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課題地獄:図書館にて

投稿日の昼から謎のテンションで書き上げました

 ある日猫人族(ワーキャット)のブライネは、茶色い猫耳としっぽを項垂れさせて自分の所属するギルドホームで悩んでいた。

 そのしょんぼり具合と裏腹に背後から見つめる仲間たちの鼻息は荒い。


「うう、何を悩んでいるのかしらブライネ」

「ハァハァ、あの萎れた猫耳としっぽ……イイッ!」

「今すぐ抱きしめてモフりたい。でも……」


 恍惚としたとろけるような表情の仲間たちの視線は横へ。

 そこには物凄い剣呑な目付きで彼らを睨むエクセットの姿があった。中堅どころな彼らのギルドではレベルが頭一つ抜きんでた『あの魔女の妹』に尻込みして、ブライネへの手出しを控えているのである。


「ブライネ、行こっ」

「え、あれ。ちょっ、ちょっとどうしたのよっ?」


 エクセットから強引に腕を掴まれ、ブライネがギルドホームの外へと連れ出されていく。

 仲間たちはそれを物欲しそうな眼差しで見送るのであった。






「もーダメだよ。ギルドの中であんな無防備な姿さらしちゃ」

「はぁ?」


 なにやらよくわからない理由でぷりぷりと怒っているエクセットに、頭上へ疑問符を浮かばせるブライネ。


「何か悩んでいるなら力になるよ。何でも言ってっ! 素材収集でもレベル上げでも」

「うん。エクちゃん、ありがと」


 力こぶを作って見せる友人に笑って頷くブライネは自身の悩みを打ち明けた。


「……えーと、本?」

「うん、そう。レポートの参考にしたい本が高くて買えないの」

「図書館とかは?」

「探したんだけど、近所になくてねえ。通販か本屋にしか無くて悩んでたの」

「うーん……」


 この世界の本はデータで落とすか紙媒体で買うかの二択だが、本屋ともなると完全に人の手を離れている。倉庫かビルにディスプレイの付いた自動販売機という具合だ。もちろん立ち読みなどは出来るはずもなく、本が読みたければ買うしかない。ここまでオート化が進んだのは、通販が普及し過ぎて本屋が儲からなくなったせいである。


 中空を見つめて考え込んでいたエクセットは「あ、そうだ」と呟いて、手をポンと叩いた。


「ゲームの中にも図書館があるじゃない。あそこ当たってみようよ、目的の本があるかはわからないけどさ」

「あ、そういえばそうね。たしか蔵書は数十万冊だとかなんとかって聞いたことがあるような?」


 鏡グループの影響が拡大する限り、各出版社から販売される本が次々と加えられていくから、現状でも増え続けているはずである。


 目的が決まれば準備は早い。

 二人は戦闘用に装備を変更し、一路図書館へ向かう。

 特にエクセットは通信画面を立ち上げて最強の助っ人に助力コールを送った。



 十分後、エクセットとブライネの二人は青の国の城下町にある図書館前にたどり着いてた。

 

「やー、エクっちゃんおひさー」


 同じく図書館前には大勢のプレイヤーがたむろしていたが、その中に異色の二人組がいた。


 片や緑銀色の装備で固めた後衛職ハイエルフであるケーナと、全身暗黒色にまっ黒な竜人族(ドラゴイド)。彼は十数本という剣をこれでもかと体に取り付けて、他のプレイヤーから遠巻きにされる異様ぶりだ。思わず最愛のお姉様に駆け寄ろうとしたエクセットも引く。

 

「ああ、こっちはね同じギルド仲間のワラバンシさん。こんななりだけど【狂剣(きょうけん)】の称号持ちで、ぷっつんしたら最強の狂暴者(バーサーカー)だよ」

「ヨロシク頼む」

「「どこにも安心できる要素がないっ!?!?」」  


 周囲のプレイヤーも揃ってツッコミを入れる酷い紹介を気にした様子もなく、暗黒竜人族ワラバンシは頭を下げる。


 おどおどしたブライネに構わずに、改めて四人PTを組んで図書館に突入する。

 1Fは広大な吹き抜けホールと、綺麗な加工をされた木製の本棚が並ぶ清潔感あふれた空間だった。


「うわ広い」

「この階は児童書と新聞とか週刊雑誌とかだから、専門書はB3Fだったかな?」

「そーなんですか」


 キョロキョロと見渡していた二人に簡単な説明を入れるケーナ。ワラバンシは暇そうにシッポをビタンビタンと床にたたきつけていた。機嫌が悪そうに見えるのでちょっと怖かったのはブライネの内緒である。


