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趣味釣り人:海岸にて

戦闘シーンがダメダメですねー。

奇跡テンション二回目ナリー。

 砂を掘る。


 掘った砂を卵形の炉に入れ、火種を放り込む。


 キラキラした光と煙のエフェクトが上がり、残った物は極微量の星の砂。


 それを別の容器に移し替えて、数歩進んだ先をまた掘る。


「は~。毎度のことながら面倒くさいなあもう」


 一時間くらい同じ事を繰り返している筈なのに、未だ容器半分にも満たない星の砂の量に溜め息を吐くケーナ。




 振り返って今来た道程を見る。半円月形の砂浜の半分程度が終わったところだ。


 前方のなんとか視認出来るところでは、五人PT(パーティー)が大型犬くらいのカニや子猫くらいのシャコと戦闘中である。この辺りは百レベルもあれば楽なので、彼等はまだゲームを始めたばかりの初心者なのだろう。


 その手前には砂浜から釣り竿を垂れている二人組。片方は青い軍服姿の少年で、もう片方が直立する二メートル弱のウミウシ。どちらも見知った友人である。


 どうせ近付いて行くのだからと挨拶を後に回し、ケーナは再び砂掘り作業を再開した。



「あら、ケーナじゃありませんの。何をしてらっしゃいますの? え、星の砂? 需要ありましたの、あれ」


 近付けば真っ先にウミウシがケーナの接近に気付く。彼女は釣り上げたアンコウをもう片方の釣り人へ投げ渡し、カラになった釣り針にりんごをくっつけて海へ放った。


 もうそれだけで何を目的に釣りをしてるのか察したケーナである。


(……察せるスキルマスター業が憎いぃ)


 片方の釣り人の九条はといえば、諦めの境地に至った無表情でケーナの視線にただただ頷くばかりである。



 そうしてケーナが砂を掘り続けながらそこを通り過ぎ、初心者PTたちの戦闘中エリア付近に入り込んだ頃。背後で和太鼓の音を巨大なスピーカーで拡大したような轟音が聞こえてきた。


「なっ、なんじゃありゃ――っ!!?」

「ででででけえええぇぇぇっ!!」


 初心者たちが口々にケーナの後方を指差し驚くさまを「あれでこのゲーム嫌いにならないといいなあ……」と嘆きつつ立ち上がる。


 ようやく小瓶を満たした星の砂をアイテムボックスに納め、杖を取り出し振り返る。高さ十メートルもある真っ黒なニ○ロ○○ロが、ウミウシによってくの字に折り曲げられ宙を舞っていた。


「なんだ【海坊主】かぁ」


 落下した【海坊主】が大きな水柱を発生させながら、ノイズを残して消えていく。

 ケーナは戦闘の余波によって生じた二メートル程の波をひょいと飛び越え、波打ち際を二人の所へ戻る。


「あらケーナ、星の砂集めは終わったんですの?」

「うん」

「それはお疲れさまですわ」


 無い汗を拭う仕草をするウミウシに労われ、素直に頷くケーナ。

 というか、いい加減ウミウシとの言い方はやめておこう。彼女はウミウシの着ぐるみ防具を纏ったれっきとしたプレイヤーである。名前はリオテーク。着ぐるみ防具の一部からは赤い長髪をソバージュにした彼女の顔がちゃんと見えていた。


「星の砂ってあれだろう。スター王子装備。ムチャクチャ晒し装備じゃんか」


 釣り上げた半魚人を空中で矢達磨にして処理した九条が首を傾げる。


「オプスがダンジョン作ろうって言うんで、それの宝箱の中身の製作だよ」

「「うわあ……」」


 なんとも言えない表情で二人は身を震わせた。気持ちは分かる。


「悪意と殺意のダンジョンパートツーですの? それにしては報酬がずいぶん安いですのね」

「初心者向けを作るって言ってたよ」

「「嘘だッッ!!」」

「ですよねー」


 同じ問答をしたギルドメンバーと同じ反応に、苦笑するしかないケーナ。オプスの信用の無さは筋金入りである。


 釣りをする二人を眺めながら近況を語り合う。一応、三人でPT登録は済ませておく。


 変化はそのすぐあと、「あ……」と呟く九条の釣竿の先にあった。

 数十メートル離れた海中に没し、ピンと張られた釣り糸。そこを中心とした三十メートルほどの円筒形に海面が盛り上がっていく。


「「うわー、でたー(棒読み)」」

「きゃー、出ましたわーっ!!」


 明らかにテンションの幅が違いすぎる三人組の反応である。

 遠くの浜辺では初心者PTの悲鳴がこちらまで届いていた。そのモンスターの異様な形状に。


 一見すればイソギンチャクをミミズの頭にくっつけたような姿である。ただし胴回りは大人が六人くらい腕を広げなければ取り囲めないくらい太く、黄色と黒と赤褐色のまだら模様。頭部の触手も同じような色で、一本一本に魚目に似たギョロッとした目玉がついている。触手の中央にはギザギザな歯が見通せる奥まで内部を囲んでいた。胴体は百メートル以上も続き、まだ海中へと続いてる。実際のところ蛇型ではなく、海底に定着している長い刺胞動物(イソギンチャク)なのだ。


