星型のキーホルダー
---僕、田中 輝の日常は揺らぎ始めていた
まるで、地面の下から
雑草が生えてくるスピードのように
じっくりと、
ゆっくりと…
---放課後、家に帰ろうと
僕は学校の自転車置き場に行った
自転車置き場につくと
少し遠くのところで
友達の太一くんと、
1-B組の山田 慎太郎くんが
何やら話ているのが見えた
僕が2人のいる方に近づいていくと
2人の会話が聞こえてきた
太一くんが何か慌てながら話してる
「だ、だから、何もしてないって
言ってる、じゃないか」
「ちょ、ちょっと自分の自転車を
、だ、出そうとしたら隣の君の自転車のハンドルがカゴにひっかかってさ」
「ど、どけようとしただけだよ」
とても慌てた様子だ
(何かもめてるみたいだな)
僕はなんとなく現状がわかってきた
しかも、もめてる相手は
あの山田くんだ
山田くんは、何かあると
すぐに文句を言い難癖をつけてくる
まるで、"やから"だ
僕は本当に彼が苦手だ
そんな、彼ともめている
太一くんが僕はとても心配になった
山田くんが太一くんに言い返す
「お前、俺の自転車にイタズラしようとしただろう!」
「前から、隣の俺の自転車が
ひっかかって邪魔だから、何かしようとしたんだな?!」
少し大柄な彼が
太一くんに詰め寄る
「ち、ちがうよ!ほんとに
何もしてないよ!!」
僕は山田くんと関わりたくなかったけど、太一くんをほっとけずに
しぶしぶ、声をかけることにした
「ごめん、ちょっといいかな?
なにかもめてるの?」
僕は2人に声をかけた
太一くんは、余裕のない表情でこちらに助けを求めてきた
「あ、輝くん!た、助けて!」
「ぼ、ぼ、僕は本当に何もしてないんだ!」
「な、なのに山田くんが
怒っているんだ…!」
太一くんは
余裕がないようだったけど
僕が場に居合わせたことで
わずかに安心している様にも見えた
山田くんが僕たち2人に
大きい声で言った
「いいや、廣瀬!お前、
絶対なにかしようとしたな!断言する!」
「あーあ!これから、俺はイタズラされるかもしれない不安のなかで過ごさなきゃならないのかー!」
「おい!廣瀬!俺に慰謝料払え!!1万円だせ!俺に精神的苦痛を与えたら、払わないといけないことにする!」
僕はあっけにとられていた
山田くんの目は少し赤く充血していた
そして、太一くんに向かって言葉を浴びせた
太一くんは、恐る恐る言い返す
「も、も、もし、不快にさせたなら謝るよ…、でも、実際なにもしてないじゃないか…!」
僕は思った
山田 慎太郎というやつは
まるで子供みたいに
言葉を並べ立てる
僕は、山田くんがここまで
横暴だとは思っていなくて
驚いていた
気を抜いたらため息もでてしまう
かもしれない
(まるで何かに取り憑かれたみたいだな…、ここまで言うか?)
僕はそんな風に思った
山田くんが、隙間なく
続けて話しだした
「あれ?あれ!?うそだろー?!」
山田くんが大げさに
自分のカバンの中身を
確認しだした
「な、ないぞ!鍵が!
俺の自転車の鍵がないぞーっ!」
僕は嫌な予感がした
さらに、まくしたてる
「おい、太一!!」
「お前…… 盗ったろ?」
「俺の、チャリの鍵……
盗ったな?」
僕は、まるで殺気みたいな物を感じた…
「星型のキーホルダーがついたチャリの鍵を、カバンにいつも入れてあるんだ!!」
「おい、お前ポケットの中身を見せろ!」
太一くんが言い返す
「み、み、見ればいいよ!
僕は盗んでなんかいないよっ!!」
僕はこの時
違和感を感じていた…
(なんだろう、この違和感は)
太一くんが、ポケットの中身を出そうとするその間
僕の違和感が
ある確信に変わった
そして、僕は
とっさに言い放った
「よし!僕が確認しよう!
太一くん、ポケットに手を入れるね?いいね?」
僕は右手を太一くんの上着のポケットに入れた
(…!!やっぱり!)
僕の右手は間違いなく
星型のキーホルダーの感触を
捕まえていた
太一くんのポケットの中で
(なんてことだ、やっぱりそうか…)
(山田くんは始めからこれが目的で!)
納得したと、同時に僕は
決断した
(使うしかない!能力を…!)
僕は、山田くんの立ち位置を
しっかり見つめながら
自分の右手が触っている
星型のキーホルダーのついた
鍵を
僕の能力で
消した
行き先は、山田くんの上着のポケットだ
(もう、慣れているはずだから
大丈夫….)
僕は自分の能力を時々
試したりしていたので
これくらいならできると
確信していた
僕の右手から鍵の感触が無くなったことを確認すると
僕は山田くんに言い放った
「山田くん、鍵なんて入ってないよ?」
「ほらっ!」
僕は、太一くんのポケットの中を
裏返して、山田くんに見せた
山田くんは虚をつかれた顔をしている
「!!!?」
「な!なんだと?!」
「そんな!はずはない!!
