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第2話「S級美少女と先輩お嬢様によるダブルストーカー」

 結論から言おう。天宮来夢はおかしい。


 1年の頃は本当に酷かった。

 俺たちは入学式で再会を果たして、なんの因果か同じクラスになった。

 最初は嬉しかった。

 あの天宮来夢と同じクラス。しかも向こうはかなり俺を好意的に見てくれている。この先の高校生活には薔薇色の青春が待ち受けていると、当時の俺は疑いもしなかった。

 甘かった。死ぬほど甘かった。


「――青鳥(あおどり)くん、一緒に登校しよっ!」


 毎朝のように待ち伏せされた。

 どうやって住所を調べたのか、入学式の翌日には家の前に立っていた。


「――青鳥くん、お昼一緒に食べよ? お弁当作ってきたの、青鳥くんのために!」


 妹の弁当があるからいらない。

 そう断ると教室のド真ん中で大号泣された。

 クラスメイトからの視線が痛かった。


「――汚い手で青鳥に触らないで!」


 クラスメイトの女子と話していたときのことだ。

 単なる日直の業務連絡だったのに、天宮はその子の体をすっ飛ばした。


「青鳥に触っていいのはあたしだけなの!」


 ちなみに(くだん)の女子からは触れてすらいなかったと思う。

 脅されると、その子は青ざめながら離れていった。

 それ以来、クラスの女子は誰も俺に近づかなくなった。


「――組み直して!」


 グループ学習での出来事だ。

 ペアは席順で決まるから、俺と天宮は別のグループになるはずだった。

 だがそれを、天宮は許容しなかった。


「青鳥と一緒じゃなきゃ嫌! 他の女と話されるのも絶対に嫌! 組み直してぇぇぇっ!」


 机をバンバン叩いて授業妨害。

 教師は諦めて、特例的に俺と天宮をペアにした。


 こうして『天宮来夢の隣に青鳥(かなめ)あり』という噂が定着。


 夏休みが始まる頃には『天宮の彼氏(事実無根)』『可哀想な人』『メンヘラホイホイ』などの称号を俺は獲得していた。

 この1年間でなにがあったのか、これ以上は思い出したくもない。


 ――そして現在。


 高校2年生の新学期。(こよみ)は4月の上旬。

 昼休みのチャイムと同時に、俺は即座に教室から逃げ出した。

 もちろんスマホは机の中に置いていく。そうしないと、無理やりインストールさせられた位置情報共有アプリで居場所がバレるから。

 今年は天宮とも別のクラスになれたけど、昼休みにすっ飛んでくるのは目に見えている。遭遇(そうぐう)する前に避難(ひなん)あるのみ、だ。


 特別棟の裏手に到着。音楽室や美術室が入った建物の裏で、生徒は滅多に来ない場所だ。ここなら天宮にも邪魔されまい。

 適当な段差に腰を下ろす。

 俺は唯一の持ち物である弁当バックを開いた。

 中身は水筒と弁当箱。

 基本は冷食だけど、卵焼きだけは妹の手作りだ。


「いただきます」


 箸で卵焼きを掴む。

 途端、目の前に人影が立った。


「ご機嫌よう、青鳥くん」


 優美な笑みに涼しげな目元。

 セミロングのストレートヘアが風になびている。

 俺は目の錯覚を疑った。

 だが、それは紛れもなく夜美(やみ)先輩だった。


「なんでいるんですか……?」


 綾倉(あやくら)夜美。元生徒会長として校内でも有名だった美人で、上品な佇まいは今も変わっていない。

 服はブレザーに膝上スカート。この学校の制服だ。


「私はいつでも青鳥くんのそばにいますよ」

「いや、そういう澄ましたセリフ結構ですから。俺が聞いてるのは、去年卒業したはずの先輩がなんでまだこの学校にいるのかってことです」


 不法侵入じゃん。

 まあでも、この人ならやりかねないか。制服で来たらまずバレないだろうしな。

 大学に進学したのか就職したのか知らないけど、今日は休日なんだろうか。


「留年しました」

「は?」

「留年したんです。青鳥くんともう1年過ごすために」

「……え?」


 脳が理解を拒絶している。


「ごめんなさい。嘘です」

「あ、ああ……ですよね」

「今年も留年するつもりですから2年過ごすための間違いでした。来年からは同級生ですよ」


 絶句してしまう。

 しばしの間を挟み、俺は言った。


「頭大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけないでしょう。青鳥くんへの愛で、頭の中はパンクしそうなんですから」


 すでにパンクしてないかそれ……。


「――あっ! こんなところにいた!」


 突然聞こえた馴染みのある声に、俺の肩がギクッと竦み上がる。

 神の采配としか思えないほど整った顔立ちの女が、特別棟の陰から現れた。

 ハーフアップにまとめた長い髪の毛。

 ぱっちり瞼の瞳に薄い唇。

 天宮だ。

 どうして居場所がバレた……?