 軋むような唸り声を上げたそれは、ズウォームという名の海洋大型モンスターであった。


「さあ、行きますわよ。皆さん!」

「えーと、じゃあ僕がバックアップを」

「じゃあ、私がフォローと召喚獣でタゲ取りするから、ってリオテークさんっ!?」


 後ろの相談も何のその、ケーナの足元に茶色い魔法陣が浮かんだその時に、リオテークは火炎を纏った拳をズウォームへ叩き込んでいた。こちらに向けていた口から青い粘液を吐き出そうとしていた直後だったらしく、あさっての方向に放物線を描いて飛んでいく粘液。


召喚技能(サモニングスキル):load:ブラウンドラゴン:LV6】


 砂浜を割りながらアンキロサウルスのような姿の茶色いドラゴン(LV660)が出現し、ズウォームに向かって突き進む。頭部の触手口を器用に避け、後ろ足で立ち上がりながら喉元に噛み付いた。


「うわあ、怪獣大決戦……」


 触手を弓で一本ずつ無力化しつつ、呆れたように呟く九条。

 ケーナの放った円月形の風魔法が胴体のあちこちを抉っていく。


 物理攻撃の効果を持つ大波を飛び越え、足場にしながら跳んだリオテークがコマのように回転する。ケーナから飛んだ威力強化魔法(バフ)と遠心力を上乗せした蹴りが、ブラウンドラゴンに絡みつこうとした胴体を陥没させた。


 海中に半没した頭部へ、飛行魔法で空へ飛んだ九条が矢の雨を降らせる。狂ったように暴れまわるズウォームに、振り回されたブラウンドラゴンの拘束が外れ、砂浜に回転しながら落っこちた。


「うわっと、危なっ!」


 転がってきた召喚獣に轢かれかけたケーナは上に飛ぶ。

 四肢を踏ん張ってブレーキをかけたブラウンドラゴンが咆哮を上げると、海中から岩が隆起してズウォームの行動を阻害するように立ち並んだ。


 波やズウォームを足場に、跳ね回りながら攻撃を加えていたリオテークがスキルを発動させて炎を纏う。武器を持ち替えた九条が投げたブーメランが、ズウォームの周囲を回転しながら炎の竜巻を発生させた。


「お終いですわっ!!」


 火炎竜巻の中央に飛び込んだリオテークの必殺技が大爆発を起こし、ズウォームのみならず海水や砂浜をも吹き飛ばした。


 なお、これ以前の余波で発生した津波で初心者PTは全滅し、とっくにホームポイントへ戻されていたという。





 戦闘後に出たアイテムを要る要らないのと分配し、素材のほとんどを九条が、武器をケーナが受け取る。

 周囲に音符マークが飛び交うリオテークは、るんるん気分で自身のステータスを開き、ある一点を見て崩れ落ちた。


 滂沱の涙を流しながら「そんな! あんまりですわっ!?」と泣き崩れる彼女の姿にだいたいの理由を察し、九条とケーナの二人は「あー、やっぱりね」と感想を述べた。



 その理由とは『ズウォームは特殊固定モンスターなため、召喚魔法では呼び出せない』である。


■スター王子装備:厚紙と段ボールと色紙で作ったように見える王冠、剣、鎧のこと。幼稚園や保育園のお遊戯会での衣装といった方が分かりやすい見た目をしている。レベル50台から200台まで幅広く使える汎用セットだが、見た目は完全に晒し者になるため、ぼっちがひっそりとソロで使うくらいしか需要がない。


■海坊主:比較的ポピュラーな海洋モンスター。レベル200前後。最上級水撃魔法を得るためのクエストで必要な特殊アイテムを落とすが、その事実があまり知られていないので、需要はない。


■ズウォーム:海で釣れるモンスターの最大種。レベル600。餌はリンゴかザクロを使用。見た目最悪な形状でも、レア武器やレア素材を落とす。中でも肉がローストビーフの味がするというので、需要はある。


■リオテーク:スキルマスターNo.6、竜宮城の主。キモカワモンスターの召喚収集に命を懸ける残念美女で、それ以外の事柄はほとんど興味を示さない。主に近接戦闘を得意とする肉弾戦型。スキルマスターになったのもキモカワ動物園を作ろうとした結果(という本人談)。ウミウシに限らず幾つかのキモカワ生物の着ぐるみを所有していて、それらはすべてスキルマスター就任時に運営から下賜されたレアアイテムである。ゲーム内でキワモノ認定された最初のプレイヤー。


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[一言] 本編読了後及びアニメ試聴後読にむのがおすすめ
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