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打診

 その後、ジェシカさんとこれからの動きを大まかに話していく。


「そう。またすぐにジュエレールへ行く予定、みたいな事は無いのね」


「はい。呼ばれてしまえば話は変わりますが。昨日の今日で、みたいなのは領主のルーベルさんに限ってないと思います。さっぱりとした性格みたいでしたし、また来るのを待っているよと快く見送ってくれました」


「……パワフルな方でした」


 アメルも苦笑しながら、そう付け加えた。


「そうなのね、教えてくれてありがとう。遠出があるか話を聞いたのは、こちらからもお願い、というか打診があってね」


「打診? 何かあったんですか?」


「ーー近々で良いんだけど、東の森へ調査をお願いしたいの」


 そう告げたジェシカさんは、ギルド職員の務めを果たす真剣な表情へと戻っていた。



 ーー東の森。ギルドの文献にフォレイトス、と示されている領域。


 領地、となっていないのは、その領域全体が広大な森に覆われているせいで、全容が把握できていない為。その森には、セバンタートから見えるほど一際大きい大樹。それを守る為に周辺に拠点を構え、住んでいるという種族、エルフがいるらしい。そして、東の魔女という、オーガキラーみたいな二つ名が付けられている、魔法の使い手がいた、と記されている。


 文献自体、かなり昔のものだ。今、そう呼ばれていた人がいるか怪しい所ではある。もしその人がエルフだったとしたら。エルフは長命種だ、その人も未だに健在しているかもしれない。


 とはいえ、進んであの森の奥へ入っていく人は居ないだろう。爺ちゃんから聞いている。


 ーーあの森には入るな。あそこは通称迷いの森。一度入ったら最後、出てこれないと思え。それを聞いた日は、震えが止まらなくなって爺ちゃんの布団へ潜り込んだ思い出がある。


 今思えば、子供に注意喚起するための方便にも聞こえるが……実際に行方不明者も出ているそうだ。


「迷いの森へ? なんでまた急に、そんな話が出てるんです?」


「それがね、詳しく話すと私も怒られちゃうから……これはカイル君達を信用して話すことよ、他の人に言ってはダメ、いい?」


「は、はい」


「受け取ったのは私ではないんだけど、ギルド職員がフードを被った人から手紙を受け取ったらしいの。『これをなるべく力ある者に見せて欲しい』って。詳しい話を聞く前に、その人はどこかへ行っちゃったみたいなの。その職員が持ち帰ってきて、本部で数人中身を確認したわ。私もそこに同席した」


「なんて書いてあったんです?」


「かいつまんで話すと、東の森でウィッチが集団で暴れている。力を貸して欲しいという内容だったわ。まだ、森が燃えるみたいな事は起きていないけど、それも懸念しているみたい」


「ということは、差出人は……エルフ?」


「ーー人里離れた所から、ここまで来るのは相当な苦労があったはずよ。それでもエルフが来たということを、事実として捉えるなら。これは、結構大きな問題になるわ」


 東の森は、その全容を解明出来てはいない。それでも、エルフがいるからある程度安心していた側面があるようだ。そのエルフが仮に居なくなったとしたら、何も分からなくなった東の森。ソレは近くの領域に住む人達にとって恐怖以外の何者でもない。


「でも、なんで俺達に? 結構大きな問題だと思いますし、それこそC級以上のパーティーは他にもいるんじゃ」


「えぇ、ギルドにもそういった事案をこなしている、専用のパーティーがいるわ」


「え、そのパーティーで駄目だった……って事ですよね?」


「えぇ」


「じゃあ、俺達も難しいと思いますけど……」


「そのことなんだけど……あの森が、なんて呼ばれてるか、知ってる?」


「はい、迷いの森ですよね。子供時代に脅かされました」


「そう。迷いの森、そのはずなのよ。だけどね」


 そう言ってジェシカさんは続ける。


「本部にいるパーティーが調査に入ったの。奥へ進んでいこうと思って歩く度……気がついたら森の入口に戻っていたそうよ」


 何度か試したけど、全て結果は同じだったと。そしてパーティーの一人がこう呟いた。


 ーーこれじゃあ、迷いの森なんかじゃない。迷えない森だ、と。



 そこからは募集を掛けて、色んなパーティーが、果ては冒険者を単独で。勿論追跡できる様にしていたとジェシカさんは告げたが、どれも結果は一緒。皆進もうとして、気がつけば入口にいたという。ただ直進していただけ、曲がってなどいない! そう言った人もいた様だった。


 ーー迷いの森が、迷えない森になっていた。そこでウィッチが暴れており、エルフが助けを呼んでいる。


「それは……困りましたね」


 えぇ、とジェシカさんは続ける。


「一番は、唯一許可を貰っている商人も同じ状況になっちゃって、エルフの造る酒が手に入らなくなっている事よ」


 元々、専用の通路を通っていた商人が、エルフの領域に行こうと思った時にこの現象が起きた。商人がギルドへ相談すると同時期に、手紙が渡された。こういった流れだったそう。


「エルフの酒が手に入らなくなるのは、その商人は勿論なんだけど、セバンタートにも打撃でね。ここだけじゃなくて、色んな場所で高値で売れていた様だったから」


 それもあって、ギルドもこの件に力を入れていたが、思うような結果に繋がっていないという事だった。


「それで、毎回とんでもないことしかしないカイル君達ならって、ギルドでも話が上がってたの。扇動したのは私だけど」


「ジェシカさん……」


「リョウも賛成してくれたわよ?」


「リョウさぁん……」


 俺の預かり知らない所で、大事にするのは勘弁して……。


 とはいえ、か。皆も気になる所だろうし、俺も気になってきた。


「分かりました。いつ行く、っていうのはまだ確定できませんが、俺達も調べてきたいと思います」


 それを聞いたジェシカさんは安心した様子だった。


「力ない住民や非戦闘職の人達からすれば、今回の事案は恐ろしいことなの。今はまだ、話が拡散しない様にしているけれどね。カイル君達に断られたらどうしようかと思っちゃってて。その言葉を聞いて安心したわ」


 今回のも報酬は歩合だけど、ちゃんと出るから! よろしくね! と念を押されてしまった。苦笑しつつも、しっかりと頷く。


「そしたら、今話したい件は、いいとこ終わったわ。ごめんね、長いこと拘束しちゃって」


「いえ、色々教えてくれてありがとうございます」


「じゃ、私は受付に戻るわ。貴方達はゆっくりしてて良いわよ」


 そう言ってジェシカさんは、この部屋を後にした。


「東の森、フォレイトスか」


「私達で、何とか出来る事、なんでしょうか……」


 アメルが不安そうに呟く。


「まぁ、やってみないと分からない事が多いね。今は帰ってきたばかりだし、もうちょっとこっちで落ち着いてから行ってみよう」


「分かりました」


「アメル様、ご安心ください! 私が必ずや、御身をお護り致しますので!」


 水鳥の姿へ戻ったアプサラスが、凛とした姿勢で口上していて、アメルも俺も思わず笑ってしまう。アプサラスは、わ、私、何か粗相を!? と羽をばたつかせていた。

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