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ゴミ部屋の希望

 出迎えてくれた先生はボサボサの髪に黒のパーカー、下はジャージという何ともラフな格好で、その顔は興奮が抑えられないのか若干紅潮していた。

「来たか!入れ入れ」


言われた通り部屋に入ると、部屋は食べかけのパンや洗わないまま放置していたのであろうカピカピの米がこびりついた茶碗などが散らばっており、お世辞にも片付いてますね、とは言えない状況だった。

「これ食うか?うまいぞ」と先生はどら焼きを差し出してくれた。

「これは賞味期限切れてないんですか?」と尋ねると

「どら焼きは賞味期限切れてちょっと経ったぐらいが旨いんだよ」と何とも信憑性に欠ける言葉が返ってきたため俺は家で食います、と言いながらおそらく中も食べ物でいっぱいであろう、部屋のこたつの中にそっと隠した。


「それで、電話で言ってたことについて聞いてもいいですか」

「おう!それだ!まあ電話でも言った通りタダで入れる高校を見つけたんだな!というか知り合いが勤めてる学校何件かに聞いてさ、事情話してどうにかなんないかなって思ってたんだよ。あ、勝手にすまんな」

先生がめったに見せないような申し訳なさそうな表情を浮かばせたので

「大丈夫です、気にしてないんで!それよりこちらこそすみません。色々やってもらって」

「おれは良いんだよ。どうせ暇だしな。まあおれも正直ダメ元でさ、期待はしてなかったんだけど一校だけあったんだよ!入学金、学費いらないっていう学校がさ!どうやら特別推薦っていう扱いらしい」

「特別推薦?おれ部活とかもやってなっかったのに良いんですかね?」

「まあそういう事情なら、っていう話らしいな。で、電話でも言ってた不気味っていうことなんだけどな、学校の詳細が全く分からないんだよ」

「え?ホームページとか調べたらあるんじゃないんですか?」

「ホームページには電話番号とか、住所ぐらいしか載ってないんだよ。ネットの掲示板とかに書いてるのも金持ちの生徒が多いっていうのと全寮制ってぐらいかな。他の情報は誰かにことごとく削除申請されてるみたいだ。そんなこんなで学校の詳細が分からないから、全国的にもそんなに知名度も高くない」

「なるほど…。でも変な学校っていうわけじゃないですよね?不良ばっかりとか」

「それはないらしい。知り合いが言うには生徒は普通の高校生だっていってたな」


おれはこの時先生の話を聞きながらどんどん自分の心が高ぶっていくのを感じた。

高校行けるのか!金もかからない、変なやつもいない、それで特別推薦で取ってくれるっていうんだからこれはかなりおいしい、おいしすぎる話じゃないのか!?

ただで入学させるなんて、とんでもなく慈愛に満ちた決断をする責任者がいるんだから、さぞこの高校は慈愛に満ち溢れた人間がいっぱいいるに違いない!

これは行くしかない!行くしかないだろ俺!不明確な点も多少、いや分からないことだらけだけど悩んでる暇はない!

「先生、おれその学校に行きます!!」

「本当か!謎が多い所は大丈夫なのか?」

「はい!それは大丈夫です!こんなチャンス他にあるとは思わないし!」

「分かった!じゃああちらにはそう連絡しておくから後日会いに行くか!ご両親とも話して固まったらまた連絡してくれ!」


「はい!!!!!!!!!!!」


それから帰宅までの道のりはあまり覚えていない。

100年生きたとしても経験することができないような奇跡としかいえないものが自分のところにやってきてくれたことに俺は有頂天になり、クロスバイクのペダルを折れるほど力いっぱいこぎながら、爆風スランプの「Runner」を歌うというよりももはや叫ぶように何度も繰り返し、家についたころには声が今までないくらいガラガラに枯れていた。

母が帰ってきたおれを見た時「目が光り輝いていた」ように見えたのも決して過剰な表現だとはいえないだろう。

そのような様子で意気揚々と特別推薦の話を聞かされた両親は情報が全くないというのと、全寮制のため家族の元を離れなくてはならないという所で、一瞬不安気な表情を見せたが、自分の子供が諦めていた高校進学ができるということもあり、概ね賛成してくれた。


こうして絶望という地獄にあった俺は先生から垂らされた希望の糸を掴むことになったのである!


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