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百夜語  作者: 田古墨
3/9

秋川の話:写真

 これは、俺が友人から聞いた話。

 独り暮らしをしている俺の家に、酒とつまみを持ってやってきた江夏は機嫌が良かった。

 家主の俺に断りなしにテーブルにつまみを並べたと思ったら、先に飲み始めるくらいには。

「秋川、お前も飲めよ。全部俺の奢りだ!」

 ニヤニヤとした笑みで鼻歌でも歌い出しそうな江夏は、端から見ても気持ち悪い。多少ウンザリしつつも、差し出された缶ビールを受け取って向かいに座る。

「なんでそんなに、浮かれてんの?」

 もし彼女ができたって話なら殴ろう。そんな俺の決意なぞ知らない奴は、得意気に写真の束を取り出した。

「俺さ、心霊スポットに行ってきたんだよね。」

「この間の公園のやつか?」

 こいつから公園で肝だめしした話を聞いたのは1ヶ月ほど前だ。

 そのときに写真でも撮ってたのかと聞いた俺に、立てた人差し指を左右に降る。こいつがやると、非常にムカつく動作だ。

「それとは別で、一人でいったんだよ。先週くらいに。」

「はあ?怖い思いした後にか?」

 江夏の辞書に『懲りる』という言葉は登録されていないのか。

 呆れている俺に写真を見せながら、江夏はぐだぐだ言い訳を連ねていく。

「幽霊が出るって聞いたら、なんかもう行かねば!ってなるじゃん。それにさすがに懲りたからさー、昼間に行ったし。」

 本当に懲りたなら、そんなとこには近寄らないとは思う。だが、昼間に行ったのは本当らしく、どの写真にも昼間の廃墟が写っていた。

「それで、なんかあったのか?」

「それがさ、心霊写真が撮れたんだよ!すごくね!?」

 興奮気味に言われたが、いったいどこに幽霊なんてものが写っているのか俺には分からなかった。どれも普通に廃墟が写っているだけだ。

「どこに写ってるんだよ。」

「ふふふー。気づかない?」

 にやにやとした江夏の顔を見て、無性に殴りたくなった。

「むしろ殴らせろ。」

「いやいや、ちょっと待って。」

 これだよこれ。と差し出された写真には、廃墟の入り口を背景に江夏がニタニタ気持ち悪い笑みを浮かべていた。

「お前さ、心霊スポットで興奮してたのかもしれないけど、人前でこんな風に笑うのは止めとけ。ドン引きだぞ。」

 写真の江夏は、別人かと思うような気味悪い笑みだった。目がぐぅと細く弓なりになり、こちらを嘲笑っているかのようだった。

「それ、幽霊なんだよ!ここには一人でいったんだから。」

 写真を撮ってる俺が、写真に写るわけないだろ。

 江夏は、ビールをグイッと飲み干して続ける。

「それ、廃墟に入る前に撮った写真なんだけど。撮ったときには目の前には誰も居なかったはずなんだよね。でも、そこに写ってるのって、カメラ目線じゃん?」

 言われて写真を見ると、写っている江夏はしっかりとカメラを見ている。そして、もうひとつおかしい点が。

「俺、カメラのレンズ越しにさ、ソイツと目が合っちゃってたんじゃないかなーって。」

 シーン……と静まり返った部屋に、江夏の呟くような声が落ちる。

 写真の中の江夏には、影がなかった。

「でもさー、一人で行ったの証明できないから、こいつは幽霊だって心霊番組に投稿できないんだよな。」

「そもそも顔がお前だから、投稿できないだろ。日本中にお前の顔見られても良いなら良いけど。」

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