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変人の集い:拠点にて

 エベローペ、エルフ、女性、外見年齢二十代少々、千百レベル、高速剣士職、VRMMOリアデイル内では知らぬ者のいない有名ギルド“くりーむちーず”のサブリーダー。


 タルタロス、エルフ、男性、外見年齢三十代程、千百レベル、後衛補助兼回復要員、同じく“くりーむちーず”ギルドメンバー。


 メッシュマウト、猫人族(ワーキャット)、男性、外見年齢十代後半、万能前衛(時々器用貧乏)、千百レベル、上に同じギルドメンバー。


 オ(中略)プス、魔人族、男性、外見年齢二十代前半、前衛(より頭脳戦を所望するもメンバーの反対にあい最前線に送られる事多し)、千百レベル、同ギルドメンバー、スキルマスターNO.13、悪徳称号『リアデイルの孔明』。


 ケーナ、ハイエルフ族、女性、外見年齢十代後半、局地戦特化後衛職、千百レベル、同ギルドメンバー、スキルマスターNO.3、悪徳称号『銀環の魔女』。


 サンテンイチヨンイチゴー(以下略)、おそらく人族、女性と思われる、前衛的芸術、外見年齢多分二十代後半、千百レベル、同ギルドメンバー、見た目鎧。






 ある日、普段からギルドに寄り付かない者も含めて、リアル日曜日の真っ昼間にくりーむちーずの拠点には以上の六名が暇を持て余していた。


「ケーナが拠点に顔を出すなんて珍しいじゃない、明日は雪かしら? 通勤が憂鬱になるから出来れば止めて欲しいわぁ」

「歓迎してるのか嫌がってるのかどっちですか、エベローペさん。 あと、なに大股開きで座ってるんですか、みっともない」


 二の腕まである白い長手袋に胸に白いレース付きのブラ、腹を覆う白いコルセット、腿の半分までを覆い隠す白いストッキングと同色のハイヒールに、それを留める白いガーターベルト。 メインの要塞を護るのはやはり白の三角形。 『戦場の白い大統領ウォー・ホワイトハウス』と呼称される、八百レベル代では各能力値大幅プラスや、攻撃力防御力上昇等の付加能力が半端ない女性用特殊兵装である。 下着姿なのが欠点で、女性プレイヤーからは『運営(へんたい)の煩悩装備』と蔑まされている。 左半身を壁の縁に腰掛けて、全体を支えるのはだらしなく伸びた右足のみ。 Sクラスの悩ましいボディを惜しげもなく晒し、扇状的な肢体がこの場、殺風景な拠点内部を彩るが、だらしなく鼻の下をのばして見入る男はいない。


 まるで本物のように見えてはいるが、CGで作られたバーチャルアイドルみたいなモノだからだ。 それでも同じ女性としてはみっともないと感じるケーナは口を尖らせた。


「まァ、ケーナ、下着の通信販売の回し者みたいなエベロになに言ったって無駄だと思うけど」


 メッシュマウトが黒斑茶色の猫耳をピコピコさせ、苦笑しながら口を出す。 彼はさっきから手元でハイポーションを作って並べ、ワイングラスのように積み上げていた。


「そうは言うけどねぇ、リアルでこんなもんあっさり着れないわよ」

「そりゃまた、どうしてだい?」


 止せばいいのにメッシュマウトが笑顔で聞き返した。 


「無駄毛処理とか大変なのよ、綺麗に見せるためには。 その点ゲームのキャラクターであれば色々としたお肌の化粧をすっとばして、何でも来いってものよ。 特にパイp「五月蝿い黙れ口を閉じろ!!」


 ついに我慢できずに突っ込んだタルタロスに全員から盛大に拍手が送られた。 本人は真っ赤になって壁に向き直り無視を決め込む。





 それをテーブルの端から(ヘルム)だけ出して眺めるのはサンテンイチヨンイチゴー(以下略)。 ヘルムの細いスリットからは瞳を伺う事は出来ず、不気味な赤い光が漏れ出している。 全身鎧に包まれたその姿は性別も種族も判別することは難しい。 プロフィールも自己申告でしかないが、【サーチ】で見る限り嘘は吐いていない。 


「サンちゃん、今日はなにそれ?」


 誰も聞こうとはしないのでとりあえず突っ込みに回るケーナ。 本来このギルドで突っ込み要員のタルタロスは手元にウィンドウを開いて公式サイトにアクセスをしていた。 その背中からは『見ざる・言わざる・聞かざる』がオーラとなってにじみ出ていた。 一々解説するのもアレだが、【薔薇は美しく散る(オスカル)】の効果である。


 ケーナの問いに待ってましたと言わんばかりに、嬉々としてガシャリと立ち上がったサンテンイチヨンイチゴー(以下略)。 彼女の全身を覆う鎧にはヘルムの先からブーツの爪先までカラフルな絵が描かれていた。 その手のモノに詳しい人物であれば、直ぐに答えが出たであろうが、病院で寝たきりの小娘には難題だ。


