初めての友達
キーンコーン
カーンコーン
「さぁ、火曜日の授業はこれで終わりです。お外で遊んできなさい♪あっ、泥団子合戦は今週の金曜日です。親御さんに伝えて汚れてもいい服装の準備をしてきてくださいねー!」
生徒全員「はーい!やったぁー!」
学校の名前は「大地学園」、土の国の中では
在校生の人数は少ないほうだが、5才から14才まで
の生徒を扱うかなり年齢幅の大きい学年だ。
シントの学年は、5才から7才までの子供たちが混ざる学年なので途中入学してくる子も多い。
授業は基本のことを簡単に何回も教え、それ以外の時間はほぼ外で遊び、土の能力を自分で身につけていくという授業方針のよう。
子供達もその時間が大好きなので、先生の掛け声があったと同時に教室を飛び出していった。
「あれ?わかばさん?」
しかし、みんなが飛び出していったはずの教室には
窓から広場を見つめる一人の少女がいた。
ハナが呼んだわかばという少女は5才で、昨日転入生として来た女の子。
今日が初めてのお外遊びだった。
「どうしたの?お外に行かない?」
ハナはわかばの隣に座り同じ目線で話かけた。
わかばは、涙目をしながら首を横に振り
小さな声で話した。
「みんなと遊べないよぉ...男の子もこわぃ...。」
「そっかぁ、でも、わかばさんが好きなように遊べばいいのよ?」
「私は、みんなと少し違うんだってママが言ってたの...。だから、学校に来る前も1人で遊んでたから、みんなと遊べない。」
わかばは、そう言うと、また、窓に顔を向き直し
生徒たちが遊ぶ広場を見始めた。
(この子...いつも一人でいたせいで、人見知りになっちゃったのね。恥ずかしそうに目も合わせないし。
この子がどれぐらいの土の力をもっているか興味はあるのにね。)
ハナは、少し考えたあと、何か思いついたのか
立ち上がり窓の外を確認してあるところを指さした。
「あそこにいる子を見てみて?」
わかばも気になりハナが指さした方向に目をやった。
よく見ると、広場で土の力を使って遊ぶ他の子とは違い大きなバケツに水をたくさん入れて運んでいる少年がいた。
「あの子はシントって名前の男の子。年はあなたと同い年よ。少しあの子を見てて?」
ハナがそう言うとわかばは興味を持ったのか窓の格子に両手をつき、シントを観察し始めた。
シントは、先ほどの持っていた大きなバケツを花壇の前に下ろすとコップで水をすくい、咲いている花の根本にかけ始めた。ひとつずつ丁寧に水をかける。そして、雑草があると思うと丁寧にスコップですくって、花壇とはべつのとこ雑草を植えなおしていた。
「シントくんとても楽しそうね♪」
ハナが言った通り、シントはニコニコと満面な笑で花壇を見つめていた。
「たしかに、すごく楽しそう、、、。」
ハナは、そう答えたわかばのほうチラッとみると
キラキラとした目でシントを見ている。
しかも、シントの笑顔につられたのか、わかばの横顔は少し笑って見えた。
そんな、わかばをみてハナはわかばの目線にもう一度しゃがみ、格子につく手に触れて声をかけた。
「あの子をもっと近くでみてみませんか?」
「うん...。でも、先生も一緒に…」
「ええ、わかばさんと一緒にいきますよ。」
・・・・・・・・・・・・
ハナはわかばと手を繋いで歩き、花壇の近くにあるベンチに座った。そこからは、笑顔で花壇を見つめるシントがよく見える。
「先生…シントくんはなんで土の力を使わないの?」
わかばはいつまでたっても土の力を使わずにいるシントに疑問を持ったようだ。
その質問にハナは、シントを優しく見つめながら答えた。
「あの子は、土の力を持ってないんです。」
「えっ…。」
驚いたわかばはもう一度シントのほうを見る。
「でもね、あの子は土の力はなくても、一人で、ああやって自然と遊ぶことで、小さな発見をして、他の子とは違った土に対する考えを持っていると思います。
それに、あの子はクラスの中で一番の優しさを持っているんですよ。」
「優しい…。」
っと、その時、二人の視線に気がついたのか、シントがこちらに走ってきた。
「わっ…。」
人見知りのわかばは、繋いでいるハナの手をギュッと握り、顔だけハナの背に隠してしまった。
「ハナ先生何してるのー?うん?」
ハナの背に顔を隠している女の子をみて疑問に思う。
先ほどまで、ハナと、一緒にいた女の子も自分を見ていたような気がしていたので、シントもわかばのことが気になったようだ。
ハナはそんな二人をみて笑い、シントに話しかけた。
「シントくん、この子は昨日転入してきた女の子ですよ。」
「あっ!わかばちゃんって名前の子だよね!よろしくね!」
わかばはシントが自己紹介してくれているのは、わかっているのだが、シントを見ていたことがバレたと思い、恥ずかしくてなかなか顔をだせないでいた。
