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百夜語  作者: 田古墨
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三春の話:つかれた

 俺がつかれた時の話。

 俺のまわりでは、少し不思議なことが起こる。だから、それをモチーフにホラー小説なんてものを書こうと思い付いた。

 ルーズリーフならどこでも書けるという利点があるが、証拠のように紙束が残ってしまう。パソコンでなら場所が固定されてしまうが、簡単な操作だけで消したいときに消せる。そう結論付けてからは、パソコンで書くようにしている。後から自分の作品が恥ずかしくなっても、すぐに消せるというのは良い。

 そういうわけで、パソコンのwordを開いては、夜な夜なホラー小説を書くことが続いていた。

 その夜も窓の外から聞こえる車の音以外は静かな部屋で、机の上に置いたノートパソコンに小説を打ち込んでいると、後ろからタタタ……と音がした。どうやら足音のようで、それは大人よりは軽いが犬猫よりは重い音だった。ちょうど子供くらいの。

 ずっと聞こえるわけではなく、少し走っては足を止め、またしばらくして走ることを繰りかえしているようだった。

 後ろを振り替えって見たが、誰もいない。

 俺は一人暮らしのはずで、ペットも飼っていないのだから当然ではある。

 タタタタタタ……

 今度は音が聞こえたタイミングを狙って、振りかえって見たが誰もいない。もしや、机の下にいてコッチを見つめているパターンじゃないかと、覗きこんでみたが何もなかった。

 一人で何をやっているのかと無性に恥ずかしくなり、コーヒーでも飲んで落ち着こうと立ち上がる。その時に執筆中である小説を上書き保存するのを忘れない。突然データが消えて、死に物狂いで仕上げたレポートの二の舞にはしたくないからだ。

 後は保存して提出するだけだと安心して、保存ボタンをクリックしようとした途端、パソコンがフリーズし、再起動かけたときにはレポートが白紙になっていたときの絶望は言い表せられない。もう一度レポートを書き上げたときには、朝の気配が迫ってきていた。

 次からは小まめに保存することを朝焼けに誓ったのは、今思い返すといたたまれない。

 まあ、昨日のことなんだが。

 そのせいなのか、どうにも右肩が重い。今日は早めに寝ようと、インスタントコーヒーをお湯でとかし、大量に氷を入れながら考える。

 カラカラと、氷同士がぶつかって涼しげな音をだすマグカップを手に机に戻ると、触っていないのに変化していることがあった。

 開きっぱなしにしていたwordの画面。


『……うしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろうしろ』 


 俺が書いていた部分は消され、ひたすら同じ三文字が画面に踊る。

 タタタ……という足音と、右耳のすぐ横の位置から、子供の高い声がした。

「みてるよ。」

「なによりも一番の衝撃は、『エンドレスうしろ』で上書き保存されていたことだな。後少しで仕上がったのに白紙も同然だった。」

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