プロローグ2
「じゃあ今日はここまでにしようかな。次の授業までにここの問題やってきておいてくださーい」
担当講師が生徒たちに告げると共に教室には帰り支度をする音が広がっていった。
12月中旬、毎週火曜のこの塾に通うのも気づけばあと数回である。塾の終わりが近いということは同時に高校受験が間近に迫っていることを意味する。最近は「受験」という言葉を聞くと少し心臓のリズムが速くなってしまうような気がしていたのだが、今日の進路相談で担任の「90%以上合格」という言葉を聞きだいぶ落ち着きを取り戻したところだ。
帰り支度を終えて塾の外に出ると、向かいの駐車場の中で独特な雰囲気を放っているピンクのオープンカーがあるのを確認し小走りで車に向かった。
「お疲れさまー。大変だねー、ジュケンセー」
「いえいえ。寒い中厚着してまでオープンカーに乗って迎えに来てくれる姉上様ほどでは」
「あ、塾に通うようになってから人の煽り方が上手くなってきたじゃん。ジュケンセーコワイネー」
「煽るのが上手くなったのは姉ちゃんのおかげだよ」
そういうと俺は次に続くであろう姉の口撃を避けるためにヘッドホンを付けようとすると後ろからサイレン。
姉は道を空け、通り過ぎる消防車をチラリと覗き「進む方向うちの方だねー、燃えてたりして」と言った。
「実際自分の家が燃えてたらどんな反応すると思う?」と尋ねられたので
「よく分かんないけど姉ちゃんなら大丈夫でしょ。燃えてる家に向かって芋とか投げそう」と返すと「くーっ、可愛くないなー」と言いながら車道に戻った。
その後は姉の大学の面白くない教授の話だとか、母さんがまたダイエットの為に通販でDVDを買っただとかいう話をしていると愛しの我が家、城田家が近づいてきた。
時刻は9時前。いつもなら人の少ない時間なのに多くの人が表に出ている。何を見てるのかと人々の視線を辿るとどうやら民家が燃えたらしく、そこから立ち上っているのであろう黒い煙が車からも見えた。
「火事ほんとにこの辺なのか。さすがにうちの近くっぽいし少し心配かも。電話かけてみたほうが良いかな?」と尋ねると、
「まあもうじき着くし大丈夫でしょ。それにうちがあんなに煙が立つほど家が大きかったとも思わないし。うちの大きさぐらいだったら全焼してもバケツだけで火、消せるんじゃないかな」と返ってくる。
さすがにそれは、とも思ったが現実的に考えてもそんな自分の家に火事とかドラマみたいな展開無いよなとも思い、取り出していた携帯をポケットに戻した。
しかしそんなドラマみたいな展開が、しかもそれが想像もしていないような展開をしていくことになるとは、この時は想像もし得なかったのである。