 【薔薇は美(オス)(以下略)で体の周囲に「わくわく」と文字を出しながら、両手を胸の前で組み、乙女スタイルでケーナの答えを待つサンテンイチヨンイチゴー(以下略)。 カラフルに彩色された武骨鎧にボーッと光る赤い眼光、不気味以前に何なのかさっぱりだ。


「ごめん分からない」


 ケーナにあっさりと希望を絶たれたサンテンイチヨンイチゴー(以下略)は全身鎧にヒビを入れ、背後には大きく「ガーン」の文字。 女の子座りでへたり込んで『黒雲と縦線』で頭上を占めると、何処が口だか分からないままハンカチを噛み締め、『滂沱の涙』を流した。 実のところケーナの内側では補助AIのキーが正確な解答を導き出していたが、主に話を振られなかったので、そっと案件を隠しフォルダに仕舞っていた。


 悲しい出来事だったね!





 サンテンイチヨンイチゴー(以下略)から悲哀の表情(エフェクト)で見詰められるケーナに助け舟を出したのは、あられもない格好をしているエベローペの脇に何をするでもなく突っ立ていたオプスだ。 こちらは隣のエベローペとは対照的に黒一色である。 別に彼も下着姿ではなく、ロングコートを着ているだけなのだが。 襟を立たせて顔の下半分を隠し、足元はブーツの先くらいしか見えない。 黒は黒でも澱んだ霧のような粒子を纏い、着衣した者を暗闇の奥に隠しそうな『分刻みの悪夢デッドリンク・カウント』は、高レベル魔人族専用装備である。 付加効果としては隣に並ぶエベローペの装備と何ら変わらない。 恐ろしいのはプレイヤーがこの装備者と近距離戦闘を行い、霧に触れた場合、抵抗力が低いと一時的にNPCノン・プレイヤー・キャラクター化してしまい、短時間装備者の操り人形になるという効果である。 ちなみに霧にヤられて操れないプレイヤーは、同レベルの魔人族か竜人族くらいなものであろう。


 ケーナの知る限りでは、京太郎かくりーむちーずメンバーの竜人族だけである。 酷すぎる事この上ない装備ではあるが、種族専用高レベル装備の詳細については、その域に達したプレイヤーにしか表示されないので、魔人族やハイエルフ族に付いては公式サイトでも明らかにされていない。 その為、プレイヤーから総スカンを喰らわずに済んでいた。



 ともかく、横から口を挟んだオプスの瞳に浮かぶ悪戯っ子の輝きを見つけてしまったケーナが発言を止めようとはした、主に物理的手段で。 しかし、一足遅かった。


「先日新聞の地域欄に載っていた若手芸術家のであぶっ」


 言い終わるところで顔面に突き刺さった棘付きヌンチャクと背後の壁にサンドイッチにされるオプス。 仲間達は特に気にした様子もなく、サンテンイチヨンイチゴー(以下略)が『真っ白に石化』してガラガラと『崩れ落ちた』くらいだ。 オプスの解答はお気に召すモノではなかったらしい。 瞬時に五体満足で復活するも、不気味な赤い眼光部分から『滝のような涙』を流しながら部屋から走り去ってしまう。


「あーあ、きっと何処かの狩り場で縦横無尽に荒らしまくるよ~、サンテってば」

「ならメッシュマウト、お主は分かったのかの?」

「知らん」

「貴方の方が酷いじゃないのよ、メッシュ」

「エベローペさんの方が視覚的に酷いです」

「まぁ、ケーナってば劣等感を感じているの? 触りたければ何時でも自由にしていいのよん」

「にじり寄らないで下さい!!」


 グダグダである。



■エベローペ:自己申告によると中の人は風俗関係者らしい。彼女のお陰でギルドのモラルは著しく低い。ケーナの保健体育の先生。プレイヤーの集まる公式の場で生々しい実体験を堂々と語るので『歩くインモラル』とか呼ばれてる。こんなんでも心理テストをくぐり抜けたGM権限持ちなのだから世の中は間違っている。


■メッシュマウト:中の人は大学生(自己申告)。笑って何でも流すスルースキル限界突破レベルの持ち主。基本的に人の話を半分しか聞かないので約束事は大抵破る。こんなんでもGM権限が取れるのだから世の中は不思議である。


■サンテンイチヨンイチゴー(以下略):(以下略)は略してなく、そう表記してある部分まで名前。ギルド異色メンバー内でもとりわけ変な人物。一言も喋らず技能と身振り手振りで会話する。時々鎧表面をペイントツールで塗り替えている。心理テストは事前に手を回したオプスのお陰で彼女だけマークシート方式だった。「サンちゃん」とか「円周率」とか呼ばれている。こんなんでも勇猛果敢な前衛。GM権限については以下略。


■タルタロス:ギルドでも数少ない突っ込み要員。スルースキルを持ってないので、全力で突っ込むか全力で無視するか。搦め手で相手を弱体化させるのが得意だが、変人メンバーには焼け石に水である。こんなんでも自分に出来る事と出来ない事を良くわきまえてる人。


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