決着
「うーん、埒があきませんねぇ」
どうしよう? と言っているのはキララさん。私はまだ、セロシキを撃っていないけど……埒があかないのはこちらも同じ。止まっている的なら、外さずに狙った所を撃てる自信が、今ならある。だけど、相手は知性のある人間。私が今持っている武器は、クロスボウより威力の高い銃。当たりどころが悪ければ、それこそ命を奪ってしまいかねない。
セバンタートのダンジョンで、ニスイさんの足目掛けてクロスボウを撃った時は、避けられてしまっている。キララさんに向けて撃ったとしても、避けられてしまうかも。それに加えて、今回は大剣、その一箇所を狙って撃たなきゃいけない。相手の動きが止まってくれれば、出来るかもしれないけど……あ。一つだけ、あるかも。
私は、隣りにいるアプサラスへ話しかける。
「アプサラス、お願いがあるの」
「はい、何でも申し付けて下さい」
私は、アプサラスへ考えた作戦を伝える。
「なっ!? なりません! その様な危険極まりないこと!」
……やっぱりというべきか、アプサラスは私の身を案じてくれていた。この作戦は、私にもリスクが伴う。考えれば、もっと他にいい方法があるのかもしれないけど。
「ううん。これは、私がやらなきゃいけないの。お願い、出来る?」
私の意思が変わらないことを悟ったアプサラスが、覚悟を決めたように真剣な表情で応えてくれた。
「……身命を賭して、お守りします!」
うん、ありがとうと私は頷いた。アプサラスとの付き合いは、たった数日、でも。その数日で、どれだけ私を想ってくれていたかは、もの凄く分かっているつもりーーーーこの作戦を実行に移しても良い、そう思える程に。
私はセロシキを上へ向けて、撃つ。--ダガァン!! という大きな音が、神殿内に響き渡った。本当にこの武器から出ているのかと一瞬疑ってしまう。皆、いきなりの音に驚いていたし、撃った私でさえびっくりしちゃった。ちょっと耳がキーンってする。
そして、呆然としているキララさんへ銃を向けた。それを見たキララさんも、大剣を構え直す。
「巫女様、ようやく覚悟が決まりました? それにしても、凄い音でしたねぇ」
「もう、逃げません。貴女を倒します!!」
「そうですか、それじゃあ……お願いしまぁす!!」
キララさんは大剣で身体を隠す様に、こちらへ向かって走ってきた。銃撃を気にしているみたい。私は構えたまま、その時を待つ。
「撃たないんですかぁ!? 私からいっちゃいますよぉ!」
そう言って、大剣が届く間合いでキララさんは振りかぶった。同時に現れる、横一線の赤。首元にかかっている気がする。
私は思い切りしゃがみこんだ。頭の上を、風切音が通り抜ける。キララさんは舌打ちをして、流れるように大剣を後ろへもっていき、再び振りかぶった。今度は縦に赤い線が現れるーーーー今だっ!!
「アプサラスっ!!」
「渦の盾!」
アプサラスにお願いをした内容。それは、私が振り下ろしを誘導するから、渦の盾を使って欲しいというもの。
振り下ろされた大剣は、渦によって阻まれていた。
「またこれですか! 鬱陶しいなぁ!!」
「……アメル様! 今です!!」
キララさんが力を入れ、渦の盾を真っ二つに切り裂いた。そのまま、大剣が地面へ深々と突き刺さる。私は、アプサラスの合図で横へと素早く避けていた。キララさんは大剣を持ったまま、視線を私へ向ける。一瞬、眼が合った。
セロシキを一度スライドして、大剣へ向けて構える。
「終わりですっ!!」
大剣の根元、そこ目掛けてセロシキを放つ。セロシキの特徴の一つ。二発同時に発射された弾は、もの凄い音を出し、大剣へ命中する。
「きゃっ!!」
大剣の根本にしっかりと命中し、その周囲は砕け散る。持ち手を握っていたキララさんは、その衝撃で吹き飛ばされた。すかさず、アプサラスが倒れているキララさんを、水の縄で拘束する。
キララさんは力を入れて抜け出そうとするが、動くほどに水が身体に巻き付いて絡まっていく。舌打ちをし、付与魔法を使おうと集中する素振りを見せた。私は彼女に駆け寄り、セロシキを構える。
「その拘束を破った瞬間ーー貴女の利き腕を、撃ちます。私の勝ちです、無駄な抵抗は止めなさい」
キララさんはしばらく私を睨んでいたが、やがて表情を和らげ、身体を地面へ力無く倒した。そして一言、
「……まいりましたぁ」
と言った。
「こ、これ。どういう状況?」
「っ!? カイルさんっ!!」
状況が飲み込めていないといった様子で、カイルさんが身体を起こしていた。痛がっている様子は、無い。カイルさん、生きてた!! 良かった!!
私は嬉しさで胸がいっぱいになるが、次に現れた人物が、その嬉しさを一気に困惑へと変えた。
「なっ……!? これは、どういう事ですかっ!!」
それは、キララさんに先輩と呼ばれていたギルド職員。モーブさんだった。




