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アプサラス

 荷馬車へ渋々乗った私は、ここまでの出来事を思い返してみた。


 ーー頻回に来られることのないテティス姉様が、数日もしない内に再び水の間へやってきました。私も、他の皆さんも驚いている様でしたが、レゲイア姉様だけは少し嫌そうに、それでも皆が聞きたがっている事を代弁してくれました。


「どうしたのよテティス。来るのは用事がある時だけにしてくれる?」


 いつもだと、ここから言い合いが始まってしまうのですが……何故かテティス姉様は黙ったまま。その様子を不思議に思ったレゲイア姉様が、更に言葉を重ねる。


「……本当にどうしたのよ一体。黙ってたら分からないじゃない、調子でも悪いの? 代理で外に出ても良いなら、私が行ってあげてもいいわよ?」


「……した」


「え、なんて?」


「ーーーー水の祭典開催が、正式に決定した!!」


「な、なんですって!?」


 レゲイア姉様も皆さんも驚かれていました。勿論私もです。それもそのはず。領主であるルーベル様のお怪我。踊る際に必要な足に大怪我を負ったと伺っていて、テティス姉様の口から、回復薬や治癒師に頼んでも駄目だったと言われていたから。


「ちょっとテティス! ちゃんと説明しなさいよ! 一体何があったっていうのよ!?」


 レゲイア姉様の質問に、テティス姉様はこう、答えました。


 ーールーベル様の足を治した方がいる。その方は中央都市セバンタートから来ており、巫女としての適性がある、と。その発言に、皆さん更にざわつきをみせていった。今から接見の儀を執り行うから支度をするように。そう告げて、テティス姉様は戻っていきました。


「……っんとに! 今代の巫女も護り手も、急が過ぎるのよ!」


 ホントに似た者同士ねっ! とレゲイア姉様は吐き捨てるように告げていた。そこから、水の間はてんやわんや。皆さん慌てて支度をしていく中、私は……呆けたままでした。だって、レゲイア姉様も言っていましたけど、あまりにも急過ぎて……。


「皆、次代の巫女が接見へ来られた! 今より入る故、不敬をしない様に!」


 そうテティス姉様が宣言し、扉を開けた所で私は我に返った。入ってきたのはーー可愛らしい、女の子でした。


 透き通る様な青い髪、そして大きな瞳。少し緊張している様子に、私は自然と微笑んでしまっていた。その可愛らしい顔とは裏腹に、腰には銃を携えていた。籠手をはめ、走りやすそうな靴を履いている。姉様達が自己紹介をしている中、冒険をしている方なんだろうか、ぼんやりそんな事を考えていました。


 自分の番になって、何も考えてなかった私は……慌てて取り留めのない言葉を選んで、サッと引っ込んだ。私なんかに時間を割かせる訳にはいかない、その一心だった。


 そして、栄誉ある護り手にーー何故か、私が選ばれてしまって……。


 嬉しさより困惑のほうが勝っていた。何故私が? アメル様へ、改めて挨拶をするタイミングでその事を聞いてみると、強いて言うなら直感、と言われ不思議な気持ちになったのを覚えています。同時に、直感でも選んで下さったなら、護り手としての役目をきっちりと果たそう。そう、心に誓った。


 その後、アメル様と時間を共にしていく中で、彼女がどれだけ優しく、そして意思の強い方かを知ることが出来、嬉しく、そして、そんな方をお護りしている自分に少なからず誇りを感じれてーーーー


「……ぇ」


「……ねぇ、ちょっと!」


「は、はい!?」


 急に話し掛けられ、慌てて返事をした。声の主は、リリさんだった。


「うっさ。ちょっと、何呆けてんのよさっきから」


「す、すみません……今までの事を少し思い返しておりまして」


「あっそ」


 荷馬車へ同乗したリリさん。この方はカイル様の従魔で、どことなくですが……レゲイア姉様に似ている気がします。


「アンタはさ、カイルの従魔になったのよね?」


「そ、そうですね」


 私の方が先輩なんだから、みたいな事でしょうか……? なんとか、アメル様と一緒にいることだけは死守せねば!


「それで、アメルの護り手とかいうやつなんでしょ?」


「そ、そうです! 今はアメル様に懇願されたので仕方なく……ですが、一時も離れず御身を護る覚悟です! どうか、どうか……」


 それだけは、私の中で絶対であり、誓い。それを聞いたリリさんは、どうかって何よ? と言いながらもニヤッとし、どこか嬉しそうに言った。


「なら良し。べったりくっついといて、私とカイルの時間を増やして頂戴」


「わ、分かりました……?」


 リリさんが何を言いたいかはよく分からなかったけれど、引き離される心配はしなくていいようで一安心。私がすることは変わりません。


「でもアンタも物好きよね。鳥の姿になってまで、アメルを追っかけたいっていうのは」


「アメル様のお側に居たい、その一心でしたので……」


「ふーん?」


 そう言って、リリさんは話は終わり、という風に外の景色を眺め始めた。格好良いです、我が道を行く方だ……! 私は感心を覚えつつ、リリさんに言われて自身の姿を見返した。


 鳥姿のそれは、水色の綺麗な羽をしており、大きくも小さくもなく、丁度中間くらいな体格となっている。アメル様の肩にも乗ることが出来ましたし。


 この姿になるきっかけを下さった、カイル様。


 アメル様の想い人であり、本人は気付いていないのかな? と度々不思議に思ってしまいます。とはいえ、私は応援をするだけ。差し出がましいことはしない。


 【従魔士】という職業であるカイル様は、その……首を斬り飛ばされても死ぬことは、なかった。アメル様の御心を考えると、良かったと本心で思えるが同時にーーーー本当に人間という枠組みにいるのか、とも思ってしまいました。


 とはいえ、カイル様もアメル様と同年代らしく、ライムさんに乗っている二人は楽しそうで微笑ましいところ。


 そんな二人が乗っている、精霊憑依のように同一状態になることで、人ならざる力をカイル様に与えているスライム、ライムさん。


 彼、彼女? も、本来スライムとしてあるはずの無いスキルを複数所持している様で、この世界では希少種と呼ばれているそう。そんなライムさんが、カイル様と一緒に冒険しているのは、私とアメル様のように色んな出来事があったんだと思います。いずれ伺えたら良いな。


 普段の仲よさげに話す姿からも、両者の信頼が伺えました。


 アメル様のいるこのパーティー、ウィズテーラスで私に出来ることを精一杯こなそう! テティス姉様に数日間、叩き込まれた知識をフル活用して! あの期間は地獄のようでしたけれど……。



 改めて決意を固める私を歓迎するように、外から段々と賑やかな音や声が聞こえてきた。海の無い領地ーー中央都市セバンタート。


 護り手として、私の冒険はここから始まる。荷馬車が止まった瞬間、私は勢いよくアメル様達の元へと飛翔した。

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