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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第6.5章 ダンジョン出現で揺れ動く世界 
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第88話 アフリカ大陸パンデミック戦線

お気に入り10780超、PV 5710000超、ジャンル別日刊29位、応援ありがとうございます。


祝! 投稿100話達成!

これからも、連載頑張ります。





 ダンジョンが出現した当初は皆、様子見で遠巻きに見ているだけだった。だがしかし、モンスターを倒す事でお宝が得られると言う話が広まると、一般市民は政府の制止を振り切り積極的に武器を持ち、挙ってダンジョンへと殺到。政府はこの動きを統制しきれず、事態の収拾が付けられないでいた。

 その為、あるとんでもない事態がアフリカ全土で発生する。

 

 

 

 大統領執務室の机で、憔悴しきった大統領が補佐官から報告を受けていた。 


「軍が掌握しているダンジョンは、幾つだ?」

「……残念ながら、出現したダンジョンの半数を少し超える程かと」

「半数……他は野放し状態と言う事か」

「はい。予算不足や兵員不足等で、国土に出現した全てのダンジョンを探索するには手が足りません。人口密集地近辺のダンジョンは、軍や警察を動員し抑えていますが……サバンナやジャングル奥地等に出現したであろうダンジョンを抑える事は現状では不可能です」

「……その結果が、コレか」


 悲観にくれた表情を浮かべる大統領は、机の上に置かれている資料を手に取る。その資料にはアフリカ全土の略地図が描かれており、そこには多数の国境に跨る様に赤と黄色の地域が広がっていた。

 

「エボラを始めとした、致死性を持つ病原体の蔓延……パンデミック」

「……はい。残念な事に、事態の収拾の目処が立っていません」

「……くそっ! これも何もかも、あの忌々しいダンジョンが出現したせいだ!」


 大統領は激高しながら、机の天板に握り拳を叩き付けた。

 補佐官はその大統領の姿を沈痛そうに見ながら、パンデミックが起きた原因を苦々し気に口にし始める。


「政府が人口密集地近郊のダンジョンを重点的に抑えたせいで、ダンジョンから利益を得ようとする者達がジャングルの奥地に入り込むのを許してしまいました。まさか、未開の危険地帯にも入り込むとは……」

「……そうだな。よりにもよって、病原体の巣とも呼ばれている奥地に入り込むとは……」

「ですが、統制に失敗した時点で遅かれ早かれこう言った事態は……」

「……言うな」


 補佐官の思わず漏らした弱音を、大統領は苦々し気に切り捨てる。


「……起きてしまった事は仕方が無い。今はパンデミックの拡大を阻止する事と、事態の沈静化が最優先だ。……現状どうなっている?」

「……芳しくありませんね。WHOの国際医療団も頑張ってくれているのですが、患者に対し医療関係者の数が圧倒的に足りていません。それに今回はダンジョンが全世界に出現した影響もあり、ボランティア医師や医療品等の支援品も滞り気味です」

「くそっ! 何処までも祟ってくれる!」


 補佐官の報告に、大統領は悔し気に吐き捨てる。

 先年起きたパンデミックの時は、世界各国から送られてくる支援の数々のおかげで事態収拾の切っ掛けが得られたが、今回はダンジョン出現と言う混乱のせいで事態収拾に必要な支援は得られそうにない。以前得られた支援の数々も、飽く迄も世界情勢が落ち着いていたからこそ出来た支援だったのだ。

 ダンジョンが出現したせいでパンデミックが起き、ダンジョンが出現したせいで満足な支援が受けられない……アフリカ各国にとってダンジョンとは正に悪魔の体現だった。


「……ですが大統領、一つだけ朗報があります。医師団からの報告なのですが、ダンジョンから産出される回復薬が治療に効果があると報告されています」

「……何?」


 補佐官の言葉に、俯かせていた大統領は顔を上げる。 


「無論、病原体に対する特効薬になると言う話ではありません。対症療法として、回復薬が有効だと言う話です」

「分かっている。どう治療に効果があると言う事なのだ?」

「回復薬……つまり、後天的な外的要因で体に起きた不備を改善する薬です。切り傷を負えば傷が消える、骨が折れれば接合すると言った具合で」

「……」


 大統領は黙って補佐官の説明に耳を傾ける、前振りは良いから早く本題を言えと言う意思を乗せた眼差し向けながら。


「傷が治る……つまり、ウイルスの影響でおきた内出血等の体内の傷も、回復薬を使えばある一定の物までなら治せるのです」

「……!?」

「無論、回復薬に出来る事は傷を治すだけです。体内に侵入したウイルスを駆除する様な効果はありませんが、患者自身の持つ免疫力による回復を待つ猶予が確保出来る。と言うのが、医師団から上がって来た報告です」


