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パーティー募集.4

 二人が中央で対峙する。シュヴァリエさんが審判を務めてくれる様だった。


「リーダーのカイル君が言った通り、明確な一撃が入った、または戦闘不能と判断した時点で勝敗とします。では、始め!」


 観客席から、割れんばかりの歓声が中央へと投げられる。その中で、男が仰々しくライムへ話し掛けた。


「俺もラッキーだぜ。これでオーガキラーも口上出来るんだろ? やりたい放題だ。っと、じゃあスライムよ、一丁死んでくれや」


 ーー本音が出てるぞ。男はそう言って、剣を抜きライムへと向かって勢い良く振り下ろした。大振りだな、振り下ろした先にライムは居ない。


「……あ? どこ行きやがった?」


 男は周囲を見渡す。俺は溜息を吐くことしか出来なかった。これじゃあーー


「これ、ケガさせないの、むずかしいなー」


 ライムが呟いた。男の肩で。


「い、いつの間に!? 何しやがったコイツ!」


 驚きのあまり男は仰け反るが、肩へ向けて剣を振るう。ライムはその攻撃をひらりと躱し、地面へ降り立つ。


 男は体勢を崩し、そのまま尻もちをついてしまう。観客は湧くが、男は顔を赤くしていく。


「でも、カイルのおねがいだしなー」


「何ぶつくさ言ってやがる! このはぐれが!」


 男は慌てて立ち上がり、ライムに向かって剣を振り回す。が、当たらない。なんで当たらねぇんだ!? と男は言っていた。


「こうするかー」


 ライムは一度距離を取り、決めポーズをする。男も観客達も、その光景にざわつきを見せる。


「へんっしん!」


 ライムがそう言うと同時に、眩い光が発せられ、やがて形状が変わっていく。


 現れたのは、灰色の狼ーー月狼。ライムがスキルで変化した姿だった。すっかり馴染んでるな。


「なっ!? そんな話聞いてねぇぞ!?」


 男は慌てて俺を見る。まだ勝たせてくれると思ってた様だ。俺は笑顔を作り、手で前を向けとジェスチャーする。よそ見してて良いのか、と。


 男が前を向くと、眼の前にはライムが。正確には狼の顔があった。あの顔、迫力あるんだよなぁ。


「ひっ!」


 男は甲高い声を出す。それでも必死に、剣をライムへ振っていく。


 ライムは振られた剣に噛みついて、勢いを止める。


「ほふぉいよー」


 男は剣を外そうとするがびくともしない。ライムはそのまま、剣を噛み砕いた。剣は粉々になり辺りに散らばっていく。そして、ライムは男の襟首を口で咥え一瞬で訓練場の橋へ辿り着いた。男は壁へ張り付いた状態になる。


 ライムは咥えた口を、ゆっくりと大口に開けていく。


「ひいっ! や、止めてくれぇえ!!」


 男は、大きい声でライムへ懇願していた。食べられると思った様だ。が、ライムはお構い無しに続ける。


 ーーオォオオオオオ!!


 訓練場内に響き渡る、月狼の唯一のスキル、咆哮。それを間近で浴びた男は、気絶こそしていなかったが、身体が動かないようで小刻みに震えていた。足に力が入らないようで、ズルズルと地面にへたり込む。


「まだやるー?」


 そう言って、へたり込んだ男の肩に前足を置くライム。男は、どんどん顔が青褪めていってるようだった。だが、身体は動かない。


 俺はシュヴァリエさんに声を掛けた。


「シュヴァリエさん、こんな所でどうでしょう……?」


「あ、はい! これ以上の戦闘続行は不可能と判断します! そこまでっ!」


 唖然となり、ライムの戦闘を眺めていたシュヴァリエさんが、慌てて号令を掛けて、この戦闘は幕を閉じた。



「どの戦闘も……見事でした。むしろ、それ以外の言葉が見つけられないです」


「ありがとうございます」


 依頼を終えた俺達は、騎士団本部内で休憩させてもらっていた。シュヴァリエさんが是非! と勧めてくれて、お言葉に甘えている。


 あの後、二人目に呼ぼうとしていた男とつるんでいた奴は、逃走していた。シュヴァリエさんが二戦目は、希望者が逃走したと報告が。よって、不戦勝とします! 男の名は、冒険者のーーと男の名をしっかりと挙げてくれたので、観客にも周知されたと思う。


 中には、アレの後だしな……と同情する声も上がっていた様だ。


 その後は主に、リリが選ばれていた。勿論、異性相手ではリリの敵じゃない。中には耐性持ちもいたみたいだけど、関係無しに全員正座をさせてからの、頭を木剣で叩く。この光景はシュール過ぎた。


 なんか叩く物ないの? と男を正座させた後に、リリがシュヴァリエさんに問いかけた時は、先に言っとけば良いのにと思ってしまった。


 勿論、俺も選ばれた。俺は、ライムと従魔融合をして危なげなく勝利を収めていた。息切れはその都度してたけど。


「ジェシカさんが『我々にとって重要な戦力となる』そう、言っていたのが納得できました。……カイル君」


「はい?」


「仮に、仮にだけれど。冒険者でいることに負担を感じたら……騎士団へ声を掛けて欲しい。私の権限を持って、君を支援することを約束しよう」


「あ、ありがとうございます」


 無理強いはしないが、頭の隅へでも置いておいて欲しいと伝えられた。


 ーー騎士団への勧誘をされた、って事で良いんだよな? それはつまり、シュヴァリエさんが俺達の強さを認めてくれたと取れる発言だ。


 頂いた飲み物に口を付けながら、もしもの時はお願いしよう。そう、心に留めた。



 結果、パーティー募集は誰一人合格することなく、初めての依頼は終了した。

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