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百夜語  作者: 田古墨
2/9

三春の話:ヒールの音

 俺が入院していた時の話。

 入院といっても、そんな大したことはなく、長くても一週間程度ということだった。それでも入院生活は暇でしかなく、昼寝をして時間を潰すことが多かった。

 いよいよ明日退院という日の夜。就寝時間に寝はしたのだが、夜中に目を覚ましてしまった。昼寝をし過ぎたせいなのか、明日が楽しみで興奮してるのか、なかなか睡魔は訪れない。

 もういっそ起きてしまおうか。夜中に読む深海生物図鑑もなかなか風情があるだろう。

 そう思い、身体を起こそうとした時だった。


 カツ カツ カツ カツ カツ カツ カツ


 ゆっくりとした足音が聞こえた。固いもの同士がぶつかる音からすると、ヒールでも履いていたんだろう。

 もしかすると看護師の見廻りかもしれないため、起き上がるのをやめて、大人しく寝ることにした。体調に問題のない俺が起きていても、起こられはしないと思っているのだが、まだ起きているのかと思われるのは気恥ずかしい。俺は口下手なうえにシャイボーイなのだ。

 ヒールの足音は俺の病室に近づいて、そしてまた遠くなっていった。

 ここで俺は、見舞い客だったのかもしれないと思い付いた。よく考えてみると、看護師はヒールなんて履いていなかったからだ。

 もし見舞い客だったなら、なぜこんな夜中に?

 あれこれ理由を考えながら、ベットの上で寝返りをうつ。単に暇潰しだった。

 しばらくすると、また、


 カツ カツ カツ カツ カツ カツ カツ


 ヒールの足音が近づいて、遠ざかっていった。

 あのヒールの主が帰っていったらしい。

 ずいぶん早い帰りだと思っていると、


 カツ カツ カツ カツ カツ カツ カツ

 

 またヒールの足音が近づいてきた。そして俺の病室の前を通りすぎていく。

 その後、一晩中、ヒールの足音は俺の病室の前をいったりきたりしていた。

 どこに用事があったのかは知らないが、夜中に大変迷惑な方だ。


 その日の午前中で、俺は問題なく退院できることになった。

 病室のドアを全開にしたまま、荷物を片付けていた俺は、廊下に立っている女性がヒールを履いているのが見えた。

 どうやら隣の病室の見舞い客らしく、廊下で立ち話をしたあとは、そのまま病室に入っていた。

 それを見て俺は、なんとなく違和感を感じた。

 入院病棟の廊下はタイルではない素材が使われており、あまり音が響かない。さきほどの女性もヒールを履いていたが、夜中のようなカツカツとした音ではないくぐもった音しかしなかった。

 なら、夜中の足音は何だったのだろうか。

 まあ考えてみても仕方ない。俺はまとめた荷物を持って、一週間世話になった病室をでる。


 カツ カツ カツ カツ カツ カツ カツ カツ


 後ろから聞こえたような気がしたが、まあいつものことである。

「江夏、飯食べに行かないか。」

「おー、つかお前さ、こないだ盛大に公園で迷子になった後、なんかあった?」

「いや、特に。ああ、入院はしてたな。」

「は!?」

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