 収められている本の八割は背表紙が白い物ばかりで、首を傾げたブライネは膝より下にあった本を一冊引き抜いてみた。


「「あ」」

「え?」


 ハイエルフ姉妹二人が間抜けな声を上げる中、ワラバンシによってブライネの手の中にあった本は蹴り上げられ、宙を舞った。しかし本は空中で停止すると勝手にパラパラとページがめくられ、それ自体が風船のようにぷくーっと膨らむ。それは次第に何かの形をとっていき、最終的に彼女らの眼前には全高二メートルくらいの黒いぶちのある白い犬が鎮座していた。


「っ!?」


 黒いぶちのある白い犬は一番近くに立ちすくんでいたブライネに向かって前足を振り上げる。突然のことで硬直していたブライネに脅威が襲いかかるよりも早く、その間にワラバンシが身を割り込ませた。と同時に犬の首があっさり飛んだ。


 黒いぶちのある白い犬は倒されると少しのノイズを残し瞬時に消滅する。

 ブライネの足元には表紙に『黒いぶちのある白い犬が白いぶちのある黒い犬と左右対称に描かれている絵本』が出現していた。


「え、えーといったいなにが……?」


 絵本を拾い上げたケーナは内容を流し読みしながら、言う前に行動をおこしたブライネに説明をする。

 その背後にはいつの間にか出現したスライムが青い身をくねらせ、ボコボコと泡を吹いていた。


「この白い本を読めるようにしたければ、本に関係したモンスターを倒さなければならないのよ。経験値は貰えるけどアイテムは出ないから注意してね。あと出現するモンスターは本を抜いたプレイヤーと同等のレベルだから」


「一撃か……。ツマラン」

「「怖っ!」」


 ロングソードを一振りして背中に収め、ボソッと呟いたワラバンシにエクセットとブライネは震え上がった。つまり彼はブライネと同等のレベルなら一撃で倒せる力量を持っているということである。くりーむちーずのギルドメンバーなら言うまでもないが。


「いやー、相変わらずワラバンシさんの【五光逸閃(いっこういっせん)】は凄いねー」

「所詮は対一のみにしか過ぎん。魔法スキルのような破壊力はノゾメンヨ」

「当代一なんだから誇ればいいのにー」

「ソコマデ慢心してるつもりはない」

「固いなあ、まったくもー」


 にぱーと笑うケーナに背を向けたワラバンシが階段の方へ足を進める。その後にケーナと青いソーダースライムが続き、今の会話の何処に感動したか分からないエクセットが「流石お姉様」と頬を染めて。おっかなびっくりのブライネがその後に並ぶ。


 下り階段の手前には半透明の亡霊NPC司書がゲートを守っている。

 その横に佇むのはふてくされたプレイヤーだったり、首が三つあるウサギだったり、ムカデの胴体をもつ蜂だったり、小さな青いドラゴンだったりだ。ここでパーティーメンバーを一人(召喚獣も可)通行料代わりに預けないと階下へ進むことはできない。もちろん、押し通ろうとすれば預けられたモンスタープラス、プレイヤーを敵に回す仕様となっている。


「じゃ、預けるのはこれで」

『ヨカロウ。通レ』


 先程の騒ぎの中、ケーナが片手間に召喚した青いソーダースライムを司書に渡す。

 あっさりと通行が許され階段を下る一行に、青いソーダースライムは器用にもその身から『Good Luck』の文字を出現させて彼らを見送った。


「……なにあれ?」


 疑問を口にするブライネの答えは得られることはなかった。


 なお、これから三時間後にブライネお目当ての本は見つかるのだが、本人は「ここの図書館に頼るのは最終手段にする」とのコメントを残してログアウトしていったそうである。

■【五光逸閃】:本来ならばひとつずつ順番に作動させなければいけないスキルを、五つ同時に実行させたワラバンシのみのバグ技。【加速】【縮地】【剛力】【抜刀】【斬撃】の合体攻撃である。本人曰く「五つの思考で同時に作動させる」ことらしい。数多の廃人がその理論に従い同じことを実行してみたが、未だに誰一人として成功したものはいない。


■【ボガントスライム】:河川近郊にのみ生息する青いソーダースライム。レベル340前後。色に反して火属性であり、弱点は氷。他のスライム系とおなじく【物理攻撃半減】のスキルを持っている。最初のダメージを受けてから三十秒以内に倒さないと大爆発を起こす。その際に相対していたプレイヤーは99%の確率で少量のダメージを受け、所属国の首都へすっ飛ばされる。当然PT単位で相手をしていればバラバラにされる。運が悪いと残り1%の確率に当たり、強制ログアウトという目に遭う嫌なモンスターとして知られている。


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