第16話『一方その頃……(side来夢)』
始業前。あたしは校門横で青鳥が来るのを待っていた。一番可愛い自分を見てもらえるよう、とびっきりの笑顔を浮かべながら。
今日の学校は楽しみで仕方なかった。スキップで登校してしまうぐらい、青鳥と会うのが待ち遠しかった。
目を閉じれば、土曜日の出来事が鮮烈に蘇る。
熱でぼんやりとした視界の中、ベッドの横に座る青鳥の姿。少しゴツゴツした手のひらの感触。
あんなにも、あたしに優しくしてくれた。どんなに無茶を言っても、どんなに困らせても、最後には必ずそばにいてくれる。
あの日、あたしたちの距離は確実に縮まった。今日からはもっと、恋人のような毎日を送れるはずだ。
「ふふっ……うひひっ……♡」
頬が緩んじゃう。あっ、また他の生徒から変な目を向けられてる。
でも、あたしはそれを気にはしない。よく頭がおかしいと言われるけど、取り繕うような生き方はしたくなかった。
ありのままを晒して生きていく。それがあたしのモットーなのだ。
「まだかなー。まだかなー」
鞄を揺らしながら道の向こうを見つめる。でも、待てど暮せど青鳥は来ない。校門を通る生徒の流れが完全に途切れても、ついぞ青鳥は現れなかった。
遅刻かな?
青鳥にしては珍しい。
それとも、あたしの風邪が移っちゃったとか?
校舎から予鈴が鳴って、あたしは仕方なく自分の教室に向かった。
『青鳥? 学校来てないけど大丈夫?』
『もしかして熱出た?』
『それならあたしが看病しに行くからね!』
『ほら』
『お見舞いのお礼的な?』
机の下にスマホを隠しながら、ホームルーム中にメッセージを送ってみる。
既読マークがつくのを待つ。1分経っても5分経っても反応はない。
おかしい。青鳥があたしのメッセージを無視するなんて。返信はたまにしかしてくれないけど、いつも既読は欠かさずつけてくれるのに。
寝込んでるのかな?
それから昼休みになるまで何度かメッセージを送り続けた。午前中の授業は、ほとんどスマホと睨めっこしていたと思う。
でも、既読は一向につかなくて。
昼休みが始まった頃、あたしは何気なく位置情報共有アプリを開いた。
当然、青鳥の家の住所が表示されると思ったけど――。
「――ッ!?」
同期を切られてる!
いつから!?
あれほど切っちゃ駄目って言ったのに……!
「なんでっ……!?」
思わず叫ぶと、教室の生徒たちが何事かとあたしを見やった。けど、今はそんなのどうだっていい。
なんで同期を切ったの?
なんで既読をつけてくれないの?
あたし、なにか嫌われるようなこと青鳥にしちゃった……?
「どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……!」
頭の中がぐちゃぐちゃになって、居ても立ってもいられなくなる。
こんなとき、頼れる友達はひとりしかいない。
あたしは席を立ち、隣のクラスへと走った。
「依織ぃぃっ……!」
別のクラスの教室だけど、緊急事態だから構わず中に入る。
依織との付き合いはまだ短い。去年の夏からだから1年も経っていない。それでも、あたしが青鳥のことで悩んでるときはいつも相談に乗ってくれて、今では親友と呼べるような関係性になっていた。
依織は窓際の席に座っている。そこまで駆け寄り、泣きつくように机の上にへたり込む。
「聞いてよぉぉぅ……!」
「――――」
ただ、依織はあたしに見向きもしなかった。
というより、心ここに在らずといった様子だ。口をあんぐり開けながら、手元のスマホを見下ろしている。
依織の震えた唇から声が漏れる。
「なんで……どうして……」
「依織?」
「おかしいよこんなの……なんでまた、わたしを……」
なんだろうと思い、スマホを覗いてみる。そこに表示されていたのはトーク画面だった。相手は青鳥で、依織が大量にメッセージを連投している。
あたしと同じく既読はついていない。でも、気にする点はそこじゃない。問題なのは内容だ。
依織が送っていたのは、青鳥への好意を綴った言葉だった。




