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馬頭星雲の漣

作者: イプシロン
掲載日:2026/05/25


  脊髄からのろぬると気液が

  漏れ逃げてゆく湿った気が

  重力の井戸に呼び寄せられ

  水平線の見える磯に阻まれ

   歩くでも立てるでもなく力尽きた


    仰げば空が暗転して

    海は静まりかえって

  凪いだ鏡が恍然(こうぜん)と光って

   磯の滝壺に座りこんで

     膝に開いた両目で

  煌々煌々と飛び交う光塵(こうじん)をみた


  幾千、幾億、幾京(いくけい)恒河沙(ごうがしゃ)那由多(なゆた)……

  しろじらとした光砂(こうさ)が吹き荒れ

    砂漠の砂嵐が黒黒とすぎて

   脳髄に押し寄せてきたのは

   1/1 のゆらぐ星の衝迫だった


    アズールブルーに

   ゾールタのスポッテド

    聞き覚えのない抑揚

  Mercury Mercury の波動


    ベルメイオンに

     ルージュ・ド・マルス

  脳を焼くような抑圧

  Marte(マルテ) Marte の振動


     ステラ・アウレア

     ゼーバシュターン

   コハヴァエーツ

      プリティヴィー・ターラー

         アステーリ、アステーリ

  メテオリティス、アステーロースコニー


  朱紫雲(しゅしうん)のケンタウロスが

   棹立ちになって

    嘶いている


   崩れてゆく

  半透明な地鳴りとともに

     天地は入れ替わり

    歪んだ空間が

   両瞼を引き上げる


  気がつけば

  岸辺に立ち

  視野いっぱいに拓けた

    海を見つめていた


  ぼくはここに

  何をしにきたのかを

     思い出した

       心臓が

  1/fで脈打っていた


  なぐり書きし

  掌で丸めた紙屑が

  1/1000秒

  さざめいた


   ※注釈

   アズールブルー

   →イタリア語やフランス語の「アズール(空色・青空)」に由来し、

   鮮やかで明るい青色(瑠璃色)


   ゾールタの(スポッテド)

   →ロシア語の金からの造音(網目模様)


   ベルメイオン

   →英語:Vermilionバーミリオンをフランス語風にした造音、

   火星の表面に似た朱色


   ルージュ・ド・マルス

   →火星の暗部に見える、深く情熱的な赤やレンガ色系のいろ


   Marte→

   イタリア語とスペイン語での火星


   ステラ・アウレア

   →ラテン語で「金の星」


   ゼーバシュターン

   →ドイツ語で「銀の星」


   コハヴァエーツ

   →ヘブライ語で「土の星」


   プリティヴィー・ターラー

   →サンスクリット語で「木の星」



   アステーリ、アステーリ

   メテオリティス、アステーロースコニー

   →ギリシャ語で「星、星、流星、星屑」


   ケンタウロス

   →ギリシャ神話に登場する、半人半馬の半神


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