ジュエレールからの書状.2
「お待たせしたわ。中々ヤマトが捕まらなくって。飲み物を入れてきたけど、いるかしら?」
「ありがとうございます」
ジェシカさんは、一度退室してから三十分程戻ってこなかった。俺達も段々と暇を持て余していた所だ。
「ヤマトさんとは会えたんですか?」
「うん、なんとかね。ヤマトの奴、大分げっそりとしていたわ」
ジェシカさんはそう言って苦笑する。
「わ、私のせいで皆さんに迷惑を……すみません」
「迷惑なんかじゃないわ。これは、どちらかと言うと嬉しい悲鳴ね」
「ど、どうしてですか?」
不思議そうなアメルに、ジェシカさんはゆっくりと話してくれた。
「ジュエレールとの貿易の話になるわね。難しいことは省くけど、元々ジュエレールとは貿易が盛んだった訳ではないの。セバンタートはセバンタート、ジュエレールはジュエレールで。互いにそこである程度、完結できてしまっていたから」
「そうなんですね」
「とはいえセバンタートには海産物が、ジュエレールには畜産物がそれぞれ足りなかったの。互いの領地にいる商人が赴いて、僅かに入ってくる程度。それではどうしても値段は高くなるし、そのくせ鮮度は少し落ちてしまう、と」
「はい」
「そこに今回、セバンタートにいるアメルちゃんが、ジュエレールとの架け橋を組んでくれた形になるわけ。両方の領地にとって、貿易自体が盛んになることで経済が活性化する、またとないチャンスを与えてくれたのよ」
ジェシカさんは楽しそうに話す。
「中央都市であるセバンタートの方が、その恩恵をより受けることになるわ。ここには色んな人がやってくるから」
アメルはジェシカさんが言ってくれたことを、ゆっくりと咀嚼している様だった。やがて納得したように口を開いた。
「なんとなく、分かりました。皆さんのお役に立てるなら、何よりです」
「セバンタート全体への大きな貢献よ。ますますパーティーとしての格が上がっちゃうわね」
ジェシカさんはそう言ってくれるが、複雑な気持ちだ。
セバンタートに貢献できるのは嬉しい。世話になっている人達へ、遠からず恩返しが出来ているから。それは良いけど、パーティー自体の格が上がるのは正直……まだ先がいい。階級が上がるのが早すぎる。責任も当然高くなるだろうし、住民からの見られ方、俺達の振る舞い方も気を付けなきゃいけなくなる。
そういった事を気にせず、まだまだ冒険をしたいというのが俺の本音だ。そもそも中層には、まだ一歩も入ってないしね。
「先のことは、それこそまだ何も決まっていないわ。もしかしたら、また招集を掛けなきゃいけなくなるかも。ごめんなさいね」
「それは構わないです、段々慣れましたし」
「ありがとう。ジュエレールでも貴方達は有名になったわ。盗人も捕まえたみたいじゃない? 書状に併せて書いてあったわよ。『後日、その者よりお礼をしたいそうだ』って」
ジェシカさんの言葉に、俺は首を傾げてしまった。盗人を捕まえた……? いや、覚えがない。そう思っていたが、何かドヤ顔をしながら腕を組んでこちらを見ているリリがいた。
「リリ、お前が……やったの、か?」
「ちょっと、なんでそんな不安そうに聞くのよ。褒めればいいじゃない、失礼ね」
いつの話か聞いてみると、どうやら俺達がアルクの所へ行っていた、ライムと二人きりの時みたいだった。
「私が汗水垂らして捕まえたのよ。さぁ、存分に褒めなさい!」
「……ライムはその時何してたんだ?」
肩にいるライムを見ると、触手を出してリリの様に腕組みをしていた。ものまねスライム。
「おにごっこしてた!」
「あ、コラ!」
「鬼ごっこ?」
「うん! なんかわるいやつ、つかまえた!」
あ、なるほどね。俺はリリを見る。眼を泳がせながらも、慌てることなく言葉を続けた。
「なによ」
「ライムに捕まえさせて、自分の手柄にしちゃ駄目だろ……いや、やったこと自体は良いことなんだけどさ。よく捕まえたな、ライム」
ライムを褒めると、肩でとーぜん! と言いながら跳ねていた。
「なんでライムだけなのよ、私のことも褒めなさいよ! ライムは当然! なんて言ってるけどね、私が言わなきゃそもそもライムも動かなかったんだから!」
「ライムも……って事は、リリもすぐに動いたわけじゃないんだな」
「ぐぬっ……アンタにしては、痛いとこ突くじゃない」
リリは真剣な表情で、やるわね、と言った。違う、そうじゃない。ジェシカさんは俺達の会話を聞き、苦笑しながら言った。
「ふふ、ようやくそこの意味が分かったわ。『その者が申すには、始めは動きもしないで見ていただけだったから、何だこいつらは! と憤慨していたが、強者の余裕ということが分かり感激したと』書状の一部に、こう書かれていたわ」
いや、見逃す気満々だったんじゃないか。何かで気が変わって良かったよ、と見てもいない事案に安堵した。




