温かい心
---1-B 川谷 庵くんも能力使いだった
僕は、また、一人能力使いと出会ってしまった
川谷くんの腕の周りの水が
またたくまに凍っていく
川谷くんは
溺れている子供へと続く
氷の橋を作ろうとしているのだろう
子供に向かって水面の氷が伸びていく
その時だった
パキッ!
何かが割れる音がハッキリと聞こえた
やっぱり、それは氷の割れる音だった
川の流れが少し早く
水面の氷の暑さでは
その水の勢いには耐えきれないみたいだ
子供も少しずつ流されていく
「くっ、中途半端な氷ではだめか…」
川谷くんは片膝をつく
僕は川谷くんに向かって言った
「川谷くん、君も秘密を守れるかい?」
僕は自分の力を使おうと決心した
川谷くんは少し驚いた顔をして
こちらを見る
「え?なんだって?」
僕は続けて言った
「川谷くんの力で、氷の浮き輪みたいな
ものを作れないかな?」
川谷くんが返事をする
「なるほど!氷は水に浮く!
僕がドーナツ状の氷を作れば!」
「でも、田中くん!
あの子供まで距離がありすぎる、
いったい、どうやって届けるというんだい?」
僕は川谷くんに言った
「大丈夫、僕にまかせて」
川谷くんはこちらを不思議そうに見ながら
うなずくと
両手を川につけて
またたくまに、ドーナツ状の氷を作った
「よし!しっかり浮いているぞ!
田中くん!」
僕は川谷くんが氷の浮き輪を作ったのを
確認して
それに僕の右手を触れさせた
「川谷くん、僕にも不思議な
力があるのさ、見ててよ」
僕は、溺れている子供の
位置を確認した
「いけ!物体転送!」
ヒュン!
僕と川谷くんの目の前にあった
氷の塊が一瞬にして消える
そして
パッ!と
溺れているこどもを優しく囲うように
氷の浮き輪が現れた
「た、田中くん!これは!
まさか君も!」
「見ろ!子供が氷の浮き輪に浮いて
助かったぞ!」
「あとは、あの子をこちらまで連れてこられれば!」
「そうだ!あの子は浮き輪で浮いている、
僕が氷の長い棒を作って、それを
掴んで貰えば!」
川谷くんは
川の流れで折れないように
川辺にそって長い氷の棒を作った
「よし、田中くん!手伝ってくれ!」
僕は返事をして
2人で協力して
子供が掴めるように
氷の棒を向けた
「がんばれ!しっかり掴むんだ!」
川に浸らないように
2人で4,5メートルはあるその棒を
子供に掴ませた
子供は泣きながら
必死でそれを掴んでこちらにくる
「がんばれ!!もう少しだ!」
僕たちも必死で棒を持ちこたえさせる
子供が深みから抜けたのを見ると
川谷くんは制服が濡れるのを
厭わず子供のそばに駆け寄った
「大丈夫かい?!キミ!」
子供は泣いている
助かった安心と、さっきまでの恐怖と
小さな体にはかかえきれない
感情が溢れているのだろう
目から滝のように涙が流れている
川谷くんは、優しく子供を抱きしめた
それは、彼の能力からは想像もつかないほど
とても優しく、温かく見えた
「よかった…」
僕は、安心して
その場にへたり込んだ
そして、僕は
(そうか、能力っていうのは
こういう人を助ける力もあるんだな)
と、考えていた
その時、ほんの少し
僕は自分の事を誇りに思えた
そのあと、子供は無事家に帰し
子供のご両親に深く感謝された
僕は照れくさくも、嬉しかった
その後、川谷くんと僕は
帰る道中色んな話をした
どうやら、彼も子供の頃
この、大山川で溺れたことがあるらしい
その時、必死でもがいていると
自分の周りの水が凍りだして
大きな塊ができたらしい
それによじ登り、足場にして
そのままただよっていると
近くで釣りをしていた人が助けを呼んでくれて、助かったそうだ
その時、周りの人達はたいそう
不思議がったらしい
小さな子供が氷の塊に乗って
川を流れてきたのだから
当然だろう
当時は地元の新聞にも載ったらしいが
それも、しばらくして
みんなの記憶から薄れ
川谷くんも周りの人には
力は見せていなかったらしい
つまり、川谷くんはその
事故をきっかけに能力に目覚めたんだ
僕は川谷くんが自分の力を秘密に
していた気持ちがとてもよくわかる
僕は能力を手に入れたあの日
この力を誰にも知られまいと決めた
別れ際、川谷くんが僕に言った
「田中くん、君がいてくれてよかったよ
僕だけじゃ、助けられなかった
僕は、1日たりとも自分が溺れた日の事を忘れたことはなかった
いつも、あの川を通る時
あの日を思い出しながら、川を見つめてたんだ
今日も、じっと見つめてたんだよ
そしたら、あの日の幻かと思ったけれど
本当に、子供が溺れていた」
「田中くん、本当にありがとう」
「川谷くん…」
僕は温かい気持ちになった
「田中くん、君とはいい友達になれそうだ、
また、何か困ったらいつでも言ってね」
彼は爽やかにそう言いながら
家に帰っていった
僕は、温かい気持ちを抱きながら
家路についた
この"超能力"は
人を救うこともあれば
人をおとしめることもある
僕は、そんなことを考えながら眠った
つづく




