夫婦の日常 #5 〜 温度管理は、必須条件。〜
今日は、恵の誕生日プレゼントを選ぶことにする。
数日前のこと。
いつも通り、恵が思いついたように——
「あのね、考えたんだけど、今年の誕生日は、ペアの腕時計買わない?
私たち、誕生日も近いんだし。」
「腕時計か。」
「私も探すけど、陽ちゃんも探してみて。」
「わかった。」
——というのが始まりで、
恵は鼻歌を歌いながら、ネットで時計を探している。
数日は、続いている気がする。
なのに、まだ一度も” これがいい “とは言って来ない。
……恵は時々、腕時計を欲しがる。
そして、なぜか僕にも腕時計をさせたがる。
まぁでも、欲しいと言っているので、とりあえず探してみるか。
見つからないみたいだし。
検索ワードは、” 腕時計 ペア ”で。
ネット検索。
” 夫婦で一生ものの時計 “か。
とりあえずクリックしてみる。
んん、300万かぁ。結構するな……。
少しずつ、ページをスクロールしていく。
もう少し金額落とすと、119万。
高いなぁ。
でも、恵は買い物するときによく言っている。——
「高いものはね、高いだけの理由があるんだよ。」
「ブランドだからっていう理由じゃない?」
「そういうのもあるかもしれないけど。
でもね、ブランドでも、そうじゃなくても、
大切に使いたいって思えるなら、
少し高くても、私は良いと思うな。」
——んん……。
軽く反応を見てみよう。
「恵?」
「なぁにー?」
「119万て、高いよね。」
「車でも買い替えられそうな値段だね。何か買うの?」
「……いや、買わない。やっぱいいや。」
恵は、ブランド物はほぼ持たないし、やっぱりこういうのじゃないよな。
もう一度だけ、ページを確認して、タブを閉じる。
他にもページをいくつか回遊してみる。
あっ、” 一つ一つ、職人の手作り…… ”
恵の好きそうな感じかな。
ページを開いてみると、デザインも恵が好きそうだ。——-
「やっぱ、時計の盤面が大きいやつがいいな。見やすいし、なんかオシャレ。」
これは、大きそうだ。あと、恵が言ってたのは……。
「数字が入ってるやつがいいよね。見やすいし、一目で時間がわかる。
点とか、線だけだと、冷たい感じするし。」
ん、冷たい……?
いや、今はそこじゃない。
まぁでも、数字が入ってる方が、確かに見やすいかもしれない。
そう考えると、デジタルが一番見やすそうな気はするけど……。
そもそも、恵の中にはデジタル時計という選択肢は、ないよな。
……好みの問題なんだろうな。
このデザインは、少し独特だし、数字が全部入ってる。
盤面は、大きそうではあるけど……引っ掛かりはするんだよな。
そういえば、恵が見せてきたページの画像は、腕につけてる画像だった。
あれは、大きかったのか?
……まぁ、聞くのが早いか。
「恵?」
「どしたのー?」
「腕時計のことだけど、盤面の大きさが大きいって、直径どのくらい?」
「んんー。えっとぉ……直径……。
あぁ、画像見ると、これ盤面大きいなって、すぐわかるよ。」
「……そっか。」
もうこれは、見せる以外は計りようがないな。
あとは、値段か。
恵は、安くていいとは言ってたけど、腕時計の安いってどのくらいだ。
あ、電池はどうだろう。ソーラー?
「恵?」
「はいはーい?」
「腕時計の電池ってさぁ、ソーラー電池のほうがいいよね?」
「ううん、期間がだいたい決まってる、ソーラーじゃないやつの方がいい。」
「え?ソーラー電池なら、交換しなくていいのに?」
「ソーラー電池も交換はするんだよ。普通のより長持ちだけど。
あ、でも交換する前に時計の方が、壊れちゃうかもしれないね。」
「そうなの?」
「ソーラーじゃなくても、多分2〜3年くらいはもつよ。
電池がなくなる頃に、また一緒に別の時計を探して買ってもいいし、
気に入ってたら、電池交換しに行けばいいと思う。
その方が、楽しみが増えるでしょ。」
「……そう。」
この時計は……あ、普通の交換式だ。
値段は5万円弱だから、だいぶ抑えてる方だよな。
これを、見せてみようか。
「恵?」
「ん?」
「ちょっと来て。これ見て?」
恵がニコニコしながら、僕の方に近づいてくる。
「あのさ、この前言ってた腕時計のことだけど、
これどう?」
「あ、やっぱり探してくれてたんだ。見つけちゃったんだね……。」
恵が画面を覗き込む。
見つけちゃった?探してって言ってたよな……?
画像を何枚か確認して、
「いいね!これいいな。なんか、あたたかみある感じ。」
あ、また温度の話が出たな。これは鉄板だ。
恵の目が、キラキラしてる感じするし、声もだいぶ高い、気がする。
これなら決まりだな。
「値段高そうだね。いくら?」
「5万円弱だよ。」
「うっ……。」
「え、高い?」
「んん……高い。から、最低1回は電池交換してもらうまでは、
大切にしないとね。」
「決まり?」
「欲しいーっ。絶対。」
「名前とか、メッセージとか入れてもらえるみたいだけど。」
「いらない。」
「あ、そう。じゃあ、これ注文しようか。」
「うん、これがいい。ふふ、楽しみだなぁ。」
恵が喜んでるので、僕も少しテンションが上がる。
早めの日付指定でいこう。
そして、気になったので、一応聞いてみた。
「恵はさぁ、なんでペアで腕時計が欲しいの?」
「んん……腕時計で、時間を見てる人を、見てるのが好きだから。」
恵は笑ってるし、正解を見つけた。
そういう顔だ。
「そっか。」
僕には、よく分からない。
でも、きっとそれは、何か大切な温度なんだろう。
「恵、次に買うときは、店に見に行って一緒に選ぼうか。」
「うん。
それ、すごくいいな。」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
夫にとって、妻にプレゼントを選ぶ時間が、楽しい時間であったら。
そんな思いから、この回を書きました。
誰かのことを思って、
プレゼントを考えたり、選んだりする時間。
それは、人生の中で、
幸せを感じられる時間のひとつ。
私は、そんなふうに思っています。




