万視.2
「付与魔法?」
「はい。身体や武具に属性の付いた魔力を纏わせて、強化する魔法の一つです。戦士職がよく使用する、とテティス姉様から聞いています。厄介なことに、彼女が今纏っているのは、雷。水の精霊である私とは、その、相性が悪く……」
アプサラスの声が、段々小さくなっていく。雷の付与魔法をされているから、拘束を続けることが難しい。そう言いたいみたい。
「気にしないで。一緒に戦いましょう、支援してくれる?」
「……はいっ! 勿論です!」
「お話は済みましたかぁ?」
よいしょっと、と柱に刺さっていた大剣を抜き取り、再び肩へ担ぎ直すキララさん。身体からの光は収まっていた。
「アメル様。アメル様がもし、手を汚すような事がありましたらその時は、私が代わりに」
「……しないよ、そんなことしない。捕まえて、ギルドに突き出してやるんだからっ!」
カイルさんは敵であれ、人を殺めるなんて事はしていないし、やらない気がする。ダンジョンで賊の集団に絡まれた時もそう。あの時の男達は、カイルさんの采配で命を救われている。
私もーーカイルさんのやり方でやるんだ!
「じゃあ、いきますよぉ!」
キララさんがこちらへ駆けてくる。ーー彼女の武器を破壊して、無力化する! それで駄目なら、利き腕を撃つ!
私は集中して、キララさんを見る。キララさんは、大剣を振りかぶった。と、同時にまた赤いものが現れた。今度は横へ流れている何かの軌道のよう。
私は、元々被っていたその赤い線から抜け出すように、後方へと飛び退いた。次の瞬間、その赤い軌道をキララさんの大剣が空を薙いでいった。
「あれれ、また外れ。巫女様は眼が良いんですねぇ」
やっぱりこの赤いの……攻撃する場所を予測しているみたい。確証は無いけど【射士】スキル、万視の効果だと思う。
その後も、キララさんの攻撃を赤い線に沿って躱していく。それでも、紙一重だ。油断していると、一気に斬られかねない。それ程彼女の剣は鋭く、確実に私の命を奪おうとしてくる。
攻撃が当たらないキララさんは、不機嫌さをあらわにした。
「もう! 当たらないと楽しくないじゃないですかぁ! 巫女様、避けないでくださいよ!」
「馬鹿言わないでっ! そっちこそ諦めて大人しくしなさい!」
「嫌ですぅ!」
キララさんはそう言って、大剣に手をかざした。大剣が光を帯び始め、バチッ! という音が聞こえ始めた。
「私魔法って苦手なんですよ。集中できなくて、一振りで効果が切れちゃいますし」
キララさんの言葉に、私も満足にあの純白の長銃、魔法銃を扱えなかったことを思い出す。一緒だ、なんて嫌なはずなのに、苦手な気持ちを共感できてしまった。
ーーそんな事を思っていると、唐突に赤い線が現れる。
(もうっ! 攻撃に脈絡が無さ過ぎて、一瞬も油断できない!)
振り切る大剣を避けた、と思ったのも束の間。肩から全身に電撃が走ったかの様な痛みが。体勢を崩し、そのまま地面へ倒れ込んでしまう。
「いっ……!!」
痛みが走った所へ視線を向けると、左肩に僅かな切り傷があり、血が流れていた。
「アメル様っ!!」
「お? ようやく当たりましたねぇ。じゃあ、これでお終いです!」
倒れている私にキララさんが大剣を振りかぶり、それと同時に赤い線が被さっていく。振り下ろされた大剣は、私にーーーー当たることはなく、眼の前へ現れた回転している水に阻まれていた。眼の前で、ギャリギャリという音が鳴り響く。
「アメル様っ! 動けますか!?」
身体はーー動くっ! 急いで起き上がり、その場から離れる。アプサラス側まで走り込み、体勢を立て直した。
「ありがとうアプサラス! 今のは!?」
「渦の盾と言います! 物理攻撃なら、十全に効果は出せるかと!」
キララさんは、眉間に皺を寄せて腕に力を込めていた。
「これ……邪魔ですねぇ!!」
そして、渦の盾を真っ二つに切り裂いた。大剣はそのまま地面へ深く突き刺さる。
「人間が、渦の盾を力だけで切り裂くだと……?」
その様子を見たアプサラスは、驚きを隠せないでいた。




