの存在をどう定義するのか質問した。だが……。


「ダンジョンの存在をどう定義するか、ですか?」

「ええっと……それら定義に関しては、未だどうとも言えない状況でして……」

「国連総会でも未だダンジョンの定義については結論が出ていないので、我が国際司法裁判所単独での定義付けは出来ず……」


 質問の答えに窮し、裁判長を始め裁判に参列する判事達は揃って目を逸らし言葉を濁す。

 要するに、ダンジョンの存在が国際法上で定義付がされていない現状では、A国B国が主張するダンジョンを自然災害と扱うのかと言う質問に、国際裁判所としての明確な答えを下せないと言っているのだ。

 

「「……」」

 

 判事達の晒す醜態を見て、A国B国ともに国際裁判所の存在意義に不信感を募らせる。

 自然災害かどうかの判断が下せないと言う事は、A国B国が持ち込んだ条約違反の裁判を裁けないと言外で言っている様な物だからだ。

 

「「「「……」」」」


 現状で裁判を行う意義が見いだせなくなり、誰も口を開く事が出来ず法廷に沈黙が降りた。

 気まずい空気を察した裁判長は、咳払いをしつつ慌てて閉廷を宣言をする。


「……ん、んんっ! えー、これにて第1回口頭弁論を終了します。次回の第2回口頭弁論の日程については、後日通達します。では皆さん、お疲れ様でした」


 裁判長は追求を避ける様に慌てて法廷を後にし、他の判事達も後を追って退出して行く。そんな判事達の後ろ姿を見ていたA国B国の男達は、何とも言えない表情を浮かべて互いの顔を見た後、互いの口論をする事も無く目で会釈して静々と法廷を退出した。

  

   

  

 

 

 

 

 

 安全保障理事会では、世界中に出現したダンジョンの扱いについて、平和維持軍を結成し派遣するかどうかが話し合われていた。

 しかし、議論は直ぐに暗礁に乗り上がる。常任理事国全てが派遣に反対したからだ。 


「国連加盟国に出現した、全てのダンジョンに平和維持軍を派遣する事など不可能だ!」

「ダンジョンを封鎖するだけの、少人数派遣なら手配は可能だ!」

「少人数を派遣すると言っても、出現したダンジョンの数が数だ! 膨大な人数と費用が必要になる! 国連加盟国全てにダンジョンが出現している現状では、各国ともに自国に存在するダンジョンに対応するだけで手一杯なんだぞ!」


 非常任理事国の必死の主張も、拒否権を持つ常任理事国の意見を覆すには至らない。全世界に派遣する規模の平和維持軍の結成ともなれば、その費用は莫大だ。ダンジョン出現で経済が混乱する現状では、とてもでは無いが平和維持軍の維持に必要な費用など負担できない。


「開発途上国等への支援の必要性は認識しているが、自国のダンジョンについては当事国で対処して貰うしかない。……残念だが、我々にも大規模な支援を行う余裕は無い」

「……」

「……では、決議を採る」


 議長の宣言で、投票用紙が大使達に配られる。各国に出現したダンジョンへ、平和維持軍を派遣するかどうかの是非を問う投票だ。

 しかし結果は当然、常任理事国全てが拒否権を発動し、非常任理事国からも反対票が幾つも入った事で否決。ダンジョンへの平和維持軍派遣は流れた。

 これにより、国連が武力を伴う直接的なダンジョン支援を行なわず、物資援助等の間接支援を行うと言う方針が定まる。


 

 

 

 

 

 事務総長は、各会議の結果報告を聞き無念気に頭を抱えていた。


「この様な非常事態においては、我々は無力だな。加盟国に活動資金や軍事力を依存する現状では、独力で支援に動く事も出来んか」


 国連……国際連合は多数の加盟国が集まる連合体であり、世界政府では無いと言う事がダンジョン出現と言う全世界規模の問題においては悪い方に働いた。国連には安保理や総会の合意無くダンジョン問題に動く権限は無く、動こうにも活動に必要な資金を調達する宛も実働戦力も無い。現状では、各国が独自に動くのを指を咥えてみている事しか出来ないのだ。


「国連独自の資金源や軍備があれば、素早くダンジョン問題にも対応出来る物を……」


 事務総長は無念気に、表面化した国連の無力さと在り方について溜息を吐き意気消沈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後は国連編です。

各国家間の話は纏まらず、平行線の現状維持ですね。

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― 新着の感想 ―
俺は世界観広げるのに役立つし割と好きだけどね。結構批判多いよねぇ
この章入れる必要あるんですかね? 大半のなろう読者は主人公とその周りの物語が読みたいと思われますが、名前も出て来ないような世界のモブの話を読みたいとは思えないんですよね。 ここから先のサブタイトルとか…
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