ずっと、顔を出さないそんなわかばをみて、シントは
何を思ったのか、先ほど遊んでいた花壇に走り、何かを少し探し取ったかと思うと、もう一度駆け寄ってきた。
ちょんちょん
シントな片手に何か握り締めているようなので、あいている手でわかばの肩を指でつついた。
ビクッ
わかばもさすがに顔を少しだけだし、シントの方をみた。それを、シントは確認して、何かを掴んだ方の手をわかばの目の前にだして、話し出す。
「この手の中には何があるでしょー??」
わかばの中では男の子が意地悪というイメージがあるようだったので、自分の苦手なもの?と思い、恐る恐る…
「かっ、、カエル」
っと、わかばが答えた。
瞬間。シントは指をバッと広げる。
「きゃっ!!?」
わかばは、びっくりしてハナの腕にしがみつくが、何も起こらない…
もう一度、ゆっくりとシントの手の平をみるとそこには
「……ひまわりの種???」
シントの手の平にはひまわりの種が3つほどあった。
「そうだよ!さっき枯れちゃったかなーって思ったひまわりをみてたらね種が出来てたんだぁ!」
唖然とするわかばに、シントとは笑いながら話を続けた。
「もしよかったら、一緒にこの種、花壇に植えない?三人で一緒に!」
とびっきりの笑顔でシントが誘ってくるので、わかばは少し顔を赤くしながらも、誘われたことが嬉しかったのでコクっと小さく頷いた。
・・・・・・・・・・・・
三人で花壇に向かい、シントは花が植わっていない空いたスペースに腰をおろした。
「わかばちゃんは、種を植えたことあるかな??もしかしたら、土の力で植えたことがあるかもしれないけど…、僕はね!いつも、種を植える場所を決めたらこうやってまずは、スコップで土を柔らかくして土のベットを作ってあげるんだぁ!」
楽しそうなシントにハナは優しく質問する。
「土のベット??」
「うん!赤ちゃんがゆっくり寝るには固いベットじゃ寝れないでしょ?で!えいっ!指で小さめの穴を作ってあげて、種を入れる。上にかける土はかるーいお布団をかけるように上に少しだけ。」
そういって、シントは自分の持っていた種を植えて、わかばとハナが植える様子をニコニコと見ながら、少しの水をくんできた。
「最後に、植物に必要なお水を優しくかけてあげる。
これで、種植えおわりだよ♪少し、手を汚しちゃったみたいだけど…どう、楽しかった??」
シントは、少し不安そうにわかばの顔を覗く。
そして、わかばは少し俯きながら口を開いた。
「はじめて…」
「はじめて??」
「うん…、ママやパパ以外の人と遊んだのもはじめてでこんなふうに種を植えたのもはじめてでとても楽しかった…あと…」
なぜか、また、口を閉ざしてしまうわかば…
そんな、二人を見ていたハナはわかばに、優しく声をかけた。
「わかばちゃん、まだ、シントくんに何か言いたいことがあるのかな??」
俯いていたわかばは、何か決心したように
前を向き直し、シントとハナをみて、もう一度口を開いた。
「私ね、お母さんに変だって言われてたことがあって
誰にも今まで言えなかったんだけどね…。私は、みんなと同じように結晶が薄い緑色なんだけど、みんなみたいに土を動かしたりすることはできないの…。」
シントは、少し驚く。
(僕と同じ?)
わかばは話を続ける。
「そのかわり、植物の声が聞こえるの。」
あまり見かけない能力に驚くハナと
少し、残念そうにするシントであったが、シントはすぐに笑顔に戻ってわかばに質問をする。
「さっきのひまわりの種たちは何か言ってた??」
その質問にわかばは今まで見せなかった笑顔で答えた。
「あの種たちね、とっても気持ちが良くて嬉しがってたの!私はあんな嬉しそうな種の声ははじめて聞いた!」
「ほんとに??僕もすっごく、嬉しい!!」
内気なわかばだったが、話したことですっきりしたのかシントの手を自らにぎり、種を植えた場所まで引っ張っていった。
「こうして、もう一度この種たちに耳を傾けると早く
花を咲かせて綺麗な姿をシントくんに見てもらいたいって。」
「えへへ、絶対みるよ!ひまわりの種さんたち、それまでゆっくりお眠り。」
シントは種にしゃべりかけたあと、べつの花のほうに指をさしてわかばを連れていった。
「あの花はなんていってる??」
「このお花は、もう少しお水が欲しいって、さっきのだけじゃ足りん!!って(笑)」
「わぁ!ごめんよぉ」
ワハハ
・・・・・・・・・・・・
(ふふ、わかばさん、あなたはもう一つのはじめてがあったのに気づいたかしら?
わかばさんもシントくんもはじめてのお友達、大事に仲良くしていきなさいね。)
ハナは、少し遠くからその二人のやりとりを優しく見守るのであった。