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終章

 朝が来る。私はいつも通り自分のベッドで目を覚ます。

「おはようございます……」

 誰へでもなく呟いて起きあがる。

 ……ふむ。服が焼け焦げていたり髪が微妙に汚れているということは、あれは夢じゃなかったのだろうか。

 正直、どうやって帰ってきたのかさっぱり覚えていない。サーズデイにビリビリされて、一回気絶して成上さんにおぶわれながら色々話して……また気絶したのか、そこから記憶がない。

「う……」

 動かす度に全身が痛む。筋肉痛だろうか。よく覚えていないが、普段ではありえないような動きをしたような気がするから、たぶんそれだろう。

 今日が休みで幸いした。こんなコンディションで登校するのは少々辛い。バス停に着く前にへばってしまいそうだ。

 とりあえず、まずは顔を洗って、それから朝食にしよう。パンと卵とベーコンと焼いてレタスを洗うのならそれほど動かずにすむはずだ。

 私は欧米食文化に感謝しながら部屋を出た。

 廊下を三歩ほど歩き、ぐにゅ。

「…………」

 なんだ……今踏んだ感触は。マットにしては厚みと弾力がありすぎる。そして生暖かい。うちに床暖房などないのに、人肌程度の温もりがある。

 というか。それは人間だった。

「――――!?」

 思わず声が出そうになる。い、いや、落ち着け。なんの理由もなく一人暮らしの家の廊下に見知らぬ男が寝そべっているわけないのだ。まずは顔や服装から身元を確認しなくては。

「あ……累ちゃん、おはよう……」

 と、その男が起きたのか、顔をこちらに向けた。男っていうか、赤毛やライダースーツでわかりそうなものだが、成上さんだった。

「お……おはようございます……」

 っていやいや。何普通に挨拶を返しているんだ。

「成上さん……なんでこんなところで……」

 家にいること自体は別に不思議じゃない。考えてみれば私を家まで送ってくれたのは成上さんなのだろうし。宿を提供する約束もしたし、泊まったことは想定の範囲内だ。

 だが、何故廊下? よりにもよってなんで廊下で寝る?

「なんだか、ベッドまで借りるのが申し訳なくて……野宿は慣れてるし……」

 成上さんは頭をかきながら立ち上がる。

「せめて毛布くらい使ってください……」

 いくら屋内でも廊下じゃ寒いだろうに。

「改造人間だからね、暑さ寒さには耐性があるんだ」

「面倒な設定は全部それで片付ければいいと思ってませんか?」

 そういう問題じゃない。見てるこっちが寒いのだ。

「……まあいいです。早く顔を洗ってきてください。朝食がまだできていませんので」

「え?」

 成上さんが不意をつかれたような顔をする。

「今日はトーストにする予定ですが、ご飯のほうが良いなら炊きますけれど」

「いや大丈夫、パン大好き……じゃなくて! いいよ、朝食まで用意しなくても……もう十分お世話になったよ……」

「何言ってるんですか。助けられたのはこっちの方です。一度ならず二度までも……むしろ何宿何飯提供すればお返しになるのかわかりません」

 それとも、肉体的なアレやソレをしたほうがいいのだろうか。

「なんか年頃の女の子が考えちゃいけないこと考えてない!? いいよ、いちいちそんなこと言ってたらキリがないよ……わかった、今日の朝ごはんは食べるから、そういうのはこれで終わりにしよう?」

 困った顔の成上さんが提案する。逆に気遣われたようで申し訳がないのだが、これ以上押し問答を続けてもしょうがないので「わかりました」と頷く。

「と、いうことは……また旅を?」

「うん……ウェンズデイには結局逃げられちゃったしね。放っておくとまた誰かを遣い魔にして何かするだろうし……」

 ウェンズデイ。彼の目的は一体なんだったのだろうか。

「それはわからない。だけど、他人を犠牲にして何かをするのは、それだけでもう悪いことだと思う。たとえ正義や善の為だとしても、他人を巻き込むのはきっと間違ってるんだ」

 成上さんはまっすぐな瞳で断言した。さっきまでの押しの弱い言動からは考えられないほど、力強く。

「だから、僕は彼を止める。最悪命を奪ってでも、ウェンズデイを止めなければならない」

「そう、ですか……」

 残念だが、私はこれ以上彼に関わることはできない。無理についていっても足手まといになるだけだろうし、それにこれは成上さんの問題だ。

「何かできたら良かったんですが……」

「だ、だからもういいってば!」

 大慌てで成上さんが首を振る。

 物ではないお礼のほうがいいのだろうか。

 やはりこれは肉体的なアレやソレを……

 …………………………あ。

「いけません。私としたことが、一番大事なことを忘れていました」

「え、何?」

 成上さんが『今度はなんだ?』みたいな顔で見てくる。

「成上さん」

 私は、混じりけのない純粋な気持ちで言った。


「本当に、本当にありがとうございました」


 きっと、今度はちゃんと笑えた。




Thursday is The END.

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