第14話『義妹の偏愛』
俺と心愛が初めて出会ったのは、俺が6歳で、心愛が4歳の頃だった。
親同士が友人だった関係で、長期休みになると顔を合わせるのが恒例行事になっていた。ただ、心愛はいつも物陰に隠れるばかりで、公園で一緒に遊ぼうと誘っても、ゲームをしようとコントローラーを渡しても、首をブンブン横に振っていた。
極度の人見知りで、俺は会うたびに警戒心を解こうと試みた。しかし、心愛は常に俺とは2、3歩の距離を保ち、こっちが無理に近づこうとすれば恥ずかしがるように顔を赤く染めて隠れる、その繰り返しだった。
そんな関係が数年続いたある日、俺たちの親が再婚を決めた。
俺が11歳、心愛が9歳の頃だった。
ひとつ屋根の下で暮らすようになり、俺たちは義理の兄妹となった。
そこから5年。思春期を共に過ごすうちに、心愛の俺に対する態度は少しずつ形を変えていった。
新生活が始まった当初は、家の中でも俺を避けるようにしていた心愛だったが、俺が中学に上がった頃からリビングで過ごす時間が増えていった。最初はソファーの端で体育座りをしていたのに、いつしか俺の隣に座るのが当たり前になった。
ごく自然に「お兄ちゃん」と俺の部屋を訪れるようになり、勉強でわからないことがあったりすると「これ教えて……」と健気に俺を頼るようになった。
そう。記憶の中の心愛はいつだって物静かで、「お兄ちゃん……」と小さくつぶやくような内気な妹のはずだった。
――その、はずだったのだが。
「しゅきぃぃぃっ♡♡♡ 要お兄ちゃん大しゅきぃぃぃ~っ♡♡♡」
再び2階から心愛の絶叫が降り注ぐ。おそらく扉越しだからだろう、やはりくぐもってはいるが、妹の声を聞き間違えるなどあり得ない。
それでも……聞き間違えを疑わずにはいられなかった。
これが心愛……?
だとしたら、部屋でなにして……。
「…………」
確認しなくちゃいけない。兄として、妹の様態を把握しとく必要がある。
俺はそっと靴を脱いだ。鞄を玄関に放置して、音を殺しながら階段を上がっていく。一歩、また一歩と、床板が軋まないよう細心の注意を払う。
その間も心愛は叫んでいた。
「てかなんなのあの女……! 私の要お兄ちゃんにキスして! 私だってまだなのに!」
あの女って依織のことだろうか。怒声と共に、ベッドをぶん殴るような音が聞こえる。
2階に辿り着く。そこで気づいた。声が聞こえるのは妹の部屋からではなく、俺の部屋からだった。
……なんで?
慎重にドアノブに手をかける。数ミリほど扉を開けて、狭い隙間から部屋の中を覗く。
「――ッ」
俺は自分の目を疑った。
シャツにショーパンという部屋着姿で、心愛が俺のベッドに寝そべっている。それだけならまだいい。しかし心愛は、とんでもない行為に及んでいた。
「はあー♡ 要お兄ちゃんに毎日こうやって添い寝してほし〜い……♡ ぎゅーってしながら眠りた〜い♡」
俺が愛用している抱き枕に、まるで蛇のように手足を絡めつけている。さらに俺が頭を乗せている普通の枕にも、顔をこれでもかと埋めていた。
ここ、本当に俺の部屋だよな……?
俺は一度ドアの隙間から顔を離した。背後を振り返れば、すぐ向かいの扉には『ここあ』と書かれたネームプレートがぶら下がっている。
間違いない。つまり心愛は、俺のいない隙に俺の部屋に侵入して、俺の寝具を使ってひとり奇行に興じている、と。
ドアの隙間に視線を戻す。
「すーっ……はーっ……すーっ……はーっ……♡」
俺の枕に顔を埋めたまま心愛は深呼吸していた。極上のアロマでも嗅ぐかのように。
「んぅ……♡ お兄ちゃんの匂い……♡ 落ち着くなぁ……♡」
独り言はどんどん熱を帯びていく。
次に心愛は、四肢を絡めた抱き枕をうっとりと撫で始めた。ペットを愛でるかのように。
「この抱き枕が本物のお兄ちゃんだったらなぁ……、ハァ……ハァ……♡」
体が上下していて、呼吸は次第に荒くなっていく。
「お兄ちゃん……、かっ……、要お兄ちゃんっ……♡」
そして、抱き枕に添えられていた片腕がゆっくりと下半身へ。
スラリとした生脚の根元にある、ショートパンツの中へと伸びていって――。
「待て待て……!」
「◎△¥○$♪×&%――ッ!?」
さすがに見過ごせず扉を開ける。心愛の言葉にならない悲鳴が、部屋のあらゆる音を喰らい尽くした。




