昼でも夜でもない私達だけの世界
昼でも夜でもない世界で
私達は出会った
遠山沙月。月の光を浴びたら死んでしまう少女。
海野陽平。陽の光を浴びたら死んでしまう少年。
私達は、遠い地平線の彼方の塔に幽閉されていた。
だれも私達を覚えていない。こんな悲しい事、他にあるだろうか。
この病気はどこからともなく現れ、私達を蝕んだ。
原因不明の未知なる病気。
光を浴びたら即刻、砂のように消えてしまう。
毎日が怖くて
毎日がいやで
そんな時、あなたに出会った。
「あなた誰?こんな草原に、人間が居たんだ・・」
沙月は陽平を見て呟いた。
陽平は、破れたジーンズと、白いパーカーを着ていた。
ボロボロだった。
「君こそ誰?こんな雨の日に・・。風邪ひくよ」
陽平も沙月を見て呟いた。
沙月は、青いワンピースを着ていて、風邪をひいてもおかしくない
格好だった。
「いいよ。風邪ひいたって。こんな塔に何年も幽閉されて・・
なんで私生きてんだろうね。もう、ご飯食べなくても生きれるように
なっちゃった」
沙月は細い腕で花をぷつんと千切った。
「そうなの。ボクもだよ」
陽平が横にすとんと座ると、沙月は目を丸くして
「あなたも!?何年も塔にいて、ご飯食べなくても生きれるの?」
「うん」
陽平は首をコクンと動かした。
「私の病気はね。月の光に触れたら死んでしまうの」
「ボクはね、陽の光を浴びたら死んでしまうんだ」
沙月はクスッと笑った。
「似たもの同士ね、私達」
「だね」
「私ね、どうしても、夜に外に出たかったの。
だから、雨の降ってる夜を見計らって出たの」
「ボクは、夜しか出られないから
夜に外に出てるんだ」
くだらない話でこんなに笑えるなんて・・・・
陽平は、沙月に会えたことが嬉しくて、嬉しくて堪らなかった。
どうして、もっと早く会わなかったんだろう・・・・?
雨がポツポツと降る夜。
それは、沙月と陽平の約束の日。
「沙月!」
「陽平!」
月が出るまで2人はずっとずっとずっと話をして
ずっとずっとずっと傍にいた。
「私達、『昼の少年と夜の少女』に似てない?」
沙月が花を撫でながら言った。
「なにそれ」
「え〜と・・本、なんかの本だよ。いい話だったよぉ・・な」
「本なんか読んでたんだ。ボク、そういうの苦手だから。
でも、題名からしたら反対じゃん?ボクら」
「だね。陽平は夜は大丈夫だけど、昼はダメ。
私は昼は大丈夫だけど、夜はダメ」
沙月の翡翠色の目が潤み、黒い髪が風に靡いた。
陽平の紅い目が、沙月を捕らえる。
「・・・私ね、一回でいいの。一回でいいから月が見たい」
「明るい太陽が見れるからいいじゃん」
ブンブンと頭を振って、沙月は拒絶した。
「女の子はね!淡い黄色い月色が好きなの」
陽平は頭の上に?を出した。
「なんで?てゆーか月色って?」
「月っぽい色の事よ!」
サラサラと風が二人を撫でる。
沙月は陽平が好きだった。
「ね。陽平。私ね・・わた・・・」
2人が出会って半年。
沙月が顔を赤くして切り出した。
「どうしたの?沙月」
沙月、と自分の名前を呼ばれるだけで、もっと陽平の事が好きになる。
自分と同じ黒い髪も、自分の持っていない紅い目も
全てが、大好き。
「私・・・陽平の事が好きなんだ」
陽平の紅い目が大きく見開かれた。
「あ!迷惑だよね?ごめんね。こんな事言っちゃって・・・」
「ううん・・・ボクも沙月のことが好きだよ。
こんなに楽しかった半年はなかった」
草原を、静寂が包む。
2人は、触れるだけのキスをした。
その時
「月だ!沙月。早く帰らなきゃ・・死んじゃう!」
「いいの」
その声は、深く、重く、でも澄み切った声だった。
「私ここで死ぬ。大丈夫。私の昼の力を、陽平にあげたから
私達2人で一つ!」
笑うような声に続いて、泣きそうな声が響いた。
「ダメだよ!沙月が死んじゃったら意味がない」
そう言って、ぎゅうっと沙月を抱きしめた。
「ありがとう。私を必要としてくれて。
でも、私もう十分なの。すっごくすっごく幸せなの」
手が砂のようにサラサラと亡くなっていく。
「沙月!手が・・・・!?」
「ホントだ・・。でもさ、これで陽平は皆のトコ、帰れるよ」
「でも、沙月は・・・」
「私はいつでも陽平の傍にいるから」
「大好きだよ」
沙月は消えてしまった。
「沙月・・・・」
君がいなきゃ、意味が無いのに
君がいなきゃ、幸せなんてなかったよ。
「沙月・・・ありがとう。今でも大好き」
私もだよ
風にのって、澄んだ声が聞こえた。