 報告を聞いた大統領は活路を見出したと言う表情を浮かべ、補佐官は一息入れて報告書の続きを読む。

 

「医師団の報告では、感染初期の患者であれば回復薬を1日1回服用すれば、数週間で回復の見込みが立つとの事です」

「……効果が期待出来るのは、感染初期の者だけか?」

「はい。医師団からの報告では、感染初期と感染前中期の者までならば回復薬の効果が期待出来るとの事です。ですが、感染中後期や感染末期の者では体内の傷が深く、回復薬による回復が間に合わず患者の自己回復は期待出来無いとの事です」

「……そうか」


 大統領は補佐官の報告に一瞬残念そうな表情を浮かべたが、気を取り直し真っ直ぐ補佐官の顔を見る。


「今現在、我々が確保している回復薬の量は? 感染患者に安定供給可能か?」

「……安定供給は不可能です、大統領。我々が確保している回復薬は、ダンジョン出現初期に、内部調査の為に侵入した時にサンプルとして軍が確保した100にも満たない量しかありません」

「……何だと? では、市場に流出している回復薬を購入し確保する事は?」

「……現在確認されている、感染患者に行き渡らせられる数を確保する事は不可能です。仮に確保しようとするのであれば、我国の国家予算の大半を回復薬の購入に当てねばなりません」

「……」

 

 折角見えたパンデミック収拾の活路も、保有数不足と予算不足と言う壁に阻まれる。

 

「現在政府が確保しているダンジョンに、軍を突入させ回復薬を確保する事は可能か?」

「それは……可能です。ですが、軍だけで必要数の回復薬を確保出来るかは不明です。倒したモンスターがアイテムを毎回ドロップするかも不明ですし、例えアイテムをドロップしたとしてもそれが回復薬だとは限りません」

「そうか……そうだな」


 補佐官の返答を聞いた大統領は黙り込み、暫くの間天板の上の資料を凝視する。 

 そして、決断を下した。


「軍と警察をダンジョンに突入させ、回復薬の確保をさせる。並行して、予算が付く限り市場に流れている回復薬の確保を行う」

「分かりました」

「それと国連を通じ、世界各国に回復薬以外のアイテムの譲渡を条件に、各国が保有している回復薬を融通して貰える様交渉を行う。早急に、会談の準備を進めてくれ」

「はい、至急行います」

「あとは……」


 大統領は矢継ぎ早に、補佐官に指示を出して行く。

 そして一瞬口篭った後、躊躇する様な口調でとある指示を出す。


「国民に、回復薬を使用すれば病状を抑え自然回復する可能性がある事を公表する」

「! 大統領、それでは……!」

「分かっている。こんな発表をすれば、感染に苦しむ国民がどんな反応を示すかなど……」

「……では、何故?」

「他に方法があるかね? 政府の力だけでは、感染者を助けるのに必要な回復薬の確保は覚束無い。たとえ各国との回復薬の譲渡交渉が纏まったとしても、回復薬が届くのは準備期間も考えれば数ヶ月はかかるだろう。その間に、どれだけの人間が病で死ぬ事になるかを考えれば……」


 不本意極まり無いと言う、苦々し気な大統領の態度に補佐官は何も言えなくなった。


「兎も角、今は必要数の回復薬を確保する事が最優先だ。早急に手配してくれ」

「……はい」


 現状が現状だけに、補佐官もほかに妙案も無く消極的賛成と言った様子で大統領の提案を受け入れ仕事を進めた。

 だが皮肉な事に、人命を優先にしたこの決定が更なる悲劇を生む切っ掛けになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 回復薬が病気に対して効果的だと言う話は政府の手配もあり、国民全体に素早く広まった。身内に病で苦しむ患者がいる国民は是が非でも回復薬を得ようとダンジョンに集ったが、政府が管理する都市近郊のダンジョンは軍が回復薬取得の為の攻略に乗り出しており、一般国民が都市近郊のダンジョンに入る事は困難。市場に出回る回復薬を求めても、民衆が求める需要に対し回復薬の供給は全く足りていなかった。