おい!俺にも確認させろ!!!」
山田くんは
太一くんのポケットや
カバン、ありとあらゆる所を
探した
「くっそー!!なんでねぇんだよ!!」
山田くんのおデコにじんわり
汗がにじんでいるのが見えた
僕は山田くんに言った
「まあ、勘違いはよくあることだよ?」
「あれじゃない?いつもと違うところに鍵を入れてしまってるとか?」
「んー、例えば
山田くんのポケットとか??」
僕は、さりげなく鍵のありかを
伝えた
山田くんは汗をにじませながら言う
「そんなはずねぇだろ!ポケットには絶対入れねぇ!落としちゃまずいからな!」
そう言いながら
山田くんは確認しようと
ポケットに手を入れた
山田くんの表情がとまる
「な!」
山田くんがポケットから手を出すと
その手に吊られて鍵が出てきた
星型のキーホルダーのついた鍵だ
山田くんがまるで何かを堪えるかのように、こっちの2人に作り笑顔で話す
「は、はは、とんだ勘違いだったのかー、
わ、悪かったよー」
「絶対に、入れないとこに入れてたのかー、はは…」
僕は山田くんに、返事をした
「どうやら、問題は解決したみたいだね」
「僕たちそろそろ帰るね」
その時は僕は
山田くんがつぶやくのが聞こえた
「田中 輝…」
---さっき、僕が山田くんから
違和感を感じたのは
山田くんが太一くんに
真っ先に
"上着のポケットを見せろ"
って言ったからだった
太一くんが鍵をとったとしても
ポケットに忍ばせてるとは
限らない
カバンかもしれないし
別のポケットかもしれない
真っ先に、上着のポケットを
指定したのは、おそらく
山田くんが太一くんの
ポケットに鍵をいれた本人だから
そんな風に
あの時、僕はとっさに思った
動機は多分、隣にとめている
太一くんの自転車が、毎日邪魔だから難癖つけて
仕返ししたかったのだろう
まるで、子供みたいに
僕は、とにかく山田くんかは
何か言われる前に
この場から立ち去ろうとした
その時に太一くんが山田くんに言った
「や、山田くん、ほ、ほんと
勘違いはやめてくれよ、」
「き、君、その性格直した方がいいよ、
横暴すぎるよ」
「ま、まったくひどい目にあったよ」
僕は、心の中で
ほんとにそうだよな、と思った
「じゃあね」
僕たちが立ち去ろうとした
その時だった
山田くんから声が聞こえた
「へ、へへへ、
確かに、俺が悪いよな?でもよ〜、そんな言い方しなくても良かったよなぁ〜??」
「な〜、廣瀬〜、お前ちょっと言い過ぎじゃないのか〜?」
なんと、山田くんの目には
少し涙が浮かんでいた
太一くんは驚き
少し焦った様子で言う
「あ、あ、そんなこと言われても」
「う、うーん、ぼ、僕も言い過ぎたよ…」
「わ、悪かったよ」
その言葉を聞いた山田くんの
口元が、僕は少しニヤついたように見えた
その時、山田くんが言った
「廣瀬〜、認めるんだな〜、俺の心が傷ついたって〜よ〜」
山田くんの表情が変わる
「はーーははは!!認めたなぁー!!
俺はさっきお前に言ったぞーー!!
俺に精神的苦痛を与えたら、1万円払えよーーってな!!!はは!」
山田くんはまるで子供みたいに叫びだした
太一くんは半分呆れた表情で話す
「な、何を言ってるんだい?た、確かに君を傷つけたのは認めるよ」
「で、でも、そんな1万円払うほどじゃ、ないだろ??」
「あ、輝くん、も、もう帰ろうよ…」
僕は、太一くんに返事をした
「そうだな、山田くんには悪いけど、今日はもう帰ろう」
僕たち2人は
山田くんの相手にも疲れて
とにかく帰る事にした
僕たちが立ち去ろうと山田くんを
背にして、歩き出した
その時だった
ガサゴソ…
僕は太一くんの方から
カバンを探る音が聞こえた
「ん?どうしたの?」
太一くんは、自分の財布を取り出す
「何をしてるんだい?太一くん?」
太一くんは財布から
お札と、ありったけの小銭を
出した
そして、そのお金を握りしめて
山田くんの方に歩いていく
僕は叫んだ
「太一くん!どうしたの?!ねえ!」
太一くんの顔がこちらに向く
そして僕に言った
「あ、輝くん…!か、体がいうことをきかないんだ……!!!」
「輝くんっ!!」
太一くんが僕に叫ぶ
そして、
太一くんは目をにじませながら
山田くんの方へ歩く
そして
なんと、お金を
自ら手渡してしまった
山田くんがお金を数える
「ふむふむふむ…と
なんとか1万円足りたな〜太一さん?へへへっ」
太一くんが震えた声で言う
「や、やめてくれよ…!僕の大切なお小遣いが……!」
僕は、この時悟った
(山田くんは能力使い…!)
つづく