表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/37

キララ

 ーー私は、元々あまり頭が良くなかったようです。


 出身地の村でも、よく周りから馬鹿にされていてました。


 その代わり、私は男性より力が強かったみたいで、おとこおんな! という変なあだ名を付けられていました。もっと可愛いのにして欲しいです。


 ある日、いつもそう言ってからかってくる男の子の腕を捕まえた時、うっかり怪我をさせてしまって。それ以来皆私を避ける様になり、家族と過ごす時以外、私は一人ぼっちでした。


 そんな中で、私の唯一の楽しみ。それは、近くの森に出てくる魔物を倒すこと。


 あの、頭を潰した時に手に残る感覚。いつやっても……とても気持ちが良かったです。家族は、その時の様子を話す私を見て、怯えていた様にも見えましたけど。なんででしょう? 住民も、害獣駆除をしているという体で、私に注意してくることはありませんでした。


 その日も、いつもの様に魔物を倒していたんですが……この辺りに出てくるのは同じ魔物ばかりで、段々と飽きて物足りなさを感じていました。


 そんな時、声を掛けられました。森に、身なりのしっかりとしているおじいさんが居る。何をしているんだろう? と気になりました。


 向こうから沢山話してくれて、私も段々と楽しくなってきて。名をロドフォノスさんというみたいです。長いからロドさんと呼ぶことにしました。


 このままでは、世界が堕落してしまう。貴女の力を貸して欲しいと言われ、分からなかったですけど、ロドさんはいい人なのでお手伝いすることにしました。


 ロドさんの手際は良く、私はジュエレールのギルド職員になることが出来ました。どうやったんだろう? 今考えても、やっぱり不思議です。 


 ロドさんのお願いは、職業が【従魔士】のカイルという人が、セバンタートでオーガキラーと呼ばれているみたいで。ジュエレールにやってきたら、殺して欲しいというものでした。


「なんで殺すんですかぁ?」


「彼の者が、世界を堕落させる鍵だからです」


 ……殺す必要あるのかな? と思ったけど、ロドさんの言ってることは私には難しいですし、分からないから諦めました。ロドさんが言ってるから間違いないはずですし。


 そんなこんなで、私はギルドで働き始めました。ギルドで働く中でも、やっぱり他の職員に馬鹿にされました。喋り方がとか、行動が、とか。その力だけは認めてやる。模擬戦で吹き飛ばした人には、そんな事も言われましたけど。


 でも、教育係として一緒に動くことになった、職員のモーブさん。


 先輩も、周りから少しからかわれている様でした。でも、私を馬鹿にする様な事は一言も言わないし、ギルド職員がどういった事をするのか。私が分からないことは、根気よく丁寧に教えてくれました。


 ーーこんな人、いるんだ……と思ったのを覚えています。


 それから一緒に働いていく中で、先輩の公私問わず誰にでも誠実に対応する、人となりを知って。叶うなら、これからも一緒に居たいな。そう思っていました。


 ジュエレールでの日々もしばらく経ち、ギルドの仕事をある程度こなせるようになって、余裕が出始めた頃。


 ーーーーそういえば最近、あの感触を味わってないな。


 そんな考えが、頭の中で顔を出しました。今ならなんとなく分かります。村の皆が怯えていた理由を。それはギルド職員として、人として、やってはいけないことなんだなと。そう、自分に言い聞かせていたのに。


 ーーーー夜。気がついた私の側には、住民が大事に飼っていた家畜。その首が、転がっていました。


 返り血をこれでもかと浴びた両手を見て、やってしまったという罪悪感よりーー久しく味わっていなかった生き物を潰す感覚。この手の感触に、高揚感を覚えてしまった私は。やっぱり……馬鹿にされてもしょうがないのかな、とぼんやり思いました。


 一度してしまったら歯止めが効かなくなって。気がつけば、ジュエレールで首狩りという悪名が広がっていました。


 動きにくくなりました。まぁ自業自得なんですけど……そんな事を考えている時、ロドさん会いに来てくれました。返り血を浴びている私を見て、少し呆れた様な表情をしていたと思います。


「……【従魔士】が近々来るようです。遊ぶことも大切ですが、時が来たら頼みましたよ」


 狙い目は、水の祭典が開催された後に出現するダンジョン内。それか、迷路の様に入り組んだ住宅街が良いと教えてくれました。住宅街は、私もよく迷ってしまうので避けたいです……。


「水の祭典って、最近は開催できて無いって先輩から聞きましたけど?」


「……念には念を、です。後始末は私に任せてくれれば。では、お願いしますね」


「はぁい」


 私がそう言うと、ロドさんは空気と同化したかの様に姿を消した。私はそれに凄い! と拍手を送る。


「……っとと、返り血を浴びたままでした。住民に見られては大変です。早く帰ってお湯に浸からないと」


 明日は先輩と、中央の見回りだし楽しみです。その日はウキウキ気分で帰宅しました。


 そこから。ロドさんは預言者なの? と思うくらい。


 なんと、数年開かれていなかった水の祭典が開催! 私達も周辺を警備。住民が混雑、混乱を起こさないように促していきました。あの日はジュエレールに来て、一番忙しかったです……。