 スマホは机の中なのに。


「夜美先輩!? なんで学校に!?」

「あら。面倒な女が来ましたね」


 あんたが言うな。


「全く、私たちの大切な逢瀬(おうせ)だというのに……」

「あたしの青鳥に手出さないでくださいよ!」

「私の青鳥くんです」


 合流して早々に、ふたりは喧嘩を始めた。

 去年から何度も目にしている光景だ。


「天宮さんにあげた覚えはありませんよ」

「あたしだって渡した覚えないですよ!」


 俺だって、誰かにもらわれた覚えは一切ない。


「ていうか、なんで学校にいるんですか! 去年卒業したはずでしょう!?」

「同じ話を二度もさせないでください。留年したんですよ、あえて」

「えっ……? 頭大丈夫ですか……?」

「あなたに言われたくありません」


 俺から言わせてもらえれば、どっちもどっちなのだが。

 ――天宮には傘を差してやっただけ。

 ――夜美先輩には、去年の夏に軽い手助けをしただけ。

 どちらも取るに足らない出来事なのに、異常なまでに執着されている。

 間違っても、付き合おうとは思えないぐらいに。


「ところでなんの用ですか、天宮さんは。今は取り込み中なのですが」

「好きな人に会いに行くのに理由なんていりません!」

「セリフだけは一丁前ですね。まあしかし、それは同感です」

「でしょう!」


 意気投合するなよ。頼むから……。


「てか、なんで俺の場所がわかったんだよ。スマホは教室なのに」

「そんなの、運命の赤い糸で繋がってるからに決まってるじゃない! あたしたちはどこにいても惹かれ合うの!」


 怖過ぎる……。


「青鳥くんも脇が甘いですね。制服のうなじ部分を触ってみなさい」

「げっ……」


 先輩の指摘に、天宮の引き()ったような声。

 げって。そんないかにもな反応を。

 言われた通りに腕を回すと、小さくて硬い感触が指先に走った。


「で、なんだよこれ?」


 服から掴み取って見下ろす。

 丸型の電池みたいな機械だ。

 反応からして天宮が仕掛けたのは間違いない。発信機だろうか。


「小型のスマートトラッカーでしょう。紛失防止用の便利アイテムです」


 俺の疑問には先輩が答えた。


「つまり、天宮さんと青鳥くんの間に運命の赤い糸など存在しません。惹かれ合う? 馬鹿を言わないでください、このストーカー女が」

「違います! あたしはただ、青鳥がどこにいるのか常に知りたいだけで!」

「手に負えませんね。高校生同士で接近禁止命令が適用されるのか知りませんけれど、青鳥くん、私が一緒に被害届を出しに行ってあげましょう。今日の夜は空いてますか?」

「いいですよ、別に。もう慣れてるんで」


 諦めた方が楽なのだ。

 去年の時点で学んだ。


「犯罪行為の対象にされることに慣れるのは、あまり良くないことだと思うのですが」

「犯罪行為じゃなくて愛情表現です! 変な言い方するのやめてください!」


 天宮の狂言に、夜美先輩は呆れたようにため息を吐いた。


「青鳥くん、こんな女と一緒にいたらあなたの品格まで疑われますよ」

「すでに疑われてますよ。この1年間で、俺の評判は地に落ちましたから」

「それはお気の毒に。では、私があなたの評判を回復させてましょう」

「どうやって」

「私と男女交際すればいいのです。才色兼備で眉目秀麗。評判の良かった元生徒会長の恋人となれば、青鳥くんの株もさぞ上がることでしょう。翌日にはストップ高ですよ」


 そんな、他人のステータスをアクセサリーにするための恋愛などしたくない

 俺は言ってやった。


「留年した時点で才色兼備じゃないでしょう」

「3年連続学年トップでしたが?」


 ああ、そうだった。この人、めちゃくちゃ頭いいんだった。頭はおかしいのに。

 どうしてそれで留年してるんだよ……。

 出席日数を徹底的に落としたのか。


「とにかく! 青鳥はあたしの物なんです! 誰にも渡しません!」


 天宮が俺の左に腰を下ろした。

 躊躇(ちゅうちょ)なく左腕を掴まれる。

 力が強い。


「青鳥くんは物じゃありませんが」

「じゃあ、あたしが青鳥の物になります! それでいいでしょ!?」

「いいわけないでしょう」


 今度は夜美先輩が俺の右に腰を下ろした。

 天宮と違い、やや躊躇(ためら)いながら右腕を掴まれる。

 こっちも力は強い。


「安心してください、青鳥くん。あなたは私が守りますから。天宮さんのような危険人物から」

「どう考えたって夜美先輩の方が危険人物でしょ!」

「あなたと一緒にしないでください。私は紳士的なんです」

「留年してまで後輩につきまとってる人のどこかが紳士的なんですか!」

「愛のためなら仕方ありません」

「ただのストーカーでしょ!」


 両腕を引っ張られて体が左右に揺れる。

 弁当箱が膝から落ちそうになる。


「ちょっと。弁当が」


 下半身に力を入れて滑り落ちるのを防ぐ。

 妹が作ってくれた弁当を地面に落とすわけにはいかない。


「青鳥! 今日の放課後は一緒に帰ろう!」

「残念でしたね。青鳥くんは私との先約がありますので」

「あるわけないでしょ! 青鳥はあたしと帰るんです!」


 ふたりの手を振り払い、弁当箱を守るように抱え込む。

 良かった。中身は少し偏ってしまったけど、卵焼きは無事だ。

 一方、ふたりは互いに睨み合っていた。間に火花が散っている。


「もう! 先輩が消えて、やっと青鳥を独り占めできると思ったのに! なんでまだ学校にいるんですか!」

「愛する人のそばにいるためです。それ以上の理由が必要ですか?」

「やっぱりストーカーじゃないですか!」

「天宮さんに言われたくありません」


 つくづく不毛な言い争いだ。

 これがあと1年も続くのか。ああいや、夜美先輩は来年も留年するつもりらしいからあと2年か……。


「はあ……」


 せめて昼飯ぐらい静かに食わせて欲しい。

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