それは吉報?
先生に告げた後はしばらくやる気が起きないまま、火事の後から世話になっている叔母の家にひきこもっていた。
なんで俺が。なんで俺が。
呪文のようにそう繰り返しているとどんどん気持ちが落ちていくのは分かっていたが、どうしても口に出してしまう。そんな日々が続いていたある日のことである。
引きこもっている間はパソコンや携帯しかする気も起きなかった。その日も俺は携帯のアプリで暇つぶしをしていると突然着信があった。先生からだ。心配して電話をかけてきてくれたのかな、と思うと少し嬉しくなった。通話ボタンを押し携帯を耳に当てるとやや怒鳴り気味に声が飛び込んできた。
「おい!今暇か!お前高校にタダで行けたら行きたいか!?」
何を言っているんだろう、そんなタダで高校行けるわけないだろ、と思い
「そ、そりゃタダで行けるなら行きたいっすけど、そんな高校ないじゃないですか。やっぱり諦めるしか」
「それが!見つけたんだよ!高校見つけた!タダでだよ!タダで!ただちょっと不気味な点もあるんだがとりあえず今からこっち来れるなら来い!」
何だか怪しげな話だがとりあえず聞いてみるか。
「…分かりました。えっと学校に今から行けばいいんですかね?」
「いやおれの家だ!おれの家知ってるよな!前連れてきたことあっただろう」
そういえば前に引っ越しの手伝い行ったことあるっけな。職員用のマンションから「いつも先生に囲まれてると飲みの誘いが多すぎるから」という理由で引っ越すことになった時、クラスの男子が何人か「手伝い係」として晩飯を条件に連れて行かれたことがある。
電話を切った後、久しぶりに制服を着て玄関に向かった。しばらくはひきこもったままだろうとおれを放っておいてくれていた母や叔母は、驚いた顔をしていた。
母と叔母に「ちょっと先生の家に言ってくる」と告げて、去年買ったクロスバイクにまたがった。全焼の火事のなか数少ない生き残っていたものの1つで、思い入れがあったこともあり少し嬉しくなったのを覚えている。
先生の家はこのバイクで大体30分ぐらいで着くだろうと思っていたが、先の電話でもしかしたら、という思いもありペダルをこぐ足は自然と力強くなり、予想の半分の時間で着いた。
久しぶりに見た先生の家は依然と変わらず、少し錆びれたような薄緑色の三階建てのマンションで先生の家はIの字型の建物の二階、北側の端の部屋である。
階段を上るたびにドキドキしてきたが、冷静に考えてそんなおいしい話あるわけない、あんまり期待しすぎるとその分ショックは大きいんだから期待しちゃいけない、と無理やり落ち着かせた。
期待、それを抑えようとする気持ちの間で妙に固くなった表情で、先生が待つ部屋202号室のチャイムを押した。