 次の日、ダンジョンへ入っていくカイルさん達一行を見掛けた私は、ロドさんからのお願いを果たそうと後を追いかけようとしましたが、衛兵さんに止められてしまいました。まだ入ったばかりだから、今は救援の必要は無いと。


 悩んでいると、遠くから手招きをしている人を発見し、人目に付かないようにその人の元へ。


「……こっちだ。水の壁がない、入れそうな場所を見つけた」


「【斥候】でしたっけ? 便利な職業なんですねぇ」


「……早く来い」


 はぁいと返事をし、私達はダンジョン側面から侵入することに成功しました。そのまま隙を窺って、ニスイさんの合図で、カイルさんの首を真っ二つに斬りました。


 でも、いつもの手の感触じゃないことに違和感を感じました。


(なんだか、柔らか過ぎる気がしますねぇ)


 何より、本人から血が吹き出してこない。転がっている胴体を指でつつく。やっぱり柔らかい。


「本当に人間ですかぁ?」


 私は思わず本音が出てしまいました。


 その後に、何故か怒っている巫女様と対峙することになってしまいます。あまりに怒っていて、びっくりしちゃいました。


 えっと、もしカイルさんを斬ったとしても、後始末はロドさんがしてくれると言ってました。でも……今すぐ、先輩と離れるのは嫌だなぁ。……あ、そうだ! 全員斬って、後の事はロドさんとニスイさんに全部任せよう! そうすれば、私は先輩と一緒に居てもいいはず。うん、名案!


 そう決めた私は、対峙している巫女様から斬ろうとするがーー当たらない。


 まるで、来る所が分かっている様な避け方をされる。


「もう! 当たらないと楽しくないじゃないですかぁ! 巫女様、避けないでくださいよ!」


「馬鹿言わないでっ! そちらこそ諦めて大人しくしなさい!」


「嫌ですぅ!」


 先輩と一緒に居られなくなるのは、嫌だ。これは、習得すれば貴女の助けになりますから。そう言って、ロドさんが教えてくれた付与魔法を使い、巫女様と継戦していく。


 だけど結果はーーーー駄目でした。


 ニスイさんは、変な臭いを出すお姉さんにやられてしまって地面でぐったりしているし、私も大剣を砕かれた。仰向けの状態で、身体には水が絡みついて縛るように拘束され身動きが取れない。


「その拘束を破った瞬間、貴女の利き腕を、撃ちます。私の勝ちです。無駄な抵抗は止めなさい」


 ーーなんで邪魔するんですか! 今まで散々だったんだから、先輩と一緒に居たい。その願いくらい叶えてくれてもいいじゃないですかぁ!


 そう思って巫女様を睨みつける。巫女様は動揺すること無く、こちらへ銃を構えていた。


 悔しいけど……もう、いいです。先輩とは一緒に居たかったですけど。仕方ありません。約束通りカイルさんの首は斬りましたし、血は出てなかったけど、まぁ死んでいるでしょう。後のことはロドさんに任せましょう、預言者も真っ青なロドさんなら間違いありません。


 そう思った私は力を抜いて、こう告げた。


「……まいりましたぁ」


「こ、これ。どういう状況?」


 聞き慣れない声がし、その方向を見るとありえない光景が。カイルさんが起き上がっていました。確かに、首を真っ二つにした。そのはずなのに。


 首に傷一つない状態で、その場に起き上がった彼に、寒気を感じてしまう。


「っ!? カイルさん!!」


 そう言って、巫女様もカイルさんの方を向くーーーーあらら、さっきまでとは打って変わって、隙だらけですよ?


 付与魔法で拘束を解く。そのまま巫女様を潰して、その後にーーそう考えながら集中しようとした私に、今度は馴染みのある声が聞こえた。


「なっ……!? これはどういう事ですか!!」


 先輩だった。


 先輩は、カイルさんに凄い形相で掴みかかっていった。普段の先輩では決して見ない姿。あれは……私の為に怒ってくれているみたい。 


 私達がやったことだと言われても、そんなはずはない! 何かの間違いだ! と食い下がっていく。


 その姿を見てると、嬉しくて。同時に……悲しくもなった。


 私にはよく分からないですけど、多分これが……後悔って感情なんだろう。


「ぐっ……! キララ! これはどういう事なんだ、話してみてくれ! もし君がいわれのない無実ならば、私は領主に申し立てを入れる!」


 ーー私の為に、そこまで。


 そこまでしてくれる先輩の事を、私は。


「……好きな人にだけは、こんな姿……見られたくなかったなぁ」


 思わず声に出てしまった。巫女様が驚いた様に私を見ていたけど、気にしない。知ったことか。邪魔したのは他でもない、巫女様じゃないですか。


 私は息を大きく吸い込んだ。

 いつも読んで下さりありがとうございます。来週の投稿は、作者体調不良の為(風邪を引きました)エピソード数が少なくなるか、休稿になるかなと思います。休稿の場合、再開は26(金)になります。

 のんびりとお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