 その為、一般国民は未開地のダンジョン目指して殺到。ダンジョンに人が過剰に溢れる事態が発生し、回復薬を巡りあちらこちらで争奪戦が発生した。 


「ん? これが欲しいのなら、出すもん出しな。何、そう高くは無いぞ。ほれ」

「くっ! 人の足元を見やがって!」 

「要らんのなら、他の奴に売るだけだ。じゃぁな」

「ま、待ってくれ。払う、言い値で払うから回復薬を譲ってくれ!」


 ぼったくりに近い金額での取引を要求されても、交渉で済む物はまだまだ穏便なものだった。

 中には……。


「その回復薬を寄越せぇぇぇ!」

「ふざけるな! これは俺が苦労して、手に入れた代物だ! 誰が渡すか!」

「あいつの病気を治すには、それが必要なんだよ!」

「こっちだって、そうだよ!」


 貧しく金銭で回復薬を購入出来無い者はダンジョン内で回復薬を持つ者に襲いかかり、力尽くで奪おうとする。成功する者も居れば、失敗し返り討ちに合う者も居た。

 そして……。


「ぅっ……く、くそぉぉ」

「へへっ。大人しく渡せば、死なずに済んだのによ」

「……」

「じゃぁな」


 殺人を犯してでも、回復薬を奪う者も出て来る始末。政府が管理し軍が潜るダンジョン以外では、弱肉強食の法則がまかり通る事態になってしまった。

 だが何より、一番の問題はダンジョンに潜る者の中に病原体に感染していた者が混じっていた事であろう。回復薬を数回分確保した段階で購入資金が尽きた初期段階の感染患者が、必要分の回復薬を確保しようとダンジョンに潜ったのだ。回復薬を服用した御陰で動き回る事は可能だが、感染した病原体が死滅している訳ではない。普通の病原体感染者は過酷な病状で身動きを取れないので病原体のキャリアには成らないのだが、回復薬の存在が元気に動き回る病原体のキャリアと言う存在を生み出した。初期段階の感染患者が病原体を撒き散らしながら活動した事で、同じダンジョンに潜っていた者の多くが病原体に感染する事態に発展したのだ。病気を治す為の回復薬を得ようとダンジョンに潜り、潜ったダンジョンで病原体に感染する。ここに、最悪の連鎖が誕生した瞬間だった。

 この流れは各国から支援で大量の回復薬が届くまで続き、当初の規模を超えるパンデミックへ至った。

 

 

 

 

 

 

 パンデミックが終息の兆しが見せ始めたのは、ダンジョンが出現して1年が経とうとしている頃だった。各国から輸送されてくる回復薬と軍がダンジョンに潜り確保した分の回復薬の御陰で、政府が把握している感染者の治療に必要な数が確保出来たのだ。 


「何とか、パンデミックを終息させられそうだな」

「はい。現段階で必要な分の回復薬は確保出来ています。ただし、新たな感染者が発生し再びパンデミックが拡大しないと言う仮定上での必要数がですが……」

「……楽観視は出来ないな」

「はい。必要だったとは言え、我々がとった方策はパンデミックを拡大させる一因になってしまいました。これ以上の失敗は……」


 補佐官の苦々し気な指摘に、大統領は苦虫を潰しながら目を閉じる。人命尊重を旨に自分が取った方針が、結果として感染域拡大と言う失策を引き起こしてしまったからだ。想定外の活発に動き回る病原体保有者と言う存在が出現したとは言え、悔やんでも悔やみきれないと言った様子で大統領は静かに息を吐き出す。


「分かっている。これ以上の失策は是が非でも避けねばならん」

「はい」

「で、回復薬の備蓄状況はどうだ? 再度パンデミックが拡大した場合、対応する事は可能か?」

「ある程度の備蓄は確保していますが、些か心許無いですね。各国からの輸入分を治療にあて、軍がダンジョンから確保する分の回復薬を備蓄に回せば……半年もあればダンジョン出現当初の規模のパンデミックであれば対応可能かと」


 補佐官は回復薬の取扱量を簡易的に計算し、大統領の質問に素早く返答する。


「そうか……では、その様に手配を頼む。今回と同じ轍を踏まない様にする為にも、非常時に備えておかねばな」

「はい。お任せ下さい」


 パンデミックの終息が見え、一息つけた大統領と補佐官は漸く将来の展望が見えたと安堵の表情を浮かべた。

 だがこの数日後、2人の将来の展望と言う名の思惑は、中東での紛争再開と言う事態を受け破綻する。非常時を想定した各国が回復薬の備蓄を始め、回復薬の支援数を絞り始めたからだ。備蓄に回せる回復薬は無くなり、将来の展望等と言っては居られずパンデミック終息に必要な回復薬を確保する為に再び奔走する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


アフリカで大トラブル発生!

不用意に未開地に立ち入るのは危険ですよね。


連休なので、明日も投稿します。

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下手したら鎖国だな、これ
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